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第十六節「銀乙女強襲 世界の真実 長き道に惚けて」

~魔特隊杯 表彰式~

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 波乱のレースが終わりを告げた。
 上位の選手達がレース場に備えた簡易的な表彰台へ上がり表彰を受け、他の者達が彼等を祝福する。

「へへへっ、やったぜ!!」
「いいのかなー? いいのかなぁ~!!」
「走りきってよかったぁー!!」

 命力の使い方に粗があったものの……堅実に走りきった3人が勝てたのは不幸中の幸いと言えようか。
 表彰台に立つ事が出来なかったものの……最後の最後で自分の力量が測れなかった心輝は何とも言えぬ複雑な表情を浮かべていた。

「ヌゥ……こうなってしまっては俺はもう何も言えんな……」

 しかし結果は結果……アージはその結果を受けて珍しく肩を落としていた。

「んまぁ……なんつーか……俺も力不足でしたし……アージさんの言う事に従ってもいいッスよ……今はなんかこう、ガムシャラでもやっといた方がいいって思ったんで……」
「そうか……なれば明日からは俺も共に行こう」

 ハプニングがあったとはいえ……最後まで拮抗していた実力を思い知ったのだろう。
 アージと心輝は師弟ではなく同志として改めて歩もうとしていた。

 そんな二人の姿を皆が見つめ、微笑むと……早速勝者への祝福が始まる。

 観客席からのエール、実況の平野とジョゾウと福留の拍手、心輝とアージの友情ダブルサイン、そんな二人の接近に大きな笑いを上げるマヴォとレンネィ、失格で複雑ながらも笑顔を絶やさない茶奈、そして師としての立場での祝辞をツートップに送る勇……彼等は皆、3人を大声で称えた。

「ありがとー!! ありがとー!!」
「やったぁー!!」
「うぇいうぇーい!!」

 ノンアルコールのシャンパンシャワーを周囲にぶちまける上位者の面々。
 こんな時でしか味わえない、テレビの中でよく見られる光景を彼等が大騒ぎで披露する。

「ハッハッハ、皆楽しそうで何よりです……いやぁ、イベントを催して良かった」
「左様、まったくもって楽しい時間で御座った……こういうのもなかなか良き事に御座る」
「えぇ、おかげで喉がカラカラですよ……」
「平野君……マイクの前だと変わりますねぇ……」

 あんなテンションどこかで見た事があるような……そんな気がしながらも福留はあえて黙っておく事にした。

「さぁて、それでは皆さん……本日はレース参加ご苦労様でした。 また明日からも大変な毎日が待っていると思いますが……今日の様な楽しい日を忘れず糧として、きたる日が来ぬ事を祈りながら我々がやれる事を頑張っていきましょう!!」

 その瞬間再び喝采が上がり、福留と共に戦士達が奮い立った。

 明日を繋ぐ為。

 未来を作る為。

 そして、今を楽しく生きる為。

 彼等は上げる。

 心からの喝采を。



 そして彼等は……あっ……―――





 すると遠くから一人の人影が少しづつ近づいてくる。
 茜差す空の下、必死に一人……走る姿が徐々に彼等の目に映り込んできた。





「ハァーッ!! ハァーッ!! なんでッ……なんでぇーッ!!」





 その人影……それは怒りに満ち溢れ黒い影を落とし睨み付ける瀬玲の姿。

「なんで誰も私の事気が付かないのよォオおォオぉォオォおオォ!!」
「うおぉぉぉ!?」
「ひぃぃぃ!?」

 怨念の命力を胸に秘めて襲い掛かる瀬玲に、力を使い果たした誰しもが抵抗出来る訳もなく。



 悲鳴と叫び声が木霊するサーキット……観客席で彼等の事をじっと見つめる一人の姿。
 夕日を背にするその姿は妙に、いや……明らかに力無く。

「……あの子達に未来任せていいのかしら……」

 茫然と肩を落とし不安の隠せないラクアンツェであった。





 こうして、ハプニングで始まりハプニングで締めたチキチキ魔剣使い猛レースは終わりを迎えた。

 彼等はこの様にして英気を養い、明日を作る。

 そんな彼等が迎える明日はきっと、輝かしい未来が待っている……





 と思いたい。



第十六節 完


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