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第十六節「銀乙女強襲 世界の真実 長き道に惚けて」
~彼女が望む未来のカタチ~
しおりを挟むラクアンツェの語りを聞き、誰しもが声を殺す……ただ一人、福留を除いて。
「……ラクアンツェさん、【フララジカ】とは一体どういう意味なのでしょうか?」
それは誰もが聞いた事の無い言葉なのだろう。
考え込む者、頭を抱える者……その様は多種多様だが、いずれもその言葉について答えられる者は居ない。
残当とも言える福留の問いに、ラクアンツェは少し考えを巡らせると……そっと艶やかな唇を動かした。
「近い意味合いはこの世界には無いかもしれないけれど……そうね、しいて言うなら『双世界』といったところかしら」
「『双世界』……」
フララジカ。
新しい言葉ばかりが連なり、『こちら側』の人間だけでなく『あちら側』の人間までが首を傾げる。
たちまち彼等がその意味に関して話し始め、ざわめきが周囲を包んだ。
「我々にも『ふららじっか』なる言葉は存在せぬ……それほどまでに古き言葉かもしれぬ」
「あぁ、俺達も初めて聞いたぜ」
マヴォの呟きにアージも珍しく首を縦に振っている。
この中で最年長であろうレンネィすらも。
その答えを求め、おのずと彼等の視線はラクアンツェへと集まり始めた。
自然とそのざわめきが収まり始めると……満を持した様にラクアンツェが再びその口を開く。
「フララジカとはつまり、『世界の融合』の事を指すわ。 先程の二つの世界の話を思い出してほしいの。 私達の世界が貴方達の世界を引き込んでいるという話を」
彼女が手を組み、真剣な眼差しで彼等を見つめると……皆が再び声を殺す。
「分かたれた私達の世界が、再び同じ『質量』を得る為に……貴方達の世界を引き込んだ。 そして今、交わろうとしている……そしてそれが完了した時、世界は……フララジカを成就し……終わりと始まりを迎える」
「貴女の言う所の、終わりと始まりとは……?」
「……ここからは予測に過ぎないけれど、二つの世界の理が一つに交わる時……世界の理そのものが瓦解し、宇宙の法則が乱れる―――」
「理……宇宙……!?」
彼女は来るであろう世界の末路を綴る。
それは誰しもが耳を疑う程に……鮮烈なものだった。
「―――そうした時、この世界はその形へあろうと根源の事象にまで逆戻り、全てが無かった事になる。 そして交わった世界の未来が始まる……そこはもはや、人や魔者なんて関係の無い全く新しい世界が創造されているでしょう……」
それは文字通り、終わりと始まり。
終わりと始まり、フララジカ……その末路を前にもはや誰も声一つ上がらない。
ただ一人、その言葉を噛み砕いて分析していた福留を除いては。
「……言うなれば、『次元崩壊』といった所でしょうかねぇ」
「そうね、そうとって頂いて差し支えない筈よ」
福留だけは彼女の話が理解出来たのだろう……互いの視線を合わせ頷き合う様を見せる。
だが、その傍では相変わらず頭を抱えた心輝が唸り声を小さく漏らしていた。
「なんかすげぇスケールの話が出てきたぁ……もう訳わかんねぇ」
「解んないなら口挟まないの」
瀬玲に突っ込まれる心輝を他所に、話は続く。
「成程……まさかとは思いましたが、地球だけでは無く宇宙規模のお話でしたかぁ……これはさすがにスケールが大き過ぎる話に感じますねぇ~……」
「そうね……正直な所、私もそう思うわ。 何せこの世界に来て理の知識を知った所もあるから……憶測しか言えないの」
さすがのラクアンツェもそこで溜息を付く。
「あくまでも、私が集めた互いの世界の知識と理論を構築した上で導き出した結論であって、必ずしもそうなるとは限らない。 けれど、私が剣聖達と共に長い年月を掛けて集めた情報に間違いは無いと踏んでいます……誤差はあれど、ね……」
予想に過ぎない……それが彼女の溜息の理由だった。
想像を超えた事象は、起こるまで証明する事は適わない。
頬をつねれば痛い、その程度の話とは訳が違うのだから。
「ふむ……疑うつもりは無いのですがねぇ……ところで、それは世界が戻る事も踏まえての話でしょうか?」
それは先程茶奈が口を挟んだ事。
それはもう一つの可能性の事。
話に聞き入っていた勇が福留の一言で思い出し、不意に声を上げる。
「……世界を戻す事が……出来るんですか?」
「出来る……そう思っているわ」
勇のぼそりとした一言に、ラクアンツェは迷う事無くそう答えた。
その時、影を落としていた彼女の顔に僅かな照明の光が照らす。
そこから映る表情は……どこか嬉しげで―――
「……私達は遥か昔、魔剣を持った事も無い時にその書を見つけ誓った……フララジカを成就させてはならない、ってね……それが私達三剣魔の真の目的」
顔を上げて答えた顔は自信に満ち満ちていた。
「ですが、私が聞くに剣聖は魔剣を集める事が目的と言っていましたが……?」
レンネィの一言に、勇も思い出す。
初めて剣聖と出会った時……彼は確かに言ったのだ、「魔剣を極める」と。
「そう、それが世界を再び分断する為に必要な事……かつて創世の女神は『創世の鍵』を創り世界を分断した、と言ったわよね」
そう言われた途端、レンネィが、そして周りの幾人かが「ハッ」として気が付いた。
「私達は、創世の女神が使った『創世の鍵』こそ魔剣ではないかと予想しているわ」
それは、世界を分断することが出来る程の……強力な魔剣―――
「創世の……剣……!!」
彼女がその言葉に頷く。
「伝説の時代から幾百億の時が流れ、世界が一つに成ろうとしている今……私達三剣魔は世界を再び分断する為に情報を集めているという訳よ」
「そうだったんですか……」
「そしてその世界が再び戻った時、また世界は混乱してしまうだろう……でもそれは仕方のない事だと思っていた……けれど貴方達が現れたわ」
するとその指が「スーッ」と勇の顔を指差した。
「人と魔者が手を取り合う世界を作る……これはいつか私達が分断する世界で必ず必要となる筈……その有るべき形を……貴方達が作って欲しい、そう願っているの」
そして勇達に微笑む。
それはラクアンツェが真に望む事なのだろう……そう察せる程に。
とても優しく……温もりを感じる穏やかな笑みだった。
「そういう事……だったんですね……俺達が世界の未来の形を担っているって事か……」
「えぇ、そういう事っ」
「すげえッス、ボク達世界の最先端ッスね!!」
「そりゃ違うだろカプロ!! 俺達が宇宙の最先端だぜっ!!」
「もう、それじゃちょっと意味が違うでしょう!?」
途端に沸き起こる歓声にも近い話声に、他の者も笑顔を作り……ラクアンツェもまたいつのまにかおかしく笑う様を浮かべていた。
喜びもしよう……彼女が諦めかけていた未来の役割を目の前の少年達が担っていたのだから。
絶望を払拭せんばかりに希望が場を包み込んだ時……ラクアンツェが咳き込み、勇達の意識を呼び戻す。
そこに映るのは、いつの間にか真剣な面持ちの彼女の顔。
「これで私達の知っている知識は判る範囲で話しました。 これで分かる通り、私達の世界は今……混沌を迎える直前まで来ています」
溜飲し、場が凍る。
「いつ知れぬ最後を前に、本当であれば気が狂ってしまうかもしれないような大きなお話です……それでもなお、貴方達は前を向いて進んでいる……」
だがその目は力強く。
「いつか来るかもしれない最後を迎えない為にも、私達は抗うつもりです……ですが、これだけはハッキリ言いたい」
その姿勢は伸びきり。
「例えどの様な事が起きようと、貴方達が創ろうとする形がある限り―――」
強くその手を握り締め、戦士達はラクアンツェへと視線を注ぐ。
「―――未来が希望を失う事は……無いッ!!」
明日に願いを繋げる為に。
勇達が、レンネィ達が、カプロ達が……3つの種族の者達がお互いを認め合い、ここに集う。
世界はこんなにも都合よく……しかしそれは、世界が選んだ今の形なのだ。
変わりゆく世界、変わりゆく理―――
だがそれでも、戦士達は抗う。
例え誰かに求められなくても
例え誰かに望まれなくても
そこにある命が、彼等が守りたいと望む世界の在り方ならば
彼等は、その力を……奮うだろう。
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