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第十五節「戦士達の道標 巡る想い 集いし絆」

~圧倒、心・技・体の集大成~

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 事務所のある建屋の前にあるグラウンドを通り、併設された訓練施設へと全員が足を運ぶ。

 訓練施設へ入ると、そこには前本部にあった機器の他にも、追加で揃えられた多くの訓練道具が揃えられていた。
 そしてその部屋の横にあるのは一つの大部屋……更にその横には地下に続く階段があった。

「ここでいいかな」

 そう呟いた勇が足を踏み入れたのは大部屋。

 そこには道場の様に床に四角く囲われたマークが描かれており、剣道やレスリング等で試合が行える様相を有している。

 魔剣を使っての模擬戦である以上地下での催しを願いたい福留であったが……それを察してもなお勇がそこを選んだ事に意味を感じた福留は、何も言う事無く彼に従い皆を大部屋へ招き入れた。

「この中央で戦うとしよう」
「へへ、分かったぜ!!」
「後悔させてやるよ!!」

 既にやる気十分の二人。
 勇は相変わらずの澄ました顔のままだ。

「さて俺は……そうだな」

 そう呟くと……おもむろに背負った翠星剣の入ったバッグを手に取ると……心輝に向かって放り投げた。

「う、うおお!?」

 突然投げられた翠星剣に驚きながらも受け取ると……慌てふためく様にバッグをポンポンと跳ねさせる。

「はは、大丈夫だよ。 今は剣に命力珠は付いてないからさ」

 翠星剣の命力珠は特殊で、勇以外が持つ様ものならたちまちその触れた者の命力を一瞬にして吸い尽くし、死に至らしめるほど強力な物。
 故に勇以外は触る事を恐れ……こう慌ててしまう。

「お、おう……けどよ、翠星剣無しでどうする気だよお前……」
「そうだな……俺は……これでいい」

 すると何を思ったのか勇は大部屋の壁際に歩き始め……そこに備えてあった竹刀に手を伸ばした。

 そしてその竹刀を持ち……くるりと振り返る。



「なっ……!?」



 その姿を見た仲間達が一同で不意に声を上げる。

「……ほう……竹刀を……二刀流ですか……」

 福留が興味深く見たその姿……
 勇は二本の竹刀を両手に携えていたのだ。

「お、おい勇……お前二刀流なんて出来んのかよ!?」
「少なくとも私は見た事ありません……!!」

 茶奈もそう漏らし、心輝達の不安を煽る。

「剣聖さんが言ってただろ、幅を広げろって。 だからちょっと試したいと思ってさ」

 勇をここまで導いてくれた魔剣使いの頂点とも言える男・剣聖。
 彼のくれたアドバイスは今なお勇の心に可能性を残していた。

「け、けどよ……今じゃなくたって……」
「心輝君、今は勇君を信じましょう」

 福留に制止されるも心輝の不安は堪らなく大きかった。

 初めての相手、初めての二刀流、そして魔剣に対して普通の竹刀。
 余りにも勇が不利な状況に不安だけが募り堪らない。
 それは他の者も一緒であった。

 ……茶奈一人を除いては。



 茶奈の真剣な眼差しが彼等を見守る中……勇と少年少女が広場の中央に相対して立つ。



 彼女だけは知っていた。
 勇が笑顔だった理由を。



「それじゃあ始めるとしよう……二人とも……全力で掛かってこい!!」
「言われるまでもねぇ……行くぞナターシャ!!」
ヤーッわかった!!」

 掛け声と共に二人が同時に飛び出し……左右から同時に斬り掛かる。
 その手に持つのはそれぞれ同じ形をした短剣型の魔剣……。

「う、うわぁ、だ、だめだぁ!?」
「勇ッ!?」



ギャァァァァンッ!!



 その瞬間、違和感しかない音が部屋一杯に鳴り響いた。

 その瞬間を見届ける事無く目を抑えていた心輝と瀬玲の開く目に映るのは、あまりにも……あまりにも異様な光景であった。



 二人の魔剣を同時に竹刀で受け、微動だにしない勇の姿がそこに映っていた。



「なっ……んなバカなッ!?」
「ど、どうして竹刀で魔剣が受けれるのよ!?」
「違います」

 驚く二人に釘を刺す様に呟いたのは茶奈……彼女だけがその状況を即座に把握出来ていた。

「よく見てください、魔剣と竹刀の合間を」

 言われた通りに注視すると……その間には極小に光が灯り弾ける様に四散する光景が目に映った。

 「チリチリ」と音を立てんばかりに光が弾け飛んでいるその様子を見て、心輝達は驚きの表情を浮かべる。

「あれは……ピンポイントで形成された命力の盾です。 ああやって竹刀に命力を極小範囲で伝わせる事で、竹刀を簡単な魔剣に作り上げてるんです」

 その説明を聞いた誰しもが、更なる驚愕の事実を前に固まる。
 アージやマヴォですら聞いた事の無い技術……それは『あちら側』ではあり得ないと言い切れる程の、洗練された技術だった。

「勇さんは確かに命力は恐ろしい程までに低いかもしれません。 ですがあの人は……だからこそその少ない命力を無駄に使わない様に最小限でかつ最大限に有効利用出来る方法をずっと模索し続けてきたんです……」

 茶奈の小さな瞳がひとまばたきすると……僅かに瞼を細め、勇を見つめる。
 それは、彼の強さへの羨望を篭めた視線。



「今のあの人は……相手がよほどの手練れ・・・でない限り……もう負けません。 命力が高い程度・・では……彼には勝てないんです」



 茶奈をそう言わしめた勇の顔はいつになく自信ありありの顔を映し、逆にその斬撃を抑えられている状況を理解出来ない少年少女は焦りの顔を様していた。

「な、なんでっ!?」
「お、おかしいだろぉー!?」

 思いっきり踏ん張り魔剣を両手で前に突き出すが……逆に二人の体がずりずりと引き戻されていく感覚を与え続けていた。



 それまでに……不動。



 勇の体は完全に二人の勢いを抑えつけていた。
 多くの敵と戦い経験を経て、多くの力を得て、そして今彼は多くの知恵を付けた。



 心技体……その全てが今、彼の中に強く根付く。



 異様な状況に不安を隠しきれない二人は揃い跳ね退くと……今度は時間差での連続攻撃を繰り出した。

 だがそれすらも一つ一つ丁寧にいなし、捌いていく。

 左右、背後、上下……ありとあらゆるパターンで攻撃を仕掛けるも……全ての攻撃を躱しいなされ相殺そうさいされていく。

 次第に二人の表情に疲れの顔が浮き出始めると……その動きを鈍らせる。
 時折「パァーン」という弾けた音が鳴り響き、その音が鳴ると共に彼等の体に細い赤腫れを浮き上がらせた。

 素早い斬撃ならぬ、素早い打ち当て……スナップを利かせた、鞭の様にはたくだけの一撃。
 勇は回避しつつも、隙あらば撃ち込むという荒業を皆の前で成し遂げているのである。

「勇君すごーい……」
「しかも勇殿はその場から殆ど移動しておらぬ……もはやこの勝負……いや、始まった時から既に決していたのかもしれぬ」
「勇さんの実戦初めて見たッスけど……凄まじすぎでしょ……」

 戦いなど見た事の無いカプロもその状況があまりにも圧倒的な事が理解出来る様だ。

「あの子あんなに成長していたなんて……正直驚いたわ」
「ウム、初めて会った時の強さなど充てに成らん程に……強いッ!!」

 手練れである筈のレンネィとアージですらも……勇の異質な強さを目の当たりにし、ゴクリと唾を飲む。
 もし今戦えば……立つのはどちらか、その答えはもはや二人に出す事は出来なかったのだ。


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