上 下
461 / 1,197
第十五節「戦士達の道標 巡る想い 集いし絆」

~引越、新本部お披露目~

しおりを挟む
 片側二車線の大きな国道を一台のバスが駆け抜けていく。

 それは一見普通の大型観光バスに見えるが……その正体は魔特隊専用に改造された移動用車両であった。

 窓の全面が外からの情報をシャットアウトするマジックミラーで覆われている。
 これによって内部に誰が乗っているかは外部からでは見る事は出来ない。
 体の大きなアージやマヴォの様な者の為に限界ギリギリまで中腹部を広げ、彼等が立って動く事すら出来る様になっている。
 観光バスの様に椅子を並べる必要も無い為、壁際には人間サイズの者が座れる椅子が……後部座席にはアージ達の様な大柄な者達が座れる大型の椅子が備え付けられていた。

 ちょっとやそっと増員するだけであれば許容する事すら問題の無い程に広々とした空間は、バスに乗った事の無い『あちら側』の者のみならず勇達までをも感心させる程。

 何より、魔特隊専用の車両という所が彼等に親近感たる喜びを与えた様だ。



 彼等を乗せたバスは何事も無く道路を突き進み……外をチラリと覗き込めば、勇達にとって見た事がある様な光景が見え始めていた。

 そう……そこは彼等の故郷の街。
 彼等がよく使うショッピングモールや販売店などが並ぶ道路は都心へ続く大通り……自然と通る事になる道なのである。

「間も無く新本部に到着いたしますので今暫くお待ちくださいねぇ」

 彼等のよく知った場所が過ぎ去って間も無く福留からの声が上がる。
 それ程までに近い場所……勇達が実家から通う事を考慮したのか、それとも別の理由があるのか。
 理由こそ福留からは語られなかったが……困る事がある訳でも無く、嬉しい誤算であろう。



 福留のアナウンスから5分程走ると……勇達の視界に大きな壁を持った施設が徐々に映り始めた。
 その様相はまるで城か刑務所か……白く巨大な壁は城壁の様に高く、内部が見えない程。
 壁の頭頂部先に僅かに覗く建屋が新築である事を物語る様に綺麗なホワイトの壁を目立たせていた。

「魔特隊っていうからてっきり黒だと思ったのによぉ……」

 何せ彼等の制服とも言うべきジャケットが黒なのだ。
 黒で統一すればカッコよさも倍増……心輝はそんなボヤきをこぼしながら建屋を見る。

「日本の建物は白または灰色が主流ですからねぇ……黒塗りなんかにした日には目立ってしまいますから」

 魔特隊はそもそも極秘組織……非公式の存在だ。
 それが悪目立ちしてしまえば極秘も何もあったものでは無いだろう。

 彼等の乗ったバスがその土地の正門ゲートへと辿り着くと、そんな車両ですらも小さく見えるほど大きなゲートが左右に開き迎え入れる。

 二重構造となっている正門は、彼等を受け入れると第一ゲートが閉まり始め……完全に閉まると正面の第二ゲートが開き始めた。

「厳重ですね……」
「えぇ、極秘施設ですから」

 今まで大人しかった茶奈もさすがに驚きを隠せない様だ。

 そんな話をしていると、第二ゲートを通る彼等の前に変な斜めに建てられた小さな台の様なものが目に映る。

「あれは何ですか?」
「あぁ、あれは茶奈さん専用のカタパルトです。 使い所はまだ決まっていませんが、予算があったので試作で作ってみました」
「そ、そんなものまで……」

 入口から見える大きなグラウンドに向けて斜めに立つ茶奈専用のカタパルトが日の光を反射し、その妙な存在感を力強くありありと誇示していた。





 専用駐車場に停められたバスから全員が降りると、福留を筆頭にまばらな列を作りながら全員が施設へと入っていく。

 完全に新しく作られた施設は出来立てのなんともいえぬ香りが漂い、彼等に新鮮味を与える。
 とはいうものの、周囲には既に幾人かの関係者と思われる作業員が作業しており、本部施設の稼働が間近である事を悟らせた。

「先ほどお話はしましたが……1階が事務フロア及び研究エリアと食堂、2階が多目的エリア、3階が居住エリアとなります。 訓練施設はグラウンドの先にある専用施設と、その地下にあります。 地下は大きく空間を有し、また大きな衝撃にも耐えれるような構造となっており、魔剣による訓練もそこで行う事が出来ます」
「おお~…」
「あ、でも茶奈さんは全力では使わないでくださいね、最悪街が吹き飛びますので」
「うぅ……気を付けます……」

 茶奈の力が全力で発揮出来るのはいつになるのだろうか。

「一旦まずは……事務所に移動しましょうか、少し皆さんにお話ししなければいけない事が有りますので……」
「話……?」

 それ以上口を挟む事無く……全員が1階にある事務所へと足を運ぶと……そこには大きな部屋と、一人分がこれでもかと思うくらいに大きくスペースを有するテーブルが並んでいた。

「うほぉ、すっげぇ~!! 前の事務所の何倍だよこれ!?」

 堪らず心輝から驚きの声が漏れる。
 声に成らずとも、その場に居た仲間達全員が驚きの顔を浮かべていたのは言うまでもないだろう。

「皆さんの席に名前を振っていますので、各々の席は後で確認しておいてください」
「わかりました」

 白の色調で包まれた新しい事務所に立つ勇達。
 その前に立つ福留が全員が居る事を確認すると……

「さて……皆さんにお話しなければいけないのは……実は、ここに居るメンバーが魔特隊の全メンバーではありません」
「えっ……?」

 その話を聞いた途端、勇の周囲から戸惑いの声が聞こえる。

「ちょっと待ってください福留さん、俺達以外に誰かメンバーに入れられるような知り合いは居ましたっけ……まさか愛希あきちゃんとか言いませんよね……?」
「あ……それなら嬉しいかも……」

 愛希ちゃん……それは勇達の事情を知らずとも仲の良い茶奈の元同級生である。
 茶奈の親友であり彼女の心の支えとなっている彼女は、茶奈が退学した今でもあずーと共に彼等の母校「白代高校」へと通っている。

「ハハハ、違います……皆さんとは面識が無い方々なのですよ」
「面識が無い……?」
「えぇ……少々お待ちください」

 福留がスマートフォンを懐から取り出すと、何者かに電話を掛け始める。

「彼等を連れてきてください」

 そう一言だけ添えてスマートフォンを降ろすと……再び懐へ。

「一体誰なんですか?」

 堪らず瀬玲が質問をすると……少し福留の笑顔の口角が下がるもゆるりと答えた。

彼等・・は勇君達と同じ……現代人でありながら魔剣を得た者達です」
「えっ……!?」
「実はですねぇ、魔特隊設立に当たって各国から協力の申し出があったのです……その中で特に際立ったのが……ロシア政府からのお話でした。 いやぁ非常にセンセーショナルだったので驚きましたよ」

 苦笑いにも近い笑いを作る福留の目尻にはいつもより多くシワが目立つ。
 それは彼が困っている事に他ならない。

 唯一それに気付いた勇は、彼の言う「センセーショナル」に不安を拭う事が出来なかった。

「魔剣使いを二人派遣するので、教育を兼ねて・・・・・・戦力としてお使い・・・ください……とねぇ」
「教……育……?」

 教育とは一体どういう事なのだろうか……不安がよぎるも、勇達はその彼等・・を待ち、暫しの時を待つ事となった。


しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

悪役令嬢にざまぁされた王子のその後

柚木崎 史乃
ファンタジー
王子アルフレッドは、婚約者である侯爵令嬢レティシアに窃盗の濡れ衣を着せ陥れようとした罪で父王から廃嫡を言い渡され、国外に追放された。 その後、炭鉱の町で鉱夫として働くアルフレッドは反省するどころかレティシアや彼女の味方をした弟への恨みを募らせていく。 そんなある日、アルフレッドは行く当てのない訳ありの少女マリエルを拾う。 マリエルを養子として迎え、共に生活するうちにアルフレッドはやがて自身の過去の過ちを猛省するようになり改心していった。 人生がいい方向に変わったように見えたが……平穏な生活は長く続かず、事態は思わぬ方向へ動き出したのだった。

家族で突然異世界転移!?パパは家族を守るのに必死です。

3匹の子猫
ファンタジー
社智也とその家族はある日気がつけば家ごと見知らぬ場所に転移されていた。 そこは俺の持ちうる知識からおそらく異世界だ!確かに若い頃は異世界転移や転生を願ったことはあったけど、それは守るべき家族を持った今ではない!! こんな世界でまだ幼い子供たちを守りながら生き残るのは酷だろ…だが、俺は家族を必ず守り抜いてみせる!! 感想やご意見楽しみにしております! 尚、作中の登場人物、国名はあくまでもフィクションです。実在する国とは一切関係ありません。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

龍騎士イリス☆ユグドラシルの霊樹の下で

ウッド
ファンタジー
霊樹ユグドラシルの根っこにあるウッドエルフの集落に住む少女イリス。 入ったらダメと言われたら入り、登ったらダメと言われたら登る。 ええい!小娘!ダメだっちゅーとろーが! だからターザンごっこすんなぁーーー!! こんな破天荒娘の教育係になった私、緑の大精霊シルフェリア。 寿命を迎える前に何とかせにゃならん! 果たして暴走小娘イリスを教育する事が出来るのか?! そんな私の奮闘記です。 しかし途中からあんまし出てこなくなっちゃう・・・ おい作者よ裏で話し合おうじゃないか・・・ ・・・つーかタイトル何とかならんかったんかい!

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

だから聖女はいなくなった

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
「聖女ラティアーナよ。君との婚約を破棄することをここに宣言する」 レオンクル王国の王太子であるキンバリーが婚約破棄を告げた相手は聖女ラティアーナである。 彼女はその婚約破棄を黙って受け入れた。さらに彼女は、新たにキンバリーと婚約したアイニスに聖女の証である首飾りを手渡すと姿を消した。 だが、ラティアーナがいなくなってから彼女のありがたみに気づいたキンバリーだが、すでにその姿はどこにもない。 キンバリーの弟であるサディアスが、兄のためにもラティアーナを探し始める。だが、彼女を探していくうちに、なぜ彼女がキンバリーとの婚約破棄を受け入れ、聖女という地位を退いたのかの理由を知る――。 ※7万字程度の中編です。

処理中です...