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第十五節「戦士達の道標 巡る想い 集いし絆」
~翻弄、先陣を切る者は~
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勇達の戦いは一旦の落ち着きを見せた……筈だった。
地表部を制圧したと思いきや、ボノゴ達の動きに翻弄されて立ち回りあぐねいていたのだ。
それというのも……全ては穴蔵という未知の領域が原因。
勇、心輝とあずーが先陣を取り、穴蔵の付近のボノゴ達を攻撃していたが……彼等は途端に暗い穴蔵へ逃げて姿を消した。
だが別の穴蔵から現れては、そこから再び攻撃を行い彼等を翻弄するのだった。
茶奈の指示の下に瀬玲の光の矢が追撃を掛けるも、それも同様に……。
穴蔵へと足を踏み入れても、内部は道が無数に分かれて下手に進む事が出来ない状況。
防衛隊や魔剣使いを排除し優勢と思われていたが……思ったよりも勇達のイニシアチブは大きい物ではなかった様だ。
『チッキショ……こいつらやる気あんのかよ……!?』
「有る訳ないでしょ……むざむざ殺されたりする訳ないじゃない!」
インカムを通して仲間達の愚痴が飛ぶ。
打開出来ない状況に、ただただ不満を募らせていた。
瀬玲は無駄撃ちした矢を補充する為に再びその空へ矢を放つ。
再び放たれた矢が定位置で同じ様に止まると、茶奈の指示を待つ様に空中にじっと留まり続けていた。
『いっそ……私が穴の中に撃ち込みますか?』
「茶奈ぁ……」
『じょ、冗談です……』
確かにそれは確実かもしれないだろう。
だが地上から人工衛星を撃ち抜ける程の超火力を有する彼女がその力を奮えば、最悪の場合……この場に居る彼等自身もがどうにかなってしまう可能性が高い。
それだけで済めばまだ良い方だ。
穴の中の状態はどの様な構造になっているか判らない。
もしも穴の奥がアリの巣状になっていて人里にまで届いている様であれば、大惨事に繋がりかねないのだから。
実は既にそんな事に成りかけた前例がある彼等……さすがに行動は慎重にならざるを得ない。
『勇君どうするー?』
堪り兼ねたあずーの声がインカムから漏れる。
それを耳にした茶奈は上空から、地上で佇んでいる勇をそっと見下ろしていた。
「きっと彼なら打開策を考え出してくれるだろう」……そんな想いを抱いて。
仲間達から催促の様な言葉を受け、勇がその一歩を踏み出す。
穴蔵の入口へと足を踏み出すと、仲間達へ再び通信を送り始めた。
「今から穴にレーダーを飛ばしてみる……状況が分かったら連絡する」
「おう、頼んだぜ」
命力レーダー…命力を自身の体から波状に放出し、物体に触れた時の反響を感じる事で地形や気配を読み取る事が出来る技術だ。
普段は魔者の気配や不特定物体を感知するなどに使うが、使い方次第ではこういった迷宮の探知などに使えるかもしれないと考えたのである。
だが、それをまともに扱えるのは勇だけだ。
厳密に言えば茶奈も使用出来るが、この技術は高度な集中力を必要とする。
前線に立つ事を苦手とする彼女では身を危険に晒す事になるので選択肢には入らない。
「よし……やってみるか……」
意識を集中し、命力の波を穴の中へ向けて飛ばすイメージを浮かべる。
すると前のめりになった勇の体表からゆらりと淡く輝く靄の様な光が漏れ始め、こらしてみないと見えない程の微細な煌めきを伴って穴の中へ流れる様に流れていった。
魔者一人居ない状況の中、煌めきを送り続ける勇。
その周囲を茶奈が、心輝が、あずーが遠目で警戒する中……彼の意識はなお穴蔵への探知に傾けたまま。
おおよそ5分……短い様で緊張を伴い長くも感じさせる時間が過ぎた時、状況が動いた。
ピクリと勇が体を一震いさせ、虚ろだった瞳に光を灯す。
穴へ向けて傾けていた体と首を起こし、空を見上げると……天からの光を受けてその目を瞑らせた。
眉間を寄せた、どこか辛そうともとれる表情を浮かべて。
その口からは誰にも聞こえない溜息すら漏れ出る。
『どうよ?』
心輝もまた痺れをきらしていたのか……勇の様子を知ってか知らずか小声が飛ぶ。
すると、まるでそんな彼の気持ちが判っていたかの様に……既に充てられていた指がインカムの通話ボタンを押していた。
「悪い、ダメだ……洞窟の内部が特殊で命力が奥まで届かない。 もしかしたら、洞窟の壁面は命力を吸い込む様な材質で出来てるのかもしれない」
どうやら、勇から放射された命力は壁に吸い込まれて感覚をぼやけさせてしまった様だ。
異物に触れた事すら認識させない構造は、その距離感さえ狂わし感覚を麻痺させる。
先程勇が見せた苦悶の表情はそれが原因。
さすがの『あちら側』の生物……命力関係に対する対策はしっかり施されているのだろう。
『んじゃあ誰かが突っ込まなきゃダメって事かよ……』
「そうなるな」
『ええー……暗いの嫌なんだけどなぁ』
問答している間にも空からは光が降り注ぎ続ける。
そろそろ瀬玲の消耗度が心配になってくる頃合いだ。
彼女の命力はそれほど多くはない……長期戦には向かないのが彼女の欠点。
それを感じ取った勇が真っ先に声を上げた。
「……俺が行く!」
元より彼はそのつもりだった。
危険な場所への立ち入りは、五人の中で一番戦闘技術に長けている勇が最も適していると言える。
誰もが納得しうる答え……そう思われた。
だがその時……心輝が思い掛けぬ答えを返す。
『……いや、ダメだ』
「えっ……?」
予想外の返しに勇が戸惑う中、 反論を許す間も無く心輝が声を上げた。
『お前は地上に残れ。 まずはこっちで内部を調べる。 その上で力を温存していざってぇ時にお前がぶちかませる様にするんだ』
「馬鹿言うな!! お前一人で突っ込んでもし王と鉢合わせしたらどうなるか判らないだろ!!」
突然の異論に勇が堪らず声を荒げる。
それも当然だ……心輝達も一年を通して成長したとはいえ、彼等の実力では『王』に勝つ事が出来るかどうかは怪しいからだ。
魔者達の団体には総じて『王』と呼ばれる統率者が居る。
その王は相当な実力者であったり、魔剣使いであったりなど多様ではあるがいずれも何かしらに秀でた者ばかり。
王を倒せば何故か配下の魔者達ごと光と成って消えるのだが、それを成し得るのには相応の力が必要だという訳だ。
だがそんな状況下で、心輝はインカムの向こうから不敵な笑い声を上げていた。
『生憎だがこっちぁ一人じゃないんでな……今あずと合流した所だ』
「えっ!?」
そこはさすがの兄妹か……どうやら二人は何かしらで示し合わせ、合流を果たした様だ。
その証拠に、心輝の通信からあずーのものと思しき甲高い声が僅かに聞こえていた。
『俺とあずなら問題ねぇ……お前一人で行くよか二人での方が安心してやれる筈だろ』
『それならお兄じゃなくて勇君と一緒に行きたかったんだけど……イテッ!!』
途端「バタタッ」という雑音と共にあずーの痛がる声が聞こえてくる……心輝に突っ込まれたのだろう。
『それじゃちょっくら行ってくるぜ』
「分かった……気を付けろよ」
『心配要らねぇよぉ』
その一言を最後に、心輝からの通信が途切れた。
通話を終えると、勇は穴蔵からそっと離れて距離を取る……奇襲を避ける為だ。
なお上空で見張る茶奈の報告の下、勇は周囲を警戒しつつも心輝達の状況報告を待つ。
心輝達も成長したのだ……彼等を心配する要素は殆ど無いに等しい。
もし奥に魔剣を持った王が居たとしても、「今の彼等は無茶をせず戻ってくる」……そう言い切れる程に信頼の厚い仲間となっていた。
勇は心輝達の連絡を待ちながら少し疲れた体を休ませる様に地面に座り込む。
すると拍子に空に浮かぶ茶奈の姿が目に入った。
一面の青空……その中に佇む赤の炎が彼女の姿を示し、視線を誘う様だ。
彼女がそんな勇に気付き手を振ると、彼もまた笑顔でその手を振り返していた。
戦いとも言えぬ戦い……静かなる空の下で、彼等は時が来るのをただ待ち続けるのだった。
地表部を制圧したと思いきや、ボノゴ達の動きに翻弄されて立ち回りあぐねいていたのだ。
それというのも……全ては穴蔵という未知の領域が原因。
勇、心輝とあずーが先陣を取り、穴蔵の付近のボノゴ達を攻撃していたが……彼等は途端に暗い穴蔵へ逃げて姿を消した。
だが別の穴蔵から現れては、そこから再び攻撃を行い彼等を翻弄するのだった。
茶奈の指示の下に瀬玲の光の矢が追撃を掛けるも、それも同様に……。
穴蔵へと足を踏み入れても、内部は道が無数に分かれて下手に進む事が出来ない状況。
防衛隊や魔剣使いを排除し優勢と思われていたが……思ったよりも勇達のイニシアチブは大きい物ではなかった様だ。
『チッキショ……こいつらやる気あんのかよ……!?』
「有る訳ないでしょ……むざむざ殺されたりする訳ないじゃない!」
インカムを通して仲間達の愚痴が飛ぶ。
打開出来ない状況に、ただただ不満を募らせていた。
瀬玲は無駄撃ちした矢を補充する為に再びその空へ矢を放つ。
再び放たれた矢が定位置で同じ様に止まると、茶奈の指示を待つ様に空中にじっと留まり続けていた。
『いっそ……私が穴の中に撃ち込みますか?』
「茶奈ぁ……」
『じょ、冗談です……』
確かにそれは確実かもしれないだろう。
だが地上から人工衛星を撃ち抜ける程の超火力を有する彼女がその力を奮えば、最悪の場合……この場に居る彼等自身もがどうにかなってしまう可能性が高い。
それだけで済めばまだ良い方だ。
穴の中の状態はどの様な構造になっているか判らない。
もしも穴の奥がアリの巣状になっていて人里にまで届いている様であれば、大惨事に繋がりかねないのだから。
実は既にそんな事に成りかけた前例がある彼等……さすがに行動は慎重にならざるを得ない。
『勇君どうするー?』
堪り兼ねたあずーの声がインカムから漏れる。
それを耳にした茶奈は上空から、地上で佇んでいる勇をそっと見下ろしていた。
「きっと彼なら打開策を考え出してくれるだろう」……そんな想いを抱いて。
仲間達から催促の様な言葉を受け、勇がその一歩を踏み出す。
穴蔵の入口へと足を踏み出すと、仲間達へ再び通信を送り始めた。
「今から穴にレーダーを飛ばしてみる……状況が分かったら連絡する」
「おう、頼んだぜ」
命力レーダー…命力を自身の体から波状に放出し、物体に触れた時の反響を感じる事で地形や気配を読み取る事が出来る技術だ。
普段は魔者の気配や不特定物体を感知するなどに使うが、使い方次第ではこういった迷宮の探知などに使えるかもしれないと考えたのである。
だが、それをまともに扱えるのは勇だけだ。
厳密に言えば茶奈も使用出来るが、この技術は高度な集中力を必要とする。
前線に立つ事を苦手とする彼女では身を危険に晒す事になるので選択肢には入らない。
「よし……やってみるか……」
意識を集中し、命力の波を穴の中へ向けて飛ばすイメージを浮かべる。
すると前のめりになった勇の体表からゆらりと淡く輝く靄の様な光が漏れ始め、こらしてみないと見えない程の微細な煌めきを伴って穴の中へ流れる様に流れていった。
魔者一人居ない状況の中、煌めきを送り続ける勇。
その周囲を茶奈が、心輝が、あずーが遠目で警戒する中……彼の意識はなお穴蔵への探知に傾けたまま。
おおよそ5分……短い様で緊張を伴い長くも感じさせる時間が過ぎた時、状況が動いた。
ピクリと勇が体を一震いさせ、虚ろだった瞳に光を灯す。
穴へ向けて傾けていた体と首を起こし、空を見上げると……天からの光を受けてその目を瞑らせた。
眉間を寄せた、どこか辛そうともとれる表情を浮かべて。
その口からは誰にも聞こえない溜息すら漏れ出る。
『どうよ?』
心輝もまた痺れをきらしていたのか……勇の様子を知ってか知らずか小声が飛ぶ。
すると、まるでそんな彼の気持ちが判っていたかの様に……既に充てられていた指がインカムの通話ボタンを押していた。
「悪い、ダメだ……洞窟の内部が特殊で命力が奥まで届かない。 もしかしたら、洞窟の壁面は命力を吸い込む様な材質で出来てるのかもしれない」
どうやら、勇から放射された命力は壁に吸い込まれて感覚をぼやけさせてしまった様だ。
異物に触れた事すら認識させない構造は、その距離感さえ狂わし感覚を麻痺させる。
先程勇が見せた苦悶の表情はそれが原因。
さすがの『あちら側』の生物……命力関係に対する対策はしっかり施されているのだろう。
『んじゃあ誰かが突っ込まなきゃダメって事かよ……』
「そうなるな」
『ええー……暗いの嫌なんだけどなぁ』
問答している間にも空からは光が降り注ぎ続ける。
そろそろ瀬玲の消耗度が心配になってくる頃合いだ。
彼女の命力はそれほど多くはない……長期戦には向かないのが彼女の欠点。
それを感じ取った勇が真っ先に声を上げた。
「……俺が行く!」
元より彼はそのつもりだった。
危険な場所への立ち入りは、五人の中で一番戦闘技術に長けている勇が最も適していると言える。
誰もが納得しうる答え……そう思われた。
だがその時……心輝が思い掛けぬ答えを返す。
『……いや、ダメだ』
「えっ……?」
予想外の返しに勇が戸惑う中、 反論を許す間も無く心輝が声を上げた。
『お前は地上に残れ。 まずはこっちで内部を調べる。 その上で力を温存していざってぇ時にお前がぶちかませる様にするんだ』
「馬鹿言うな!! お前一人で突っ込んでもし王と鉢合わせしたらどうなるか判らないだろ!!」
突然の異論に勇が堪らず声を荒げる。
それも当然だ……心輝達も一年を通して成長したとはいえ、彼等の実力では『王』に勝つ事が出来るかどうかは怪しいからだ。
魔者達の団体には総じて『王』と呼ばれる統率者が居る。
その王は相当な実力者であったり、魔剣使いであったりなど多様ではあるがいずれも何かしらに秀でた者ばかり。
王を倒せば何故か配下の魔者達ごと光と成って消えるのだが、それを成し得るのには相応の力が必要だという訳だ。
だがそんな状況下で、心輝はインカムの向こうから不敵な笑い声を上げていた。
『生憎だがこっちぁ一人じゃないんでな……今あずと合流した所だ』
「えっ!?」
そこはさすがの兄妹か……どうやら二人は何かしらで示し合わせ、合流を果たした様だ。
その証拠に、心輝の通信からあずーのものと思しき甲高い声が僅かに聞こえていた。
『俺とあずなら問題ねぇ……お前一人で行くよか二人での方が安心してやれる筈だろ』
『それならお兄じゃなくて勇君と一緒に行きたかったんだけど……イテッ!!』
途端「バタタッ」という雑音と共にあずーの痛がる声が聞こえてくる……心輝に突っ込まれたのだろう。
『それじゃちょっくら行ってくるぜ』
「分かった……気を付けろよ」
『心配要らねぇよぉ』
その一言を最後に、心輝からの通信が途切れた。
通話を終えると、勇は穴蔵からそっと離れて距離を取る……奇襲を避ける為だ。
なお上空で見張る茶奈の報告の下、勇は周囲を警戒しつつも心輝達の状況報告を待つ。
心輝達も成長したのだ……彼等を心配する要素は殆ど無いに等しい。
もし奥に魔剣を持った王が居たとしても、「今の彼等は無茶をせず戻ってくる」……そう言い切れる程に信頼の厚い仲間となっていた。
勇は心輝達の連絡を待ちながら少し疲れた体を休ませる様に地面に座り込む。
すると拍子に空に浮かぶ茶奈の姿が目に入った。
一面の青空……その中に佇む赤の炎が彼女の姿を示し、視線を誘う様だ。
彼女がそんな勇に気付き手を振ると、彼もまた笑顔でその手を振り返していた。
戦いとも言えぬ戦い……静かなる空の下で、彼等は時が来るのをただ待ち続けるのだった。
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