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第十四節「新たな道 時を越え 心を越えて」

~カプロ君は欲望に勝てない~

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 無事(?)茶奈とあずーがアルライの里へと辿り着き、目的地であるカプロの工房へと足を運ぶ。
 二人が工房へと辿り着くと……扉の無い入口からひょっこりと顔を覗かせた。

 そこで二人の視界に映ったのは、工房内の椅子に座って本を読むカプロの姿であった。

「カプロさん、こんにちわ~」
「うぴっ!? ちゃ、茶奈さん!?」

 突然の茶奈達の来訪に驚き、カプロが咄嗟に本を背中へ隠す。

「ちょっとお願いがあって……今大丈夫ですか?」
「い、今ッスか……ちょ、ちょっと待ってほしいッス……ちょっとだけッスから!!」

 カプロは背を向けない様に横ずさりで彼女達の佇む入口から出ようとしていた。
 彼の顔に浮かぶのは、わざとらしい程に口角の釣り上がった笑顔。

 そんな怪しさ大爆発の行動に……茶奈が思わず首を傾げる。
 疑う事を知らない彼女はキョトンとしながらも静かに彼の動きを追う様に視線を動かしていた。

 だがその隣に居るあずーはと言えば……ジト目でカプロの動きをじっくりと観察していた。
 彼女は気付いてしまったのだ……その行動はまさに……

「もしかして……エロ本かぁ!?」
「んなっ!? ちちちがうッスよ!!」

 更に怪しい挙動と反応を見せるカプロ……あずーのセンサーがビンビンだ。

「うっひっひ……見せろぉい!!」
「ちょ、や、止めるッスよぉおおおお!?」

 突然あずーがカプロに抱き着く様に飛び掛かると、カプロが必死に片手で彼女の顔を押して抵抗する。
 しかしその抵抗も空しく……彼の手から無情にも本が取り上げられ、彼女の頭上高くにその本が掲げられた。

「ひゃあああああああ!! やめてぇーーー!! そんな事されたらボクもう生きていけないッスよおぉ!!」

 あずーの掲げた本が天井のシアリングライトの光を受けて怪しく光る。



 そこには『世界哺乳類動物傑作選』と書かれたタイトルがでかでかと書かれていた。



「あー……うん」
「あ、私も見たい……」

 茶奈達の微笑ましい反応を他所に……カプロはその両手を地に突き、項垂れる様に頭を垂れていた。

 彼等アルライ族にとっては人間のグラビア写真集なんかよりも動物の写真の方がそそるらしく。
 まぁそれも当然であろう……彼等にとって衣服を着ない動物の写真は裸体写真となんら変わらないのだから。

「オオオオオォォ……オオッ……オオゥウウ……!!」

 絶望の余り、カプロが涙と鼻水とよだれを垂らしながら泣き叫ぶ。
 異性に痴情を見られたらそれはもう当然人生の終わりに相当すると思っても過言ではないだろう……そこは人間と何ら変わらない訳で。

「あ、カプロ君、泣いてるところ悪いんだけどさ、魔剣作ってよ」

 無情にもそんなカプロに対してあずーの暴挙が炸裂する。
 その瞬間、カプロの脳裏が稲妻に撃たれた様に激しく暴れ出スパーキングした。

「ぜ、絶対に作らねッス……グスッ……あずさんにだけには作る魔剣は……ウゥ……絶ぇ対ッにえッス……ッ!!」

 カプロが感情を剥き出しにしてあずーに抵抗する。
 頭は項垂れたままだが……「ガチガチ」と歯を小刻みに鳴らし、目から怪しい光が漏れ出す。

 「シュゴオオオ……」という効果音が付くに相応しい様相……そう、これは怨念の光。

 あずーに対してのみ働く……怨みと憎しみの心がカプロの心を真っ黒に塗り潰したのだ。



「あ、そーなんだ……仕方ないなぁ……この本より凄いの持ってるんだけど……あー残念だなぁ……」



 その瞬間、カプロの尻尾が「ピンポーン」という音と共に上に持ち上がる。

「あ、あずさん……その本より凄いって……マジッスか……?」

 ドロドロになった顔を持ち上げ、本を高々と持ち上げたあずーの顔を見上げる。
 今の彼の視界に映るのは、まるで自由の女神の様な雄々しいあずーの姿。
 天井に輝くシアリングライトが後光の様に感じさせ、彼の耳にはオルガンによる重低音の演奏の幻聴が聞こえ始めていた。

 ちなみにそれは幻聴ではなく茶奈が横でスマートフォンを弄っていた際に鳴った音楽である。

「んん~……どうするカップロく~ん?」
「是非やらせて欲しいッス」



 即答であった。



 一瞬で彼の顔はキリっと整い、その聡明となった顔があずーの顔と合わせ……二人の無言の会話が成り立っている様にすら見えた。
 彼のドス黒く染まった心が桃色によって塗り潰された瞬間であった。

「……ぶしっ!……ここ埃っぽいなぁ……」

 その二人の妙な雰囲気を他所に、茶奈が彼等の後ろでくしゃみを立てる。
 そっと足元をごしごしと足裏で擦ると……途端土煙が舞い、掃除が行き届いてない事を物語らせていた。

「……魔剣が出来るまで掃除してあげようっと」

 その後、一日掛けてあずーのもう一本の魔剣が完成した。
 コピー品であるとはいえ、その出来栄えはカプロが今まで作った物の中で何よりも完成度の高い魔剣であった事は言うまでもないだろう。


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