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第十四節「新たな道 時を越え 心を越えて」
~進路面談その1~
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7月の頭……間も無く夏休みに差し掛かろうとしていたとある日の土曜日。
それは進路面談の日。
毎年、白代高校では3年生になった生徒達の決めた進路を親を交えて個々に面談する行事がある。
就職であれば希望就職先を斡旋し、進学であれば受験の悩みを聞いたりなど、生徒達の進路に対する取り組みをサポートするプログラムが組まれているのである。
もちろん内定が決まった者には立ち振る舞いを指導するなど、余す事は無い。
進路面談が行われる相談室……そこに3人の姿があった。
部屋の中央にある机を中心に、椅子に腰掛け対面するのは……担任の教師と、瀬玲と彼女の父親。
「―――それで瀬玲さんの進路希望先は……『公務員』……?」
「はい」
教師が不思議そうな顔で瀬玲に問い掛ける。
その手に握られた進路希望記入用の用紙には、彼の言葉の通り『公務員』と一言だけ書かれていた。
「うーん、進学から就職に切り替えるのはこの際置いておいて……公務員って……ざっくりしすぎじゃないですか?」
「そうですか……?」
「ほら……公務員でも色々あるでしょう、市役所員とか、警察官とか。 あとなんというか……もう少し夢や希望を持ってもいいんじゃないでしょうかねぇ」
決して公務員自体に夢や希望が無い訳ではない。
ただ本人がやりたい方向性がその言葉だけでは解らないというのもあり、教師は少し疑問に思いそう言葉を投げかけただけである。
「えーっと……なんていうか、公務員、安定してるじゃないですか?」
「……えぇ……それで?」
「憧れるじゃないですか……安定って……」
瀬玲の顔が徐々に引きつっていく。
話してはいけない事を隠す言い訳も難しいものだ。
いっそ「魔特隊(対魔者特殊戦闘部隊の略)に入り悪い魔者を蹴散らすお仕事をしたいです」などと言ってやりたい。
そんな想いが脳裏に過る。
―――なんで私が最初なのよ……―――
相沢という姓が故に、こんな行事の際は最初に順番が訪れる。
こんな時にだけ自分の苗字がたまらなく憎らしくなる瀬玲であった。
そんな折、今まで一言も放つ事の無かった瀬玲の父親が口を開く。
「先生、実はですね……既にこの子は内定が決まっているんです」
「え、そうなのですか!?」
「あ……言っちゃった」
娘の困惑する態度に堪り兼ねたのだろう。
瀬玲の父親が言葉を挟むと……自分の胸ポケットにある名刺入れを取り出し、そこから一枚の名刺を取り出した。
それはいつだかのクリスマスパーティの時に福留から貰った名刺。
念の為に……と彼が切り札としてこっそり持ってきていたのだ。
「これは……内閣府興業促進委員会……ですか……」
「えぇ……娘は今そこで研修を兼ねたお手伝いをしていまして、卒業後にそこに就職という形で所属する予定なのです」
用意周到な父親の対応に瀬玲の口が塞がらない。
「なるほど、解りました……そういう事でしたらもう少し早く言って頂きたかったのですが……」
「申し訳ない、娘もまだ完全には決めかねていましてね……でも恐らく近いうちに決める事になると思うので間違いないかと」
今日ほど父親が頼もしいと思った事は無いだろう……そこから最後まで彼のリードが続く。
そんな訳で父親という切り札が功を奏し、瀬玲の面談はたちまち終了を迎えた。
二人が相談室から外へ出て教師へ一礼を贈ると、玄関口へ向けて歩を進め始める。
人気の無い静かな廊下に「コツコツ」という鈍い足音が響く。
「お父さんありがと……」
「福留さんともう少し相談しておいた方がいいんじゃないか? 今後どうなるかわからないんだろうし」
「うん……そうする」
魔剣を受け取った後、彼女達の両親にも福留から事情は説明済み。
勇の両親同様、彼女達の両親もまた子供達が戦う事にいい顔はしなかったが……本人達の意思は固く、それを受け入れざるを得なかった。
そんな彼等を少しでもサポートしようとそれぞれの親達もまた決意し……こうして今に至る訳である。
それは進路面談の日。
毎年、白代高校では3年生になった生徒達の決めた進路を親を交えて個々に面談する行事がある。
就職であれば希望就職先を斡旋し、進学であれば受験の悩みを聞いたりなど、生徒達の進路に対する取り組みをサポートするプログラムが組まれているのである。
もちろん内定が決まった者には立ち振る舞いを指導するなど、余す事は無い。
進路面談が行われる相談室……そこに3人の姿があった。
部屋の中央にある机を中心に、椅子に腰掛け対面するのは……担任の教師と、瀬玲と彼女の父親。
「―――それで瀬玲さんの進路希望先は……『公務員』……?」
「はい」
教師が不思議そうな顔で瀬玲に問い掛ける。
その手に握られた進路希望記入用の用紙には、彼の言葉の通り『公務員』と一言だけ書かれていた。
「うーん、進学から就職に切り替えるのはこの際置いておいて……公務員って……ざっくりしすぎじゃないですか?」
「そうですか……?」
「ほら……公務員でも色々あるでしょう、市役所員とか、警察官とか。 あとなんというか……もう少し夢や希望を持ってもいいんじゃないでしょうかねぇ」
決して公務員自体に夢や希望が無い訳ではない。
ただ本人がやりたい方向性がその言葉だけでは解らないというのもあり、教師は少し疑問に思いそう言葉を投げかけただけである。
「えーっと……なんていうか、公務員、安定してるじゃないですか?」
「……えぇ……それで?」
「憧れるじゃないですか……安定って……」
瀬玲の顔が徐々に引きつっていく。
話してはいけない事を隠す言い訳も難しいものだ。
いっそ「魔特隊(対魔者特殊戦闘部隊の略)に入り悪い魔者を蹴散らすお仕事をしたいです」などと言ってやりたい。
そんな想いが脳裏に過る。
―――なんで私が最初なのよ……―――
相沢という姓が故に、こんな行事の際は最初に順番が訪れる。
こんな時にだけ自分の苗字がたまらなく憎らしくなる瀬玲であった。
そんな折、今まで一言も放つ事の無かった瀬玲の父親が口を開く。
「先生、実はですね……既にこの子は内定が決まっているんです」
「え、そうなのですか!?」
「あ……言っちゃった」
娘の困惑する態度に堪り兼ねたのだろう。
瀬玲の父親が言葉を挟むと……自分の胸ポケットにある名刺入れを取り出し、そこから一枚の名刺を取り出した。
それはいつだかのクリスマスパーティの時に福留から貰った名刺。
念の為に……と彼が切り札としてこっそり持ってきていたのだ。
「これは……内閣府興業促進委員会……ですか……」
「えぇ……娘は今そこで研修を兼ねたお手伝いをしていまして、卒業後にそこに就職という形で所属する予定なのです」
用意周到な父親の対応に瀬玲の口が塞がらない。
「なるほど、解りました……そういう事でしたらもう少し早く言って頂きたかったのですが……」
「申し訳ない、娘もまだ完全には決めかねていましてね……でも恐らく近いうちに決める事になると思うので間違いないかと」
今日ほど父親が頼もしいと思った事は無いだろう……そこから最後まで彼のリードが続く。
そんな訳で父親という切り札が功を奏し、瀬玲の面談はたちまち終了を迎えた。
二人が相談室から外へ出て教師へ一礼を贈ると、玄関口へ向けて歩を進め始める。
人気の無い静かな廊下に「コツコツ」という鈍い足音が響く。
「お父さんありがと……」
「福留さんともう少し相談しておいた方がいいんじゃないか? 今後どうなるかわからないんだろうし」
「うん……そうする」
魔剣を受け取った後、彼女達の両親にも福留から事情は説明済み。
勇の両親同様、彼女達の両親もまた子供達が戦う事にいい顔はしなかったが……本人達の意思は固く、それを受け入れざるを得なかった。
そんな彼等を少しでもサポートしようとそれぞれの親達もまた決意し……こうして今に至る訳である。
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