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第十四節「新たな道 時を越え 心を越えて」

~相沢瀬玲~

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 気付けば新年度……勇や心輝達は3年生となり、茶奈達もまた2年生へと昇級していた。

 白代高校は2年進級時に進路によってクラス分けを行う。
 進学か就職か……理系か文系か……各々が選択した道に沿って分かれるのである。
 そんなこの学校は基本的に2年から3年への進級時にはクラス替えを行う事は無い。
 その為、勇達は続き心輝達と共に同じクラスで過ごす事となる。

 新しい教室で、去年と何ら変わらない面々が会話を連ねる。
 いつも通りの風景、いつも通りの声……彼等は思うままに会話に華を咲かせていた。

「ねぇねぇ最近の藤咲君ってさ、なんか妙に大人っぽくない?」
「わーかーるー! なんかすごい貫禄っていうの? そんな雰囲気凄い出てきてるよね」
「妙にカッコイイよね、告っちゃおうかな~」

 昼休みの一角……教室の片隅でクラスの女子達が惜しげも無くそんな話題を交わす。

 幸か不幸か……勇は心輝と共に昼食を取る為に教室に居なかった。
 もっとも、彼が居るのであればそんな堂々と彼の事など話はしないだろうが。

 そんな彼女達の傍らには瀬玲の姿もあった。

「多分徒労に終わるよ……勇には好きな子いるし。 しかもその子も勇の事好きだし……多分」
「えー! マジで~!?」
「意外~!! 藤咲君って奥手だと思ってたのに~……もしかして行く所まで行っちゃった感じ?」

 女子達の会話は無邪気にエスカレートするが、瀬玲が釘を刺す様に言葉を返す。

「さぁね~……でも多分その内行くんじゃない~?」



―――本人達にその気があれば……だけど―――



 その目は座っており、半ば退屈そうにも見える。

 それもそうだろう……勇と茶奈、二人の関係が進展しない事にやきもきする感情があるからだ。
 本来彼女もこんな桃色の話は大好物なのだが……最も身近とも言える存在が煮え切らない対象となれば話は別だ。

 茶奈が自身の名前を認めて以来、勇も彼女の事を名前で呼ぶ様になった。
 その関係が進展したと思われたが……結局今までと何ら変わらない生活が今なお続いている。
 「いっそ自分が告白でもしようものなら簡単に奪えてしまうのではないか」……そう思った事すらあり、その感傷は既に末期とも言えるだろう。
 何より性質が悪いのは、それを瀬玲当人が認識してわかってしまっている事か。

 机の上で両腕を組み、顎を組まれた腕に沈み込む様に乗せて欠伸を上げ、彼女達の話に聞き耳を立てる。
 そんな時突然……彼女達の前に、教室の扉の外から珍しく茶奈が姿を現した。

 教室に顔を覗かせた途端、彼女の視界に瀬玲の顔が映る。

「あっ、セリさん……勇さんいますか?」

 慌てて来たのだろう、彼女は「ふうふう」と息を荒げていた。
 口を小さく摺動させる彼女だったが、その口角は僅かに高く……まるで大きな笑みを浮かべているよう。
 
「勇なら食堂にもう行ったよー」
「あ、そうなんですね……乗り遅れちゃった」

 途端大きく開かれた唇は萎み、「へ」の字を描く。
 茶奈から小さな溜息が漏れ……その唇は再び微笑みへと姿を変えた。

「じゃあ私、行きますね。 教えてくれてありがとうございます」

 茶奈が小刻みに手を振ると、瀬玲もまた作った様な笑顔を浮かべて振り返す。
 そのまま覗かせた顔を引っ込めた彼女は踵を返して去っていく。
 そんな姿を瀬玲は扉の隙間から見届けていた。

 彼女の姿が見えなくなると……ぐらりと頭を揺らさせ、組んだ両腕の中に「ドスン」と音を立てて沈めた。

「あ~……モヤモヤするわー」

 一人モヤつく気分に苛まれながら椅子の先から出る足をバタバタとばたつかせる。
 やり場の無い悶々とした感情は更に両腕へと滑らす様におでこをグリグリと擦り付けさせていた。

「今の子誰? 3年にいたっけ?」

 茶奈の事が気になったのだろう……ふと女子の一人が声を上げる。
 その問い掛けに、瀬玲はぬぃっと頭を起こしてぼそりと呟いた。

「あの子が噂の子」
「マジでぇーーーっ!?」

 桃色の声が教室中に響き、ちょっとした喧騒を生む。
 だが間も無く……狭い空間に上がっていた声が桃色に押し出され、得も知れぬ静寂が教室を包み込んだのだった。


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