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第十三節「想い遠く 心の信 彼方へ放て」
~その一言が彼女のきっかけ~
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遂に弾丸が発射されようとした時……ちゃなの顔が大きく持ち上がり、その目元から雫が跳ね上がった。
途端ふわりと持ち上がった髪が彼女の視界を遮り、髪の合間から外の光が溢れ、白の世界を映し込む。
その瞬間……宮殿内を、勇の声が一杯に包んだ。
「ちゃなぁあーーーーーーーーーーッ!!!」
それは魂の一声。
「ッ!!」
その声が耳に届いた刹那……ドゥルムエーヴェの先端が鋭く直上へ跳ね上がり、弾丸が彼等の頭上へ向けて発射された。
ドォオオオオオオオ!!!
途端、弾丸がとてつもない勢いで天井を貫きその先で大爆発を起こす。
それにより宮殿の天井が震え、床にまでその振動と伝わらせて大音を響かせた。
獅堂がそれに驚き、頭を庇う様に両手で頭を覆う。
「ひぃい!!」
パラパラと音を立てて天井の小さな欠片が降り注ぎ、粒がその手に当たると思わず「ビクンッ」と怯む様を見せつけた。
だが大きな音に反して、宮殿は崩れずその形を保ち続けたまま。
振動は既に止み……天井の穴からは立ち上る黒い煙が覗き見え、僅かに穴へも吹き込まれていた。
獅堂がぽっかりと開いた頭上の穴に視線を釘付けにする。
頭を押さえる手をどかすと……堪えきれる訳も無く感情のままに怒号を上げた。
「おいテメェ!!どこ撃って―――」
だが怒鳴った瞬間……獅堂は自分の見た光景を疑う事となる。
「―――えっ……?」
自分の目の前に居た筈のちゃなが……勇達の前で自分に向けて杖を構えていたのだから。
「なぁっ!? な、なんでそうなるんだよ!? おっかしいだろ!!」
目の前の光景が信じられず、獅堂が叫び散らす。
だがそれは夢でも幻でもなく……現実としてちゃなは勇達の元へ戻っていたのだ。
「ちゃな……君は……」
「勇……さん? ご、ごめんなさい私……私……!!」
その眼に涙を浮かばせて。
しかしなおその眼は虚ろな様相を持つ瞳……魔剣の効果は持続していたまま。
彼女の目にはまだ勇が獅堂に見えるのだろう、その言葉もまだ戸惑いを残す。
「でも……勇さんの声が聞こえたから……あの時と変わらない……私の名前を呼ぶ声が聞こえたから……!!」
それはちゃなの奥底に秘めた思い。
勇がちゃなの名前を呼んだあの日……ダッゾとの2回目の戦いの折。
あの時と変わらぬ叫びがちゃなの心に確かに響いたのだ。
「聞こえたの……私の名前を呼ぶ声を……だから私はっ!!」
「ちゃな……」
それが彼女の決意。
迷いを払拭した時……彼女はその名を自ら望んで口にした。
「思い出したからもう迷わない……私は……『茶奈』だから……!!」
それこそが彼女の……茶奈という、誇るべき自身の名前。
茶奈が顔を振って涙を振り飛ばし、その眼を再び獅堂に向ける。
その瞳は既に、虚ろいなど微塵も感じさせぬ程にハッキリとした輝きを見せていた。
「ありがとう……思い出してくれて……」
「うんっ!!」
茶奈の迷いが晴れ、勇がそれに応える。
もはや二人の間に、互いを遮るまやかしは存在しない。
二人の絆が……魔剣の呪いを今、断ち切ったのだ。
そんな様子を見ていた獅堂が声を荒げて怒鳴り散らす。
「なんでだッ!! なんでだよッ……!! おっかしいだろ……魔剣の能力は絶対だ……絶対の筈なんだ……なのに何で!?」
茶奈の裏切りにアージとレンネィが怯む中、獅堂はその怒りを抑えられず王座へとその怒りをぶつける様に殴りつけた。
「魔剣の力は絶大なのかもしれない……けれど……魔剣の力は心の力だ……!!」
苛立ちを見せる獅堂へ、勇の高揚した感情を乗せた声が上がる。
「……はぁ!?」
その苛立ちをぶつける様に獅堂が睨み付ける。
だが勇は止まらない。
彼にはもう、止まる理由は……無い。
「俺達は……ここに来るまでに多くの戦いを一緒に潜り抜けてきたんだ……お互いで助け合いながら何度も……何度も!!」
「うんっ!!」
「俺達は心で繋がっているんだ……茶奈も心輝も瀬玲もあずーもジョゾウさんも……レンネィさんやアージさんだって!!」
「いっひっひ! 剣聖さんはどうかわからねぇけどな!」
そんな声を上げる心輝を前に、敵対している筈の剣聖が僅かにその口角を上げる。
彼等の言う事がまるで判っているかの様に……。
「そうよっ! 私と勇君の心の繋がりは誰にも壊せないんだからっ!!」
「そうね……それは茶奈にだって同じ事!!」
「無論の事!」
今までずっと、彼等は戦ってきた。
互いを信じ、認め合い、触れ合い、寄り添って生きて来た。
それは彼等にとって何事にも捨て難い大切な思い出。
「こうやって心の力を皆がくれる……茶奈も繋がった心で分かってくれた……俺達にあるこの可能性が、貴様の策略を超えたんだ!! もう俺達はそんな魔剣じゃ止められないぞ!!」
勇の声が、勇達の叫びが、宮殿内に響き渡りそれが全て獅堂へ向けられる。
その全てが気に入らない獅堂は怒り……そして焦っていた。
「クソッ!! こんな……こんな筈じゃ……どこで狂ったんだ僕の計画は……あんなクソザコ共に邪魔されるなんて有り得ない……有り得ない!!」
「そんな汚ねぇ言葉ばっか連ねる様な腐った奴が判る訳ねぇっての!」
獅堂の焦りから出る声に反応し、心輝が獅堂に対して憎まれ口を叩き彼の心を煽る。
それに釣られた様に獅堂が激しく歪ませた形相を見せつけ、それを見た心輝が怯み首を引かせた。
「はぁ……!? うるせぇよクソザコ共が!! おい、剣聖!! 奴らをとっととブッ殺せ!!」
焦りからか、獅堂が今までに見ない興奮した様で怒鳴り散らす。
だが途端、剣聖の体から威圧感を伴った気迫が漏れ始め……鈍く輝かせた目を見下ろす様に獅堂へと向けた。
「あぁ? 何言ってんだおめぇは!?」
「へっ?」
獅堂を威嚇する様にその眼光を彼に向け、凄まじい命力の胎動を見せつける。
虚ろな目のままではあるが……その意思はなお強者のまま。
「確かに俺ぁおめえの気持ちに同調してここまで来たがよ……おめぇの手下になったつもりはねぇぞ……!?」
「す、すいません……」
剣聖の圧倒的な気迫に気圧され、獅堂がつい頭を下げる。
操られていようがなんだろうが、スタンスは変わらない……操られた当初から、彼はただ自分が思うままに動いていたに過ぎなかった。
しかしそのやりとりが逆に獅堂の煮え滾った怒りを静ませ、冷静さを取り戻させた。
―――ク……クソォ……剣聖は役に立たない……
熊と女だけでは心元ない……
どうすればいい……どうすれば……!!―――
獅堂が思考を巡らせる中……勇が体力と命力を僅かに取り戻し、瀬玲の肩から自身の腕を退けて自身の足で立つ。
仲間達共に、見開いた青と茶の瞳を獅堂の一身に向け……募りに募った想いを乗せた叫びを解き放った。
「もう止めるんだ……お前の目的は達せない!! 剣聖さんも自分の意思では動かせない、アージさんやレンネィさんだけなら俺達でもまだ何とかなる!!」
「藤咲勇ゥ……!!」
「お前の負けは見えた……潔く諦めろ!! じゃないともう俺は……お前をどうしてしまうか……わからないッ!!」
エウリィは復讐をきっと望まない。
彼女はなお心を忘れない様にと言うだろう。
だから勇は望む……獅堂が敗北を受け入れる事を。
それが成されない場合……彼は怒りを奮うしかないのだから。
感情を乗せた言葉は曖昧……だが、その結末は誰にも想像出来るだろう。
だがその言葉は獅堂の心には届かない。
項垂れる様に頭を垂れながらも……彼はなおも思考を巡らせていた。
―――そうだ……僕の切り札……まだあるじゃないか……ヒヒッ!!―――
突然何かを閃き……その顔が勢い良く持ち上がる。
その時見せつけたのは、最初の時の様な余裕な笑顔だった。
「……ハハッ!! 諦めろだって……? ふざけないでくれよ……僕が負けた……? 冗談キツイなぁ全く……僕はまだ負けちゃいない……」
「何ッ!?」
負け惜しみの様にも聞こえる言い回しであったが……余裕のある笑みが今までの出来事から油断出来ない事を勇に悟らせる。
まだ何か奥の手を隠している……そう思わせる様に、その笑みは高く口角を上げていた。
途端ふわりと持ち上がった髪が彼女の視界を遮り、髪の合間から外の光が溢れ、白の世界を映し込む。
その瞬間……宮殿内を、勇の声が一杯に包んだ。
「ちゃなぁあーーーーーーーーーーッ!!!」
それは魂の一声。
「ッ!!」
その声が耳に届いた刹那……ドゥルムエーヴェの先端が鋭く直上へ跳ね上がり、弾丸が彼等の頭上へ向けて発射された。
ドォオオオオオオオ!!!
途端、弾丸がとてつもない勢いで天井を貫きその先で大爆発を起こす。
それにより宮殿の天井が震え、床にまでその振動と伝わらせて大音を響かせた。
獅堂がそれに驚き、頭を庇う様に両手で頭を覆う。
「ひぃい!!」
パラパラと音を立てて天井の小さな欠片が降り注ぎ、粒がその手に当たると思わず「ビクンッ」と怯む様を見せつけた。
だが大きな音に反して、宮殿は崩れずその形を保ち続けたまま。
振動は既に止み……天井の穴からは立ち上る黒い煙が覗き見え、僅かに穴へも吹き込まれていた。
獅堂がぽっかりと開いた頭上の穴に視線を釘付けにする。
頭を押さえる手をどかすと……堪えきれる訳も無く感情のままに怒号を上げた。
「おいテメェ!!どこ撃って―――」
だが怒鳴った瞬間……獅堂は自分の見た光景を疑う事となる。
「―――えっ……?」
自分の目の前に居た筈のちゃなが……勇達の前で自分に向けて杖を構えていたのだから。
「なぁっ!? な、なんでそうなるんだよ!? おっかしいだろ!!」
目の前の光景が信じられず、獅堂が叫び散らす。
だがそれは夢でも幻でもなく……現実としてちゃなは勇達の元へ戻っていたのだ。
「ちゃな……君は……」
「勇……さん? ご、ごめんなさい私……私……!!」
その眼に涙を浮かばせて。
しかしなおその眼は虚ろな様相を持つ瞳……魔剣の効果は持続していたまま。
彼女の目にはまだ勇が獅堂に見えるのだろう、その言葉もまだ戸惑いを残す。
「でも……勇さんの声が聞こえたから……あの時と変わらない……私の名前を呼ぶ声が聞こえたから……!!」
それはちゃなの奥底に秘めた思い。
勇がちゃなの名前を呼んだあの日……ダッゾとの2回目の戦いの折。
あの時と変わらぬ叫びがちゃなの心に確かに響いたのだ。
「聞こえたの……私の名前を呼ぶ声を……だから私はっ!!」
「ちゃな……」
それが彼女の決意。
迷いを払拭した時……彼女はその名を自ら望んで口にした。
「思い出したからもう迷わない……私は……『茶奈』だから……!!」
それこそが彼女の……茶奈という、誇るべき自身の名前。
茶奈が顔を振って涙を振り飛ばし、その眼を再び獅堂に向ける。
その瞳は既に、虚ろいなど微塵も感じさせぬ程にハッキリとした輝きを見せていた。
「ありがとう……思い出してくれて……」
「うんっ!!」
茶奈の迷いが晴れ、勇がそれに応える。
もはや二人の間に、互いを遮るまやかしは存在しない。
二人の絆が……魔剣の呪いを今、断ち切ったのだ。
そんな様子を見ていた獅堂が声を荒げて怒鳴り散らす。
「なんでだッ!! なんでだよッ……!! おっかしいだろ……魔剣の能力は絶対だ……絶対の筈なんだ……なのに何で!?」
茶奈の裏切りにアージとレンネィが怯む中、獅堂はその怒りを抑えられず王座へとその怒りをぶつける様に殴りつけた。
「魔剣の力は絶大なのかもしれない……けれど……魔剣の力は心の力だ……!!」
苛立ちを見せる獅堂へ、勇の高揚した感情を乗せた声が上がる。
「……はぁ!?」
その苛立ちをぶつける様に獅堂が睨み付ける。
だが勇は止まらない。
彼にはもう、止まる理由は……無い。
「俺達は……ここに来るまでに多くの戦いを一緒に潜り抜けてきたんだ……お互いで助け合いながら何度も……何度も!!」
「うんっ!!」
「俺達は心で繋がっているんだ……茶奈も心輝も瀬玲もあずーもジョゾウさんも……レンネィさんやアージさんだって!!」
「いっひっひ! 剣聖さんはどうかわからねぇけどな!」
そんな声を上げる心輝を前に、敵対している筈の剣聖が僅かにその口角を上げる。
彼等の言う事がまるで判っているかの様に……。
「そうよっ! 私と勇君の心の繋がりは誰にも壊せないんだからっ!!」
「そうね……それは茶奈にだって同じ事!!」
「無論の事!」
今までずっと、彼等は戦ってきた。
互いを信じ、認め合い、触れ合い、寄り添って生きて来た。
それは彼等にとって何事にも捨て難い大切な思い出。
「こうやって心の力を皆がくれる……茶奈も繋がった心で分かってくれた……俺達にあるこの可能性が、貴様の策略を超えたんだ!! もう俺達はそんな魔剣じゃ止められないぞ!!」
勇の声が、勇達の叫びが、宮殿内に響き渡りそれが全て獅堂へ向けられる。
その全てが気に入らない獅堂は怒り……そして焦っていた。
「クソッ!! こんな……こんな筈じゃ……どこで狂ったんだ僕の計画は……あんなクソザコ共に邪魔されるなんて有り得ない……有り得ない!!」
「そんな汚ねぇ言葉ばっか連ねる様な腐った奴が判る訳ねぇっての!」
獅堂の焦りから出る声に反応し、心輝が獅堂に対して憎まれ口を叩き彼の心を煽る。
それに釣られた様に獅堂が激しく歪ませた形相を見せつけ、それを見た心輝が怯み首を引かせた。
「はぁ……!? うるせぇよクソザコ共が!! おい、剣聖!! 奴らをとっととブッ殺せ!!」
焦りからか、獅堂が今までに見ない興奮した様で怒鳴り散らす。
だが途端、剣聖の体から威圧感を伴った気迫が漏れ始め……鈍く輝かせた目を見下ろす様に獅堂へと向けた。
「あぁ? 何言ってんだおめぇは!?」
「へっ?」
獅堂を威嚇する様にその眼光を彼に向け、凄まじい命力の胎動を見せつける。
虚ろな目のままではあるが……その意思はなお強者のまま。
「確かに俺ぁおめえの気持ちに同調してここまで来たがよ……おめぇの手下になったつもりはねぇぞ……!?」
「す、すいません……」
剣聖の圧倒的な気迫に気圧され、獅堂がつい頭を下げる。
操られていようがなんだろうが、スタンスは変わらない……操られた当初から、彼はただ自分が思うままに動いていたに過ぎなかった。
しかしそのやりとりが逆に獅堂の煮え滾った怒りを静ませ、冷静さを取り戻させた。
―――ク……クソォ……剣聖は役に立たない……
熊と女だけでは心元ない……
どうすればいい……どうすれば……!!―――
獅堂が思考を巡らせる中……勇が体力と命力を僅かに取り戻し、瀬玲の肩から自身の腕を退けて自身の足で立つ。
仲間達共に、見開いた青と茶の瞳を獅堂の一身に向け……募りに募った想いを乗せた叫びを解き放った。
「もう止めるんだ……お前の目的は達せない!! 剣聖さんも自分の意思では動かせない、アージさんやレンネィさんだけなら俺達でもまだ何とかなる!!」
「藤咲勇ゥ……!!」
「お前の負けは見えた……潔く諦めろ!! じゃないともう俺は……お前をどうしてしまうか……わからないッ!!」
エウリィは復讐をきっと望まない。
彼女はなお心を忘れない様にと言うだろう。
だから勇は望む……獅堂が敗北を受け入れる事を。
それが成されない場合……彼は怒りを奮うしかないのだから。
感情を乗せた言葉は曖昧……だが、その結末は誰にも想像出来るだろう。
だがその言葉は獅堂の心には届かない。
項垂れる様に頭を垂れながらも……彼はなおも思考を巡らせていた。
―――そうだ……僕の切り札……まだあるじゃないか……ヒヒッ!!―――
突然何かを閃き……その顔が勢い良く持ち上がる。
その時見せつけたのは、最初の時の様な余裕な笑顔だった。
「……ハハッ!! 諦めろだって……? ふざけないでくれよ……僕が負けた……? 冗談キツイなぁ全く……僕はまだ負けちゃいない……」
「何ッ!?」
負け惜しみの様にも聞こえる言い回しであったが……余裕のある笑みが今までの出来事から油断出来ない事を勇に悟らせる。
まだ何か奥の手を隠している……そう思わせる様に、その笑みは高く口角を上げていた。
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