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第十三節「想い遠く 心の信 彼方へ放て」

~滅裂なる変貌~

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 勇が獅堂の策略に嵌り、苦戦を強いられている頃……心輝達は僅かに残った雑兵を退けながら里の広場へと辿り着いていた。
 彼等の前に突然現れたのは、大空が見える大広場……そして遠くに見える人工建造物。
 如何にも幻想的といった光景に驚きを隠せない。

「うっほお……すっげぇなこれ、全部カラクラが作ったのかよぉ……!?」
「ハァ……ハァ……アルライの里も……びっくりしたけど……ここもかなり凄いわね……」

 息を上げる瀬玲……命力切れではなく、ただの体力切れ。
 彼女だけでなく、ここまで全力で走り込んできた3人共が息を荒げており……呼吸を整える為に広場で立ち止まっていた。

 すると……そんな彼等の目に、項垂れて座るジョゾウの姿が映る。
 意識を取り戻しているが、まだ意識が朦朧としているのだろう……頭を抱え、調子は芳しくない様だ。

 当然彼が勇の知り合いである事など心輝達は知らない。
 厳密に言えば……知ってはいるが、魔者の顔など判別が付かない彼等が目の前のカラクラ族をジョゾウだと認識出来る訳も無く。

「ここでも戦いの跡が……半端ねぇな先行組」
「すぱっと行っちゃおうよ!!」

 少しづつ息を整えた3人はあずーの掛け声の元、宮殿へと足を運ぼうと一歩を踏み出す。
 だが突然、座り込んでいたジョゾウが立ち上がり……彼等の行く道を阻む様にゆるりと体を動かし、彼等を睨みつけた。

「……この先へは……通す訳にはいかぬ……!!」

 ジョゾウがヨレヨレになりながら手放さなかった魔剣を構え、心輝達を睨み続ける。
 小さな眼が今にも閉じそうな程に瞼を細めるが……闘志だけは失われてはいない。

「くっそ……勇達のとこまで後ちょっとかもしれねぇってのに……!!」

 その時……心輝の口から発せられた「勇」という言葉にジョゾウが反応する。
 その背丈や姿格好から予想出来る年齢層……ジョゾウはそこでようやく彼等が勇やちゃなと同じだという事に気が付いた。

「ぬ……童等わっぱらもしや勇殿の知り合いか……?」

 ジョゾウの一言により……心輝達も、彼が勇より聞いていたジョゾウ達だという事に気付く。

「も、もしかしてジョゾウさんかその仲間の方……?」
「左様……拙僧がジョゾウに御座る」

 その言葉を聞くや否や、心輝達は「ふぅ」と安心から出た溜息を漏らす。
 各々が持つ魔剣を降ろし警戒を解く様を見せると、彼等の無防備な様を前にジョゾウがあんぐりと口を開けていた。
 彼等の態度は言うなれば『並々ならぬ御人好し・・・・・・・・・』。
 まさにそれは勇と同じだったのだから。

「敵を前にしてのその妙な落ち着き様……勇殿の御友人である事に間違いは無さそうであろうな……」
「おうよ、勇の親友にして隣を預かる園部心輝様とは俺の事よ!!」
「アンタ隣に立てた事すら無いでしょ……。 私は瀬玲と言います」
「私は亜月、あずーって呼んでね~!」
「うぬ、シンキ殿にセリ殿にあずう殿であるな、承知した。 拙僧はジョゾウ、カラクラが王親衛隊にして……」

 ジョゾウが心輝達に改めて口上を述べようとしていた最中、彼の裏でゴソリと砂を擦る音が小さく響く。
 それに気付き、ジョゾウが思わずボウジ達の倒れるオブジェの下へと視線を移した。 

「ムッ、皆も目を覚ましたか?」

 彼が振り向く先に見えるのは、ゆっくりと体を起こし始めるボウジの姿。

「おお、ボウジ!!」

 剣聖の発した重圧で心を押し潰されて気絶した3人と異なり、ボウジは強いショックで気を失っただけ。
 頭痛こそ誘発しているが……意識を取り戻すまでは早かった様だ。

「ぬう……ジョゾウか……面目無い……」
「それは拙僧とて同じ事……気に病むなボウジよ」
「ユウ殿はもう行かれたのであろうか……?」

 ふらつきながら立ち上がるボウジの側へジョゾウが駆け寄り、その胸を受ける。
 ボウジはジョゾウの腕を支えに足元をしっかり踏みしめ、ようやく地に足を付けたのだった。

 そんな二人を瀬玲がにんまりとした笑顔を浮かべて見つめていた。

「男同士の友情よねぇ……こういうのグっとくるわ」
「なにぃ!? じゃあ俺と勇の熱い友情を見たら気絶するわ、全身の体液噴出して悶絶するわ」
「は……? 何言ってんのアンタ……」

 妙な対抗心を燃やす心輝に瀬玲が冷たい目線を送る。
 瀬玲は決して疚しい目で見ていた訳ではないが……どうやら心輝には彼女の言葉が『腐』的な意味合いに聞こえていた様だ。
 そんな二人の噛み合っていない会話を前にあずーが笑い、戦いの真っただ中とは思えぬ和気藹々とした雰囲気を醸していた。

 ボウジに肩を貸すジョゾウも、彼等の様を前に朗らかな笑いを浮かべる。



 だがその時……ボウジの手がギリリと強烈なまでの強い力で握り締められ、腕を掴まれていたジョゾウが顔を不意に歪ませた。



「ぬあっ!?」

 ジョゾウがボウジの顔を覗き込むと……そこに映るのは、憎しみと足り得る歪な表情。
 今まで見せた事も無い様な表情を作るボウジを前に、ジョゾウが驚き慄く。

「どうしたかボウジ!!」
「侵入者は仕留めねばならぬ!! 如何な理由があろうと!!」

 ボウジは突然の事に戸惑うジョゾウを跳ね退け、怒号にも近い荒声を上げながら手に持った筒砲型魔剣オウフホジを心輝達へと向け構えた。
 心輝達が脅える中……彼の持つ魔剣の先端に線上の光が集約していく。

「ならぬボウジよ!!」



ガッ!!



 光を放とうとした瞬間、ジョゾウが間髪入れず飛び掛かり、力を集めた魔剣を叩き落した。
 たちまち床へと落ちた魔剣は大きな金鳴音を掻き鳴らしながら床を転がっていく。
 だがそれでも止まる事無く飛び掛かろうとするボウジをジョゾウが制止し、勢いのままに二人の体が床へと転がり始めた。

 ボウジが抵抗し暴れる中、ジョゾウが必死に彼の両腕を掴んで抑え付ける。
 暴れる彼の瞳はどこか濁った様な色を纏っているが……その場に居る誰しもがその事に気付いてはいない。

「どけぃジョゾウ!! 血迷ったかッ!?」
「血迷ったのは其方であろう!? 一体どうしたというのだボウジィ!!」
「もはや問答無用なればジョゾウとて容赦はせぬぅ!!」

 その様子はまるで……かつて戦ったロゴウと同じ。
 ジョゾウは脳裏でボウジの姿をロゴウと重ね、焦りを生む。

「其方は……其方までがッ……!!」
「オオオオッ!!」
 
 二人の取っ組み合いが始まりその様子を唖然と見守る心輝達。
 明らかな異様な光景を前に、もはや冗談の一言すら口に出す事など出来はしない。

 先行きの見えぬ状況下……不穏な空気が流れ、ジョゾウが、心輝達が……戸惑いの渦へと飲み込まれようとしていた。


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