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第十三節「想い遠く 心の信 彼方へ放て」

~その底知れぬ力~

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 5人がその先を見据え足を踏み出した時、彼等を制止する声が木霊した。

「ジョゾウさん……」
「勇殿……この様な日が来る事を恐れてはおったが……こうも現実とも成れば覚悟も必要であろう……」

 ジョゾウはそう呟くと……王より賜った短刀型の魔剣を構える。
 そしてそれに続き……ジョゾウの背後に立つボウジも、かつてロゴウが持っていた魔剣オウフホジを構えていた。

「待ってくれジョゾウさん!! ボウジさんや他の皆も……!! 俺は皆とは戦いたくない……一度は背中を預けた仲間を俺は……傷つけたくないんだ……!!」
「ぬう……勇殿……言ってくれるな……これが運命なれば受け入れねばならぬ」
「そんなのは受け入れちゃだめだ……貴方達は……ロゴウの二の舞にされそうになっているんだぞ!!」

 その言葉にジョゾウの心が静かに揺れ動く。
 かつて師事したロゴウという存在の変貌への疑念……それはジョゾウのみならずボウジや他の3人とて同じであったのだ。

 だがそんな彼等も、それ以上にその場を守らねばならないという使命に阻まれその構えを解くには至らなかった。

「……例え事情が有ろうと……其れが我が使命とあらば……我ら親衛隊、命を以って主殿をお守りするのみ……!!」
「また誇りとか使命とかっ……!! なんで自分の意思で行動しようとしないんだよッ!!」
「……いざッ!!」

 二人が苦渋の顔をしかめつつ一歩を踏み出す。
 すると突然……二人の真横に突風の様な何かが通り過ぎ、その一瞬でボウジの体が背後にあった岩のオブジェへ叩きつけられた。



ドッゴオオオ!!



「カ……ハッ……!?」
「えっ……?」
「なっ……!?」

 誰もが見向きすら出来ぬ状況を生み出す力の持ち主……剣聖。
 強く打ち付けた余り岩のオブジェの表皮が砕け、ボウジの体がめり込む。
 剣聖は彼の首を掴み、なおオブジェへとグリグリと押し付けていた。

 当のボウジは既に意識は無く、だらりと力無く腕をぶら下げて白目を剥いていた。

「け、剣聖さんッ!! 待ってください、ボウジさんが死んでしまう!!」

 慌てて勇は剣聖を制止する為に声を張り上げる。
 剣聖がそう声を上げた勇へチラリと視線を向けると……手に込めた力を緩ませた。
 その拍子にボウジの体が剣聖の手から抜ける様に床へとずり落ちていく。
 べしゃりと床へ倒れたボウジに構う事無く……剣聖が気難しい顔を勇達に向けた。

「おめぇ相変わらず甘ちゃんだなぁ……こいつらは敵だぞぉ……? 敵をぶっ倒しに来たんじゃねぇのかよぉおめぇは……」
「俺は獅堂を止めに来たんですよ剣聖さん!! カラクラの皆を皆殺しに来たんじゃない……!!」
「おめぇがどう思おうと勝手だがぁよ……要はこいつらの意思の方が問題なんだぁよ……なぁ、クソザコ共……?」
「ぬ、ぬう……!!」

 途端、剣聖の周囲を漂う命力の靄が彼等を威嚇する様にその規模を広げていく。
 鬼気迫る気迫を伴った殺意にも等しい気配を周囲にばら撒き始めた。

「お、おのれぃ……!!」

 ドウベが剣聖へと向けて足をピクリと動かそうとした瞬間、ジョゾウの声が周囲に響く。

「な、ならん!! 彼奴はかの剣聖……手を出す事はまかりならんぞ!!」

 噂に違わぬ力を見せつける剣聖を前に、ジョゾウは仲間達を制止し攻撃する事を阻む。
 手を出せば間違いなく殺される……圧倒的な力を前に、ジョゾウ達は成す術も無い事を悟ってしまっていた。

 ジョゾウ達は親衛隊を名乗ってはいるものの、本来雑兵よりもほんの少し強いだけであり……それを彼等は熟知している。
 自分達が束になって掛かろうと剣聖という男には敵う筈も無いという事は、少し考えれば理解出来る事であった。

 たちまち地響きの様な威圧感と重圧が周囲の彼等を取り巻き、ジョゾウ達だけではなく勇達にもその影響が及ぶ。

「うぅ……こ、これが剣聖さんの……敵意……!?」
「い、息苦しい……」

 そんな中、先ほど剣聖を威嚇していたアージですらもその口を微かに震わせていた。

「……甘かった……あの男の底知れぬ力がこれ程とは……俺など到底……敵うまい……」

 豪傑であるアージですら剣聖の気迫を前に恐れ戦く……彼のすぐ側に居るジョゾウ達はその様な気に当てられ意識を保つのが精一杯となっていた。

「う……うう……なんたる気迫か……!!」

 すると……気迫に当てられ続けたドウベ、ロンボウ、ムベイがとうとう意識を朦朧とさせ……そして次々に気を失い倒れていく。
 ジョゾウもとうとう膝を突き、意識を保つのがやっとの状態だ。
 彼等が既に戦闘不能に陥った事を悟った剣聖は突然気迫を抑え込んだ。

 全てが収まった時……勇達は息を荒げさせ、漏れなく全身から汗を滲ませていた。
 それ程までに……強力な重圧であった。

「この程度で膝を突く奴なんぞ俺の前に立つ資格なんかありゃねぇよぉ……」

 剣聖はそう呟くと、一人建造物に続く階段の方へとゆっくり歩き始める。
 そんな彼の背中を目で追いながらも……勇は素早くジョゾウの元へと駆け寄った。

「ジョゾウさん、大丈夫ですかっ!?」

 敵として対峙した筈のジョゾウを心配し勇が声を上げる。
 既に戦意を喪失していたジョゾウはその心配を胸ゆっくり語り始めた。

「……無事に御座る。 勇殿……拙僧はただ、己の信じる道を進みたいだけなのだ……」
「ジョゾウさん……」
「勇殿、先程の貴殿の問いに答えよう……拙僧等だけではなく……この里の全ての者が拙僧と同じ気持ちであろう」
「えっ……」
「仲間と共に生きる……それは時に自分の意思や我儘を超えて守らねばならぬ事なのだ……例え己が血の涙を流そうとも……」
「仲間と共に生きる為に……」
「左様……己の意思のみに従って生きるのは獣でも出来ようぞ……我等は寄り添って生きる事を基とするが故に、共に生きる事が大事なのだ……」

 ジョゾウがそう語ると、地を突いていた右手を持ち上げ勇の体を押す。

「行かれよ……勇殿の成すべき事の為に……」

 勇は自身の体を押すジョゾウの右腕にそっと左手を充て、ジョゾウの虚ろな瞳を見つめた。

「……ありがとうジョゾウさん……俺は貴方やロゴウが目指そうとした泰平の世って奴の為に……獅堂を倒すよ」
「……ありがたし……」

 そう呟くとジョゾウは朦朧とした意識を失い、その場にぺたりと座り込む様に昏倒した。

 彼のその姿を見届けると、勇はそっと立ち上がり建造物を睨む。

「……獅堂……!!」

 彼とジョゾウのやり取りを見ていたちゃな達も……勇が立ち上がると共に、先を進む剣聖の後を追う様に歩き始める。
 そして勇もまた彼等の後に続き……5人は揃い建造物に居るであろう獅堂の元へ向かい歩を進めていた。





 一方その頃……アルライの里へと準備の為に向かっていた心輝達もまたヘリコプターに乗り、カラクラの里の間近へと辿り着いていた。

「間も無く予定地点です……皆さんは飛び降りれるかな?」
「いや、どう考えても無理でしょ?」
「そうだよね……キャンプ地に一旦向かい、そこから現地へ向かってもらう事になるからよろしくね」
「りょーかい!」

 魔剣を持ち始めて間も無い彼等が身体強化のすべを身に着けている訳もなく……勇達の様に飛び降りられる筈も無い。

「しっかし……俺達にしか出来ないなんて言い方してたのに……やらせるのが魔剣運搬って何だよ……」

 心輝がしかめっ面で袋に包まれた物を抱えてぶつくさと呟く。
 そんな心輝を苦笑いしながら御味が頭を掻きながら答えた。

「ごめんなぁ……私達がもっとしっかりしてれば、カプロ君の機嫌を取り持つ事が出来たんだけど……」

 魔剣を奪われたという事実もあり、カプロはその事実を知ってから頑なに政府への魔剣譲渡を拒否していた。
 その為心輝達がその運搬及び道中の搬送に指定されたという訳である。

「これ待って作戦開始しても良かったんじゃねぇの?」
「馬鹿……アンタ勇の気持ちも考えなさいよ……」
「全くお兄は空気読めないよねぇ……」
「お前にだけは言われたくは無いわ」

 彼等の乗るヘリコプターが福留達の居る待機地点に到達すると、轟音を立てながらゆっくりと地面へと降りていく。
 機体が地面をノックしその体を揺らすと、まるでそれが合図の様に心輝達が扉を開けて勢いよく飛び出した。

「皆、勇君達を頼んだよ!」
「おうよ!!」

 出遅れた彼等は勇達に追いつく為に、僅かに新緑が目立つ林の中を駆け抜けていった。

「おぉ!! 追いついてやんよ……元陸上部の脚力を舐めんじゃねぇ!!」
「短距離専門なんだからバテちゃうよ~?」
「私弓道部なんだけど!?」

 彼等は駆ける。
 その腕に携えた一本の魔剣を持って勇達との合流を果たす為に……。

 林を潜り抜けカラクラの里が見え始めた頃……勇達はとうとう獅堂との対面を果たそうとしていた。


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