上 下
410 / 1,197
第十三節「想い遠く 心の信 彼方へ放て」

~カラクラの戦士達~

しおりを挟む
 山間ともあり、勇達が坂を上る様に進む。
 木々の合間から見えるカラクラの里を目指し、その一歩一歩を確実に踏み進めていく。

 すると……遂に木々が開けた場所へと到達する。
 そこに聳えるのはカラクラの里……岩肌をくり抜いて造られた人工的な構造が特徴的な彼等の住処である。

 勇達がカラクラの里へと辿り着くや否や……多くの雑兵が立ち塞がった。

 退屈そうに欠伸を上げる剣聖を他所に、他の4人が雑兵達と相まみえる。
 先陣を切ったのはアージであった。

「けえい!! 雑魚共がぁ!! 我等が前に立ち塞がる事の愚かさを知れェ!!」

 大きな斧を振り翳し、その大きな巨体とは思えぬ速さで敵陣へと突っ込んでいく。

 圧倒的な破壊力を前に成す術も無く宙を舞う前線の兵達。
 鬼人が如し形相で迫り来る彼に、後続の雑兵達が怯み脅える様を見せていた。

 それもそうであろう……彼こそは白の兄弟のアージ。
 人間からも魔者からも恐れられし魔剣の狩人。

「さ、さすがアージさん……強すぎる……」
「うおっほっほ……あいつ面白れぇなぁ……後で戦ってみてぇ……へへっ!」
「止めてくださいよ剣聖さん……彼は仲間なんですよ……?」

 するとアージが体を一回転させ、周囲の雑兵を吹き飛ばすと同時に声を張り上げた。

「噂の剣聖との戦い……俺も興味があるぞッ!!」
「カッカッ!! ガキが言うじゃねぇか!!」

 剣聖が笑い、アージが剣聖を睨みつける。
 そんなアージの背後から雑兵二人が不意に飛び込んできた。

「ア、アージさんッ!?」

 その時……突然突風が吹き荒れ、瞬く間に二人の雑兵が幾重にも切り刻まれ地面に落ちていく。
 その突風の吹き抜けた先にはレンネィの姿があった。

「ほう……出来る!」
「当然よ……風に舞いらる『死の踊り』レンネィ……酔狂でこの様な姿をしているの訳では無いのよ?」

 まるで風を纏ったかの様に素早い動きで里の坂を、壁を駆け登っては舞い降り雑兵達を切り刻んでいく。
 その姿や竜巻が如し……飾られた服がその竜巻を彩り、そして荒ぶる姿をより激しく際立たせていた。

「行きましょう、レンネィさんの後を」

 4人はレンネィが切り開く道を進み続けた。
 時には勇が、時にはアージが……お互いが助け合い、ちゃなが時々彼等を援護しながら彼等の行く道を開き続けた。
 そして背後からの攻撃は最後尾を歩く剣聖の鬼がかった気迫の背中が遮り、同時に雑兵達の攻撃意欲を削ぐ。

「いい加減にしろっ!! お前らが向かってきて何になるんだ!!」
「問答無用!! クゥアッ!!」
「クッソオ!!」

 勇の説得にも応じる事なく雑兵達が次々に襲い掛かり、それを勇達が撃退していく……。
 勇達の声は彼等の耳には届かないのだろうか……そう思えすらする。

 ジョゾウ達への恩もあるが故……勇は襲い来る雑兵達に手心を加えながら突き進む。
 レンネィや剣聖はそんな優しさを見せる事は無かったが、アージもまた勇と同様に加減して致命傷を避けていた。

 勇達が協力し合いながら岩山をくり抜いて出来た道を進んでいくと……うねって造られていた道は次第に緩やかなカーブを持った道へと変化していく。
 登山道の様に勾配のある緩やかなカーブの道を進んでいくと……徐々に道が広がり、開けた広場へと形を変えた。
 広場までに進むにつれ雑兵の数も減っており、彼等の守るべきその広場の先こそが非戦闘区域……彼等の居住区であるという事を予感させた。
 それを物語る様に広場の先には彼等の家と思われる場所が見える。
 岩穴の前に暖簾のれんの様な布が掛かり、それが幾つも横並びに連なっていた。
 そこを守るのが雑兵達の最大の目的。
 生活圏を守り、大事な者達を守る……彼等が必死になるのも当然の事なのだ。

 広場へ辿り着いた勇達の視線に映ったのは、その広場の先にある大きな建造物。

「あれは……!!」

 白い岩肌と同じ色を持ちながら、滑らかな円形を持った屋根部。
 それを支えるのは低い壁と、たくさん並ぶ大きな柱。
 段の低い階段が長く連ねた先にあるその建造物は、明らかに周囲の岩屋と比べても違和感を感じさせる程に人工的に建造された建物であった。

「あそこに獅堂が……居るのか……!!」

 勇達がその先を見据え足を踏み出した途端、彼等を制止する声が木霊する。

「待たれよ!! それ以上先に行く事はまかりならん!!」

 その声の発せられた先……広場中央にある岩のオブジェの裏から現れたのは5人のカラクラ族……ジョゾウ達、親衛隊であった。


しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

【完結】失いかけた君にもう一度

暮田呉子
恋愛
偶然、振り払った手が婚約者の頬に当たってしまった。 叩くつもりはなかった。 しかし、謝ろうとした矢先、彼女は全てを捨てていなくなってしまった──。

悪役令嬢にざまぁされた王子のその後

柚木崎 史乃
ファンタジー
王子アルフレッドは、婚約者である侯爵令嬢レティシアに窃盗の濡れ衣を着せ陥れようとした罪で父王から廃嫡を言い渡され、国外に追放された。 その後、炭鉱の町で鉱夫として働くアルフレッドは反省するどころかレティシアや彼女の味方をした弟への恨みを募らせていく。 そんなある日、アルフレッドは行く当てのない訳ありの少女マリエルを拾う。 マリエルを養子として迎え、共に生活するうちにアルフレッドはやがて自身の過去の過ちを猛省するようになり改心していった。 人生がいい方向に変わったように見えたが……平穏な生活は長く続かず、事態は思わぬ方向へ動き出したのだった。

お爺様の贈り物

豆狸
ファンタジー
お爺様、素晴らしい贈り物を本当にありがとうございました。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……

karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。

〈完結〉妹に婚約者を獲られた私は実家に居ても何なので、帝都でドレスを作ります。

江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」テンダー・ウッドマンズ伯爵令嬢は両親から婚約者を妹に渡せ、と言われる。 了承した彼女は帝都でドレスメーカーの独立工房をやっている叔母のもとに行くことにする。 テンダーがあっさりと了承し、家を離れるのには理由があった。 それは三つ下の妹が生まれて以来の両親の扱いの差だった。 やがてテンダーは叔母のもとで服飾を学び、ついには? 100話まではヒロインのテンダー視点、幕間と101話以降は俯瞰視点となります。 200話で完結しました。 今回はあとがきは無しです。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

どうも、死んだはずの悪役令嬢です。

西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。 皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。 アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。 「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」 こっそり呟いた瞬間、 《願いを聞き届けてあげるよ!》 何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。 「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」 義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。 今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで… ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。 はたしてアシュレイは元に戻れるのか? 剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。 ざまあが書きたかった。それだけです。

処理中です...