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第十三節「想い遠く 心の信 彼方へ放て」

~激動のプロローグ~

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 東京のとある海沿いの街……雲の無い晴天が広がり日の光が周囲を照らす。

 勇達がナイーヴァ族と激闘を繰り広げている頃……とある研究機関施設……。
 その奥深くにある研究室には、以前福留がカプロから譲ってもらった魔剣が配線を通して機器に繋がれ専用の台座に安置されていた。

「……ここで現在想定しうるあらゆる方法を用いて魔剣の特性を調査中です。 あれが例の……」

 研究員の一人がガラス製の窓越しに見える魔剣を指差し、誰か・・にその説明を静かに語る。

「えっ……魔剣をですか……? しかしそれでは……」

 研究員が戸惑う。
 指差していた魔剣へ不安を纏う眼差しを向けながら。

「……仕方ありませんね……貴方の言う事であれば問題無いでしょう」

 その言葉を皮切りに、研究員が魔剣のあるガラス張りの空間へ繋がる暗証番号付きの扉を開き、中へと入っていく。

 彼の目の映るのは……台座に置かれて絶縁テープで配線端子を貼り付けた、まさに研究対象として扱われる魔剣の姿。

 すると研究員は何を思ったのか……おもむろに魔剣を手に取り、付いた配線類を引き千切る様に粗雑に剥がした。
 部屋の外で観測していたであろう研究員達がその姿を追う様にと見つめる中……彼は部屋から出て行き、先程の人物へと魔剣を手渡す。

「それでは、大事に扱ってください。 これからその魔剣で実験を行う予定ですので」
「ありがとう、それじゃあ僕は行きますよ。 では……」

 魔剣を受け取った男はそのまま踵を返すと、堂々とした足取りで研究室の外へ歩み出した。



 彼の視線にあるのは扉、そして壁に取り付けられたカードリーダー。
 カードキーロックと思われる重厚な造りの扉を、丁寧にカードを通して開き歩いて出ていく。

 扉を抜けると……その視線は自然と、受け取った魔剣へ。
 荒々しく打たれたであろう金属の表皮は細かい隆起が見られ、かつ磨き上げられた滑らかな角部が鈍い輝きを放たせていた。

 そんな金属の塊とも言える魔剣をまじまじと見つめ、男が「フフッ」と笑みを零す。

「随分粗雑な作りじゃあないか……まぁ無いよりはマシだよね」

 チラリと薄く白い歯を覗かせる不敵な笑みは、どこか危なげな香りすら感じさせる雰囲気を纏っていた。

 研究所の入り口の扉が開き、男が外気を感じさせる日の下へと姿を晒す。
 日の光が彼を照らし、眩しい輝きを遮る様に手で顔を覆うと……男の顔に影を作り、その輪郭が露わとなった。

 獅堂しどう 雄英ゆうえい……カラクラの里の王として君臨せし人間であり、『こちら側』の人間でもある男。

 獅堂は手に持ったカードキーを投げ捨てると、道端に転がりその表紙が上に向く。
 そこには「井上 真司」という名前と、その人物の顔であろう写真が刻印されてあった。

「さて、帰るとするか。 彼等は……へぇ、なかなか面白い事になってるじゃあないか……」

 彼には何かが見えているのだろうか……。

 獅堂はそう呟きながら研究所の入退場ゲートを何も無かったかの様に通り抜けると、外に付けてあった外車の後部座席へと乗り込む。
 間も無くその外車は発進し、無数の車が走る街中へとその姿を消したのだった。



――――――



 あれから……ナイーヴァとの戦いから6日間が過ぎた。
 再び週末が訪れ、朝であっても登校する生徒や出勤する大人達はどこか嬉しそうな雰囲気を作る。
 普段よりも登校する生徒の数が少ない年度末の朝。
 それもそうであろう……既に時期は3月初頭、間もなく春休みが訪れ3学期が終わる。
 3年生は既に進学や就職に向けた準備で登校しなくなる時期である。
 2年生である勇達も、一ヵ月後には進級を果たす……勇もどうやら瀬玲のサポートが功を実り、何とか進級は出来そうだった。

「はぁ~参ったぜほんと……」

 心輝が溜息を吐きながら歩く姿に、勇達は横目で眺めながら並んで歩く。

「『穏やかの森 慟哭編』がまさか買えないとは……くそぉ……発売寸前PV汚ねぇよぉ……」

 『穏やかの森 慟哭編』とは、心輝が密かに楽しみにしていた先日発売のゲームタイトルだ。
 ひっそりとした森に主人公が迷い込み、そこで生活をしながら森を開拓するゲームのシリーズ続編である。
 穏やかなのに慟哭……その名が示す『クソゲー感』から、心輝はきっと売れ残るから心配ないと踏み予約していなかった様だ。

「なんで予約しなかったのよ……」
「だってよぉ、ほら最近魔剣のトレーニングで忙しかったしよぉ!! ひでぇよアージさん、課題とかマジ止めてくれよ……毎日やる事やれねぇよ!!」

 勇が「ハハハ」と笑い受け流す。
 それは嘲笑では無く、関心の笑い。



―――でもしっかりちゃんとこなしてるんだな……―――



 先週の戦いの折、心輝達は自分達が全く役に立っていなかった事を気にしていた。
 勇にとっては気絶したちゃなを守ってくれただけでも有り難かったが、本人達は納得しなかった様で。
 そして気絶してしまったちゃな本人もまた―――

「勇さん……鞄持ちますっ!」
「ちょ、え? いいって……」
「だ、ダメです、私は勇さんの役に立ちたいんです!」
「私も役に立つー!!」
「うおあ、ちょっ、あずー!?」

 突然二人が協力し始め、お互いが命力を込めた腕で勇の体を持ち上げると、エッサホイサと掛け声を上げながら暴れる勇を運んで行った。
 担ぎ去っていく彼女達を遠目に、心輝と瀬玲が微笑みを向けて見つめていた。

「空回りしてるねぇ……」
「田中ちゃん相当気にしてたしなぁ……俺らも苦労させられたもんなぁ……」

 空気の読めない言葉を発する心輝に、瀬玲が横目で睨みつける。

「……穏やかの森……」
「くぁー!! なんでだよォもぉー!!」

 突然瀬玲がぼそりとそう呟くと、心輝が再び頭を抱え始めた。
 それ程までに……彼にとってそのゲームのウェイトは大きかったのだろう。

 だが何よりも、恐るべきはそれを容易に操る瀬玲か。

 彼女は不機嫌そうな顔を浮かべながら、頭を抱えて蹲る心輝を置いて校門へと歩き去っていったのだった。



 いつも通りの風景、いつも通りの情景……その日はいつもとなんら変わらない。

 皆、そう願っていた・・・・・……。


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