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第十二節「折れた翼 友の想い 希望の片翼」

~友よ、君は何故傷付く~

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「勇、アンタはそれでいいかもしれない。けど、その気持ちは私達だって一緒なのよ?」

 心輝達が魔剣を持つ事に否定的な勇。
 それを他でもないあの瀬玲が釘を刺す。

 今までわかっていても深く口を出す事の無かった彼女が。

「これは前も言ったと思うけど。いきなり飛び出してさ、戦いに行って、ずっと戻って来なくて。アンタは当事者だから別に気にしないかもしれない。けど、それを待ってる私達はずっと気が気でないの」

「えっ……」

「今回だってそう。戦いに行くって出てったっきり、ずっと連絡も無くて。気付いたら京都に居るって。それって変じゃない! 守るとか勝手に言ってるだけで、待ってる人の気持ちなんてまるでわかっちゃいないのよ。それじゃまるで……まるで自分勝手よ!」

「俺が、自分勝手……?」

 きっとこれまでもずっと言いたかったのかもしれない。
 勇が独りよがり過ぎるという事を。
 何もかも自分で背負い込んで、全部やれた気になっているという事が。

 だけどそれは本当に勇の思い込みでしか無かった。
 瀬玲を心配させているという時点でもう。

 瀬玲だけじゃない、心輝やあずーだって心配している。
 ちゃんと生きて帰って来て欲しい、早く会いたいのだと。
 だから今こうして自腹でアルライの里にまでやって来たのだ。

 いつも勝手にどこかへ行ってしまうから、危なっかしくてならなくて。

「だったら、私達だってアンタの背中を守りたい。一緒に戦って、一緒に守り合った方がずっと気が楽よ。その方が生存率だって上がるでしょ?」

「だけど――」

「そうだぜ。俺だって別に遊びで戦いたいなんて思ってる訳じゃねー。だってお前がいつもボロッボロになって帰って来てんの知ってんだぜ? 今回だってそうじゃん。その左足、何なんだよ」

「こ、これは別に傷とかじゃなくて……」

「一緒だろ? だったら俺らが居た方がまだ負担が減ったかも知んねぇ。確かに、俺らが役立つかどうかなんてまだわかんねぇけどよ」

「あちしもおなじー! 勇君に守られるより守りたいっ!」

 確かに心輝の言う通り、魔剣を持ったからと言って役に立つとは限らない。
 先日の【グリュダン】の様な相手と戦えば、それこそ一網打尽だっただろう。

 しかし、それは勇やちゃなだけだったとしても事実は変わらない。

 なら選択肢を誤らなければいいのだ。
 その上で皆が死角を補い合って戦えば、それこそ生存率が大幅に上がる。
 皆でノルマを分け合えば大群とだって渡り合えるかもしれない。

 心輝も瀬玲もあずーも、その数に入りたいのだ。
 ただ遠くから見守ってるだけなんて嫌なのだと。

「勇は保護者じゃないんだよ。私達は友達でさ、仲間のつもりなんだよ?」

「ついでに言や、俺らはお前のペットでもねぇ。ただ守られっぱなしなんて冗談じゃねぇよ」

「どちらかというと守ってあげたい人っ!!」

 そんな強い願いが、勇を堪らず押し黙らせる。
 返す言葉も無くて、余りにも思い知らされて。

 自分が知らず内にどれだけ彼等を蔑ろしていたのか、と。

「勇さん、私も皆さんと同じ気持ちです。皆、勇さんの力になりたいんです。だって、勇さんはそれだけ一生懸命だから。一生懸命みんなの為に頑張ってるから、その助けになりたくて」

「ボクは渡してもいいと思うッスよ。だって勇さんとあんなに仲の良いシン達だもん。きっと力強い仲間になってくれるハズッス」

 ちゃなもきっと同じ想いで今日まで勇と一緒に戦ってきたのだろう。
 だから心輝達の気持ちもよくわかっていて、後押しさえ厭わない。

 カプロも勇の力になりたいから、これだけ魔剣を造ったのだ。
 心輝達もが戦いに加わればそれだけ有利になると知って。



 そんなちゃな達の想いが集まって勇の胸を突く。
 そして独りよがりの皮を裂いた。

 今まで気付けない程に覆い尽くしていた、厚い厚い心の皮を。



「……そうか、俺は勘違いしてたんだな。守りたいって、自分だけでやろうとして。だから守れなくて。剣聖さんが言ってた事って、もしかしたらこういう事なのかもしれない」
 
「勇さん……」

 それでようやく気付けたのだ。
 自分だけでは人を守る事なんてまだ叶わないのだと。
 更に仲間達を心配させてばかりでは、もはや戦い以前の問題なのだと。

 それで、その仲間達が支えてくれるというのなら。

 ならもう誰も心配する必要が無くなる。
 そして誰かを守れる可能性はずっと上がるかもしれない。

 自分はその足りない部分を補えばいい、と。

「皆の気持ち、よくわかったよ。なら、力を貸してくれないか? 俺はまだまだ沢山の人を助けたい、守りたいから……!」

「へへっ、任せろぉ!!」

「やっと素直になったのね。ほんと長かったわ」

「やったー! これで勇君を守るたいぎめーぶんが出来たー!!」

 きっと福留はいい顔をしないに違いない。
 でも、それでもいいのだ。
 勇達が望んで魔剣を手に取るのだから。

 それなら、そんな福留も巻き込んでしまえばいい。

 どうせカプロは福留相手には魔剣をおいそれと差し出しはしない。
 だけど勇達が扱うなら、使われる事を止めはしないだろう。
 認められた者だけが享受出来る特権として。

「だけど魔剣を持つからには相応に鍛えてもらうからな。中途半端なままで戦場には連れて行かないからそのつもりで頼むぞ」

「おうよ、やってやんよぉ!!」

「そこだけがちょっと不安なんだけどねー」

「セリちゃんスポコン苦手だもんね」

 ただこうなった以上、勇も加減するつもりは無い。
 自分の時はなし崩しに戦うしか無かったが、三人には鍛える時間があるので。
 なら次の戦いまでに意地でも一人前にしてやろう、と。

 故に、気合いの入った両拳が突き合わされる事に。
 たちまち響く肉音に、瀬玲やあずーは戦々恐々だ。

「大丈夫ですよ、私だって戦えてますし」

「「田中ちゃんさんは特別だから論外」」

「ええ~……」

 しかし心輝達も言い出した以上はやる気満々だ。
 こうして心輝と瀬玲がハモるくらいにはテンションが上がっている。

 なのでカプロももう言う事は無いらしい。
 「うぴぴ」と笑い、すっくと立ち上がっていて。

「じゃ、適当に魔剣見繕っていいッスよ。ボクはまた寝るんで」

「ああ。カプロ、お疲れ様」

 そんな毛玉を、皆がサイドサムズアップを向けながら見送る。
 本日一番の功労者を讃えて。

 だからか、カプロは振り向かないまでも――とても嬉しそうだった。
 




 こうして勇とちゃなに続き、心輝と瀬玲、あずーが魔剣使いとなる。
 日本の有する現代人の魔剣使いが五人となったのだ。

 ここに更にレンネィ、アージ、マヴォを加えて八人。
 もしかしたらこれは世界的に見てもかなりの戦力になるのかもしれない。
 
 だけど彼等はきっとそんな国の為に戦いはしないだろう。
 ただただ純粋と、守りたい者達の為に。

 誰かを傷付けるのでは無く。
 私利私欲の為でも無く。

 そして決して、独りよがりの為でさえも無く。


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