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第十一節「心拠りし所 平の願い その光の道標」

~面倒な事に巻き込まれたッス~

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 夜が訪れ、期も訪れる。
 エウリィの帰る時がもうやって来たのだ。
 勇達が買い物を終えて一刻ほどした時の事である。

 なので全員でお土産を車に押し込み、帰宅準備を整えて。
 それで今、とうとうお別れの時がやってきた。

 たった一日ほどの触れ合いだったけど。
 エウリィはそれでも充分に楽しめたから満足出来た事だろう。
 すっきりとした笑顔がそれを物語ってくれている。

「皆様、本日はとても楽しい思い出をありがとうございました。またお会い出来ることを楽しみにしております」

 でも、そうして頭を下げた顔には一瞬だけ寂しさが潜んでいて。
 それをふと察した勇やちゃなも思わず目尻が下がる。
 まだ一緒に居たいという想いがあったから。

 ただ、わがままを言う訳にはいかない。
 エウリィはまだ非公式の存在で、かつ国籍も無い。
 本来ならこの場に居てはいけない人物なのだから。

 だからこそ、今はもっと良い再会を願って別れを交わす。
 次会う時は、もっと自由に遊んで話して走り回れますようにと。

 そしてそれをエウリィもまた願っているのだろう。
 車発進の間際に見せた礼からは、そんな期待交えた微笑みが浮かんでいて。

 その期待に応えたいから、勇は最後まで手を振っていた。
 気持ちを途切れさせたくなかったから。
 出来るだけ長く叶えてあげたかったから。

 その〝次〟をいつか必ず叶えてみせようと心に誓いながら。










 エウリィは帰ったが、カプロはしばらく家に居る。
 新年の一月四日までは藤咲家へホームステイだ。
 頑ななフェノーダラ王国と違い、アルライの里は既に開かれたから。
 なので特別措置として既に臨時国籍も取得済みなのだとか。

 だから後は世論の問題だけ。
 完全に馴染むまではしばらく目立った外出が出来ないそうな。
 魔者が自由に歩く為にはまだまだ時間が多く掛かりそうだ。
 
 そんな話題に似たネタがニュースでも囁かれていて。
 政治家と共に歩くアルライ族の仲間を見て、カプロもなんだか嬉しそう。

「ウノベの奴、随分出世したもんスね。こないだまではボクとの剣術勝負でヒーヒー言ってたくせに」

「それ、なんか汚い戦法取ったんじゃないか? ウノベの体格、お前の倍あるじゃん」

「ウッ……そんな事はねーッス。ただ足元を狙って走り回ってやっただけッス」

 ウノベとはいつか勇達と文化交流を行った若者の一人。
 彼等は今ではアルライ代表者として色んな場所に出向いたりしている。
 先日付き添ったモロビもその一環で訪れたという訳だ。

 こうしてアルライ族は既に外交にまで手を進めていて。
 だから話もかなり進んでいるし、交渉もしっかり出来ている。
 会話が通じるだけでこの進歩なのだから相当に馴染めているのだろう。

 それ故に、言葉が大事だと改めて思わされてならない。
 フェノーダラ王国もこれくらい早く進んでくれれば申し分ないのだが。
 やはり命力を持つ者が少ないのは人間勢にとっての不幸と言えよう。

 ただ、これからはエウリィに期待したい所だ。
 今朝からの彼女は以前よりもずっと前向きだったから。
 もしかしたら王様の代わりに国を纏め、新王にでもなるかもしれない。

 固定概念に縛られない新しい国造りの為に。

 そう思うと勇の期待が膨らんで止まらない。
 早くアルライの里と同じくらいに進歩してくれたら、と。
 カプロとも仲良く出来たから、きっとそれも可能だろうって。

「でもウノベさん、東京に来たならここにも寄ってくれればいいのに」

「これだけ有名だとウチがバレちゃうって。それはさすがに不味い」

 でもここに、結論を急ぎ過ぎた子が一人。

 権利を得られたとはいえ、そう簡単に会いに行く事は叶わない。
 ウノベ達は言わば要人、政治家と同じ立場なのだから。
 仕事上では基本的に一般人と会う機会は無い。

 それに取材陣に張られる可能性もあるから尚の事。
 そういう事もあってモロビやウノベといったしっかり者の若者が選ばれたのだろう。
 彼等なら順応も早いし、落ち着きもあって話もわかるから。

 子供なカプロとは大違いである。
 もっとも、まだ子供である事にも違いないけれど。

「それに大晦日は掃除で忙しいから歓迎なんて無理だって」

「【オーミソカ】てなんスか?」

「あ~えっと、一年の締めくくりだよ。季節が一巡したら家を大掃除しましょうって習慣が日本にはあるんだ」

「あ~なるほど。それ、ボクのとこにもあるッス。ボク今は家無いから関係ねーッスけど」

 それに、そんな大層な客人を迎え入れる土壌が勇の家にも無い。
 これから数日は年末年始に向けて掃除を始めなければならないから。
 毎年恒例、藤咲家大掃除祭りの開催だ。

 なにせ父親が割とずぼらで適当なので。
 母親と勇だけで大体を済まさなければならなくて。

「聴こえてるぞぉ勇。カプロ君に余計な事を吹き込むんじゃあない」

 しかし今年は違う。
 助っ人がも居るのだから。
 少し家も大きくなったけれど、その分を人数の力で押し流せばいい。
 増築した時の埃も溜まってるだろうから、今年は特に力を入れなければ。

「大掃除、大変そう……」

「田中さんはまず自分の部屋を考えてくれればそれでいいよ」

「じゃあボクはタブレットで遊んでるッスね」

「ならそのタブレット代金分は働かないとな」

「扱いの差ヒドくないッスか?」

「田中さんとカプロのスタンスの差だろぉ……」

 とりわけちゃなのやる気は並々。
 さすがに掃除した事が無い訳もないだろうから心配はしていない模様。

 だがカプロは文化交流の一環もあるので頑張ってもらわねばならない。
 〝これが日本の文化だ〟と思い知って貰わなければお泊まりの意味が無いのだ。

 とはいえ、これは勇の個人的な言い分だけれど。

 ただ今年は命力もある。
 あの大きなハンマーを担げるなら、カプロだって相当だ。
 なら大きな物だって軽々と運べる事だろう。
 今まで掃除出来なかった所も手が届くかもしれない。

 そんな事もあって今年の勇はやたらとやる気満々。
 エウリィとも出会えたし、色々と事も進んだので尚更に。

「とにかく、二人とも家の大掃除を手伝ってもらうからな。あ、シンやセリの家に逃げ込もうと思っても無駄だ。どっちも駆け込んだら同じく掃除に巻き込まれると思っていい。愛希ちゃんは遊んでそうだけど」

「わ、わかりましたっ。がんばりますっ!」

「ヒエ~……面倒な事に巻き込まれたッス」

 しかしこれは日本で生まれた以上避けられない運命。
 カプロとて訪れたからには免れない。

 ならば奮ってもらおう、『あちら側』の人間を恐れさせ続けたその力を。
 モロビやウノベが外交に力を入れているのと同様に。
 カプロもまた民間派遣者としてアルライの看板を背負っているのだから。

 本人にその自覚は一切無いのだけれども。





 こうして、藤咲家は年末まで掃除に明け暮れたという。
 タンスの裏から棚の奥まで隅々と。
 野外もしっかり洗って回り、家中文句無くピッカピカだ。
 事後、ちゃなとカプロの疲れ果てた姿もあったけれど。

 でも勇達はそんな綺麗な家でゆっくりと新年を迎える事が出来たのだそうな。


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