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第十一節「心拠りし所 平の願い その光の道標」

~待って、脂で私を殺す気?~

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 現代人には普通な物ばかりでも、エウリィやカプロには全てが珍しい。
 当たり前の様に真白な皿も、ピッカピカの家具も。
 色とりどりの洋服も、煌びやかなアクセサリーも。
 新鮮な食品だって、楽しそうな子供用スペースだって。

 だから彼等が歩く所全てで二人とも目を輝かせていて。

 お陰で店の前を通る度に、勇達の抱える荷物が増えていく。
 ドンドンドドドンッと、際限なく。

「二人とも買い過ぎじゃない?」

「フフッ、ちゃんと今回は予算内でお買い物させて頂いておりますっ」

「里の皆の事を考えると、購買意欲が止まらねッス」

 なので今や勇が使いっぱしり状態である。
 事あるごとに大荷物を抱えて自宅へ走り、戻ってはまた。
 家が近いからこその損な役回りだ。

 ちなみにちゃなは今朝のオーバーワークが効いてもう走れない模様。
 勇がそんな彼女を走らせる訳も無く。

 おかげさまで、午後四時くらいには勇でさえヘトヘト。
 今合流した時はもう自慢の足もガクガクに。

「待って、少し多くない? 玄関ももうだいぶキツいんだけど?」
 
 それでも全員の手には既に荷物がもっさりと。
 しかもちゃな達も含めた各個人の購入品も含まれるから色々とややこしい。
 それも纏めてドドンと手渡されればもう。

 これには勇もギリギリと歯を軋ませてならない。

「でも一通り回り終えたし、心残りさえ無ければもう買い物は終わりかな」

「ええ、わたくしは平気です。ただ、あと一日くらいは欲しい所ですね。ここは魅力的過ぎます……!」

「うぴぴ、ホントここは楽園ッスね。【げーせん】ってとこもまた遊びに行きたいッス」

 しかしその間にもしっかりと楽しめていた模様。
 二人揃ってニッコリ笑顔で応える姿がここに。
 ちゃんと宣言通り仲良くなる事が出来たらしい。

 という訳で最後の締めへ。

 勇が最後の往復へと向かっている間、六人はフードコートへと。
 ちょっと夕食には早いけれど、現代の味を楽しむ憩いの一時に突入だ。

「ねぇ田中さん、昨日あれだけ食べたのに、今日もステーキなの?」

「はいっ! ここのステーキ大好きなんです!」

「ウッ、なにこれ胃がもたれそう……」

 その中で全員の気を惹いたのは何と言ってもちゃなのステーキ。
 超極厚一ポンド肉のお披露目である。
 ステーキ専門店【じゅうじゅうステーキ】が誇る最大サイズで見た目からしてもド重い。
 おかげで隣に座る瀬玲がいきなりキツそう。

 で、その反対側に座る心輝はと言えば。

「【あげや】の特上とんかつだぜッ!! ここに来たら俺はこれを喰うと決めているッ!!」

「待って、脂で私を殺す気?」

 ステーキと共に人気の高い揚げ物専門店からのチョイス。
 既にちゃなも心輝も晩御飯を食べる気満々だ。
 休憩という意図を一切理解していない。

 なのでもう他の誰しもが止まらなさそう。
 遂にはエウリィとカプロまでもが好きな料理を求め始めていて。
 自重した瀬玲とお金の無いあずーが可愛く見えてならないという。

「【テンプゥラ】というものが乗せ放題というので、わたくしはこの白麺を」

「だからってどんぶり分より高く乗せるのはどうかと思うけど? 何、塔なの? ちくわエッフェル塔なの?」

 エウリィはうどんチェーン店【まんまるうどん】より、普通のかけうどんをチョイス。
 ただし別売りの揚げ物(主に磯上げ)をどんぶりの上にズンズンと乗せて。
 結果出来上がった高層天ぷらタワーを前に、誰しもが驚きを隠せない。
 しかも乗せ方が妙にエレガント、即席なのに一切乱れが無いという。

 パーフェクトガール、ここでも無駄に才能発揮である。

「フッ、皆ワイルドッスねぇ。ボクは品良くお洒落にハンバーガーッス」

「でもトレイ一杯にシェイクを積むのはどうかと思うけど?」

 一方のカプロもとても分かり易い。
 フランチャイズ店【ドスバーガー】より買って来たのはプレーンタイプのセット品。
 しかし、対してのシェイクボトル本数がトレー一杯ととてつもなく半端ない。
 甘い物だとわかり、調子に乗ってたくさん頼んだのだろう。

「こ、これはぁ……皆の為の差し入れッスよぉ~!!」

「ん、サンキュ」

「あっ……」

 でも素直になれないカプロ君。
 うっかりこう零してしまったもので、空かさず全員から奪われる事に。
 それでも半分くらい残っている訳だが、気持ちはなんだか複雑そう。

 ただ、このシェア行動がむしろ良かったのかもしれない。

 するとたちまち、全員で食べる物を分け合う事に。
 多くのジャンルを介せるからこそ出来るフードコートならではの光景だろう。

 それならと、瀬玲も軽くハンバーガー店からフライドポテトを幾つか購入。
 あずーが皆にあやかるという形でシェア飯構図の出来上がりだ。

 お陰で割と豪勢な食事風景が生まれる事に。
 大体が脂物なのはこの際仕方ないとして。

 それでも普通より美味しく感じられたに違いない。
 こうして友達同士で集まって、ワイワイと話して食べられたから。
 特にエウリィとカプロにとっては、これ以上無い楽しい時間だった様だ。

 お陰で気付けば、外がもう暗くなっていて。

「長居し過ぎちゃったね。そろそろ帰――あ」

「どうしたのです?」

「今気付いた……勇から連絡来てる。『皆どこに居るんだ?』って」

「「「えっ……」」」

 そしてどうやら、今更ながら七人目の訴えにも気付いたらしい。

 SNSのメッセージはそこで途切れている。
 発信はおおよそ三〇分前くらい、皆でシェアしあったくらいの頃で。

 なので、皆して遠く目を向ける姿がここに。
 もはや返す言葉さえも浮かばない。



 なお、勇はその間もずっと探し回っていたのだそうな。
 そんな訳で、合流後はお詫びも兼ねてご飯を驕ったという。

 あずーの心許こころもとないお小遣いを消費して。


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