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第十一節「心拠りし所 平の願い その光の道標」

~今年は皆でクリスマスパーティとかしない?~

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 瀬玲は元々切り替えが早い。
 どんなに辛い事でも押し退けられるくらいの気丈さがあるから。

 統也の死を知った時もそうだった。
 影でどれだけ泣いているかまではわからないが。
 少なくとも人前ではあまり取り乱したりはしないし、しても直ぐに落ち着ける。
 きっとそれが瀬玲という女性の抱く強さの証なのだろう。

 だからか、チケットの事はもう振り切ったらしい。
 迷惑をかけた勇の前だからか、いつもより少ししおらしいけれど。

 お陰で、帰路に就く今ではすっかり元通りで。
 勇も普段通りの瀬玲を前になんだかご機嫌である。

 やはり気落ちする友達はほっとけなくて。
 でも直ぐに立ち直ってくれたから安心出来た様だ。

「そういえば、クリスマスって何か予定ある?」

 しかしそんな最中にまたしても意味深な話題が飛ぶ。
 再び勇の期待を引き揚げんばかりに。

 なので、振り向いた勇はと言えば目を据わらせていて。

「ちょ、ちょっと、もうさっきの事はいいわよ。諦めたんだから。別にそういう意図がある訳じゃなくて、ちょっと気になってさ」

 そんな勇のあからさまな態度に、瀬玲もタジタジだ。
 なんだかんだで罪悪感を感じているのかもしれない。

 ただ、それだけではなさそう。
 何より今年が特別だからこそ、何かをしたいという想いが募っていて。

「そうなの? まぁ予定は無いけど。多分家族と過ごすくらいかな、いつも通りに」

「ふぅん、そうなんだ……」

 だからだろう。
 そんな瀬玲が持ち出したのは、思いも寄らぬ提案だった。



「それならさ、折角だから今年は皆でクリスマスパーティとかしない?」



 クリスマスパーティ。
 小さな子供ならきっと誰しもが好奇心をそそられる言葉ではないだろうか。

 普通に想像するならこんな感じだ。
 細やかな料理やお菓子を用意し、集まった皆でゲームして遊んで。
 持ち寄ったプレゼントを子供達の間で回し、中身で一喜一憂する。
 町内会などに参加していれば誘いが来そうな、そんな小さな集まりごと。

 これはきっと友人間などで行ったりする事もあるだろう。
 大きな家に住む友人の下へと訪れたりで。
 でも基本的にはやる事は変わらない。

 クリスマスという行事にあやかった一つの楽しみ方である。

 勇も小さい頃に参加した良い思い出がある。
 だからか、今度の提案には肯定的だ。

「皆でって事は、シン達も入れて?」

「ん、それもそうだけどさ。ほら、田中さんも居るし、エウリィさんとかカプロとか友達増えたじゃん? その辺りも呼べる人が居るならさ、皆で楽しめたらいいなって」

「ああ~!」

 しかもこんな案まで付けられれば黙ってなどいられない。
 「それいいね」と、瀬玲へ指まで向けてしまう程に。

 そう、今年は本当に特別なのだ。
 クリスマスパーティになど縁の無い、けど体験させたい人達が一杯いるからこそ。

 もちろん、皆が宗教のお祭りに関係している訳も無いだろう。
 縁が無いどころか、住んでいた世界が違う者達ばかりだから。

 でもそんな事は関係無い。
 勇達だって別に宗教信者という訳では無いのだ。
 皆が皆、ただ他国の風習にあやかって騒いでるだけに過ぎなくて。

 ならいっそ皆で便乗してしまえばいい。
 理屈なんて要らない。

 楽しければただそれだけでいいのだから。

「そういう話なら福留さんに相談してみるよ。カプロ達を勝手に連れ出す訳もいかないしな」

「ん、よろしくね」

 とはいえ問題が無い訳でも無い。

 カプロ達は基本的にまだ村から出る事が出来ない。
 一部代表の青年達は特使として出てはいるけれど。
 余計な問題を起こさない為に、居場所さえ秘密になっている。
 そこから連れ出すのは骨が折れる事だろう。
 
 エウリィ達も基本的には同様で。
 彼女一人ならまだしも、兵士も一緒となると恐らくは厳しい。
 人といってもやはり異世界人、性質は挙動に現れがちだから。
 夏の遊園地の一件で勇も痛いほど身に染みたものだ。

 他にも色々と。
 勇としてはアージとマヴォ、ジョゾウ達も誘ってみたい。
 縁こそあまりなさそうだけれど、彼等も大事な友人だから差別したくはなくて。

 それなら自衛隊の皆さんや、先日まで一緒に戦った杉浦一佐も。
 本部でお世話になってるお医者さんや看護士さんだって。
 挙げたらきっときりが無い。

 だとすれば会場だって悩ましい。

 きっと誰かの家などでは無理だろう。
 フェノーダラ城なら大きさ的にはいいけれど、魔者が居るから無理だ。
 本部だってそれほど大きくは無いし、騒ぐと目立ってしまう。

 そうなると自然と場所は限られてしまって。
 今思う人々は殆ど集められないかもしれない。

 だからこそ何でも悩ましい。
 どうにかしたい、そんな気持ちで一杯で。

「勇?」

「え? ああごめん、ちょっと考え事してた」

 気付けばだんまりになっていて。
 どうやら少ない思考のリソースを全て考え事に費やしていた様だ。

 それをわかってなのか、瀬玲に微笑みが浮かぶ。
 誰かを思って考えを巡らせる、そんなお人好しな所も良く知っているから。

「なんだかんだで皆問題ありだもんね。場所とかも大変そう。外で出来れば一番楽なんだけど」

「今年寒いからなぁ、それはちょっときつそう」

「だよねぇ。ま、出来る範囲でイイと思うよ。なんだかんだで皆予定あるだろうし」

 もちろん瀬玲だって全てが叶うなんて思っていない。
 いつものメンバーより一人や二人多ければいいと思うくらいで。
 いっそ自分達だけでやったっていいとさえ思っている。

 それでも勇に打ち明けたのは、可能性の輪を拡げたかったから。
 アイドルの事はダメだったけれど、知り合いを集めるくらいならと。
 勇ならきっとなんとか出来ると思って。

 そうすればきっと、今まで経験した何より楽しくなるかもしれない。
 そんな期待を抱いて。



 そう、抱かずには居られなかったのだ。
 それだけ、今の勇が輝いて見えていたからこそ。



 間違いなく、今の勇は瀬玲にとって眩しい存在だった。
 世界が混じる前とは全く違う、何事も諦めずに立ち向かう者として。

 こう見えたのはきっと、瀬玲が事実を知ったから。
 勇が如何に頼もしいかという事実を。
 戦う者としてではなく、戦いですらも乗り越える者として。

 だから相談したかったのだ。
 アイドルの事だってそう。
 何でも、どうにか出来てしまうんじゃないかと思えてならなくて。

 そうして気付けば、頼っていた。
 頼られたいなんて思っていた今までとは違って。
 そうしたいと思える魅力を勇から感じていたのだろう。
 
 それは決して好きという感情とは違う。
 でもそれに近い、けど頼り合いたいという想いがここにある。

 信頼という想いが。

 故に今は任せたいとさえ思う。
 今の勇なら本当に、自分が驚く様な結果を出してしまいそうだから。

「ありがとね、勇」

「何だよ突然」

「ん、何となく?」

 だからこそ、その分だけ応えたいとも思う。
 例え返礼を勇自身が望まなくとも。
 例え今はこんなお礼しか言えないのだとしても。

 いつか必ず期待に応えてみせると心にそっと誓う。



 瀬玲もまた、信頼に足る女でありたいと願う人間なのだから。



 しかし楽しい時間もここまでだ。

 勇の家路はずっと短い。
 それこそ、徒歩でショッピングモールまで行こうと思えるくらいには。

 その所為で、話が纏まりきらないまま辿り着く事に。

「もう少しスタブで話してけば良かったな」

「ま、いいんじゃん? 結局は勇や福留さんにお願いするしかないからさ」

「よりにもよってこっち丸投げかよ……」 

「もっと相談で纏められるならしたいけどね」

 とはいえ瀬玲に出来る事はもう無いに等しい。
 精々アイディアを振り絞るくらいで。
 でも規模もどうなるかわからないからこそ、参考にさえなるかどうか。

 勇の気持ちを汲みたい。
 そんな気持ちもある様だけれども。



「ならウチに寄ってく?」



 だが時に、何気無い一言がそんな思考を停止させる事もある。

 これは純粋に何気無い一言だった。
 他意も無く、本当に続きを話し合おうとしただけで。

 でも受け手である瀬玲にとってはちょっと違ったらしい。

「……べ、別に私は……構わないけどさ」

「うん?」

 その一言はとても特別的で。
 思わず赤面してしまうくらいに意味を感じてならなかったから。

 だからなんだか恥ずかしくて、つい肩まで寄せていて。
 視線も合わせる事が出来ないでいる。
 きっとそれは瀬玲にとって期待してしまう一言だったからだろう。

 どうやら、迂闊に一歩を踏み出してしまったのは勇の方だった様だ。

「でもさっき話してたよね、まだ両親帰ってないって」

「あぁ、まだ帰ってくる時間には遠いよな」

「つまり二人きりって事だけど、どう思う?」

「あ……」

 そして、こう言われた事で勇も気付いたらしい。
 男の部屋に女を一人連れ込もうとしていた事に。

「ち、ちが、そういう意味で誘ったんじゃなくて!!」

「何慌ててんのぉ? ふふっ、そんなのわかってるって」

 ただそれでも、勇の真意など瀬玲にはお見通しだ。
 ちょっとは驚いたけれど、変な期待まではしていない。

 それに、嫌だったという訳でも無かったから。

「わ、悪い」

「ん、いいよ。気にしてないから。でもその押しをもっと別の人に向けたらいいかもね? 例えば田中さんとかさ」

「なんでそこで田中さんが出て来るんだよ……あの子は俺に興味無いって」

「ふーん、あっそ。……この珍鈍感め」

「えぇ、どういう意味それ……?」

 けれどそんな淡い想いもここまでだ。
 想像以上に鈍い勇がどうしても理解出来なくて。
 だから戸惑う勇の肩を今度はバシバシと叩いて気持ちを誤魔化す。

 これには勇もさすがに堪らず苦悶を示していて。

「やっぱ怒ってるんじゃないの!?」

「あーもー違うってぇ!!」

 でも嫌がろうが関係無い。
 溜め込んだ憤りをぶつけんが如く、遠慮なしに叩き続ける。

 もちろん、瀬玲に思い違いがあるのかもしれない。
 勝手に二人をくっつけようとしているだけなのかもしれない。
 だから勇からしたらきっと余計なお世話に違いない。

「アンタほんと体かったい! 手痛いんだけど」

「じゃあ何で叩いたんだよ……女心ってわかんねぇ~」

 だけどきっとこの真意ばかりは勇にもわからないだろう。
 それだけ勇とちゃなの関係は曖昧で、それでいて悩ましい程に近いから。
 こうして世話を焼きたくなってしまうくらいに。

 これが瀬玲にとっては、心に秘めた恩返しの形でもあるのだから。



 こうして瀬玲が家路に就き、二人は別れた。
 勇にクリスマスパーティの企画を託して。

 もちろん本当に丸投げした訳では無い。
 SNSもあるから話す事くらいは普通に出来る。
 その上で相談し合おうとも伝えたから、きっと勇一人が悩む事は無いだろう。

 故に今日より、パーティに向けた計画が推し進められる事となる。
 果たして、勇や瀬玲の想いはどこまで実現出来るのだろうか。


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