上 下
29 / 1,197
第一節「全て始まり 地に還れ 命を手に」

第一節 後日談 ~彼女の香りはボディソープ~

しおりを挟む
※このお話は後日談につき、物語となんら関係はありませんので読み飛ばしても支障ありません。



///第一節 後日談 ~彼女の香りはボディソープ~///



 魔者達の襲撃から勇の家に帰ってきて間も無く、ちゃなは勇の母親に汚れた体を洗う事を勧められた。
 彼女の進言に甘え、ちゃなは勇の母親用として用意されているボディソープとシャンプーとコンディショナーを使ってもいいと説明を受けてお風呂へと入っていった。



 しばらく後……ちゃなが風呂から上がってくると、母親が使っていたボディソープの甘い香りが洗面所から漂ってくる。

 下着等は替えが無かった様で、そのまま着回し……上着は勇の母親が用意した物を着こむ。
 洗面所から姿を現した彼女は清潔感溢れる姿へと変貌していた。

「あれ、オカンの石鹸使ったんだ?」
「……はい……使ってもいいって……」

 匂いを嗅ぎ慣れていた勇はすぐ気付き、彼女にそう声を掛ける。
 柑橘系の香料を使っているらしく、勇自身も結構お気に入りなのだが……少し高いのか、男衆は使う事を禁じられていた代物だ。

「いいな……俺もそのボディソープ使いたいんだけどさ」

 少し恥ずかしいのか、ちゃなはもじもじしながらリビングのダイニングチェアに座る。
 さすがに匂いを嗅いでばかりではまるで変態だ。

 勇はそう思ったのか、彼女に向けた視線を再びテレビに戻す。

 だがそんな彼女の香りが少し不自然な気がした。



―――あれ……おかしいな、ボディソープの匂いしか・・しない……?―――



 いつも母親が風呂から上がると、ボディソープ以外にもシャンプーの香りが強く漂う。
 柑橘系の香りのボディソープとクリーミー系のシャンプーの匂いが合わさりまろやかな香りになるのだが……彼女からは柑橘系の香りしかしないのだ。

「……シャンプーって使った?」

 ふと気付いた事に対して質問を飛ばす。
 その言葉に俯いているのかそれともこっちを見ているのか……彼女の仕草は小さくてよくわからない。
 だが次の一言で疑念は確信へと変わった。



「シャンプーって……なんですか?」



 さすがの勇もまさかそんな言葉が出てくるとは思わず。

「えっと……頭洗う石鹸?」
「……そんなのあったんですね……」

 彼女は母親に説明は受けたけどよく判っていなかったのだろう……髪もボディソープで洗った様だ。
 しかし何故彼女はシャンプー如きの言葉を知らないのだろうか……疑問が重なり思わず勇が頭を傾げる。

「……もう一回、入ってきた方がいいですか……?」
「え? あ、いやいや……」

 まるで「香りが違うから入り直せ」と催促した様で申し訳ない気持ちになった勇であった。


しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

【完結】失いかけた君にもう一度

暮田呉子
恋愛
偶然、振り払った手が婚約者の頬に当たってしまった。 叩くつもりはなかった。 しかし、謝ろうとした矢先、彼女は全てを捨てていなくなってしまった──。

悪役令嬢にざまぁされた王子のその後

柚木崎 史乃
ファンタジー
王子アルフレッドは、婚約者である侯爵令嬢レティシアに窃盗の濡れ衣を着せ陥れようとした罪で父王から廃嫡を言い渡され、国外に追放された。 その後、炭鉱の町で鉱夫として働くアルフレッドは反省するどころかレティシアや彼女の味方をした弟への恨みを募らせていく。 そんなある日、アルフレッドは行く当てのない訳ありの少女マリエルを拾う。 マリエルを養子として迎え、共に生活するうちにアルフレッドはやがて自身の過去の過ちを猛省するようになり改心していった。 人生がいい方向に変わったように見えたが……平穏な生活は長く続かず、事態は思わぬ方向へ動き出したのだった。

お爺様の贈り物

豆狸
ファンタジー
お爺様、素晴らしい贈り物を本当にありがとうございました。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……

karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。

どうも、死んだはずの悪役令嬢です。

西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。 皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。 アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。 「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」 こっそり呟いた瞬間、 《願いを聞き届けてあげるよ!》 何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。 「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」 義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。 今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで… ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。 はたしてアシュレイは元に戻れるのか? 剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。 ざまあが書きたかった。それだけです。

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

処理中です...