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第十節「狂騒鳥曲 死と願い 少女が為の青空」
~魅惑多き地には嗚呼、魔者はつらいよ~
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栃木駅。
勇達がフェノーダラ王国に単身訪問する際にもよく使われる駅だ。
関東北部を飾る栃木の名を冠してはいるが、地理上は埼玉の最寄りとも言える。
電車などでも県境を抜ければすぐ辿り着ける場所である。
この駅も、変容事件が起きた当初は随分と盛り上がったものだ。
何せ街の一部が突如として転移に巻き込まれたのだから。
その騒動でひっきりなしにマスコミや野次馬が殺到したのは語るまでも無いだろう。
とはいえ、今となってはもうすっかりと落ち着いて。
勇達が訪れた時も全く怪しまれないくらいだ。
警戒するのは精々、フェノーダラ王国の境で張り込んでいるジャーナリストくらいか。
しかしそんな駅で今日この日、再び騒動が巻き起こる。
そう、ジョゾウ達が遂に駅前ロータリーへと姿を現したのである。
となれば駅前は途端に騒然となろう。
何も知らずやってきた人々はもはや驚き慄くばかりで。
タクシーやバスの運転手などはもはや客さえ忘れ、凝視して目が離れない。
いきなり巨大な鳩っぽい生物が駅から現れたなら、こうなるのも当然だろう。
ただ、実際こうして立ってみると若干鳩より少し鶏寄りか。
脚は人間と比べれば短めだが、それでも鳩よりは比較的長くて太い。
座っていた時は羽毛に埋もれて小さく見えていただけで。
でもその背丈はと言えば小柄な女性くらいの背の低さとそれ程ではない。
例えるなら、ちゃなやあずーと同列またはそれ以下といった感じだ。
パッと見可愛いが、迂闊に近寄れない。
そんな心情が人々の顔から滲み出るかのよう。
その様な人々の視線さえ気にする事も無く、ジョゾウ達がロータリーに沿って歩き行く。
向かおうとしていたのはなんとタクシー乗り場という。
これにはタクシーの運転手達も「こっち来んのかよ!?」と戦々恐々のご様子。
電車の次はタクシー利用か。
別世界の鳩は実に金回りが良いらしい。
ただ、そう上手く行くほど彼等も器用ではなかった様だ。
「美味である!」
「其方、また飲んでおるのか!?」
ライゴである。
気付けばまたしてもその両手で【コケッコーラ】を携えていて。
いつの間に買ったのやら、早速ゴボゴボと勢いよく喉に流し込む姿が。
よほど炭酸の喉越しが気に入ったのか。
ここまでの飲みっぷりを見せる者は人間側にもなかなか居ないだろう。
ここまで過ちを顧みない者もなかなか居ないが。
「ええいライゴよ! 其方が犯した過ち、かの様な事かわかっておるのかあ!?」
しかしこれにはさすがに痺れを切らしたらしい。
二番目に立つボウジがたちまち憤りを見せ、怒髪天の叱責を猛りぶつける。
鋭い目を持つ者に相応しく、どうやらそれなりに怒りっぽい模様。
だがそんなボウジをゆるりとした翼が遮る事に。
またしてもジョゾウが窘めたのだ。
「待てぃボウジ、今更言うたところで何も変わらぬ。 『まねぃ』は文句を垂れた所で返っては来ぬものなのだ」
「されどジョゾウ殿! 彼奴の仕打ち、これではあまりにも!」
もちろんジョゾウもわかってはいる。
わかっているから「ウンウン」と頷き応えるばかりだ。
でも責めても変わらないのも事実。
なら今は叱責するよりもどうするべきかを考える方が先で。
こうして輪が乱れてしまえば、きっとそれさえも叶わないだろう。
そんな想いを乗せたまん丸い瞳の視線がボウジを突き、たちまち「ぐぬぬ」と黙らせる。
その間も無くに「やれやれ」と呆れをも見せていた訳であるが。
この二人に限っては、言葉も要らない程にわかり合っている仲な様だ。
とはいえ引くに引けない事もある。
少なくとも、彼等にとって未知の領域たるこの地で油断は禁物だから。
なら少しでも統制を守り、立て直さねば目的など成せない。
そういった統制思考は先頭のジョゾウよりもボウジの方が強そうに見える。
「しかしだなジョゾウ殿……ぬぅ、ドウベ、お前も何か言ってやれぃ!」
「拙僧も味わってみたいで御座る」
「ドウベ~~~!!」
だからと三番目に立つドウベと呼びし者にも賛同を願うのだが。
残念ながら、緩いのはライゴだけには留まらなかったらしい。
するとたちまち他の者達もがドウベの意見に賛同し、コクコクとその首を縦に振り始めていて。
気付けば五 対 一、静観 一 という構図が生まれる事となる。
これではもはや堅物風なボウジも驚愕を隠せない。
小さい嘴がこれほどかと言わんばかりに開ききるまでに。
こうなると先程までの統制がまるで嘘のよう。
茶番を目の前で見せられているタクシーの運転手達はもっと驚愕している訳だけども。
「な、なんたることよ……。 しかしジョゾウ殿、これでは『おまねぃ』が―――」
「わこうておる。 全くもって油断しておったわ、まさかここまで魅惑多き世とは。 このままでは主殿に面目無し……ぬぅ!」
「あのぉ、の、乗るんですか?」
「あいや、拙僧ら『まねぃ』が足らぬ故それには至れませぬ。 然らばしばし待たれよ」
「そ、そうですか。 でしたら出来れば少し横に避けて頂けると……」
「いやいや、拙僧らの事は気にせず営みをお続けくだされ」
「で、ですからね、横に―――」
遂にはこんな感じで運転手をも巻き込み、盛り上がりさえ見せる。
なおジョゾウ達の後方離れではタクシー待ちの客で一杯だ。
何分、怖くて近寄れないもので。
当然、ジョゾウ達はそんな人達の事も気にしない。
こうなってくるともはやマイペースの極みである。
ライゴのみならず彼等全員が元々そうなのかもしれない。
「ドウベ、ミゴ、ロンボウ、ムベイ、そしてライゴよ。 其方達の想いはわかろう。 だがここは一つ耐えて貰えぬか?」
「ジョゾウ殿……」
そんな中でとうとうジョゾウが再び口を開く。
魅惑多き地にて迂闊にも惑わされてしまった五人へと。
胸に抱いた決意を以て説き伏せんが為に。
その純粋とも言える丸い瞳は、仲間達にとっても掛け替えのない輝きを放っていて。
一つ潤いを呼べば、彼等の心に一つの罪悪感さえ呼び起こそう。
「我等が主殿の託せし目的を、我等は果たさねば成らぬ。 だがこのまま我等一つに成りて力を合わせねば、その願いも叶わぬ事よ」
「左様」
「今一時、今一時だけで良いのだ。 さすれば主殿が願いを叶え、我等が結束はより深きものとなろう。 この翼に誓いし我等七の絆は何者にも討てぬ強固なものとなるであろうて」
「「「おお!」」」
その鳩胸を更に膨らませ、皆の前で大きくして見せつける。
この七人の長として、結束を束ねる者として見せんと。
その頭頂部を、快晴の天より注がれし光を以て輝かせながら。
「なれば皆の者、今こそその時である! 忠誠誓いし主殿の元、天下泰平を望みし我等が悲願! 今こそ、あ今こそぉぉう!!」
「「「オオーッ!!」」」
「「「わぁあああー!!」」」
その語りが遂に仲間達に強い絆を取り戻させた。
ついでに周囲の観客からも感動を引き寄せた。
気付けばタクシー乗り場の周りには人だかりが。
タクシー乗車希望者だけに留まらず、語りを聴きに来た者達もが集まって出来た様だ。
しかもその熱い熱い語り草に、大歓声、拍手喝采を上げずにはいられなくて。
たちまちジョゾウ達を中心としたショースペースの完成である。
これ程の規模となるとさすがにジョゾウ達も気付く様で。
いつの間にやら出来上がっていた観衆を前にして「なんたることか!?」と驚く姿が。
しかしこうなればもはやジョゾウ達は一躍アイドルと化す。
例え本人達が戸惑おうが関係無しに。
若者達は物珍しさからか、こぞって写真や動画を撮り。
大人達も白熱の演技を前に思わず声を唸らせていて。
老人に至っては何故か涙を流し、感動に打ち震えているという。
そしてその中には小銭を手渡そうとする者まで。
どうやらそれを見てジョゾウが何か妙案を閃いた様だ。
すると途端に七人が肩一丸を「ガシリ」と組み、何かを相談する姿を見せていて。
一体何を思い付いたのやら。
この茶番劇、まだまだ終わりは見えなさそう。
果たして彼等の目的とは、主とは。
こうして謎多きまま巻き起こった珍騒動は、遂にあの二人までをも巻き込もうとしていた。
勇達がフェノーダラ王国に単身訪問する際にもよく使われる駅だ。
関東北部を飾る栃木の名を冠してはいるが、地理上は埼玉の最寄りとも言える。
電車などでも県境を抜ければすぐ辿り着ける場所である。
この駅も、変容事件が起きた当初は随分と盛り上がったものだ。
何せ街の一部が突如として転移に巻き込まれたのだから。
その騒動でひっきりなしにマスコミや野次馬が殺到したのは語るまでも無いだろう。
とはいえ、今となってはもうすっかりと落ち着いて。
勇達が訪れた時も全く怪しまれないくらいだ。
警戒するのは精々、フェノーダラ王国の境で張り込んでいるジャーナリストくらいか。
しかしそんな駅で今日この日、再び騒動が巻き起こる。
そう、ジョゾウ達が遂に駅前ロータリーへと姿を現したのである。
となれば駅前は途端に騒然となろう。
何も知らずやってきた人々はもはや驚き慄くばかりで。
タクシーやバスの運転手などはもはや客さえ忘れ、凝視して目が離れない。
いきなり巨大な鳩っぽい生物が駅から現れたなら、こうなるのも当然だろう。
ただ、実際こうして立ってみると若干鳩より少し鶏寄りか。
脚は人間と比べれば短めだが、それでも鳩よりは比較的長くて太い。
座っていた時は羽毛に埋もれて小さく見えていただけで。
でもその背丈はと言えば小柄な女性くらいの背の低さとそれ程ではない。
例えるなら、ちゃなやあずーと同列またはそれ以下といった感じだ。
パッと見可愛いが、迂闊に近寄れない。
そんな心情が人々の顔から滲み出るかのよう。
その様な人々の視線さえ気にする事も無く、ジョゾウ達がロータリーに沿って歩き行く。
向かおうとしていたのはなんとタクシー乗り場という。
これにはタクシーの運転手達も「こっち来んのかよ!?」と戦々恐々のご様子。
電車の次はタクシー利用か。
別世界の鳩は実に金回りが良いらしい。
ただ、そう上手く行くほど彼等も器用ではなかった様だ。
「美味である!」
「其方、また飲んでおるのか!?」
ライゴである。
気付けばまたしてもその両手で【コケッコーラ】を携えていて。
いつの間に買ったのやら、早速ゴボゴボと勢いよく喉に流し込む姿が。
よほど炭酸の喉越しが気に入ったのか。
ここまでの飲みっぷりを見せる者は人間側にもなかなか居ないだろう。
ここまで過ちを顧みない者もなかなか居ないが。
「ええいライゴよ! 其方が犯した過ち、かの様な事かわかっておるのかあ!?」
しかしこれにはさすがに痺れを切らしたらしい。
二番目に立つボウジがたちまち憤りを見せ、怒髪天の叱責を猛りぶつける。
鋭い目を持つ者に相応しく、どうやらそれなりに怒りっぽい模様。
だがそんなボウジをゆるりとした翼が遮る事に。
またしてもジョゾウが窘めたのだ。
「待てぃボウジ、今更言うたところで何も変わらぬ。 『まねぃ』は文句を垂れた所で返っては来ぬものなのだ」
「されどジョゾウ殿! 彼奴の仕打ち、これではあまりにも!」
もちろんジョゾウもわかってはいる。
わかっているから「ウンウン」と頷き応えるばかりだ。
でも責めても変わらないのも事実。
なら今は叱責するよりもどうするべきかを考える方が先で。
こうして輪が乱れてしまえば、きっとそれさえも叶わないだろう。
そんな想いを乗せたまん丸い瞳の視線がボウジを突き、たちまち「ぐぬぬ」と黙らせる。
その間も無くに「やれやれ」と呆れをも見せていた訳であるが。
この二人に限っては、言葉も要らない程にわかり合っている仲な様だ。
とはいえ引くに引けない事もある。
少なくとも、彼等にとって未知の領域たるこの地で油断は禁物だから。
なら少しでも統制を守り、立て直さねば目的など成せない。
そういった統制思考は先頭のジョゾウよりもボウジの方が強そうに見える。
「しかしだなジョゾウ殿……ぬぅ、ドウベ、お前も何か言ってやれぃ!」
「拙僧も味わってみたいで御座る」
「ドウベ~~~!!」
だからと三番目に立つドウベと呼びし者にも賛同を願うのだが。
残念ながら、緩いのはライゴだけには留まらなかったらしい。
するとたちまち他の者達もがドウベの意見に賛同し、コクコクとその首を縦に振り始めていて。
気付けば五 対 一、静観 一 という構図が生まれる事となる。
これではもはや堅物風なボウジも驚愕を隠せない。
小さい嘴がこれほどかと言わんばかりに開ききるまでに。
こうなると先程までの統制がまるで嘘のよう。
茶番を目の前で見せられているタクシーの運転手達はもっと驚愕している訳だけども。
「な、なんたることよ……。 しかしジョゾウ殿、これでは『おまねぃ』が―――」
「わこうておる。 全くもって油断しておったわ、まさかここまで魅惑多き世とは。 このままでは主殿に面目無し……ぬぅ!」
「あのぉ、の、乗るんですか?」
「あいや、拙僧ら『まねぃ』が足らぬ故それには至れませぬ。 然らばしばし待たれよ」
「そ、そうですか。 でしたら出来れば少し横に避けて頂けると……」
「いやいや、拙僧らの事は気にせず営みをお続けくだされ」
「で、ですからね、横に―――」
遂にはこんな感じで運転手をも巻き込み、盛り上がりさえ見せる。
なおジョゾウ達の後方離れではタクシー待ちの客で一杯だ。
何分、怖くて近寄れないもので。
当然、ジョゾウ達はそんな人達の事も気にしない。
こうなってくるともはやマイペースの極みである。
ライゴのみならず彼等全員が元々そうなのかもしれない。
「ドウベ、ミゴ、ロンボウ、ムベイ、そしてライゴよ。 其方達の想いはわかろう。 だがここは一つ耐えて貰えぬか?」
「ジョゾウ殿……」
そんな中でとうとうジョゾウが再び口を開く。
魅惑多き地にて迂闊にも惑わされてしまった五人へと。
胸に抱いた決意を以て説き伏せんが為に。
その純粋とも言える丸い瞳は、仲間達にとっても掛け替えのない輝きを放っていて。
一つ潤いを呼べば、彼等の心に一つの罪悪感さえ呼び起こそう。
「我等が主殿の託せし目的を、我等は果たさねば成らぬ。 だがこのまま我等一つに成りて力を合わせねば、その願いも叶わぬ事よ」
「左様」
「今一時、今一時だけで良いのだ。 さすれば主殿が願いを叶え、我等が結束はより深きものとなろう。 この翼に誓いし我等七の絆は何者にも討てぬ強固なものとなるであろうて」
「「「おお!」」」
その鳩胸を更に膨らませ、皆の前で大きくして見せつける。
この七人の長として、結束を束ねる者として見せんと。
その頭頂部を、快晴の天より注がれし光を以て輝かせながら。
「なれば皆の者、今こそその時である! 忠誠誓いし主殿の元、天下泰平を望みし我等が悲願! 今こそ、あ今こそぉぉう!!」
「「「オオーッ!!」」」
「「「わぁあああー!!」」」
その語りが遂に仲間達に強い絆を取り戻させた。
ついでに周囲の観客からも感動を引き寄せた。
気付けばタクシー乗り場の周りには人だかりが。
タクシー乗車希望者だけに留まらず、語りを聴きに来た者達もが集まって出来た様だ。
しかもその熱い熱い語り草に、大歓声、拍手喝采を上げずにはいられなくて。
たちまちジョゾウ達を中心としたショースペースの完成である。
これ程の規模となるとさすがにジョゾウ達も気付く様で。
いつの間にやら出来上がっていた観衆を前にして「なんたることか!?」と驚く姿が。
しかしこうなればもはやジョゾウ達は一躍アイドルと化す。
例え本人達が戸惑おうが関係無しに。
若者達は物珍しさからか、こぞって写真や動画を撮り。
大人達も白熱の演技を前に思わず声を唸らせていて。
老人に至っては何故か涙を流し、感動に打ち震えているという。
そしてその中には小銭を手渡そうとする者まで。
どうやらそれを見てジョゾウが何か妙案を閃いた様だ。
すると途端に七人が肩一丸を「ガシリ」と組み、何かを相談する姿を見せていて。
一体何を思い付いたのやら。
この茶番劇、まだまだ終わりは見えなさそう。
果たして彼等の目的とは、主とは。
こうして謎多きまま巻き起こった珍騒動は、遂にあの二人までをも巻き込もうとしていた。
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