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第四節「慢心 先立つ思い 力の拠り所」
~決意し頷き~
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フェノーダラ王への協力要請も虚しく徒労に消え。
ガクリと肩を落とした福留を筆頭に、勇達が城内から姿を現した。
「あの剣聖という方が来て頂けばそれでいい気がするんですがねぇ」
城門を潜り抜け、誰にも声が届かない所へと辿り着いた途端、福留の口から堪らず愚痴が溢れ出る。
周囲が既に暗かったという事もあってそんな仕草も予兆も見えず、突然の一声に勇もちゃなも困惑するばかり。
こうなってしまった事は福留にとっても残念でならなかった様だ。
「剣聖さんは三日前に大怪我負ってますし、今は無理ですよ。 (多分ですけど……) それに剣聖さんは自分に興味が無い事には一切動かないですから」
「そ、そうなのですか? うぅーん、やはりここは―――」
乗ってきた車を目前にした所で立ち止まり、福留がクルリとその身を振り返らせる。
やはりその顔には先程の険しい表情が浮かんだままで。
「やはり貴方達にお願いするしかないですよねぇ」
「まあそうなりますよね……」
とはいえ、福留は「お願いします」などとは口が裂けても言えなさそうで。
苦悩のままに、窄めて歪ませた口元を「クイッ」と伸ばす。
この様な結果になる事は当初から予想していたが、勇としては苦笑しか返す事が出来ず。
しかし今回は予め話を聞いていたという事もあり、覚悟は出来ていた様だ。
「わかりました、出来る限りの事はやってみせますよ」
「申し訳ない、そしてありがとうございます……! ちゃなさんもそれでよろしいでしょうか?」
その隣でちゃなも微笑みのままに頷く。
彼女も勇と気持ちは同じだったのだろう。
二人揃って頷く姿はどこか頼もしく見えて。
福留としてもこうなる事は想定の内、最終手段ではあったのだろう。
何せ最も魔剣の扱いに慣れ、戦った実績を持つ者が二人、目前に居るのだから。
「では時間が少ないという事ですし、出来る限り早めに対処したいと思います」
「具体的にどういう風に対処するんですか?」
「そうですねぇ……では明朝、魔者達に対して攻撃を仕掛ける事にしましょう」
「明日の朝……」
「えぇ。 それであれば時間等に余裕を持たせる事が出来るので『猶予』を上回る事は無いと思いまして」
ちゃなが朝に弱いともあって途端に困り顔を浮かべるが、こればかりはどうしようもない。
そんな顔を前に、事情を知る勇も再び苦笑するしかなく。
「お二人にはこのまま経由地点のホテルに泊まって頂き、明朝ヘリで直接現地へ向かいます。 そして【ウィガテ族】と戦闘を行い、彼等を倒して魔剣を奪い返すという算段です」
【ウィガテ族】がいつ魔剣を使いこなせるようになるか、勇達にとっては未知数。
福留が打ち出した計画も、それを考えれば妥当だと言える。
勇とちゃなもそれを充分理解していたからこそ、納得のままに頷き応えていた。
今まではなし崩し的に戦う事ばかりであり、覚悟などその時その時に見出した物だ。
だが今回は初めての討伐依頼。
「相手を倒す」という確固たる意思を予め持った上での戦いとなる。
勇の心が高揚し、胸の鼓動が高鳴り打つ。
再び訪れた戦いの機会を前に、日常で忘れかけていた戦意を叩き起こすかの様に。
「戦う事が出来るのは自身とちゃなのみ」。
その考えが決意を覚悟へ昇華していた。
二人の決意にも足る意思を前に、福留ももはや返す言葉は無かった。
ただただ、二人に感謝と―――己の不甲斐なさに打ちひしがれて。
「本当は、君達の様な子供達には戦わせたくないと思っていました。 ですが……どうかよろしくお願いします」
年甲斐も無く二人の若者達に深々と頭を下げて謝罪を送る。
その姿は自身の不覚を自覚しているからこその態度の表れ。
これがずっと福留を苦悩させ続けて来た理由だったのだ。
政府関係者として、変容事件の担当者として、福留には成し遂げなければならない使命がある。
その為には無理矢理にでも勇やフェノーダラ王国から魔剣を奪い取り、適正な方法でやり直す事も出来るだろう。
勇達を使い潰すまで戦わせる事だって出来るだろう。
それでもその手段を選ばなかったのは、福留が平和的解決以外を望まなかったから。
最高裁定者として、手段を選ぶ権利は持ち得ているからこそ。
彼は強行的な手段を取るつもりは無かったのだ。
勇と知り合った時も、必要以上の攻撃を避け。
フェノーダラにも強行突破はせず。
交渉でも引く所は引く姿勢を見せた。
それが最も人に信用され、信頼される為の行為であると知っているのだから。
勇達に対してもそうだ。
根底には未成年に戦わせたくないという想いがあった。
大人だけで解決したいという意思があった。
しかしそれも瓦解し、こうして頼らなければならなくなった。
だから福留は望む。
彼等が生きて帰れるのならば、例え自身が情けない姿を晒そうとも惜しくないと。
何度でもこの様に頭を垂れて希う事になろうとも。
「福留さん、大丈夫ですよ」
頭を下げる福留の耳に、勇の穏やかな声が響く。
ふとその頭を上げてみると、目の前には微笑みを向けた勇の顔が。
「俺達しか居ないなら、俺達がやるだけですから!」
「ええ、ええ。 ありがとう、勇君……」
この時勇とちゃなの向けた小さな気合いの拳が福留にどれだけ励ましを与えたか。
それは彼だけにしかわかり得ない事だ。
暗がりの中で表情も見難い今、伺う事など出来はしない。
でもそれはきっと余計な詮索なのだろう。
その暗闇の中で踵を返す福留の顔にも穏やかな微笑みが生まれていたのだから。
勇達を乗せた車が再び走り出し、暗闇の荒野を去る。
その走りは今の福留の感情を表すかの様に軽快そのものであった。
その後勇とちゃなは踏み込んだ事すら無い程の高級ホテルへと泊まる事となり。
各々に割り当てられた広い部屋の中で旅路の疲れを癒す。
全ては来たるべき戦いに備えて。
ガクリと肩を落とした福留を筆頭に、勇達が城内から姿を現した。
「あの剣聖という方が来て頂けばそれでいい気がするんですがねぇ」
城門を潜り抜け、誰にも声が届かない所へと辿り着いた途端、福留の口から堪らず愚痴が溢れ出る。
周囲が既に暗かったという事もあってそんな仕草も予兆も見えず、突然の一声に勇もちゃなも困惑するばかり。
こうなってしまった事は福留にとっても残念でならなかった様だ。
「剣聖さんは三日前に大怪我負ってますし、今は無理ですよ。 (多分ですけど……) それに剣聖さんは自分に興味が無い事には一切動かないですから」
「そ、そうなのですか? うぅーん、やはりここは―――」
乗ってきた車を目前にした所で立ち止まり、福留がクルリとその身を振り返らせる。
やはりその顔には先程の険しい表情が浮かんだままで。
「やはり貴方達にお願いするしかないですよねぇ」
「まあそうなりますよね……」
とはいえ、福留は「お願いします」などとは口が裂けても言えなさそうで。
苦悩のままに、窄めて歪ませた口元を「クイッ」と伸ばす。
この様な結果になる事は当初から予想していたが、勇としては苦笑しか返す事が出来ず。
しかし今回は予め話を聞いていたという事もあり、覚悟は出来ていた様だ。
「わかりました、出来る限りの事はやってみせますよ」
「申し訳ない、そしてありがとうございます……! ちゃなさんもそれでよろしいでしょうか?」
その隣でちゃなも微笑みのままに頷く。
彼女も勇と気持ちは同じだったのだろう。
二人揃って頷く姿はどこか頼もしく見えて。
福留としてもこうなる事は想定の内、最終手段ではあったのだろう。
何せ最も魔剣の扱いに慣れ、戦った実績を持つ者が二人、目前に居るのだから。
「では時間が少ないという事ですし、出来る限り早めに対処したいと思います」
「具体的にどういう風に対処するんですか?」
「そうですねぇ……では明朝、魔者達に対して攻撃を仕掛ける事にしましょう」
「明日の朝……」
「えぇ。 それであれば時間等に余裕を持たせる事が出来るので『猶予』を上回る事は無いと思いまして」
ちゃなが朝に弱いともあって途端に困り顔を浮かべるが、こればかりはどうしようもない。
そんな顔を前に、事情を知る勇も再び苦笑するしかなく。
「お二人にはこのまま経由地点のホテルに泊まって頂き、明朝ヘリで直接現地へ向かいます。 そして【ウィガテ族】と戦闘を行い、彼等を倒して魔剣を奪い返すという算段です」
【ウィガテ族】がいつ魔剣を使いこなせるようになるか、勇達にとっては未知数。
福留が打ち出した計画も、それを考えれば妥当だと言える。
勇とちゃなもそれを充分理解していたからこそ、納得のままに頷き応えていた。
今まではなし崩し的に戦う事ばかりであり、覚悟などその時その時に見出した物だ。
だが今回は初めての討伐依頼。
「相手を倒す」という確固たる意思を予め持った上での戦いとなる。
勇の心が高揚し、胸の鼓動が高鳴り打つ。
再び訪れた戦いの機会を前に、日常で忘れかけていた戦意を叩き起こすかの様に。
「戦う事が出来るのは自身とちゃなのみ」。
その考えが決意を覚悟へ昇華していた。
二人の決意にも足る意思を前に、福留ももはや返す言葉は無かった。
ただただ、二人に感謝と―――己の不甲斐なさに打ちひしがれて。
「本当は、君達の様な子供達には戦わせたくないと思っていました。 ですが……どうかよろしくお願いします」
年甲斐も無く二人の若者達に深々と頭を下げて謝罪を送る。
その姿は自身の不覚を自覚しているからこその態度の表れ。
これがずっと福留を苦悩させ続けて来た理由だったのだ。
政府関係者として、変容事件の担当者として、福留には成し遂げなければならない使命がある。
その為には無理矢理にでも勇やフェノーダラ王国から魔剣を奪い取り、適正な方法でやり直す事も出来るだろう。
勇達を使い潰すまで戦わせる事だって出来るだろう。
それでもその手段を選ばなかったのは、福留が平和的解決以外を望まなかったから。
最高裁定者として、手段を選ぶ権利は持ち得ているからこそ。
彼は強行的な手段を取るつもりは無かったのだ。
勇と知り合った時も、必要以上の攻撃を避け。
フェノーダラにも強行突破はせず。
交渉でも引く所は引く姿勢を見せた。
それが最も人に信用され、信頼される為の行為であると知っているのだから。
勇達に対してもそうだ。
根底には未成年に戦わせたくないという想いがあった。
大人だけで解決したいという意思があった。
しかしそれも瓦解し、こうして頼らなければならなくなった。
だから福留は望む。
彼等が生きて帰れるのならば、例え自身が情けない姿を晒そうとも惜しくないと。
何度でもこの様に頭を垂れて希う事になろうとも。
「福留さん、大丈夫ですよ」
頭を下げる福留の耳に、勇の穏やかな声が響く。
ふとその頭を上げてみると、目の前には微笑みを向けた勇の顔が。
「俺達しか居ないなら、俺達がやるだけですから!」
「ええ、ええ。 ありがとう、勇君……」
この時勇とちゃなの向けた小さな気合いの拳が福留にどれだけ励ましを与えたか。
それは彼だけにしかわかり得ない事だ。
暗がりの中で表情も見難い今、伺う事など出来はしない。
でもそれはきっと余計な詮索なのだろう。
その暗闇の中で踵を返す福留の顔にも穏やかな微笑みが生まれていたのだから。
勇達を乗せた車が再び走り出し、暗闇の荒野を去る。
その走りは今の福留の感情を表すかの様に軽快そのものであった。
その後勇とちゃなは踏み込んだ事すら無い程の高級ホテルへと泊まる事となり。
各々に割り当てられた広い部屋の中で旅路の疲れを癒す。
全ては来たるべき戦いに備えて。
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