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第三節「未知の園 交わる願い 少年の道」
~言葉の謎、解りました~
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とうとうフェノーダラ城へと足を踏み入れた勇達。
そんな彼等を待っていたのは、フェノーダラ王と呼ばれた一人の男であった。
威厳ある面立ちを見せる彼に、勇達も緊張を隠せず。
でもいざ話してみれば、意外にもフランクな立ち振る舞いを見せていて。
気付けば勇達を包んでいた強張りも次第に解けつつあった。
「なぁフェノーダラよ、お前さんなら何かしら気付いてるんじゃねぇのか、この異様な状況によ」
「無論だ。 何が起きているかまではわからないがね」
「どうやら俺達の世界と別の世界がくっついちまったみてぇだ。 ひょっとすると……アレ|かもしれねぇ」
「何……!?」
しかし突如として始まったのは剣聖とフェノーダラ王の意味深な会話で。
二人の会話に熱が帯び、たちまち王の顔に衝撃が走る。
それはまるで今起きている事象をあたかも知っている様な話しぶりだ。
例え状況は知っていても、何故こうなったかなどはわからないままである。
どうして世界は混ざってしまったのか。
どうして剣聖達の世界だったのか。
疑問は未だ絶えない。
それでも二人の会話から何かがわかれば―――
聞いた所で何も出来ない事などわかっている事だ。
それでも勇が好奇心のままに聞き耳を立てるのは、自分が成したい事を無意識に求めていたからに他ならない。
―――生きてれば何だって出来らぁな―――
奇しくも剣聖の放った一言が、勇のそんな想いを掻き立てていたのである。
するとそんな折、勇の腕に服の擦れる感触が伝わっていく。
それに気付いた勇が咄嗟に振り向くと、そこには袖を引く父親の姿が。
「お父さん、これから思い切って交渉を仕掛けてみようと思う」
「交渉? 何の?」
「えーっと、そうだな、私達の身の安全の保証と、外の自衛隊と話し合いする様にって所か」
「は? え、ちょっと親父―――」
突然の父親の提案に驚いた勇が思わずその手で制しようとするが、その動きは寸で間に合わず。
勇の指先を擦る様にして一歩前に出た勇の父親が剣聖とフェノーダラ王の会話の間に割り込んだ。
「あ、あのぉお話中申し訳ないのですが、少しよろしいでしょうか?」
「「ん?」」
場違いとも言える突然の勇の父親の登場に、二人の会話が思わず留まる。
揃って彼へと顔を向け、「なんだ?」と言わんばかりに首を傾げさせながら。
背後に立つ勇がしかめた顔で静かに見守る中。
勇の父親がなけなしの勇気を振り絞り、遂にそれを顕現させる。
その名も、【ビジネスモード】。
ビジネスモードとは、仕事上のいざという時に彼が見せる完全お仕事集中モードの事である。
これを発現させる事で、社長や重役との重大な会議や打ち合わせ、重要な顧客との交渉、重大ミスの挽回や同僚の尻拭い、部下の仕事の後始末や新人教育といった数々の修羅場や苦難を乗り越えて来たのだ。
いつもの緩くて頼りない藤咲徹とは訳が違うぞ。
これこそ彼の処世術であり、人生そのものを作り上げたと言っても過言ではないスペシャルなモードなのである。
「突然で恐縮ですが、ワタクシ藤咲と申します。 もしお困りの事が有る様でしたら何か御助力に成れないかと思いまして。 ハイ」
だが……満を辞して放たれた一言の後には、冷めた沈黙が待っていた。
「あ……そのですね、ここに至るまで様々な問題を拝見致しまして、その……」
「ぬぅ?」
「もしかしたらワタクシが何か力添え出来るかと……」
最初は自信もあったのだろう。
自慢のビジネスモードであればこんな苦難など乗り越えられると。
でもあまりにも反応が薄すぎて。
勇の父親の顔が徐々に強張っていき、「しくじったか?」と言わんばかりに歪んでいく。
数々の困難を乗り越えられた自慢のビジネスモードもこうなってはもはや形無しである。
対してフェノーダラ王はと言えば、困惑した表情で勇の父親を覗き込んでいて。
「剣聖殿すまない、彼の言っている事が良くわからないのだが……」
「あぁん? まぁあれよ、困った事があったら相談に乗るって言ってただろうが。 おめぇさん耳でも遠くなったかぁ?」
剣聖節は王様相手だろうが相変わらずお構いなしである。
しかしどうやらフェノーダラ王も真面目に受け取ったらしく。
両手の小指をおもむろに耳へ突っ込んではほじくり回し。
まさに耳をかっぽじってよく聴かんとばかりに勇の父親へと耳を向けていた。
「君、すまない。 もう一度言ってはくれないだろうか?」
「んん?」
それは明らかに勇の父親へ向けられた発言だった。
当然父親自身もそれに気付く程にわざとらしかったから。
気付いていた―――にも拘らず、勇の父親は首を傾げていて。
勇も剣聖も、ちゃなでさえも思わず「んん?」っと不思議がる様を見せる。
「勇、お父さんの言ってた事わかるよな?」
「そりゃまぁ。 堂々としたもんだなぁって思ったけど」
勇にもちゃなにも、父親のビジネスモードは立派に見えてはいた様だ。
今まで彼とは別人とも思える程にハッキリとした口ぶりは、感心すら寄せる程だったのだから。
「じゃ、じゃあ王様が言ってた事はわかるのか?」
「そりゃわかるだろ? もっかい話してくれって―――」
「ああ、もう一度お願いしたいのだが」
そこで空かさずフェノーダラ王が勇の一言に声を被せてきて。
それがますますの混乱を呼び、たちまち勇の父親とフェノーダラ王の頭上にクエスチョンマークが踊り狂う。
当然それは勇達も一緒ではあるが。
何が何だかわからない状況に、勇もが「親父も耳が遠くなったか」などと思ってならない。
「―――はは~ん、そういう事かよ」
だがそんな中で剣聖だけがただ一人頷く様を見せていた。
どうやら何かわかった様だ。
「お、王様……ぼ、僕の言っている事はわかりますか?」
「あぁ、とてもよく聞こえているとも」
たどたどしい敬語ではあるが、勇の言葉はしっかり伝わっている。
その隣に立つ勇の父親はと言えば相変わらずのままだが。
しかしそれが逆に、勇にも事実を気付かせる要因となった。
「もしかして、これって!!」
「おう、おめぇも気付いた様だな」
勇の父親とフェノーダラ王……二人の間で一体何が起きていたのか。
それは単純に言葉が通じていなかったのである。
最初からそうだったのだ。
城門から入り、兵士達と会話した時から。
勇の父親はずっと彼等の言葉を理解出来ず、「屈強な戦士達が何かを言っている」としか取れなかったのだ。
そしてフェノーダラ王とも当然通じていない。
ただ勇や剣聖が会話を交わせていたから、話せると思い込んでいただけだったのである。
では何故勇やちゃなはフェノーダラ王や兵士達の言葉が理解出来たのか。
何故剣聖は勇の父親や母親とも会話が出来たのか。
それはたった一つの中核が全ての事柄と繋がっていたから。
そう、その中心に位置していた者こそが【魔剣使い】だったのである。
「どうやら『こちら側』と『そちら側』で会話出来る条件ってのが、どっちかが魔剣使いないしは命力を扱える奴である必要があるみてぇだな」
それは人に限らず魔者にも通じる事なのだろう。
だからダッゾ族が初めて現れた時、勇達は日本語の様な言語を話していた様に聞こえていたのだ。
「魔者は魔剣が無くとも最初から命力を持ってるからなぁ、おめぇらも言葉がわかってただろ?」
「はい、最初はハッキリしてませんでしたけどね」
「理屈はわかんねぇが、都合のイイもんだなぁ」
剣聖による核心の語りそのものが秘密を証明せんとばかりに、場に居た全員の耳に響き渡る。
そこでようやく場に居た者達も理解した様で、皆が揃って頷きを見せていた。
「ほう、なるほどそういう事か」
「つまりお父さんは何の役にも立たないと……トホホ」
驚愕の事実を前に、勇の父親が堪らずガックリと肩を落とす。
渋谷の件といい、今回の件といい。
こうも無力が続けば気落ちの度合いは計り知れない。
そんな彼を励ます様に、ちゃなが父親のスーツの袖をそっと摘まんで引いていた。
「ちゃなちゃんありがとなぁ」
結局、勇の父親はフェノーダラ側との対話においては全く何の役立たない事が証明され。
自慢のビジネスモードも言葉が通じなければ何の意味も成さない訳で。
不本意ながら勇達の裏へすごすごと引き下がっていく。
世の中とはこういう時こそ非情なもので。
息子の力になりたいという父親の淡い想いは、命力という不思議な力によって完膚なきまでに叩き潰されてしまったのだった。
そんな彼等を待っていたのは、フェノーダラ王と呼ばれた一人の男であった。
威厳ある面立ちを見せる彼に、勇達も緊張を隠せず。
でもいざ話してみれば、意外にもフランクな立ち振る舞いを見せていて。
気付けば勇達を包んでいた強張りも次第に解けつつあった。
「なぁフェノーダラよ、お前さんなら何かしら気付いてるんじゃねぇのか、この異様な状況によ」
「無論だ。 何が起きているかまではわからないがね」
「どうやら俺達の世界と別の世界がくっついちまったみてぇだ。 ひょっとすると……アレ|かもしれねぇ」
「何……!?」
しかし突如として始まったのは剣聖とフェノーダラ王の意味深な会話で。
二人の会話に熱が帯び、たちまち王の顔に衝撃が走る。
それはまるで今起きている事象をあたかも知っている様な話しぶりだ。
例え状況は知っていても、何故こうなったかなどはわからないままである。
どうして世界は混ざってしまったのか。
どうして剣聖達の世界だったのか。
疑問は未だ絶えない。
それでも二人の会話から何かがわかれば―――
聞いた所で何も出来ない事などわかっている事だ。
それでも勇が好奇心のままに聞き耳を立てるのは、自分が成したい事を無意識に求めていたからに他ならない。
―――生きてれば何だって出来らぁな―――
奇しくも剣聖の放った一言が、勇のそんな想いを掻き立てていたのである。
するとそんな折、勇の腕に服の擦れる感触が伝わっていく。
それに気付いた勇が咄嗟に振り向くと、そこには袖を引く父親の姿が。
「お父さん、これから思い切って交渉を仕掛けてみようと思う」
「交渉? 何の?」
「えーっと、そうだな、私達の身の安全の保証と、外の自衛隊と話し合いする様にって所か」
「は? え、ちょっと親父―――」
突然の父親の提案に驚いた勇が思わずその手で制しようとするが、その動きは寸で間に合わず。
勇の指先を擦る様にして一歩前に出た勇の父親が剣聖とフェノーダラ王の会話の間に割り込んだ。
「あ、あのぉお話中申し訳ないのですが、少しよろしいでしょうか?」
「「ん?」」
場違いとも言える突然の勇の父親の登場に、二人の会話が思わず留まる。
揃って彼へと顔を向け、「なんだ?」と言わんばかりに首を傾げさせながら。
背後に立つ勇がしかめた顔で静かに見守る中。
勇の父親がなけなしの勇気を振り絞り、遂にそれを顕現させる。
その名も、【ビジネスモード】。
ビジネスモードとは、仕事上のいざという時に彼が見せる完全お仕事集中モードの事である。
これを発現させる事で、社長や重役との重大な会議や打ち合わせ、重要な顧客との交渉、重大ミスの挽回や同僚の尻拭い、部下の仕事の後始末や新人教育といった数々の修羅場や苦難を乗り越えて来たのだ。
いつもの緩くて頼りない藤咲徹とは訳が違うぞ。
これこそ彼の処世術であり、人生そのものを作り上げたと言っても過言ではないスペシャルなモードなのである。
「突然で恐縮ですが、ワタクシ藤咲と申します。 もしお困りの事が有る様でしたら何か御助力に成れないかと思いまして。 ハイ」
だが……満を辞して放たれた一言の後には、冷めた沈黙が待っていた。
「あ……そのですね、ここに至るまで様々な問題を拝見致しまして、その……」
「ぬぅ?」
「もしかしたらワタクシが何か力添え出来るかと……」
最初は自信もあったのだろう。
自慢のビジネスモードであればこんな苦難など乗り越えられると。
でもあまりにも反応が薄すぎて。
勇の父親の顔が徐々に強張っていき、「しくじったか?」と言わんばかりに歪んでいく。
数々の困難を乗り越えられた自慢のビジネスモードもこうなってはもはや形無しである。
対してフェノーダラ王はと言えば、困惑した表情で勇の父親を覗き込んでいて。
「剣聖殿すまない、彼の言っている事が良くわからないのだが……」
「あぁん? まぁあれよ、困った事があったら相談に乗るって言ってただろうが。 おめぇさん耳でも遠くなったかぁ?」
剣聖節は王様相手だろうが相変わらずお構いなしである。
しかしどうやらフェノーダラ王も真面目に受け取ったらしく。
両手の小指をおもむろに耳へ突っ込んではほじくり回し。
まさに耳をかっぽじってよく聴かんとばかりに勇の父親へと耳を向けていた。
「君、すまない。 もう一度言ってはくれないだろうか?」
「んん?」
それは明らかに勇の父親へ向けられた発言だった。
当然父親自身もそれに気付く程にわざとらしかったから。
気付いていた―――にも拘らず、勇の父親は首を傾げていて。
勇も剣聖も、ちゃなでさえも思わず「んん?」っと不思議がる様を見せる。
「勇、お父さんの言ってた事わかるよな?」
「そりゃまぁ。 堂々としたもんだなぁって思ったけど」
勇にもちゃなにも、父親のビジネスモードは立派に見えてはいた様だ。
今まで彼とは別人とも思える程にハッキリとした口ぶりは、感心すら寄せる程だったのだから。
「じゃ、じゃあ王様が言ってた事はわかるのか?」
「そりゃわかるだろ? もっかい話してくれって―――」
「ああ、もう一度お願いしたいのだが」
そこで空かさずフェノーダラ王が勇の一言に声を被せてきて。
それがますますの混乱を呼び、たちまち勇の父親とフェノーダラ王の頭上にクエスチョンマークが踊り狂う。
当然それは勇達も一緒ではあるが。
何が何だかわからない状況に、勇もが「親父も耳が遠くなったか」などと思ってならない。
「―――はは~ん、そういう事かよ」
だがそんな中で剣聖だけがただ一人頷く様を見せていた。
どうやら何かわかった様だ。
「お、王様……ぼ、僕の言っている事はわかりますか?」
「あぁ、とてもよく聞こえているとも」
たどたどしい敬語ではあるが、勇の言葉はしっかり伝わっている。
その隣に立つ勇の父親はと言えば相変わらずのままだが。
しかしそれが逆に、勇にも事実を気付かせる要因となった。
「もしかして、これって!!」
「おう、おめぇも気付いた様だな」
勇の父親とフェノーダラ王……二人の間で一体何が起きていたのか。
それは単純に言葉が通じていなかったのである。
最初からそうだったのだ。
城門から入り、兵士達と会話した時から。
勇の父親はずっと彼等の言葉を理解出来ず、「屈強な戦士達が何かを言っている」としか取れなかったのだ。
そしてフェノーダラ王とも当然通じていない。
ただ勇や剣聖が会話を交わせていたから、話せると思い込んでいただけだったのである。
では何故勇やちゃなはフェノーダラ王や兵士達の言葉が理解出来たのか。
何故剣聖は勇の父親や母親とも会話が出来たのか。
それはたった一つの中核が全ての事柄と繋がっていたから。
そう、その中心に位置していた者こそが【魔剣使い】だったのである。
「どうやら『こちら側』と『そちら側』で会話出来る条件ってのが、どっちかが魔剣使いないしは命力を扱える奴である必要があるみてぇだな」
それは人に限らず魔者にも通じる事なのだろう。
だからダッゾ族が初めて現れた時、勇達は日本語の様な言語を話していた様に聞こえていたのだ。
「魔者は魔剣が無くとも最初から命力を持ってるからなぁ、おめぇらも言葉がわかってただろ?」
「はい、最初はハッキリしてませんでしたけどね」
「理屈はわかんねぇが、都合のイイもんだなぁ」
剣聖による核心の語りそのものが秘密を証明せんとばかりに、場に居た全員の耳に響き渡る。
そこでようやく場に居た者達も理解した様で、皆が揃って頷きを見せていた。
「ほう、なるほどそういう事か」
「つまりお父さんは何の役にも立たないと……トホホ」
驚愕の事実を前に、勇の父親が堪らずガックリと肩を落とす。
渋谷の件といい、今回の件といい。
こうも無力が続けば気落ちの度合いは計り知れない。
そんな彼を励ます様に、ちゃなが父親のスーツの袖をそっと摘まんで引いていた。
「ちゃなちゃんありがとなぁ」
結局、勇の父親はフェノーダラ側との対話においては全く何の役立たない事が証明され。
自慢のビジネスモードも言葉が通じなければ何の意味も成さない訳で。
不本意ながら勇達の裏へすごすごと引き下がっていく。
世の中とはこういう時こそ非情なもので。
息子の力になりたいという父親の淡い想いは、命力という不思議な力によって完膚なきまでに叩き潰されてしまったのだった。
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