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第三節「未知の園 交わる願い 少年の道」
~突っ込むなんて横暴な~
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訪れた出口へ乗り入れ、スロープ状の道を降りていく。
車体が僅かに傾くと剣聖が僅かに顔をしかめさせるが、こればかりはどうしようもなく。
一般道へと躍り出ると、再び勇の指示に従ってハンドルを切るのだが―――
その途端、先が見えない程に並び留まる車の列が待ち構えていたかの様に彼等を迎え入れたのだった。
「うわぁ、ここからもう渋滞かぁ~」
「変容区域の封鎖、ここから結構近いみたいだしね」
高速道路上の電光掲示板でも、その旨は幾度と無く提示されていた。
危ないと思われる所に自ら飛び込む様な者はさすがに少ないのだろう、後ろを見れば出口から出た車の殆どは逆方向へと向けて走り去っていく。
肝心の勇達の進む道はと言えば、先日の渋谷の時と同様に警察が道を塞いでいるのだろう。
惨事こそ起きてはいないが、交通事情だけはどうしようもない。
線路が網の様に引かれた東京ならいざ知らず、車に依存した地方であれば使っていた道が塞がれれば簡単に渋滞してしまう。
こうして並んでいるのはもっぱら地元民の車両だ。
「じゃあこの間の様に外側から中に向かうか?」
安全に事を進めるならばそれが一番の手だとは言える。
ただし難点があるとすれば、変容区域を覆うのはビルでは無く木々。
隠れる場所が無く、保護色の服でも着こまない限り遠くからでも簡単に見つかってしまう。
さすがに警察と事を構えるのは正しいやり方とは思えず。
間も無く検問という所でも答えは出ない。
手段を考えあぐねいたまま、ただただ時は過ぎ去るのみ。
だがそんな折、剣聖が彼等の話に食いつく。
「あぁん? このまま行かねぇのかよ?」
「検問所があってきっと通れませんよ。 警察が封鎖してると思いますし」
「『ケイサツ』ってなんだぁ?」
「治安を守る集団の事ですよ。 ルールを守らない人は捕まってしまいます」
途端に剣聖が狭い車内で首を傾げて理解出来ていなさそうな様を見せる。
剣聖達の世界では警察という存在が無いのだろうか。
魔剣使いや魔者が跋扈する世界ならば、治安維持の組織があってもおかしくないのだが。
すると剣聖がそんな彼等の事情になど構う事なく、とんでもない一言をぶち上げた。
「しゃらくせぇなぁ、突っ込んじまえよぉ」
途端に打ち上げられた発言に、思わず勇と父親の「ええー!?」という声が同調する。
「いや、ダメですよ!! 捕まっちゃいますって!!」
無責任とも無知とも言える提案は二人を驚かせるには十分だったのだ。
勇も父親も、恐らくちゃなも、言うなれば善良な一般市民である。
警察に厄介になった事など有るはずも無ければ、ルールを破ろうとした事も無い。
それを突如として反故にしろなどと言われてしまえば戸惑うのも当然だ。
しかしそんな事であろうとも剣聖のスタンスは一向に変わらない。
「でぇじょうぶだってぇ。 この俺様が雑兵如きに後れを取ると思ってるのかよぉ? おぉん!?」
「そ、そういう問題じゃ……って、ああっ!?」
途端、勇の父親の口から悲鳴にも近い叫び声が上がる。
そうこう言い合ってる間に目の前に検問所が姿を現したのだ。
当然、変容区域への立ち入りを制限する為の検問所である。
主要路ともあって複数人の警官だけでなく。
警察車両までが数台並び、物々しい雰囲気を醸し出している。
渋谷の時とは訳が違う仰々しい人員配置に、父親だけでなく勇やちゃなもが目を見開きながら慌て始めていた。
「こ、このまま突っ込んじゃうと大変な事になっちゃいますよぉ!?」
人の密集地帯である東京と異なり、ここでは比較的多くの人員や機材を割く事が出来たのだろう。
それが勇達にとっては不幸以外の何物でも無く。
青々しい葉を揺らした細長い木々が立ち並ぶ林。
それに囲まれた十字路に陣取る警官達。
前に並ぶ車が一台、また一台と左右に散っていき―――
そしてとうとう、そんな話を続ける勇達の乗る車の順番が。
「あーあーなんとかならぁ。 とにかく今は、行っちまえぇッ!!!」
「うひぃい!! 何かあっても何とかしてくださいよぉ!?」
ヴァオオオンッッ!!
その瞬間、勇達を乗せた車がけたたましい爆音を掻き鳴らした。
剣聖に煽られるまま、父親がアクセルパッドを踏み込んだのだ。
途端、勇達の乗る車が急加速し、遮閉物を弾いて封鎖された道へと乗り上げる。
警官達が突然の事に驚きながらも「止まれー!!」と怒鳴り散らし。
それでも止まらぬ車両を前に、堪らずその身を躱させる。
事無きを得た様だが、警官達がそれで止まる訳も無い。
たちまち停まっていた警察車両へと乗り込み急発進させていく。
過ぎ去っていった勇達の車を追って、サイレン音を「ファンファン」と鳴り響かせる三台の車両が猛追を仕掛け始めたのだ。
「どどどおうなっちゃうんだこれ!! 逮捕とか……まさか射殺とか!? そんなのは困りますよ!?」
父親が引きつった顔を浮かべながら、ハンドルに身を寄せた前屈状態で運転を続ける。
その隣には背もたれにびったりとくっつき、目を丸くして強張った顔のまま固まるちゃなの姿が。
勇も後部座席からでは見えないながらも、落ち着けるはずもない状況に気が気ではない様子。
発進は遅れたものの、警察車両の方が当然身軽で素早い。
大きく開いていたはずの車間も徐々に詰められていく。
追い付かれてしまえばここまでの事が水泡に帰してしまう。
それだけは避けねばならぬと、父親がアクセルパッドを踏み込み車を加速させていく。
発端を生んだ剣聖はといえば……
状況を知ってか知らずか、更に速度を上げる車に関心を寄せて「ふほほ」と笑いを上げている訳だが。
真っ直ぐ道なりに走り続けると、徐々にアスファルトの地面が茶色の土気を帯びていく。
それもただ土が乗っただけではない。
目を凝らして見てみれば、茶色く染まったアスファルトが所々に姿を見せていたのだ。
それだけではなく、気付けば周囲の林も樹種の異なる木が混じっていて。
そう、勇達は既に変容区域へと侵入していたのである。
その時突如として周囲を囲む木々が突然開け、その先に広大な荒野が姿を現す。
更にその先へと目を向ければ、画像で見た景色が視界に映り込む。
石造りの城の様な建造物、そしてそれに連なる城壁とも言える長い壁。
しかし壁自体は余りにも中途半端な形で途切れていて。
恐らくはそこを境目にして転移が行われたのだろう。
渋谷の変容区域と比べれば、森と合わせてもそれほど広くはない様であった。
するとそんな折、背後に迫っていた警察車両が突然、勇達の車との車間を大きく広げ始める。
何を思ったのか、その速度を緩め始めたのだ。
それどころか、とうとう車体を停止させたのである。
まるで走り去る勇達の車を見送るかの様に。
「あれ、パトカーが止まっていく?」
その光景を前に、狭い車内で辛うじて振り返りながら眺めていた勇が思わず呟く。
漏れた一声は勇の安堵を体現した様な緩やかな口調。
だが一方で、その前に座る父親とちゃなは更なる緊張で震えんばかりの強張りを見せていた。
それもそのはず。
勇には見えない光景が、前に座る二人に見えていたのだから。
「た、多分、この先はきっと軍隊の、領域だからだ……」
それが父親の溜飲しながら発した答え。
父親とちゃなにはしっかりと見えていたのだ。
城にばかり気を取られていて気付けなかった、大地に広がる光景が。
そこに広がっていたのは迷彩色のテントを始め、群青色の車両や大きな設備。
ヘリコプターや兵器と思われる砲筒までもが覗き見えていた。
変容区域の調査などはテレビ会見から察するに軍隊。
日本が誇る自衛隊の領域なのである。
そして勇達の様な侵入者達の排除もきっと―――
「お お お……こ、これや、ばいんじゃ、ないの……」
舗装されていない道は幾多もの隆起を帯び、勇達が乗る車を上下に揺らして声を濁す。
まるでそれが彼等の不安をありありと示すかのように。
不穏包む【フェノーダラ】を目前に、一台の車が駆け抜ける。
勇達の不安渦巻く心をも揺らさんばかりに車体を震わせながら。
安全だと思っていた旅路は……ここに来て、急転の波乱を呼び込み始めていた。
車体が僅かに傾くと剣聖が僅かに顔をしかめさせるが、こればかりはどうしようもなく。
一般道へと躍り出ると、再び勇の指示に従ってハンドルを切るのだが―――
その途端、先が見えない程に並び留まる車の列が待ち構えていたかの様に彼等を迎え入れたのだった。
「うわぁ、ここからもう渋滞かぁ~」
「変容区域の封鎖、ここから結構近いみたいだしね」
高速道路上の電光掲示板でも、その旨は幾度と無く提示されていた。
危ないと思われる所に自ら飛び込む様な者はさすがに少ないのだろう、後ろを見れば出口から出た車の殆どは逆方向へと向けて走り去っていく。
肝心の勇達の進む道はと言えば、先日の渋谷の時と同様に警察が道を塞いでいるのだろう。
惨事こそ起きてはいないが、交通事情だけはどうしようもない。
線路が網の様に引かれた東京ならいざ知らず、車に依存した地方であれば使っていた道が塞がれれば簡単に渋滞してしまう。
こうして並んでいるのはもっぱら地元民の車両だ。
「じゃあこの間の様に外側から中に向かうか?」
安全に事を進めるならばそれが一番の手だとは言える。
ただし難点があるとすれば、変容区域を覆うのはビルでは無く木々。
隠れる場所が無く、保護色の服でも着こまない限り遠くからでも簡単に見つかってしまう。
さすがに警察と事を構えるのは正しいやり方とは思えず。
間も無く検問という所でも答えは出ない。
手段を考えあぐねいたまま、ただただ時は過ぎ去るのみ。
だがそんな折、剣聖が彼等の話に食いつく。
「あぁん? このまま行かねぇのかよ?」
「検問所があってきっと通れませんよ。 警察が封鎖してると思いますし」
「『ケイサツ』ってなんだぁ?」
「治安を守る集団の事ですよ。 ルールを守らない人は捕まってしまいます」
途端に剣聖が狭い車内で首を傾げて理解出来ていなさそうな様を見せる。
剣聖達の世界では警察という存在が無いのだろうか。
魔剣使いや魔者が跋扈する世界ならば、治安維持の組織があってもおかしくないのだが。
すると剣聖がそんな彼等の事情になど構う事なく、とんでもない一言をぶち上げた。
「しゃらくせぇなぁ、突っ込んじまえよぉ」
途端に打ち上げられた発言に、思わず勇と父親の「ええー!?」という声が同調する。
「いや、ダメですよ!! 捕まっちゃいますって!!」
無責任とも無知とも言える提案は二人を驚かせるには十分だったのだ。
勇も父親も、恐らくちゃなも、言うなれば善良な一般市民である。
警察に厄介になった事など有るはずも無ければ、ルールを破ろうとした事も無い。
それを突如として反故にしろなどと言われてしまえば戸惑うのも当然だ。
しかしそんな事であろうとも剣聖のスタンスは一向に変わらない。
「でぇじょうぶだってぇ。 この俺様が雑兵如きに後れを取ると思ってるのかよぉ? おぉん!?」
「そ、そういう問題じゃ……って、ああっ!?」
途端、勇の父親の口から悲鳴にも近い叫び声が上がる。
そうこう言い合ってる間に目の前に検問所が姿を現したのだ。
当然、変容区域への立ち入りを制限する為の検問所である。
主要路ともあって複数人の警官だけでなく。
警察車両までが数台並び、物々しい雰囲気を醸し出している。
渋谷の時とは訳が違う仰々しい人員配置に、父親だけでなく勇やちゃなもが目を見開きながら慌て始めていた。
「こ、このまま突っ込んじゃうと大変な事になっちゃいますよぉ!?」
人の密集地帯である東京と異なり、ここでは比較的多くの人員や機材を割く事が出来たのだろう。
それが勇達にとっては不幸以外の何物でも無く。
青々しい葉を揺らした細長い木々が立ち並ぶ林。
それに囲まれた十字路に陣取る警官達。
前に並ぶ車が一台、また一台と左右に散っていき―――
そしてとうとう、そんな話を続ける勇達の乗る車の順番が。
「あーあーなんとかならぁ。 とにかく今は、行っちまえぇッ!!!」
「うひぃい!! 何かあっても何とかしてくださいよぉ!?」
ヴァオオオンッッ!!
その瞬間、勇達を乗せた車がけたたましい爆音を掻き鳴らした。
剣聖に煽られるまま、父親がアクセルパッドを踏み込んだのだ。
途端、勇達の乗る車が急加速し、遮閉物を弾いて封鎖された道へと乗り上げる。
警官達が突然の事に驚きながらも「止まれー!!」と怒鳴り散らし。
それでも止まらぬ車両を前に、堪らずその身を躱させる。
事無きを得た様だが、警官達がそれで止まる訳も無い。
たちまち停まっていた警察車両へと乗り込み急発進させていく。
過ぎ去っていった勇達の車を追って、サイレン音を「ファンファン」と鳴り響かせる三台の車両が猛追を仕掛け始めたのだ。
「どどどおうなっちゃうんだこれ!! 逮捕とか……まさか射殺とか!? そんなのは困りますよ!?」
父親が引きつった顔を浮かべながら、ハンドルに身を寄せた前屈状態で運転を続ける。
その隣には背もたれにびったりとくっつき、目を丸くして強張った顔のまま固まるちゃなの姿が。
勇も後部座席からでは見えないながらも、落ち着けるはずもない状況に気が気ではない様子。
発進は遅れたものの、警察車両の方が当然身軽で素早い。
大きく開いていたはずの車間も徐々に詰められていく。
追い付かれてしまえばここまでの事が水泡に帰してしまう。
それだけは避けねばならぬと、父親がアクセルパッドを踏み込み車を加速させていく。
発端を生んだ剣聖はといえば……
状況を知ってか知らずか、更に速度を上げる車に関心を寄せて「ふほほ」と笑いを上げている訳だが。
真っ直ぐ道なりに走り続けると、徐々にアスファルトの地面が茶色の土気を帯びていく。
それもただ土が乗っただけではない。
目を凝らして見てみれば、茶色く染まったアスファルトが所々に姿を見せていたのだ。
それだけではなく、気付けば周囲の林も樹種の異なる木が混じっていて。
そう、勇達は既に変容区域へと侵入していたのである。
その時突如として周囲を囲む木々が突然開け、その先に広大な荒野が姿を現す。
更にその先へと目を向ければ、画像で見た景色が視界に映り込む。
石造りの城の様な建造物、そしてそれに連なる城壁とも言える長い壁。
しかし壁自体は余りにも中途半端な形で途切れていて。
恐らくはそこを境目にして転移が行われたのだろう。
渋谷の変容区域と比べれば、森と合わせてもそれほど広くはない様であった。
するとそんな折、背後に迫っていた警察車両が突然、勇達の車との車間を大きく広げ始める。
何を思ったのか、その速度を緩め始めたのだ。
それどころか、とうとう車体を停止させたのである。
まるで走り去る勇達の車を見送るかの様に。
「あれ、パトカーが止まっていく?」
その光景を前に、狭い車内で辛うじて振り返りながら眺めていた勇が思わず呟く。
漏れた一声は勇の安堵を体現した様な緩やかな口調。
だが一方で、その前に座る父親とちゃなは更なる緊張で震えんばかりの強張りを見せていた。
それもそのはず。
勇には見えない光景が、前に座る二人に見えていたのだから。
「た、多分、この先はきっと軍隊の、領域だからだ……」
それが父親の溜飲しながら発した答え。
父親とちゃなにはしっかりと見えていたのだ。
城にばかり気を取られていて気付けなかった、大地に広がる光景が。
そこに広がっていたのは迷彩色のテントを始め、群青色の車両や大きな設備。
ヘリコプターや兵器と思われる砲筒までもが覗き見えていた。
変容区域の調査などはテレビ会見から察するに軍隊。
日本が誇る自衛隊の領域なのである。
そして勇達の様な侵入者達の排除もきっと―――
「お お お……こ、これや、ばいんじゃ、ないの……」
舗装されていない道は幾多もの隆起を帯び、勇達が乗る車を上下に揺らして声を濁す。
まるでそれが彼等の不安をありありと示すかのように。
不穏包む【フェノーダラ】を目前に、一台の車が駆け抜ける。
勇達の不安渦巻く心をも揺らさんばかりに車体を震わせながら。
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