モノクロカメレオン

望月おと

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16、【行動開始】

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 澄貴に緊張という言葉はないらしい。遼の部屋にも関わらず、自室のようにベッドの上でくつろいでいる。昨日の今日だというのに完全に澄貴は塩ノ谷家に馴染み、母と妹からは家族の一員と見なされていた。

「お前、少しは気を使えよ……」
「どうして? 俺と君との仲じゃない」
「……誤解を生むような発言するな」
「ふふ。塩ノ谷くんって、変なところを気にするよね」
「……気になってるついでに質問してもいいか?」
「いいよ。なに?」
「何で退学したんだ?」

 澄貴の行動が遼には理解出来なかった。高校卒業まで、残り四ヶ月ほど。そんな時期に自主退学するなんてありえない。進学ではなく、就職を考えているとしたら尚更だ。高校卒業も立派な資格の一つ。それを自ら放棄するとは、どういうことだ──!?

「学校に行く必要がなくなったからだよ」
「必要ならあるだろ!?」
「僕のことなら気にしなくて大丈夫。そうだなぁ……響子の事件が解決したら君には《本当のこと》を話してあげる」
「《本当のこと》?」
「そっ。だから、まずは事件を解決させよう。僕より、君のほうが学校内部のことに詳しいでしょ?」
「まぁ……」
「そろそろ動き出そうか。これまで分かったことをまとめてみよう」
「纏めるほどの情報もまだないけどな……」
「いいから、いいから。何か紙ない? あと、ペンも」

 澄貴に言われる通り、遼は紙とペンを用意した。澄貴のことも気になるが、響子を殺害した犯人をいつまでも野放しにするわけにはいかない。

 森と由衣、剛と羽田から聞いたことを遼は澄貴に話した。

「ふーん。今のところ、怪しいのは新居くん……か。で、新居くんとアポイントは取れたの?」
「……まだ。学校が再開された日、新居休んでたから」
「連絡先は?」
「それが分からないんだ」
「情報通の森くんも?」
「あぁ……」
「でもさ、写真部と新聞部は情報共通してるんでしょ? だったら、連絡先も分かるんじゃないの?」
「俺もそう思ったんだけど……」

 遼と同じクラスで、彼らの活動に詳しい生徒会副会長 落合おちあい 彩花あやかに聞いてみたところ、写真部と新聞部の部室は隣同士で、週に一度どちらかの部室で【活動報告】という名目で情報交換を行っているらしい。情報をデジタルに残さないようにと個々での連絡は一切していないことが分かった。

「そこまで徹底してるとは思わなかったな……」
「森は用意周到だから」
「新居くんも森くんも今日は学校に行ったかな?」
「どうだろうな……。直接、森に連絡してみようか?」
「うん。聞いてみて」

 「分かった」早速、遼は森にメッセージを送ったが、時刻は午前11時10分を少し過ぎている。もし森が学校に行っているなら、3時限目の授業中だ。真面目な森から返事が来る可能性は低い。

 「連絡、来ないか……。少し出掛けてくるね」澄貴は両手を上げて大きく伸びをすると、どこかへ出掛けていった。

 遼は自分の机に向かった。彼もまた受験生である。学校を休んでいても勉強を怠るわけにはいかない。……自分の夢を応援してくれた響子のためにも。やる気を奮い立たせ、問題集に取りかかった。

── ブーブー……

 机の携帯が振動を始め、意識が数式の中から現実へと戻ってきた。時計を見れば、ぴたりとお昼を指している。集中していると時間が経つのは早い。

 携帯を見ると、メールマークが付いていた。おそらく、森からだろう。開いてみると、やはり森からだった。返事は【登校してるよ。君、謹慎になったんだってね。放課後、塩ノ谷君の家に行くね】と書かれていた。

「森、俺の家知ってたっけ?」

 森とは高校で知り合った。同じ市内ではあるが中学校は別々。森の住まいを遼は当然知らない。連絡先だって先日知ったほどだ。自分も知らないのだから、彼も同様だと遼は考えた。だが、森からのメールの文面はまだ終わりではなかった。

【クラス……いや、学校のみんなの家を僕は知っているから、道案内は要らないよ】

 遼の背筋を冷たい空気が通り抜けていった。ゾワゾワと身震いが襲う。ストーカーの事件を耳にすることもあるが、少しだけ被害者の気持ちが分かった気がした。

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