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4、【予想外の展開】
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「……誰だろう?」
自室を出て、遼は階段を下りていく。玄関のドアに施されたモザイクガラスに、二・三人のシルエットが浮かんでいた。手前に写っているド派手な赤が左右に揺れ、家の中を窺っているようだった。
怖い人たちでは……と、ビクビクして遼が動けずにいると、外で待つ訪問者が「ごめんください」と声を発した。そして、「遼くーん」と予想外な呼び掛けが続き、遼は恐る恐る玄関の鍵を開け、訪問者たちと対面した。
「君が遼くん?」
修学旅行先の日光で出会った観光案内をしてくれたガイドのお姉さんを遼は思い出した。声の主と訛りが似ていたのだ。
しかし、目の前にいるのは真っ赤なスカジャンを着たスキンヘッドの強面男性。可愛らしいガイドのお姉さんとは訛りは似ていても、姿形は似ても似つかない。
開かれたドアにスキンヘッドの男は瞬時に寄りかかり、ニコニコと話し掛けてきた。その彼の後ろにいる男は黒のスーツに身を包み、格闘家や柔道家のような逆三角形の体格をしている。玄関の扉と同じくらい身長があり、180cmは優に超えているだろう。見るからに危なそうな人たちだ。降りしきる雨の背景が妙にマッチしている。
「あー、その顔は誤解してるな。ったく、お前がそんなムキムキだから、毎度毎度誤解されんだよ!!」
どちらかと言えば、後ろの男を叱っているスキンヘッドに真っ赤なスカジャンを着ている男が原因だ。遼がどうしていいか分からずにいると、スキンヘッドの男が内ポケットから何かを取り出した。それを合図に後ろにいる男も同じ動作を行う。
「俺たちは、君が勘違いした人たちを取り締まる側の人間だ」
遼に見せたのは、彼らの氏名と顔写真が載っている警察手帳だった。相変わらず、写真の中の彼らも厳《いか》つい。
「……警察?」
「俺は、警視庁捜査一課の青宮だ。後ろにいるのは、本多。早速、本題に入るが……先生の事件は知ってるかい?」
「……はい、今朝のニュースで知りました」
「なら、話は早い。その件で、君から話を聞きたいんだ」
青宮は遼の背後に見える家の様子を伺ってから、「家の人は?」と尋ねた。
「母は仕事に行ってます」
「お父さんは?」
「離婚してるので……」
「そっか……。これは失礼……」
「……あの、聞き込みに来たんじゃないんですか?」
響子の事件についてと言っていた割りには、投げ掛けてくる質問は遼に対することばかりだ。遼の問いに青宮の後ろにいる本多が代わりに答えた。
「署まで一緒に来てくれないか?」
「え? 何でですか?」
「ここだと、ちょっとね……」
遼の家は住宅街の中にあり、家が密集している。近所の目を考えての提案のようだ。再び、青宮が遼に話しかけた。
「悪いな。……君から、詳しく聞きたい話も色々あってさ」
一体、遼が何をしたというのだろうか……。少し間を置いてから、「……分かりました」と遼は青宮たちについていくことを決めた。
「親御さんには、こっちから連絡するから手ぶらでいいよ。……戸締まりだけ、しっかりな」
家の鍵を閉め、彼らに続いて遼は警察車両へ乗り込んだ。ご近所に配慮してか、パトカーではなく、家の駐車場に停まっていたのは覆面パトカーと思われる白の乗用車だった。後部座席に遼が座り、右側に青宮が座った。本多は運転席に座り、エンジンをスタートさせた。
濡れた地面を走る車の音を聞きながら、遼は何について聞かれるのかドキドキしていた。だが、彼には疑われるような動機は無い。しかし、何かを掴んでいるからこそ、青宮たち警察は家に来た。自分の何を掴んだのだろう……。そのことばかり遼は考えていた。
ふと車は母が働いている職場の前を通過した。大型な老人向け介護施設である。そこで母は調理師として働いている。直接、母から聞いたわけではないが、女ばかりの職場では色々あると遼は聞いたことがあった。早退というだけでも職場に迷惑をかけてしまうのに、息子が警察に呼ばれたから早退となれば、母が築き上げてきた居場所を奪いかねない。
迷惑をかけないと決意したにも関わらず、母に迷惑をかけてしまった。情けなくて、悔しい……。遼の握りしめる両の手が震えていた。隣に座っている青宮はそれに気づいていたが、気づかないふりをし、窓の外を眺めていた。
これからどうなってしまうのだろう……。
雨の中を走る車は赤信号から青に変わり、徐々に速度を上げていく。遼の心も警察署が近づくにつれ、不安は増していくばかりだ。
自室を出て、遼は階段を下りていく。玄関のドアに施されたモザイクガラスに、二・三人のシルエットが浮かんでいた。手前に写っているド派手な赤が左右に揺れ、家の中を窺っているようだった。
怖い人たちでは……と、ビクビクして遼が動けずにいると、外で待つ訪問者が「ごめんください」と声を発した。そして、「遼くーん」と予想外な呼び掛けが続き、遼は恐る恐る玄関の鍵を開け、訪問者たちと対面した。
「君が遼くん?」
修学旅行先の日光で出会った観光案内をしてくれたガイドのお姉さんを遼は思い出した。声の主と訛りが似ていたのだ。
しかし、目の前にいるのは真っ赤なスカジャンを着たスキンヘッドの強面男性。可愛らしいガイドのお姉さんとは訛りは似ていても、姿形は似ても似つかない。
開かれたドアにスキンヘッドの男は瞬時に寄りかかり、ニコニコと話し掛けてきた。その彼の後ろにいる男は黒のスーツに身を包み、格闘家や柔道家のような逆三角形の体格をしている。玄関の扉と同じくらい身長があり、180cmは優に超えているだろう。見るからに危なそうな人たちだ。降りしきる雨の背景が妙にマッチしている。
「あー、その顔は誤解してるな。ったく、お前がそんなムキムキだから、毎度毎度誤解されんだよ!!」
どちらかと言えば、後ろの男を叱っているスキンヘッドに真っ赤なスカジャンを着ている男が原因だ。遼がどうしていいか分からずにいると、スキンヘッドの男が内ポケットから何かを取り出した。それを合図に後ろにいる男も同じ動作を行う。
「俺たちは、君が勘違いした人たちを取り締まる側の人間だ」
遼に見せたのは、彼らの氏名と顔写真が載っている警察手帳だった。相変わらず、写真の中の彼らも厳《いか》つい。
「……警察?」
「俺は、警視庁捜査一課の青宮だ。後ろにいるのは、本多。早速、本題に入るが……先生の事件は知ってるかい?」
「……はい、今朝のニュースで知りました」
「なら、話は早い。その件で、君から話を聞きたいんだ」
青宮は遼の背後に見える家の様子を伺ってから、「家の人は?」と尋ねた。
「母は仕事に行ってます」
「お父さんは?」
「離婚してるので……」
「そっか……。これは失礼……」
「……あの、聞き込みに来たんじゃないんですか?」
響子の事件についてと言っていた割りには、投げ掛けてくる質問は遼に対することばかりだ。遼の問いに青宮の後ろにいる本多が代わりに答えた。
「署まで一緒に来てくれないか?」
「え? 何でですか?」
「ここだと、ちょっとね……」
遼の家は住宅街の中にあり、家が密集している。近所の目を考えての提案のようだ。再び、青宮が遼に話しかけた。
「悪いな。……君から、詳しく聞きたい話も色々あってさ」
一体、遼が何をしたというのだろうか……。少し間を置いてから、「……分かりました」と遼は青宮たちについていくことを決めた。
「親御さんには、こっちから連絡するから手ぶらでいいよ。……戸締まりだけ、しっかりな」
家の鍵を閉め、彼らに続いて遼は警察車両へ乗り込んだ。ご近所に配慮してか、パトカーではなく、家の駐車場に停まっていたのは覆面パトカーと思われる白の乗用車だった。後部座席に遼が座り、右側に青宮が座った。本多は運転席に座り、エンジンをスタートさせた。
濡れた地面を走る車の音を聞きながら、遼は何について聞かれるのかドキドキしていた。だが、彼には疑われるような動機は無い。しかし、何かを掴んでいるからこそ、青宮たち警察は家に来た。自分の何を掴んだのだろう……。そのことばかり遼は考えていた。
ふと車は母が働いている職場の前を通過した。大型な老人向け介護施設である。そこで母は調理師として働いている。直接、母から聞いたわけではないが、女ばかりの職場では色々あると遼は聞いたことがあった。早退というだけでも職場に迷惑をかけてしまうのに、息子が警察に呼ばれたから早退となれば、母が築き上げてきた居場所を奪いかねない。
迷惑をかけないと決意したにも関わらず、母に迷惑をかけてしまった。情けなくて、悔しい……。遼の握りしめる両の手が震えていた。隣に座っている青宮はそれに気づいていたが、気づかないふりをし、窓の外を眺めていた。
これからどうなってしまうのだろう……。
雨の中を走る車は赤信号から青に変わり、徐々に速度を上げていく。遼の心も警察署が近づくにつれ、不安は増していくばかりだ。
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