上 下
58 / 69

第五十七話

しおりを挟む
 午後からは坑道の探索。
坑内でよく会う冒険者とは顔見知り程度の中にはなったものの、そこまで積極的に親しくはしていないセナは、再びゴーレムを探していた。

 厳密には、【ゴースト】入りの【ゴーレム】である。
手持ちのゴーレムを十分強化したセナは、この街で捕まえられる次の魔物として【ゴースト】を望んでいた。

 これから先の旅にどれだけの危険があるかはわからない。
だからこそ、自分の手札として重宝できる魔物はセナにとって大事な戦力。

 セナが持つ魔物は野良から捕まえた『USM・ゴーレム』と、固有スキルから発生する【四季スライム】と【鉄鋼龍メタドラ】。
 それぞれがステータスの充実した魔物であり、セナの信頼する者たちだった。

「GUUUOOOOOO!!!」

 咆哮が後方から聞こえ振り返ると、壁からゴーレムが発生しつつあった。
完全に壁から抜ける前に高速で近づき、触れてステータスとスキルを抜き取る。
 壁から上半身が出た状態でだらりと力を無くしたゴーレムだったが、セナの方で発見があった。

「よし、こいつか」

 抜き取ったスキルに【ゴースト】が入っていた。
つまり、こいつはゴースト憑きのゴーレム。

 一旦ステータスもスキルもすべて返して、完全に孵るのを待つ。

「GI?GIGOOOOOOOOOO!!!!」

 戸惑った様子のゴーレムは再び力を込めて壁から生え切り、その頑強な足で坑道に立つ。

 それすら特に相手にすることも無く、セナはステータスを最低限にまで奪い取り【隷属魔法】でゴーレムのすべてを懐柔する。

 闇色の鞭が晴れたときには、ゴーレムはセナの従順な魔物となっていた。

「ほんで、ゴーレムのスキルを抜き取って、【ゴースト】を全部投下。ステータスは耐久を重点的に注ぎつつ、魔力を高める。」

 片膝をついたままなすがままにされているゴーレムは、ゴーレムである証明すら奪われ、そのままありえないほどの量の異なるスキルを注ぎ込まれる。

「GI、GI、GI!!!」

 ぴきぴきと音を立ててひび割れるゴーレムの岩躯。
脱皮するようなソレを見届けながら、距離をとるセナ。

「GYUGYAAAAAAAAA!!!!!」

 再びの大絶叫を上げ、ゴーレムはかなり派手に爆裂した。
飛び散る破片と、舞い散る砂埃を肌で感じながら、セナはソレの生存を魔力で確信していた。

 ゴーレムの殻を破って出てきたソレは、先ほどまでのごつごつしたデザインをすっかり脱ぎ捨てていた。

「これがゴーストか。」

 人魂を逆さまにしたような流線的なシルエットに、灰を半透明にしたような体色。と言いつつ、ところどころ白や黒のにじんだ斑模様。
 体からは二本の手のような部位があり、顔らしき部分には二つの丸い空洞と半月型の空洞がある。

 そう、物語に出るような典型的なゴーストがそこにいた。

「PU~」

 鳴き声まで変わったゴーストを見つつ、セナはステータスで種族名を確認する。

『イマジナリ・ゴースト』

 それだけ。
イマジナリという部分の意味が分かれば、それが何をするゴーストなのかわかるかもしれないが、今のところは何ができるかわからない。

「よし、戻れ。」

 ゴーレムの時と同じように、自分の体に収納するセナ。
ゴーストはセナの右足に潜り込むと、タトゥーのようになって収納された。

 ゴーストのタトゥーは、手形のようになってセナの足を掴んでいるように見えた。

◇◆◇

「セナ、それだけはマジでやめて」
「セナ様、お願いします。逃がしてきてください。」
「おい、さすがに洒落にならねぇ。」

 帰って早々、ゴーストのことについて話した途端、三人はセナから距離をとってそう言った。

「え」
「魔物を使役するのは別にいいけど、ゴースト系はマジでダメ。」
「お願いします。なんでもいうことを聞くので。」
「頼む。剣の製造速度をもっと上げるから。」

 各々でセナに交渉を始めてしまい、セナの困惑は加速する。
これは、怖がっているのだろうか?

「一回見てみれば———」
「「「絶対ダメ!!」」」

 もはや話をすることもできなくなり、セナは泣く泣くゴーストのお披露目をあきらめることに。
 それだけではなく、気味が悪いからと今後セナは長ズボンのみの着用を強要された。

 交渉の結果、上の条件さえ飲めばゴーストを持っていてもまあ許してくれるということだったから、仕方なく受け入れることにした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【BL】齢1200の龍王と精を吸わないオタ淫魔

三崎こはく
BL
人間と魔族が共存する国ドラキス王国。その国の頂に立つは、世にも珍しいドラゴンの血を引く王。そしてその王の一番の友人は…本と魔法に目がないオタク淫魔(男)! 友人関係の2人が、もどかしいくらいにゆっくりと距離を縮めていくお話。 【第1章 緋糸たぐる御伽姫】「俺は縁談など御免!」王様のワガママにより2週間限りの婚約者を演じることとなったオタ淫魔ゼータ。王様の傍でにこにこ笑っているだけの簡単なお仕事かと思いきや、どうも無視できない陰謀が渦巻いている様子…? 【第2章 無垢と笑えよサイコパス】 監禁有、流血有のドキドキ新婚旅行編 【第3章 埋もれるほどの花びらを君に】 ほのぼの短編 【第4章 十字架、銀弾、濡羽のはおり】 ゼータの貞操を狙う危険な男、登場 【第5章 荒城の夜半に龍が啼く】 悪意の渦巻く隣国の城へ 【第6章 安らかに眠れ、恐ろしくも美しい緋色の龍よ】 貴方の骸を探して旅に出る 【第7章 はないちもんめ】 あなたが欲しい 【第8章 終章】 短編詰め合わせ ※表紙イラストは岡保佐優様に描いていただきました♪

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

聖女として召還されたのにフェンリルをテイムしたら追放されましたー腹いせに快適すぎる森に引きこもって我慢していた事色々好き放題してやります!

ふぃえま
ファンタジー
「勝手に呼び出して無茶振りしたくせに自分達に都合の悪い聖獣がでたら責任追及とか狡すぎません? せめて裏で良いから謝罪の一言くらいあるはずですよね?」 不況の中、なんとか内定をもぎ取った会社にやっと慣れたと思ったら異世界召還されて勝手に聖女にされました、佐藤です。いや、元佐藤か。 実は今日、なんか国を守る聖獣を召還せよって言われたからやったらフェンリルが出ました。 あんまりこういうの詳しくないけど確か超強いやつですよね? なのに周りの反応は正反対! なんかめっちゃ裏切り者とか怒鳴られてロープグルグル巻きにされました。 勝手にこっちに連れて来たりただでさえ難しい聖獣召喚にケチつけたり……なんかもうこの人たち助けなくてもバチ当たりませんよね?

元チート大賢者の転生幼女物語

こずえ
ファンタジー
(※不定期更新なので、毎回忘れた頃に更新すると思います。) とある孤児院で私は暮らしていた。 ある日、いつものように孤児院の畑に水を撒き、孤児院の中で掃除をしていた。 そして、そんないつも通りの日々を過ごすはずだった私は目が覚めると前世の記憶を思い出していた。 「あれ?私って…」 そんな前世で最強だった小さな少女の気ままな冒険のお話である。

朝から晩まで癒して

マール
BL
 朝から晩までずっと治癒魔法を使っていたボクは、ある日突然寿命を迎えた。  治癒魔法は生命力を分け与える術だって誰も知らなかったから。魂も身体もボロボロになったボクに救いの神が現れた。 ------------------------------ 〈ご注意ください〉  いきあたりばったり王道設定です。不憫な主人公を書きたくて始めました。  ハッピーエンドを目指します。R15程度のBL表現。キス止まり、朝チュン予定です。    お暇つぶしに楽しんでもらえたら嬉しいです。よろしくお願いします。 2021/02/11 タグを追加しました。

もふもふ大好き家族が聖女召喚に巻き込まれる~時空神様からの気まぐれギフト・スキル『ルーム』で家族と愛犬守ります~

鐘ケ江 しのぶ
ファンタジー
 第15回ファンタジー大賞、奨励賞頂きました。  投票していただいた皆さん、ありがとうございます。  励みになりましたので、感想欄は受け付けのままにします。基本的には返信しませんので、ご了承ください。 「あんたいいかげんにせんねっ」  異世界にある大国ディレナスの王子が聖女召喚を行った。呼ばれたのは聖女の称号をもつ華憐と、派手な母親と、華憐の弟と妹。テンプレートのように巻き込まれたのは、聖女華憐に散々迷惑をかけられてきた、水澤一家。  ディレナスの大臣の1人が申し訳ないからと、世話をしてくれるが、絶対にあの華憐が何かやらかすに決まっている。一番の被害者である水澤家長女優衣には、新種のスキルが異世界転移特典のようにあった。『ルーム』だ。  一緒に巻き込まれた両親と弟にもそれぞれスキルがあるが、優衣のスキルだけ異質に思えた。だが、当人はこれでどうにかして、家族と溺愛している愛犬花を守れないかと思う。  まずは、聖女となった華憐から逃げることだ。  聖女召喚に巻き込まれた4人家族+愛犬の、のんびりで、もふもふな生活のつもりが……………    ゆるっと設定、方言がちらほら出ますので、読みにくい解釈しにくい箇所があるかと思いますが、ご了承頂けたら幸いです。

【完結】婚約者が好きなのです

maruko
恋愛
リリーベルの婚約者は誰にでも優しいオーラン・ドートル侯爵令息様。 でもそんな優しい婚約者がたった一人に対してだけ何故か冷たい。 冷たくされてるのはアリー・メーキリー侯爵令嬢。 彼の幼馴染だ。 そんなある日。偶然アリー様がこらえきれない涙を流すのを見てしまった。見つめる先には婚約者の姿。 私はどうすればいいのだろうか。 全34話(番外編含む) ※他サイトにも投稿しております ※1話〜4話までは文字数多めです 注)感想欄は全話読んでから閲覧ください(汗)

異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話

kaizi
ファンタジー
※しばらくは毎日(17時)更新します。 ※この小説はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。 ※カクヨム週間総合ランキング2位、ジャンル別週間ランキング1位獲得 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 異世界帰りのオッサン冒険者。 二見敬三。 彼は異世界で英雄とまで言われた男であるが、数ヶ月前に現実世界に帰還した。 彼が異世界に行っている間に現実世界にも世界中にダンジョンが出現していた。 彼は、現実世界で生きていくために、ダンジョン配信をはじめるも、その配信は見た目が冴えないオッサンということもあり、全くバズらない。 そんなある日、超人気配信者のS級冒険者パーティを助けたことから、彼の生活は一変する。 S級冒険者の美女たちから迫られて、さらには大国の諜報機関まで彼の存在を危険視する始末……。 オッサンが無自覚に世界中を大騒ぎさせる!?

処理中です...