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第三十三話

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 あれから数日。セナは結局ラーヌともイーガルとも手を組めず、意気消沈のままエルフたちと話をしていた。

「俺、交渉向いてないのかな。」
「ま、まあ、どちらとも顔は合わせられたんだ。」
「そうそう、普通ならできないことだよ。」

 双子に励まされながら、セナは落ち込みのターンを切り上げる。

「ところで、手の方はどうだ?」
「ううん、まだ生えない。」
「力を籠めたり、喧嘩もしてみたんだけど、無理。」

「そうか、ナタはどうだ?」
「私もタタラもまだできてないよ。見ればわかるでしょ。」

 キャルの手が治ったことで、欠損組はこの四人だけになった。
そこで、数だけはある『剛腕』スキルを二つずつ配ることで、手の再生ができるかどうかを検証することにした。

「『健脚』のスキルは数が無いんだ。すまない。」

 その検証と、キャルの状態の説明をするために、セナは自分の【固有スキル】について、ある程度かいつまんで説明した。

 そのため、理屈はわかっているのになぜか治らないというもどかしさが生まれ、ぬか喜びのような不機嫌さをナタは醸し出している。

「ナタちゃん、セナに意地悪したいだけだよ。」
「タタラちゃんなんて一日中ふんばっちゃってるんだから。」

 双子のその言葉に、ナタが顔をそむける。
その頬はやけど以外の理由で赤くなっていて、セナは心が温まるような気分になった。

コンコン

「しっ」

 地上の家屋部分の扉をノックする音が聞こえた。
とっさにエルフ全員に静かにするよう指示を出し、自分は物音を立てずに一階へ上る。
 
コンコン

 もう一度、ノックされた。
セナは恐る恐る警戒しながら扉を開けると、そこには先日一緒に仕事をしたオーラが立っていた。

「お久しぶりです。その後はどうですか?」
「あ、ああ、元気だよ。どうした?」
「はい、昨日付けでラーヌ様のメイドを解雇されました。」
「えっ、なんで?」

 突然の告白に面食らうセナ。
それもそのはず。オーラは老紳士のポールの次に呼ばれやすいメイドだった。
 少ない人数の召使たちの中でも、中堅くらいの立ち位置だったはずだ。

「例の本を持って帰った日から様子がおかしく、ポールさん以外の従者は解雇されました。どうやら、我々への賃金を冒険者への依頼料に回したいらしいのです。」

 本……関係あるとは思えないものの、変化の分岐はそこから。
しかし、セナは地下室で本を手に入れたときにその内容を読んでいる。

 大したことのない、ただの創作戦記だった。

 こんなおこちゃま向けの本を大切にしているなんて、ラーヌにも可愛いところがある。
 それが読んだ第一の感想。

 なんせ、オーラが落ち着くまでにかなり時間があったから。

「ラーヌ様の意向はわかりません。従者たちももうバラバラで、故郷に帰った者、別の街で新生活を始めようとする者、様々でした。」
「……大変だったな。」
「私には家族はいません。正直ラーヌ様よりも長くあの屋敷で暮らしていましたので、釈然としない気持ちもあります。が、それはそうと家がありません。泊めてください。」
「……え!?」

 というと、オーラは外れ掛けの玄関をべきべきと外して、中に入ってきた。


◇◆◇

「こんなボロ屋で良いんですか?町の中にも宿はあるでしょう。」
「いろいろと考えた結果ここにたどり着きました。お邪魔でしたか?」
「邪魔というか、こんなボロ屋で申し訳ないというか。」

 一応ボロボロの机と椅子を並べ、一番汚くないコップで茶を出す。
話は続き、オーラは少し嫌そうに茶を飲む。

「あの地下でのことが、まだ夢に出るんです。」
「……そうですか。」

カタンッ

「あの子達の姿を見てしまって、私にできることはないのかって思って」
「それは……そうですね」

ガタッ

「セナさんが良ければ、手伝ってほしくて」
「何をですか?」
「エルフやドワーフの保護活動です!」

ガタタタッ!!

「なんか先ほどからうるさいですね。ネズミか何かいますか?」
「え、いや、気のせいじゃないですかね。」
「いや、まだ聞こえますよ、セナさんの足元から」

ガタンッ

「おぉおんなああぁああ!!!」
「に、にんげんん!!!」
「「殺すぅぅううう!!!!」」

 そう叫びながら、メンロンとキャルが飛び出してきた。

「わぁ!!?」
「ちょ、二人とも、落ち着け!!」

 ナイフは持っていないが、それでもオーラはただの普通の女の子。
2対1で襲われたら多分無事じゃすまない。

「え、エルフ!?お、お化け!?」
「ちょ、オーラさんも黙って!【催眠】!!」

 『聖魔法』で二人を眠らせる。
オーラには『沈黙』を強要し、二人を地下に運んだ。

「んんんん!!」
「はい、そうです。あの地下での生き残りをこうやってかくまってます。」
「んんん!!」
「はい、秘密を明かすのを躊躇ってました。」
「んんんん!!」
「あの子達、ニンゲンに相当憎悪を抱いているみたいで、オーラさんに合わせたらどんな反応するか不安だったんです。」
「んん!」
「はい、もっと一緒に仕事をした相手を信じるべきでした」
「んんんんん!!」
「『沈黙』、解除したほうがいいですか?」
「ん!!」

 喋れないものの大きな身振り手振りで話してくるオーラの『沈黙』を解除する。

「今のでよく会話が成り立つと思ったわね!!」
「でも正答率高かったですよね。」
「80%くらいね!!なんで成り立ってんの!!?」

 ひとしきり叫んだオーラはセナに事の詳細説明を求める。
そこで、いろいろな重たくて細かすぎるあれこれは端折って端的に説明する。

・地下でエルフたちを保護
・手足の再生を目標にセナは資金の調達やらなんやらを行う。
・最終的には外の村と合流

 箇条書きにするとこんな感じ。

今までにあったこととこれからの予定を同じ比率で説明した。
 ひとしきり説明をしたところ、オーラは考え込んで反応しなくなった。

「あの、オーラさん?」
「……そうね。それが良いわ。そうしましょう!!」
「あの、どうしたんすか。」
「私、セナに協力します。」
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