53 / 72
第六章 イマドキ?なJK転生者
53話 嘆きの巨人
しおりを挟む
だがしかしこのアヤト、自分の最適化された攻撃が相手に通じない程度、動揺はしても狼狽えはせんよ。
すぐさまゴーレムモドキから右手を離し、連続バック転しながら飛び下がる。
その一拍を置いてから、ゴーレムモドキは壁から引き抜いた石柱を振り回して俺を追い払おうとするが、既に間合いの外、イニシアティブは取り直している。
「ア……アヤトさんの攻撃が、効かない……!?」
「そんな……っ!?」
「ちょっ……どうやって倒すの、これ……!?」
俺は狼狽えてなくても、リザとレジーナ、ナナミの三人は狼狽えている。
練気は確かに流し込んだはずだが……"核"にまで届かなかったのか?
いや奴のサイズであれば、どこから練気を打ちこんでも、核のあるだろう、頭部の内側か、胴体部の内側にまで届くはずだが……
魔法もダメ、刃物もダメ、徒手格闘もダメか。
ダメ、ダメ、ダメと、心の中のマークシートを✕マークで埋めている間にも、ゴーレムモドキは石柱を手に襲い掛かってくる。
過去の異世界転生から遡れば、似たような奴と戦ったことはあるかもしれないが、うーん……?
いや、それよりもこいつが好き勝手に暴れまわっているのは危険だな、俺はともかくとして、他の三人があの石柱で殴られたら大怪我は避けられん、最悪即死だ。
決断。
「――『破岩逸衝』!」
左右の拳に練気を込めて、地面を抉るようなアッパー、それを連続で放ち――地中から巨岩を隆起させ、それらでゴーレムモドキを押し潰すように何度も放つ。
ゴーレムモドキは石柱で巨岩を破壊しようとするが、次々押し寄せる巨岩の波に手間取っている。――岩の質量で押し潰すのも無理だろうなとは思っていた、有効ならラッキー程度。
結界を解除して、
「みんな、逃げるぞ」
「「「えっ!?」」」
まさか俺の口から"撤退"が出るとは思っていなかったのか、三人が驚いている。
「戦術的撤退、この撤退は計算の内……つまり、『逃げるが勝ち』だ!」
嘘です、ほんとは撤退なんて考えてませんでした。
「こっちだ!」
俺の誘導に、リザ、レジーナ、ナナミは慌てながらも走ってついてくる。
………………
…………
……
さて、どうにかあのゴーレムモドキを巻いて、とりあえずの安全地帯を確保したところで、休憩。
ぜーはーと荒い呼吸のまま、リザとレジーナは座り込み、ナナミは恥も外聞もなく仰向けに大の字になって倒れ込んだ。そのスカートの丈だとパンティ見えちゃうよ?
「はぁ、はぁ、ど、どうにか、はぁ、巻いた、ようですね、ふぅ……」
レジーナは呼吸を落ち着かせる。
「こ、こんなに走ったの、久しぶりですぅ……」
リザもぐったりだ。
「ぜー……はー……ぜー……ここ、どの辺……?出口、どこ……?」
ナナミは起き上がって座り直す。
「けっこう奥に進んだと思うんだが……まだダンジョンのボスは見当たらないな」
早いところ、ボスがいるんならさっさと見つけて瞬殺し、地上に戻りたいんだが……
「アヤトさん……あのゴーレムは一体何なんでしょう……?」
呼吸が落ち着いたリザは、改めてゴーレムモドキの脅威を思い出して不安げになる。
「ま、まさか、亡霊の類では……!?」
相手がオバケだと思ったのか、レジーナが戦慄する。
「レイスならあんなバカでっかい石柱を振り回す真似は出来んだろう。そもそも実体はあったしな」
「うーん、でも、ゴーレムかって言うと、なんか違うと思うんだよね……」
話に混ざってきたナナミも一緒に考え込む。
「ゴーレムっていうか、なんかスライムっぽいし……でもその、アヤトくんのレーダー?センサー?サーモグラフィー?には、何の反応も無いんだよね?」
レーダーにセンサーにサーモグラフィーって……ナナミ、君は俺を何だと思っとるんだ。
「言いたいことは分かる。あいつが一体どういう魔物かを読み取ろうとしても、全く何も分からなかった」
読み取ろうにも、"データがそこに無い"のだ。
前にヴァレリオ霊峰で、ハイリング草を読み取った時のように、物質の塩基配列とも言うべきものが、あのゴーレムモドキには無かった。
物理的に存在しないのに実体があると言う、物理法則無視とかそんな簡単な話ではない。
実体があるからとりあえず幽霊とかではないだろうな、と名言しておくことでレジーナを落ち着かせておく。
「ただ分かることがあるとすれば、明確な殺意を持って俺達に襲い掛かってきている……と言うことぐらいか。ダンジョンの自然発生にも何か関係しているのかもしれないが……」
あと、気配探知に引っ掛からないからどこから来るか分からんのもな。
そこに、リザが挙手した。どうぞ。
「試していないのですが、氷属性なら有効じゃないですか?」
「ふむ、氷属性か」
「雷が効かないなら、恐らく火も効かないと見てもいいはずです。氷属性なら、あの水飴状の身体を凍らせることが出来るのではないかと、思いまして……」
ですが、とそこへレジーナも口を挟む。
「水飴状と言いましたが、あの身体に本当に水分があるのかどうかは不明です。氷属性魔法を試す価値はありますが、これも無効化される前提で構えましょう」
効かなかったことも考えるべきだと、レジーナは言う。
そこへ、うーんうーんと唸っていたナナミも。
「アヤトくんはさっき、土属性の魔法であのゴーレムを足止めしてたんだよね?」
「正確には属性魔法じゃなくて、打撃技による地形攻撃だな。あいつ自身に物理攻撃は通じなかったが、足止めぐらいは出来るようだな」
「つまり、押し潰すことは出来ないけど、すり抜けることも出来ないってこと?」
「どう言う仕組みかは分からんが、どうやらそうらしいし、石柱を武器にしているのも、恐らく奴自身に攻撃力は無いんだろう、多分だから確定じゃないが」
「そっか。……後は、どのくらい重く出来るか、かな」
ブツブツと何か呟くナナミ。
「何を考えているんだ?」
「あ、んーとね……もしかしたらなんだけど、」
しかし突然、ズガァンッ!!と言う轟音が近くに響いた。
「ちっ、もう追い付いて来やがったか。全員、戦闘体勢!」
俺の号令に、リザとレジーナはすぐに戦闘態勢を取り、ナナミはオタオタしながらも魔筆を構えようとしている。
崩れた壁の向こうから現るは、石柱を手にしたゴーレムモドキ。
さて、ゴーレムモドキ攻略戦、開始だ。
咆哮を上げながら石柱をぶん回してくるゴーレムモドキの攻撃を躱して、
「――フリーズハンマー!」
リザのフリーズハンマーが放たれ、氷塊がゴーレムモドキに叩き込まれるが、やはり効果らしい効果は望めず、フリーズハンマーの氷塊は呆気なく明後日の方向へ弾き飛ばされた。
「ダメでしたか……うぅんっ、想定済み!」
落胆するリザだが、すぐに切り替えるように頭を振る。
「ならば……――スロウリィ!」
レジーナは鎖鎌を飛ばさず、遠隔でスロウリィをゴーレムモドキに叩き込むが、これも効果が無かった。
「くっ、どうすれば……っ」
歯噛みするレジーナ。
「氷魔法もデバフ技もダメ……自信は無いけど、やるっきゃない!」
するとナナミは意を決したように魔筆を握り締めると、
「みんな!出来るだけあいつを引き付けて!」
ゴーレムモドキの注意を引いてくれと頼むナナミ。さっき俺に何か言いかけたことを試すようだな。
「あぁ、任された!」
何をするかは分からんが、今はナナミを信じよう。
積極的にゴーレムモドキの前に躍り出て、ソハヤノツルギの魔法剣――風属性のそれを連発して放つ。
やはり風属性も効かないが、ゴーレムモドキは俺に向かって石柱を振り降ろしてくるので、軽く飛び下がって躱して。
よーし、いい子だそのまま俺を見ろ。
「――ロックブレイク」
続いて土魔法のロックブレイクを発動、ゴーレムモドキの周囲の地中を隆起させ、石柱を振り回しにくいように取り囲ませる。
「ならわたしも……『ストーンブラスト』!」
リザも土属性の初級魔法で続き、ロックブレイクの隙間を埋めるように石の飛礫を放つ。
「せめて狙いを分散させるくらいには!」
レジーナは鎖鎌を西部劇のローピングのようにブンブン振り回して勢いよく投げ放ち、ゴーレムモドキの石柱にぶつける。
当然鎖鎌は弾き返されるが、ゴーレムモドキを右往左往させて判断に迷わせることには成功する。
「リザ!土の魔法を叩き込み続けろ!奴をこのまま押さえ込む!」
「分かりました!――ストーンブラスト!――ストーンブラスト!――ストーンブラスト!」
リザは連続でストーンブラストを放ち、石の飛礫を次々にゴーレムモドキの周囲に積み重ねていく。
俺も断続的なロックブレイクで、ゴーレムモドキに対して岩の包囲網を敷く。
ゴーレムモドキは石柱でロックブレイクやストーンブラストの包囲網を破壊していくが、壊した端から新たな包囲が組み上がるので、身動きが取りにくくなっていく。
「……ナナミ!まだか!?」
「も、もうちょっと、待って……!」
ナナミは何やらバカでっかいフライパン?みたいなものを描いているが、中々実体化出来ないらしい。
「あ、あとちょっとでっ、いけそうなのにぃ……っ!」
何を実体化させようとしているかは検討つかないが……まさか、そのために必要な魔力が足りないのか?
閃け俺の頭脳!ギュピーンッ!!
「レジーナ!自分の魔力をナナミに分け与えることは出来るか!?」
「魔力の、分け与え……?やってみます!」
俺の言わんとすることをすぐに理解したレジーナは、鎖鎌を回収して、ナナミの元へ向かう。
「ナナミさん、失礼します」
レジーナはナナミの肩に手を置き、ポワ、と掌を輝かせ――
「おっ、おっ?キタキタキタッ、これならいけるっぽい!?」
どうやらいけるっぽいらしい。咄嗟の思い付きとは言え、ナイス俺、そしてそれを実行してくれたレジーナもナイス!
「ア、アヤトさん!こっちをっ、手伝ってください……!」
おっと、ナナミとレジーナの方に目を向けてる場合じゃない、ゴーレムモドキが岩の包囲網から抜け出そうとしており、リザ一人では包囲が追い付かないようだ。
急いで包囲網を再構築し――いかんっ、このままでは抜けられ……!
「おっ待たせぇーーーーーー!!」
ナナミの声が響く。
間に合ったか!
「ナナミさん……本当に大丈夫なんですか?」
「大丈夫じゃないけど、大丈夫!」
……何だかレジーナの不安げな声も聞こえるが、はてさてナナミは一体何を描いていたのか?
――フライパン、じゃないな……分銅?しかもなんか、表面に『1000t』って描かれているし……
ま さ か ?
「喰らえ!1000トンクラーーーーーッシュ!!」
なんちゅー安直なネーミングだ、1000トンクラッシュて。
すると、クソデカ分銅が実体化、勢いよく放たれ、岩の包囲網から抜け出そうとしたゴーレムモドキにぶつかり……
グォアァッ!?と初めてゴーレムモドキが苦しむような声を上げ――何故か知らんが突然全身が黒くなり、クソデカ分銅にその身体を押し潰されそうになっている。
リザのフリーズハンマーすら全く効かなかったのに?
「やったっ、多分効いてる!」
ナナミが実体化したクソデカ分銅を読み取り――どうやらあの分銅、本当に1000トンの重質量があるんじゃなくて、1000トン分の重さがあるように思わせるためなのか、重力属性を纏っている。
――重力属性?何故奴は重力属性が有効なんだ?
まぁいい、弱点が重力属性なら話は早い。
「レジーナ!重力魔法を使うんだ!」
「はいっ!」
指示に従い、レジーナはすぐに詠唱し――
「――『アースクエイク!』」
重力属性の中級魔法のそれを放つと、1000トン分銅の下でもがいているゴーレムモドキの地面がひび割れ、奴の足元が激しく震動する。
1000トン分銅とアースクエイク、上と下から重力属性のサンドイッチにされ、ゴーレムモドキが悲鳴のような咆哮を上げる。
よーし、こうなったらこっちのものだ。
無影脚でゴーレムモドキの頭に回り込み、高濃度の重力属性を拳に纏わせて――
「しぃずめぇぇぇぇぇェェェェェーーーーーッ!!」
喰らえ必殺、ギガンティックアヤトパー
ン?
――ドウシテ ナゼ ミステナイデ オイテカナイデ タスケテ コンナノイヤダ ヤメテクレ ワスレチャイヤダ イツマデココニイナキャイケナインダ オワラナイヨ ツライ クルシイ オレハ ボクハ ワタシハ アタシハ
ナ ン ノ タ メ ニ ウ マ レ テ キ タ ノ ?
……チ!!
重力を纏った拳の一撃をゴーレムモドキの顔面っぽい部分にぶち込む。
今度はよく分からない跳ね返され方をすることもなく、ギガンティックアヤトパンチが奴の顔にめり込み、
バヂヂヂヂヂュンッ、と奇妙な音を立てながら身体のあちこちが破裂し、跡形無く消滅した。
ゴーレムモドキ、多分撃破だ。
「……倒せたようですね」
レジーナはアースクエイクを止め、ナナミの1000トン分銅も消失した。
「はっ、はぁーーーーー……良かったぁ……」
ナナミも安堵してその場で座り込む。
リザもふぅと一息ついて。
俺もちょっと休みたいけど、その前にナナミに訊きたいことがある。
「ナナミ、まさかとは思うが、奴の弱点が重力属性だって分かっていたのか?」
「え?うぅん、知らないけど?」
知らんのかーい?
「だったら、どうしてあの場で重力属性攻撃を仕掛けようと思ったんですか?
気になっていたらしいリザも話に混ざってくる。
「んー……重力属性っていうか、土属性の攻撃なら足止め出来るってとこから、『岩より重い攻撃なら効くんじゃない?』って思ったの。それで1000トンくらいの重さがあれば……と思ってやってみて、私だけじゃちょっと魔力が足りなかったから、レジーナさんに手助けしてもらって、なんとかなった……って、感じ?」
「つまり……ただ重いだけの鉄の塊を実体化しようとしたら、偶然重力属性を纏わせていた、と?」
レジーナの問い掛けに、ナナミは「えーっと、多分?」と自信無さげに頷く。
さすが異世界転生者、ご都合主義は日常茶飯事だな。
「まぁなんであれ、おかげで奴の攻略法が分かったんだ。ファインプレーだぞ、ナナミ」
「え、えへへ……アヤトくんに褒められた」
ナナミが照れてる。かわいい。
「ってそうだ、照れてる場合じゃないよ、出口は……?」
おっとそうだ、あいつを倒して終わりじゃない、このダンジョンから脱出しないと。
「もう脅威はいないはずだ。ちょっと待ってろよ……」
ちょーっと探知の出力を高めて、このダンジョンの内部情報を読み取る……あ、これか?すぐ見つかった。
「こっちだな」
探知が示す方向へ向かうと、どうやらここがダンジョンの最奥部のようで、旅の扉らしい魔法陣を敷いた石段を見つけた。
「旅の扉!これで帰れるんじゃない?」
やっと帰れる、とナナミは喜ぶが、ちょっと待ちなさい。
「待てナナミ。もしかすると、次の下層に移動するためのモノかもしれないぞ」
「あっ、そっか……」
緊張を解きたい気持ちは分かるが、もうちょっと我慢してくれ。
旅の扉の性質を読み取って……うん、地上に出るタイプだな。
「大丈夫な奴だ。さぁ、帰るとしようか」
まずは俺が率先して魔法陣に乗り込み――シュンッ
シュンッ――
っと、ここはフローリアンの森……それも、ちょうどダンジョンの穴が広がっていた地点だな。
続いてリザ、レジーナ、ナナミの三人も戻ってきて。
「あー!帰ってこれたぁー!」
太陽まぶしー!と思い切り背伸びするナナミ。
……と、言いたいところなんだが。
「ナナミ、終わった気でいるところ悪いが、まだ依頼は終わってないぞ?」
「え?……あっ、そうだった」
そう。
ナナミが受けた依頼はあくまでも薬草採集だ。
あのダンジョンのゴーレムモドキとの戦いで、すっかり依頼を達成した気分でいたようだ。
このまま帰ってもまだ報酬は受け取れない。
「もう少しですから、頑張ってください、ナナミさん」
「たとえ小さな依頼でも、きちんと契約が交わされていますので、最後までやり遂げられますよう」
リザとレジーナの後押しを受けて、ナナミは「うへー、やっぱり冒険者稼業は楽じゃなーい」とかぼやきながら、残る薬草の採集に向かっていった。がんばれがんばれ。
無事に指定数の薬草を採集し終えたところで、フローリアンの町に帰還し、今日は受付嬢として働いているクロナに薬草を確認してもらい、
「依頼達成、おめでとうございます♪」
クロナの営業スマイルと共に『依頼達成』の印を押され、報酬金の詰まった袋を受け取るナナミ。
「ほわぁ……こ、これが報酬金……!ありがとうクロナさん!」
「いえいえ、依頼を完遂したのはナナミさんですから」
早速、目を輝かせて袋の中の現金を確かめるナナミだが……
「……薬草採集ならこんなもんだよね、はは……」
ちょっと期待し過ぎたのかもしれない。
はした金、とは言わないが、冒険者の報酬としては最低額だ。
まぁ、初依頼と言うにはとんでもないことになったし……
「よーし、んじゃナナミの初依頼達成祝いに、俺が何か好きなものを買ってやるとしようか」
「えっ、マジ!?アヤトくんマジ神!」
俺が財布になってやると言えば、即座に食い付いたナナミ。現金な奴め。
何買ってもらおっかなー、と上機嫌なナナミをよそに、リザとレジーナはクロナに例のダンジョンのことを報告していた。
「まぁ、そんなことが……二人とも大変だったのね」
「はい、アヤトさんの攻撃すら通じなくて、どうしようって思いましたけど……」
「ナナミさんの機転……いえ、偶発的なものですが、そのおかげで討伐することが出来ました」
結局、あのゴーレムモドキの正体は分からず終いだったし、素材も何も残らなかったから、本当にいたのかどうかの証拠も得られなかった。
それに……ギガンティックアヤトパンチをぶち込む寸前、ゴーレムモドキから、人の嘆きのような幻聴が聞こえたような気がした。
………………嫌な想像だが、あのゴーレムモドキは、エタったまま存在を忘れられたオリキャラ達の、恨み辛みが寄り集まった怨念体だったのかもしれない。
ナナミをダンジョンに引き摺り込むような形になったのも、転生者として恵まれた力を持っていた彼女を妬んで……と言う逆恨みもあるのかもしれん。
同時に強い時空の歪みを感じたのは、本来存在する時空に横から割り込むような形でダンジョンが発生したからだろう。
……となると、あのダンジョンは、"ここ"と次元が異なる限定的な異世界空間だったのか。
ゴーレムモドキに攻撃らしい攻撃が一切通じなかったのは、ダンジョン内と言う次元の中に、奴の存在が固定されていなかった……と見るべきか?オカルトとかホラーの話になってきたな。
では、何故重力属性だけが有効だったのかと言えば……魔法的に重力を発生させると言うことは、ある種"自然現象"を捻じ曲げることに等しいと言ってもいい。
自然現象を捻じ曲げる……つまり、次元の理を揺るがすこと。
ナナミが実体化させた1000トン分銅のような、強力な重力属性をぶつけて次元を捻じ曲げることで、この次元に固定されていない奴を、俺達のいる次元の中に引き摺り込むことが出来たのだろう。
……うん、我ながらむちゃくちゃな説明だ。ぶっちゃけこじつけに等しい。
けれど、こんなむちゃくちゃな説明でもなければ、理解はともかく、納得が出来ん。
……俺達の集団幻覚や白昼夢と処理される可能性もあるか?
……後でオルコットマスターにだけでも、今回のことを纏めて提出しとこう。あの方なら無碍にはせんだろ。
「アーヤートーくーん!早くいこうよー!」
俺の手をぐいぐい引っ張って買い物に行こうとするナナミ。
「はいはい、行きますよ」
あんな大変なことの後なのに、元気だなぁ。
すぐさまゴーレムモドキから右手を離し、連続バック転しながら飛び下がる。
その一拍を置いてから、ゴーレムモドキは壁から引き抜いた石柱を振り回して俺を追い払おうとするが、既に間合いの外、イニシアティブは取り直している。
「ア……アヤトさんの攻撃が、効かない……!?」
「そんな……っ!?」
「ちょっ……どうやって倒すの、これ……!?」
俺は狼狽えてなくても、リザとレジーナ、ナナミの三人は狼狽えている。
練気は確かに流し込んだはずだが……"核"にまで届かなかったのか?
いや奴のサイズであれば、どこから練気を打ちこんでも、核のあるだろう、頭部の内側か、胴体部の内側にまで届くはずだが……
魔法もダメ、刃物もダメ、徒手格闘もダメか。
ダメ、ダメ、ダメと、心の中のマークシートを✕マークで埋めている間にも、ゴーレムモドキは石柱を手に襲い掛かってくる。
過去の異世界転生から遡れば、似たような奴と戦ったことはあるかもしれないが、うーん……?
いや、それよりもこいつが好き勝手に暴れまわっているのは危険だな、俺はともかくとして、他の三人があの石柱で殴られたら大怪我は避けられん、最悪即死だ。
決断。
「――『破岩逸衝』!」
左右の拳に練気を込めて、地面を抉るようなアッパー、それを連続で放ち――地中から巨岩を隆起させ、それらでゴーレムモドキを押し潰すように何度も放つ。
ゴーレムモドキは石柱で巨岩を破壊しようとするが、次々押し寄せる巨岩の波に手間取っている。――岩の質量で押し潰すのも無理だろうなとは思っていた、有効ならラッキー程度。
結界を解除して、
「みんな、逃げるぞ」
「「「えっ!?」」」
まさか俺の口から"撤退"が出るとは思っていなかったのか、三人が驚いている。
「戦術的撤退、この撤退は計算の内……つまり、『逃げるが勝ち』だ!」
嘘です、ほんとは撤退なんて考えてませんでした。
「こっちだ!」
俺の誘導に、リザ、レジーナ、ナナミは慌てながらも走ってついてくる。
………………
…………
……
さて、どうにかあのゴーレムモドキを巻いて、とりあえずの安全地帯を確保したところで、休憩。
ぜーはーと荒い呼吸のまま、リザとレジーナは座り込み、ナナミは恥も外聞もなく仰向けに大の字になって倒れ込んだ。そのスカートの丈だとパンティ見えちゃうよ?
「はぁ、はぁ、ど、どうにか、はぁ、巻いた、ようですね、ふぅ……」
レジーナは呼吸を落ち着かせる。
「こ、こんなに走ったの、久しぶりですぅ……」
リザもぐったりだ。
「ぜー……はー……ぜー……ここ、どの辺……?出口、どこ……?」
ナナミは起き上がって座り直す。
「けっこう奥に進んだと思うんだが……まだダンジョンのボスは見当たらないな」
早いところ、ボスがいるんならさっさと見つけて瞬殺し、地上に戻りたいんだが……
「アヤトさん……あのゴーレムは一体何なんでしょう……?」
呼吸が落ち着いたリザは、改めてゴーレムモドキの脅威を思い出して不安げになる。
「ま、まさか、亡霊の類では……!?」
相手がオバケだと思ったのか、レジーナが戦慄する。
「レイスならあんなバカでっかい石柱を振り回す真似は出来んだろう。そもそも実体はあったしな」
「うーん、でも、ゴーレムかって言うと、なんか違うと思うんだよね……」
話に混ざってきたナナミも一緒に考え込む。
「ゴーレムっていうか、なんかスライムっぽいし……でもその、アヤトくんのレーダー?センサー?サーモグラフィー?には、何の反応も無いんだよね?」
レーダーにセンサーにサーモグラフィーって……ナナミ、君は俺を何だと思っとるんだ。
「言いたいことは分かる。あいつが一体どういう魔物かを読み取ろうとしても、全く何も分からなかった」
読み取ろうにも、"データがそこに無い"のだ。
前にヴァレリオ霊峰で、ハイリング草を読み取った時のように、物質の塩基配列とも言うべきものが、あのゴーレムモドキには無かった。
物理的に存在しないのに実体があると言う、物理法則無視とかそんな簡単な話ではない。
実体があるからとりあえず幽霊とかではないだろうな、と名言しておくことでレジーナを落ち着かせておく。
「ただ分かることがあるとすれば、明確な殺意を持って俺達に襲い掛かってきている……と言うことぐらいか。ダンジョンの自然発生にも何か関係しているのかもしれないが……」
あと、気配探知に引っ掛からないからどこから来るか分からんのもな。
そこに、リザが挙手した。どうぞ。
「試していないのですが、氷属性なら有効じゃないですか?」
「ふむ、氷属性か」
「雷が効かないなら、恐らく火も効かないと見てもいいはずです。氷属性なら、あの水飴状の身体を凍らせることが出来るのではないかと、思いまして……」
ですが、とそこへレジーナも口を挟む。
「水飴状と言いましたが、あの身体に本当に水分があるのかどうかは不明です。氷属性魔法を試す価値はありますが、これも無効化される前提で構えましょう」
効かなかったことも考えるべきだと、レジーナは言う。
そこへ、うーんうーんと唸っていたナナミも。
「アヤトくんはさっき、土属性の魔法であのゴーレムを足止めしてたんだよね?」
「正確には属性魔法じゃなくて、打撃技による地形攻撃だな。あいつ自身に物理攻撃は通じなかったが、足止めぐらいは出来るようだな」
「つまり、押し潰すことは出来ないけど、すり抜けることも出来ないってこと?」
「どう言う仕組みかは分からんが、どうやらそうらしいし、石柱を武器にしているのも、恐らく奴自身に攻撃力は無いんだろう、多分だから確定じゃないが」
「そっか。……後は、どのくらい重く出来るか、かな」
ブツブツと何か呟くナナミ。
「何を考えているんだ?」
「あ、んーとね……もしかしたらなんだけど、」
しかし突然、ズガァンッ!!と言う轟音が近くに響いた。
「ちっ、もう追い付いて来やがったか。全員、戦闘体勢!」
俺の号令に、リザとレジーナはすぐに戦闘態勢を取り、ナナミはオタオタしながらも魔筆を構えようとしている。
崩れた壁の向こうから現るは、石柱を手にしたゴーレムモドキ。
さて、ゴーレムモドキ攻略戦、開始だ。
咆哮を上げながら石柱をぶん回してくるゴーレムモドキの攻撃を躱して、
「――フリーズハンマー!」
リザのフリーズハンマーが放たれ、氷塊がゴーレムモドキに叩き込まれるが、やはり効果らしい効果は望めず、フリーズハンマーの氷塊は呆気なく明後日の方向へ弾き飛ばされた。
「ダメでしたか……うぅんっ、想定済み!」
落胆するリザだが、すぐに切り替えるように頭を振る。
「ならば……――スロウリィ!」
レジーナは鎖鎌を飛ばさず、遠隔でスロウリィをゴーレムモドキに叩き込むが、これも効果が無かった。
「くっ、どうすれば……っ」
歯噛みするレジーナ。
「氷魔法もデバフ技もダメ……自信は無いけど、やるっきゃない!」
するとナナミは意を決したように魔筆を握り締めると、
「みんな!出来るだけあいつを引き付けて!」
ゴーレムモドキの注意を引いてくれと頼むナナミ。さっき俺に何か言いかけたことを試すようだな。
「あぁ、任された!」
何をするかは分からんが、今はナナミを信じよう。
積極的にゴーレムモドキの前に躍り出て、ソハヤノツルギの魔法剣――風属性のそれを連発して放つ。
やはり風属性も効かないが、ゴーレムモドキは俺に向かって石柱を振り降ろしてくるので、軽く飛び下がって躱して。
よーし、いい子だそのまま俺を見ろ。
「――ロックブレイク」
続いて土魔法のロックブレイクを発動、ゴーレムモドキの周囲の地中を隆起させ、石柱を振り回しにくいように取り囲ませる。
「ならわたしも……『ストーンブラスト』!」
リザも土属性の初級魔法で続き、ロックブレイクの隙間を埋めるように石の飛礫を放つ。
「せめて狙いを分散させるくらいには!」
レジーナは鎖鎌を西部劇のローピングのようにブンブン振り回して勢いよく投げ放ち、ゴーレムモドキの石柱にぶつける。
当然鎖鎌は弾き返されるが、ゴーレムモドキを右往左往させて判断に迷わせることには成功する。
「リザ!土の魔法を叩き込み続けろ!奴をこのまま押さえ込む!」
「分かりました!――ストーンブラスト!――ストーンブラスト!――ストーンブラスト!」
リザは連続でストーンブラストを放ち、石の飛礫を次々にゴーレムモドキの周囲に積み重ねていく。
俺も断続的なロックブレイクで、ゴーレムモドキに対して岩の包囲網を敷く。
ゴーレムモドキは石柱でロックブレイクやストーンブラストの包囲網を破壊していくが、壊した端から新たな包囲が組み上がるので、身動きが取りにくくなっていく。
「……ナナミ!まだか!?」
「も、もうちょっと、待って……!」
ナナミは何やらバカでっかいフライパン?みたいなものを描いているが、中々実体化出来ないらしい。
「あ、あとちょっとでっ、いけそうなのにぃ……っ!」
何を実体化させようとしているかは検討つかないが……まさか、そのために必要な魔力が足りないのか?
閃け俺の頭脳!ギュピーンッ!!
「レジーナ!自分の魔力をナナミに分け与えることは出来るか!?」
「魔力の、分け与え……?やってみます!」
俺の言わんとすることをすぐに理解したレジーナは、鎖鎌を回収して、ナナミの元へ向かう。
「ナナミさん、失礼します」
レジーナはナナミの肩に手を置き、ポワ、と掌を輝かせ――
「おっ、おっ?キタキタキタッ、これならいけるっぽい!?」
どうやらいけるっぽいらしい。咄嗟の思い付きとは言え、ナイス俺、そしてそれを実行してくれたレジーナもナイス!
「ア、アヤトさん!こっちをっ、手伝ってください……!」
おっと、ナナミとレジーナの方に目を向けてる場合じゃない、ゴーレムモドキが岩の包囲網から抜け出そうとしており、リザ一人では包囲が追い付かないようだ。
急いで包囲網を再構築し――いかんっ、このままでは抜けられ……!
「おっ待たせぇーーーーーー!!」
ナナミの声が響く。
間に合ったか!
「ナナミさん……本当に大丈夫なんですか?」
「大丈夫じゃないけど、大丈夫!」
……何だかレジーナの不安げな声も聞こえるが、はてさてナナミは一体何を描いていたのか?
――フライパン、じゃないな……分銅?しかもなんか、表面に『1000t』って描かれているし……
ま さ か ?
「喰らえ!1000トンクラーーーーーッシュ!!」
なんちゅー安直なネーミングだ、1000トンクラッシュて。
すると、クソデカ分銅が実体化、勢いよく放たれ、岩の包囲網から抜け出そうとしたゴーレムモドキにぶつかり……
グォアァッ!?と初めてゴーレムモドキが苦しむような声を上げ――何故か知らんが突然全身が黒くなり、クソデカ分銅にその身体を押し潰されそうになっている。
リザのフリーズハンマーすら全く効かなかったのに?
「やったっ、多分効いてる!」
ナナミが実体化したクソデカ分銅を読み取り――どうやらあの分銅、本当に1000トンの重質量があるんじゃなくて、1000トン分の重さがあるように思わせるためなのか、重力属性を纏っている。
――重力属性?何故奴は重力属性が有効なんだ?
まぁいい、弱点が重力属性なら話は早い。
「レジーナ!重力魔法を使うんだ!」
「はいっ!」
指示に従い、レジーナはすぐに詠唱し――
「――『アースクエイク!』」
重力属性の中級魔法のそれを放つと、1000トン分銅の下でもがいているゴーレムモドキの地面がひび割れ、奴の足元が激しく震動する。
1000トン分銅とアースクエイク、上と下から重力属性のサンドイッチにされ、ゴーレムモドキが悲鳴のような咆哮を上げる。
よーし、こうなったらこっちのものだ。
無影脚でゴーレムモドキの頭に回り込み、高濃度の重力属性を拳に纏わせて――
「しぃずめぇぇぇぇぇェェェェェーーーーーッ!!」
喰らえ必殺、ギガンティックアヤトパー
ン?
――ドウシテ ナゼ ミステナイデ オイテカナイデ タスケテ コンナノイヤダ ヤメテクレ ワスレチャイヤダ イツマデココニイナキャイケナインダ オワラナイヨ ツライ クルシイ オレハ ボクハ ワタシハ アタシハ
ナ ン ノ タ メ ニ ウ マ レ テ キ タ ノ ?
……チ!!
重力を纏った拳の一撃をゴーレムモドキの顔面っぽい部分にぶち込む。
今度はよく分からない跳ね返され方をすることもなく、ギガンティックアヤトパンチが奴の顔にめり込み、
バヂヂヂヂヂュンッ、と奇妙な音を立てながら身体のあちこちが破裂し、跡形無く消滅した。
ゴーレムモドキ、多分撃破だ。
「……倒せたようですね」
レジーナはアースクエイクを止め、ナナミの1000トン分銅も消失した。
「はっ、はぁーーーーー……良かったぁ……」
ナナミも安堵してその場で座り込む。
リザもふぅと一息ついて。
俺もちょっと休みたいけど、その前にナナミに訊きたいことがある。
「ナナミ、まさかとは思うが、奴の弱点が重力属性だって分かっていたのか?」
「え?うぅん、知らないけど?」
知らんのかーい?
「だったら、どうしてあの場で重力属性攻撃を仕掛けようと思ったんですか?
気になっていたらしいリザも話に混ざってくる。
「んー……重力属性っていうか、土属性の攻撃なら足止め出来るってとこから、『岩より重い攻撃なら効くんじゃない?』って思ったの。それで1000トンくらいの重さがあれば……と思ってやってみて、私だけじゃちょっと魔力が足りなかったから、レジーナさんに手助けしてもらって、なんとかなった……って、感じ?」
「つまり……ただ重いだけの鉄の塊を実体化しようとしたら、偶然重力属性を纏わせていた、と?」
レジーナの問い掛けに、ナナミは「えーっと、多分?」と自信無さげに頷く。
さすが異世界転生者、ご都合主義は日常茶飯事だな。
「まぁなんであれ、おかげで奴の攻略法が分かったんだ。ファインプレーだぞ、ナナミ」
「え、えへへ……アヤトくんに褒められた」
ナナミが照れてる。かわいい。
「ってそうだ、照れてる場合じゃないよ、出口は……?」
おっとそうだ、あいつを倒して終わりじゃない、このダンジョンから脱出しないと。
「もう脅威はいないはずだ。ちょっと待ってろよ……」
ちょーっと探知の出力を高めて、このダンジョンの内部情報を読み取る……あ、これか?すぐ見つかった。
「こっちだな」
探知が示す方向へ向かうと、どうやらここがダンジョンの最奥部のようで、旅の扉らしい魔法陣を敷いた石段を見つけた。
「旅の扉!これで帰れるんじゃない?」
やっと帰れる、とナナミは喜ぶが、ちょっと待ちなさい。
「待てナナミ。もしかすると、次の下層に移動するためのモノかもしれないぞ」
「あっ、そっか……」
緊張を解きたい気持ちは分かるが、もうちょっと我慢してくれ。
旅の扉の性質を読み取って……うん、地上に出るタイプだな。
「大丈夫な奴だ。さぁ、帰るとしようか」
まずは俺が率先して魔法陣に乗り込み――シュンッ
シュンッ――
っと、ここはフローリアンの森……それも、ちょうどダンジョンの穴が広がっていた地点だな。
続いてリザ、レジーナ、ナナミの三人も戻ってきて。
「あー!帰ってこれたぁー!」
太陽まぶしー!と思い切り背伸びするナナミ。
……と、言いたいところなんだが。
「ナナミ、終わった気でいるところ悪いが、まだ依頼は終わってないぞ?」
「え?……あっ、そうだった」
そう。
ナナミが受けた依頼はあくまでも薬草採集だ。
あのダンジョンのゴーレムモドキとの戦いで、すっかり依頼を達成した気分でいたようだ。
このまま帰ってもまだ報酬は受け取れない。
「もう少しですから、頑張ってください、ナナミさん」
「たとえ小さな依頼でも、きちんと契約が交わされていますので、最後までやり遂げられますよう」
リザとレジーナの後押しを受けて、ナナミは「うへー、やっぱり冒険者稼業は楽じゃなーい」とかぼやきながら、残る薬草の採集に向かっていった。がんばれがんばれ。
無事に指定数の薬草を採集し終えたところで、フローリアンの町に帰還し、今日は受付嬢として働いているクロナに薬草を確認してもらい、
「依頼達成、おめでとうございます♪」
クロナの営業スマイルと共に『依頼達成』の印を押され、報酬金の詰まった袋を受け取るナナミ。
「ほわぁ……こ、これが報酬金……!ありがとうクロナさん!」
「いえいえ、依頼を完遂したのはナナミさんですから」
早速、目を輝かせて袋の中の現金を確かめるナナミだが……
「……薬草採集ならこんなもんだよね、はは……」
ちょっと期待し過ぎたのかもしれない。
はした金、とは言わないが、冒険者の報酬としては最低額だ。
まぁ、初依頼と言うにはとんでもないことになったし……
「よーし、んじゃナナミの初依頼達成祝いに、俺が何か好きなものを買ってやるとしようか」
「えっ、マジ!?アヤトくんマジ神!」
俺が財布になってやると言えば、即座に食い付いたナナミ。現金な奴め。
何買ってもらおっかなー、と上機嫌なナナミをよそに、リザとレジーナはクロナに例のダンジョンのことを報告していた。
「まぁ、そんなことが……二人とも大変だったのね」
「はい、アヤトさんの攻撃すら通じなくて、どうしようって思いましたけど……」
「ナナミさんの機転……いえ、偶発的なものですが、そのおかげで討伐することが出来ました」
結局、あのゴーレムモドキの正体は分からず終いだったし、素材も何も残らなかったから、本当にいたのかどうかの証拠も得られなかった。
それに……ギガンティックアヤトパンチをぶち込む寸前、ゴーレムモドキから、人の嘆きのような幻聴が聞こえたような気がした。
………………嫌な想像だが、あのゴーレムモドキは、エタったまま存在を忘れられたオリキャラ達の、恨み辛みが寄り集まった怨念体だったのかもしれない。
ナナミをダンジョンに引き摺り込むような形になったのも、転生者として恵まれた力を持っていた彼女を妬んで……と言う逆恨みもあるのかもしれん。
同時に強い時空の歪みを感じたのは、本来存在する時空に横から割り込むような形でダンジョンが発生したからだろう。
……となると、あのダンジョンは、"ここ"と次元が異なる限定的な異世界空間だったのか。
ゴーレムモドキに攻撃らしい攻撃が一切通じなかったのは、ダンジョン内と言う次元の中に、奴の存在が固定されていなかった……と見るべきか?オカルトとかホラーの話になってきたな。
では、何故重力属性だけが有効だったのかと言えば……魔法的に重力を発生させると言うことは、ある種"自然現象"を捻じ曲げることに等しいと言ってもいい。
自然現象を捻じ曲げる……つまり、次元の理を揺るがすこと。
ナナミが実体化させた1000トン分銅のような、強力な重力属性をぶつけて次元を捻じ曲げることで、この次元に固定されていない奴を、俺達のいる次元の中に引き摺り込むことが出来たのだろう。
……うん、我ながらむちゃくちゃな説明だ。ぶっちゃけこじつけに等しい。
けれど、こんなむちゃくちゃな説明でもなければ、理解はともかく、納得が出来ん。
……俺達の集団幻覚や白昼夢と処理される可能性もあるか?
……後でオルコットマスターにだけでも、今回のことを纏めて提出しとこう。あの方なら無碍にはせんだろ。
「アーヤートーくーん!早くいこうよー!」
俺の手をぐいぐい引っ張って買い物に行こうとするナナミ。
「はいはい、行きますよ」
あんな大変なことの後なのに、元気だなぁ。
0
お気に入りに追加
41
あなたにおすすめの小説
最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした
服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜
大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。
目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!
そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。
まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!
魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!
異世界で穴掘ってます!
KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・
『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる
農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」
そんな言葉から始まった異世界召喚。
呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!?
そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう!
このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。
勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定
私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。
ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。
他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。
なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。
英雄召喚〜帝国貴族の異世界統一戦記〜
駄作ハル
ファンタジー
異世界の大貴族レオ=ウィルフリードとして転生した平凡サラリーマン。
しかし、待っていたのは平和な日常などではなかった。急速な領土拡大を目論む帝国の貴族としての日々は、戦いの連続であった───
そんなレオに与えられたスキル『英雄召喚』。それは現世で英雄と呼ばれる人々を呼び出す能力。『鬼の副長』土方歳三、『臥龍』所轄孔明、『空の魔王』ハンス=ウルリッヒ・ルーデル、『革命の申し子』ナポレオン・ボナパルト、『万能人』レオナルド・ダ・ヴィンチ。
前世からの知識と英雄たちの逸話にまつわる能力を使い、大切な人を守るべく争いにまみれた異世界に平和をもたらす為の戦いが幕を開ける!
完結まで毎日投稿!
欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します
ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!!
カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。
異世界転生~チート魔法でスローライフ
リョンコ
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
地獄の手違いで殺されてしまったが、閻魔大王が愛猫と一緒にネット環境付きで異世界転生させてくれました。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作、面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
高橋翔は地獄の官吏のミスで寿命でもないのに殺されてしまった。だが流石に地獄の十王達だった。配下の失敗にいち早く気付き、本来なら地獄の泰広王(不動明王)だけが初七日に審理する場に、十王全員が勢揃いして善後策を協議する事になった。だが、流石の十王達でも、配下の失敗に気がつくのに六日掛かっていた、高橋翔の身体は既に焼かれて灰となっていた。高橋翔は閻魔大王たちを相手に交渉した。現世で残されていた寿命を異世界で全うさせてくれる事。どのような異世界であろうと、異世界間ネットスーパーを利用して元の生活水準を保証してくれる事。死ぬまでに得ていた貯金と家屋敷、死亡保険金を保証して異世界で使えるようにする事。更には異世界に行く前に地獄で鍛錬させてもらう事まで要求し、権利を勝ち取った。そのお陰で異世界では楽々に生きる事ができた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる