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砕かれた平和

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 数刻前。
 妻子と共に畑にいたベンは、村に怪しげな旅団がやって来るのを見る。

「あれは……」

 武装した上から黒衣を纏う、物々しい集団。
 村人の一人が駆け寄ってきた。

「村長。なんかあの怪しい奴らが、「アルフレッド・ギャレットはいないか」って訊いてきてるんだ」

「アルフレッド・ギャレット……?アルフ先生のことでしょうか」

「どうする村長、あいつら多分普通じゃないぞ……」

 盗賊か、冒険者かぶれの破落戸ならずものか。
 どちらにせよ、お帰りいただく他にない。

 ベンはすぐに、伝えに来た村人を連れてその者らの元へ向かった。

「お待たせしました。私はこのサダルスウドの村長の、ベンと申します」

 すると、リーダーらしき男が黒衣をずらして顔を見せた。

「突然お訪ねして申し訳ない。我々は冒険者パーティ『シュヴァルツドラッヘ』。私は『シグルド』と言う者です。アルフレッド・ギャレットと言う男がこの村にいるはずですが、ご存知でしょうか?」

 今ここにアルフを連れてくればどうなるかなど、容易に想像つく。
 ベンは努めて自然体を取り繕った。

「アルフレッド・ギャレット?いえ、お聞きしたことのない名前ですね。村にも同じ名前の者はおりません」

 どうする、どこまで誤魔化せるか。
 ベン村長は背筋に冷や汗が流れるのを自覚しつつ、ボロを出さぬように取り繕い続ける。

「……そうですか。どうやら我々ののようです」

 咳払いをしてから、シグルドは話題を変えた。 

「我々は、アルフレッド・ギャレットなる男を探すために旅をしております。対価はお支払いしますので、野営と、物資の買い付けの許可をいただきたい」

「分かりました。野営も物資の買付も許可致しますが、村の中では武装を解除し、その黒衣も脱いでいただけますか」

「これは失礼。……武器を外せ。ローブもだ」

 シグルドは後ろにいる者達に、黒衣と武器を外すように命令する。
 武威を傘に一方的に略奪を行うような集団では無いようだが、何を引き金に武力行使に出てくるか分からない。

 この事をすぐにアルフとシャルに伝えなければ。



 事情を伝え終えたベン村長は、すぐに学問所を出た。
「今日の午後の授業は取り止めにし、決して外に出ないように」と言い付けて。  

 居住区に俺とシャルの二人だけになってから、俺は一度食後の紅茶を淹れる。
 まずは、落ち着こう。

 二人分のお茶を淹れて、シャルと一緒に席につく。

「お兄様……先程の、ベン村長が言っていたことって……?」

 シャルは不安げに俺に縋ってくる。
 ……これは、下手に安心させようとするのは逆効果だな。

「どうやらこの村に、俺のことを探している連中が来ているらしい」

「それは……!」

「あぁ……恐らく、ガルシア・ギャレットが放った追手だな。冒険者と言うことは、依頼を受けて俺を探しに来たってことだろう」

 なんとなくながらの当たりはつけている。
 父上……いや、ガルシアが、俺とシャルが生きてどこかへ行方をくらましたことを知ったか、あるいは悟ったか。
 しかし、俺(とシャル)がサダルスウドに腰を落ち着けていることをどうやって知ったのか。
 それも、ここでの滞在を始めて、まだ一週間ほどしか経っていないのに。

 詳しいことは知らないが、ガルシアの情報収集力を少し侮っていたようだ。

 ともかく、ベン村長に言われた通り、そいつらが村から去るのを大人しく待つべきだろう。

 今日の午後の授業を楽しみにしてくれている子たちには悪いが、余計な騒動を起こすわけにもいかない。

 ……胸騒ぎの正体は、この事だったのか?
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