上 下
65 / 76

アルフとクリスティーナ

しおりを挟む
 クリスさんは日当たりの良い空き地を俯瞰して、大体のアタリを付ける。
   
「この辺りに小さな畑を作りましょうか。それじゃぁ、まずは草刈りから」

 まずは鎌を使っての草刈りだ。
 クリスさんが手本を見せ、シュッと草を刈ってみせる。
 ふむ、草を掴んで真っ直ぐ伸ばし、滑らせるように鎌の刃を当てると。
 俺は早速、クリスさんの手本通りにやってみると、するりと草が刈られた。
 一方のシャルも、クリスさんの手本を真似して草を刈ろうとするのだが、俺のように上手く刈れないでいる。

「む、むむ……んん?」

 もしや鎌の刃が悪いのではとシャルは自分の持つ鎌を睨むが、もう一度クリスさんの草を刈る様を見て、再挑戦。
 今度はすんなりと刈ることが出来た。
 コツが要るな、これは。



 一区切りが付いたので、一旦休憩。
 刈り終えた草は籠に一纏めにして、天日干しした後は、家畜の餌として厩舎に送るのだそうだ。

「お疲れ様、アルフ先生」

 クリスさんは、水筒からお茶をコップに注いで、差し出してくれた。

「お疲れ様です。草刈りだけでも時間がかかるものですね」

 ありがたくお茶を受け取った俺は、ちまちまと飲む。

「草刈りで終わりではないわ。これから鍬を使って土壌を整えるから、大変なのはむしろこれからよ?」

「あぁ、腰とか疲れそうですね。シャルは何度か先行体験してるそうですが」

 ちなみにそのシャルは"お花を摘み"に自宅に戻っているので、今は俺とクリスさんだけだ。
 するとクリスさんは俺に近付いて小声で話してきた。
 シャルとはまた違う良い匂いがするし、しかも素晴らしい美人だし、俺ちょっと困ってます。

「ここだけの話にしてほしいのだけど……シャルさんってば、畑から出てきたミミズに驚いて、驚いた拍子に足を取られて背中から思い切り倒れちゃったのよ」

「ありゃまぁ」

 くすくす笑うように教えてくれるクリスさん。
 そりゃそうか、作物が育つ土壌なんだ、地中にミミズくらい普通にいるよな。

「とっても可愛らしい声で驚いてたわ、「ふぁにゃぁっ」って」

「俺も聞きたかったです、それ」

「ふふっ……」



 お花摘みから戻ってきたシャルは、アルフとクリスティーナの二人が、距離を縮めて仲睦まじそうに話している姿を、後ろから眺めていた。

「お兄様……」

 その光景を見て、シャルは「お似合いだ」と素直に思った。

 アルフは、身を粉にして自分のことを守り育ててくれている。 
 義妹が幸せになってほしいからと、ギャレット家から連れ出して、サダルスウドここまで連れて行ってくれた。

 けれど、それだけでいいはずがない。

 無力で何も出来なかった自分に、やり甲斐のある仕事を与えてくれて、村人達も余所者である自分達を暖かく迎えてくれて。

 だからこそ、アルフにも幸せになってほしい。
 その時、アルフの隣にいるのがクリスティーナであれば……

「(いいえ、それは今じゃなくてもいいはず……)」 

 今は、クリスティーナから畑の作り方を教わるべきだ。
 少しだけ心にわだかまりが残るのを自覚しつつ、シャルは二人に声をかけた。

「お待たせしました。お二人で何を話していたのですか?」

「ん?頼れるお義兄さんがいてくれる、シャルさんが羨ましいって話してたのよ。ねぇ、アルフ先生」

「そのクリスさんから羨ましがられて、俺はちょっと反応に困ってたところだ」

 クリスティーナの農作レクチャーは昼までだ。
 限られた時間で出来るだけ教わらなくては。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】初めて嫁ぎ先に行ってみたら、私と同名の妻と嫡男がいました。さて、どうしましょうか?

との
恋愛
「なんかさぁ、おかしな噂聞いたんだけど」 結婚式の時から一度もあった事のない私の夫には、最近子供が産まれたらしい。 夫のストマック辺境伯から領地には来るなと言われていたアナベルだが、流石に放っておくわけにもいかず訪ねてみると、 えっ? アナベルって奥様がここに住んでる。 どう言う事? しかも私が毎月支援していたお金はどこに? ーーーーーー 完結、予約投稿済みです。 R15は、今回も念の為

転生したら赤ん坊だった 奴隷だったお母さんと何とか幸せになっていきます

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
転生したら奴隷の赤ん坊だった お母さんと離れ離れになりそうだったけど、何とか強くなって帰ってくることができました。 全力でお母さんと幸せを手に入れます ーーー カムイイムカです 今製作中の話ではないのですが前に作った話を投稿いたします 少しいいことがありましたので投稿したくなってしまいました^^ 最後まで行かないシリーズですのでご了承ください 23話でおしまいになります

異世界転生したらよくわからない騎士の家に生まれたので、とりあえず死なないように気をつけていたら無双してしまった件。

星の国のマジシャン
ファンタジー
 引きこもりニート、40歳の俺が、皇帝に騎士として支える分家の貴族に転生。  そして魔法剣術学校の剣術科に通うことなるが、そこには波瀾万丈な物語が生まれる程の過酷な「必須科目」の数々が。  本家VS分家の「決闘」や、卒業と命を懸け必死で戦い抜く「魔物サバイバル」、さらには40年の弱男人生で味わったことのない甘酸っぱい青春群像劇やモテ期も…。  この世界を動かす、最大の敵にご注目ください!

病弱が転生 ~やっぱり体力は無いけれど知識だけは豊富です~

於田縫紀
ファンタジー
 ここは魔法がある世界。ただし各人がそれぞれ遺伝で受け継いだ魔法や日常生活に使える魔法を持っている。商家の次男に生まれた俺が受け継いだのは鑑定魔法、商売で使うにはいいが今一つさえない魔法だ。  しかし流行風邪で寝込んだ俺は前世の記憶を思い出す。病弱で病院からほとんど出る事無く日々を送っていた頃の記憶と、動けないかわりにネットや読書で知識を詰め込んだ知識を。  そしてある日、白い花を見て鑑定した事で、俺は前世の知識を使ってお金を稼げそうな事に気付いた。ならば今のぱっとしない暮らしをもっと豊かにしよう。俺は親友のシンハ君と挑戦を開始した。  対人戦闘ほぼ無し、知識チート系学園ものです。

乙女ゲームの断罪イベントが終わった世界で転生したモブは何を思う

ひなクラゲ
ファンタジー
 ここは乙女ゲームの世界  悪役令嬢の断罪イベントも終わり、無事にエンディングを迎えたのだろう…  主人公と王子の幸せそうな笑顔で…  でも転生者であるモブは思う  きっとこのまま幸福なまま終わる筈がないと…

【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?

つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。 平民の我が家でいいのですか? 疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。 義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。 学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。 必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。 勉強嫌いの義妹。 この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。 両親に駄々をこねているようです。 私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。 しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。 なろう、カクヨム、にも公開中。

【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断

Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。 23歳の公爵家当主ジークヴァルト。 年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。 ただの女友達だと彼は言う。 だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。 彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。 また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。 エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。 覆す事は出来ない。 溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。 そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。 二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。 これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。 エルネスティーネは限界だった。 一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。 初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。 だから愛する男の前で死を選ぶ。 永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。 矛盾した想いを抱え彼女は今――――。 長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。 センシティブな所へ触れるかもしれません。 これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。

義妹が大事だと優先するので私も義兄を優先する事にしました

さこの
恋愛
婚約者のラウロ様は義妹を優先する。 私との約束なんかなかったかのように… それをやんわり注意すると、君は家族を大事にしないのか?冷たい女だな。と言われました。 そうですか…あなたの目にはそのように映るのですね… 分かりました。それでは私も義兄を優先する事にしますね!大事な家族なので!

処理中です...