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彼の事情 No.3〔八野 深弦の場合〕

彼の事情 No.3〔八野 深弦の場合〕３

そうなると三春は静かに俺の元から去ってしまって別の子に誘われて遊びだしてしまう。
その後を追って再度声をかけようとしても避けられるのだ。
俺と居る事で他の子が寄ってくるのは三春にとっては本末転倒なのだろう。
本当は嫌なはずなのに
俺といればそんな気持ちにさせないのに。
三春が自分以外と一緒に居る事
俺はそれが死ぬほど嫌だった。
三春が他の子と遊んでいる姿を見るだけで心が沸々と熱く煮えたぎるような感情に晒される。
その子を独占していいのは自分だけだと、その子を理解出来るのは自分だけなのだと叫びだしたい衝動に駆られてしまう。

その時から三春は束縛されるのが嫌いだと気付いていたからそんな事は本人の前で言ったことはなかったけど
本当は自分の腕の中に閉じ込めて誰にも見せたくないくらいの感情を俺は当時から三春に持っていた。

そんな感じで同じ学区内にある小学校に上がった。
それでも俺は三春しか見えず、登下校や昼休みは絶え間なく三春と同じ時間を過ごした。
自分のそんな努力の甲斐あってか周りも理解したらしく
周りから俺たちは親友と言われるようにもなった。
名前も一文字違いだったからだろう
双子みたいだねと言われた時は心底嬉しかった記憶がある。
三春と同じ時間を共有できている喜びで胸がいっぱいだった。

「三春、帰ろう」

「うん」

クラスが別れても俺は三春を教室まで迎えに行くのが日課となっていた。
その度に三春の教室はざわざわとした波を欹てる。

（やめてほしいな…三春が嫌がる）

自分がモテると自覚し始めたのがその時期だった。
小学校４年にもなると異性というのにも意識が向きだす頃だ。
男子はまだいい。その自覚がまだ出来ない奴が多いけど
女子は違う。
放課後に呼び出されて告白をされる事が多くなってきた。
露骨に拒否をすると泣かれるのが嫌で優しく接するように断る。
自分にはまだそういうのは分からないと理由を付けて。
告白を受けているとき、この子が三春ならいいのにと思っているのに。本当はそういう気持ちが分からないわけじゃない。
ただ違うのだ。
俺が求めているのは三春だけ。
三春の言葉だけが俺の心を動かす。
当の三春が自分の事をどう思っているのか知りたくないわけじゃない。
親友と言われているけど、三春は俺との関係をどう思っているのか知らない。
でも今は曖昧な関係でいいと思っていた。
まだ早い。
自分たちがもう少し成長して、三春が俺の事を意識するように仕向けて
初めてお互いの気持ちを確認しようと決めていた。