□ベストアンサー□

ハタセ

文字の大きさ
上 下
8 / 28
彼の事情 No.1〔桜崎 圭の場合〕

彼の事情 No.1〔桜崎 圭の場合〕2

しおりを挟む
それから吉野先輩を高丸商事まで送り届け、お互いに手を振り別れたけれど俺はまたクラブへと足を向ける気にもなれず
何となく振り返ってみた時
彼がまだそこに留まり、廃ビルの1番天辺を見上げていたのを目撃してしまったのだ。

俺は瞬時にさっきの叔父の話は嘘だと悟った。

「この俺を騙してくれちゃって…」

案の定、彼はその廃ビルの中へと姿を消した。
そして俺も、気付いたらその跡を追っていた。

単純に興味が沸いたのだ。

「………なにしてんのか分かんねー」

屋上へと着いた彼は鍵の掛かっている扉をバールで無理やりこじ開け、今は屋上の1番端にあたる位置に腰を降ろして呑気におにぎりを頬張っている。
初めは自殺でもすんのかと思っていたが、今から自殺を謀る人間が生にしがみ付くような、ましてや食事なんかするわけがないとその予想は即座に却下した。
最後の晩餐がおにぎりとか俺だったら嫌だし。

彼に気付かれない位置で俺も腰を降ろす。

10分、20分と時間が静かに流れて行く。

俺もそろそろ飽きてきてもう帰ろうかと思ったその時、彼がいきなりその身を低くして屋上の端から地面を覗き込んだのだ。

その僅か10秒後くらいに静寂が支配していた空間にけたたましい程のバイクのエンジン音が鳴り響いた。

様子を窺ってみると、どうやらここら辺を締めるチーム同士の小競り合いらしい。

「縄張り争いか」

俺はそんなものに全く興味はなかったし、そのチームに知り合いも居たので早々に立ち去りたい気持ちに駆られた。
無駄な時間を過ごしてしまったと半ば呆れ返りながら踵を返そうとしたが
一点に集中し微動だにしない彼が視界に入った。

見ているのは確かに俺と同じただの喧嘩のはずなのに
彼はそれを見て笑うでもなく怒るでもなく悲しむでもなく、ましてや俺のように呆れるわけでもなく、
ただただ無表情のままその喧嘩を眺めていたのだ。

はっきり言って異常だと思った。

野次馬として見に来ているだけならまだ分かる。
今までにもチームに憧れてる奴や、怨んでいる奴、利用しようとする奴、単純に喧嘩を見たい奴、色んな人間を俺は間近で見てきたから。
でもそれとも違う雰囲気に呑まれ、気付いたら俺はまたその場に腰を降ろしてしまっていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

平凡な俺、何故かイケメンヤンキーのお気に入りです?!

彩ノ華
BL
ある事がきっかけでヤンキー(イケメン)に目をつけられた俺。 何をしても平凡な俺は、きっとパシリとして使われるのだろうと思っていたけど…!? 俺どうなっちゃうの~~ッ?! イケメンヤンキー×平凡

堕ちた父は最愛の息子を欲に任せ犯し抜く

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

学園王子と仮の番

月夜の晩に
BL
アルファとベータが仮の番になりたかった話。 ベータに永遠の愛を誓うものの、ある時運命のオメガが現れて・・?

同室の奴が俺好みだったので喰おうと思ったら逆に俺が喰われた…泣

彩ノ華
BL
高校から寮生活をすることになった主人公(チャラ男)が同室の子(めちゃ美人)を喰べようとしたら逆に喰われた話。 主人公は見た目チャラ男で中身陰キャ童貞。 とにかくはやく童貞卒業したい ゲイではないけどこいつなら余裕で抱ける♡…ってなって手を出そうとします。 美人攻め×偽チャラ男受け *←エロいのにはこれをつけます

鬼ごっこ

ハタセ
BL
年下からのイジメにより精神が摩耗していく年上平凡受けと そんな平凡を歪んだ愛情で追いかける年下攻めのお話です。

隣/同級生×同級生

ハタセ
BL
輪廻転生モノです。 美形側が結構病んでおりますので病んでる美形が好きな方には是非読んで頂けると有難いです。

どうやら手懐けてしまったようだ...さて、どうしよう。

彩ノ華
BL
ある日BLゲームの中に転生した俺は義弟と主人公(ヒロイン)をくっつけようと決意する。 だが、義弟からも主人公からも…ましてや攻略対象者たちからも気に入れられる始末…。 どうやら手懐けてしまったようだ…さて、どうしよう。

前世から俺の事好きだという犬系イケメンに迫られた結果

はかまる
BL
突然好きですと告白してきた年下の美形の後輩。話を聞くと前世から好きだったと話され「????」状態の平凡男子高校生がなんだかんだと丸め込まれていく話。

処理中です...