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【№1:Kranke】
しおりを挟む「初めましてマスター。わたくしはシュアと申します。この度はサイエンスファクトリー社製造のAZ-S型9008機をお買い上げ頂き誠に有難うございます。この出会いにシュアは心からの感謝を致します。これからのお付き合い、何卒宜しくお願い致します。」
「人違いです」
「ええ…?」
何の手違いか、何故か今、一人暮らしをしている俺の家に家政婦型アンドロイドが自宅訪問をしに来た。
家政婦とは言っても男モデルだ。
しかも嫌味なくらいの美形に造られてやがる。
ブロンドの髪の毛は後ろで綺麗にひとつに束ねられており、前髪は目に掛からないくらいの長さで右側に少し分けられている。
目なんて硝子玉みたいに透き通ったように青い。
つーか、アンドロイドだからマジで硝子玉で出来ているのかもしれない。
しかも長身だ。
俺で170あるからコイツは180以上に違いない。
大方、英国紳士風に造られたのだろう。
まぁ製造元がサイエンスファクトリーなら間違いなくメイドイン ジャパンだが。
ヨレヨレのTシャツに半パンの今の自分の恰好と比較すると泣けてくる。
アンドロイドだからってこんなに完璧に仕上げなくてもいいだろうが畜生め。
だいたい今の世の中発達しすぎてて気持ちがついていけない。
少し前までトウモロコシの油で車が走ったかと思えば、すぐに水で走る車が出来上がり、ついにはもうすぐ陸、海、空、この全てを走れる車まで出現するらしい。
今では人間と同じ知能を持ち合わせたアンドロイドが町の中を普通に歩いてるような現状だ。
そのアンドロイド制作会社の中でも最もロボット工学の歴史が長く尚且つデカイ会社がサイエンスファクトリーであった。
とは言っても、俺はアンドロイドを買うような大金を持ち合わせては居ないし、そもそもアンドロイドなんて買ってもいないのだ。
一人暮らしでも俺は充分一人で生活出来るくらいのスキルは持っている。
あれだろ?カップにお湯注いで3分待てばいいだけだろ?
ほらな、全然自炊出来るし、ロボットなんて俺には必要のない代物なんだよ。
「あの、ひとつご確認してもよろしいでしょうか?」
「はい、どーぞ?」
「こちらは【コーポ青井205号室】で宜しいでしょうか?」
美形アンドロイドがそう問うので俺は頷いた。
「そうだけど…ちょっと受取人の氏名確認してもいいか?あ、でも個人情報保護法うんぬんとかでダメなわけ?」
「あ、いえ確認の為なら大丈夫だと思います。こちらです。」
差し出された一枚の用紙には
受取人
山田 太郎様
と書かれていた。
「誰だよ…」
俺は頭を抱えた。
「えっと…取りあえず大屋さんに確認して来ていいか?俺ここに引っ越してきてまだ一週間くらいだから前の住人の宅配物かもしんない」
「そうでしたか。畏まりました。では、ご確認が取れるまでこちらでお待ちしても宜しいでしょうか?」
「ああ」
取りあえずアンドロイドは玄関の前に居てもらい、俺は大屋に電話を掛ける事にした。
「あ、朝からすいません。205号室の佐奈ですけど。ええ、実は…」
今の状況を大屋に説明して、俺の部屋の前の住人の話を聞いてみたところ、名前は山田ではなく吉川と言う人が住んでいたらしい。
隣人も山田と言う人は居ないのでやはり何かの手違いなのだろうと言われた。
もしかしたら偽名を使っていたのかもしれないと大屋がそう言うが、
まぁ確かに山田 太郎なんて偽名以外で見たことないよな。
とにかく、大屋にはアパートでのトラブルではないのでそちら側で処理してほしいと言われてしまった。
技術が進歩した分、逆に人と人との繋がりが稀薄になっているような気がしてならない。なんとまぁ世知辛い世の中になってしまったもんだ。
本音はくそめんどくせー事になったなと思った。
「えーと…取りあえず今ここに住んでるのは俺なんでお引き取り願えますか?」
アンドロイドに声を掛けると落ち込んだようにうなだれてしまった。
「それは、困りました…」
「なんで?」
「もう既に私共の会社にお金が振り込まれてしまっているのです。山田 太郎様に繋がる手懸かりはこのお部屋だけなので、今当社にシュアを返品されても山田 太郎様にご返金が出来ません。」
前払い制かよ。
まぁでもこんな精密機械なら仕方ないか。
住所はココで間違いないのに住んでるのは山田じゃなくて俺。
あとは口座番号とか携帯番号とか分かれば山田に繋がるはずなんだが…
「あ~…それは大変ですねー…。えっと、じゃあ電話番号とかは?家の電話じゃなくても山田って人の携帯くらいは知ってるんですよね?」
「それが…佐奈様が…あっお名前は佐奈様が先程大屋様にお電話をお掛けしてくださっている際に聞いてしまいました。申し訳ございません…。」
「いや、それは別にいいけど」
「ありがとうございます。それが、佐奈様がお電話中にシュアから山田 太郎様の携帯にお電話をしたところ…現在使われておりませんとのアナウンスが流れてしまいまして…。」
「へ…へぇ…」
最近では電波の届かない所が無いため携帯を解約しているか、今現在地中深くに居るか以外で相手と繋がらないと言う事はありえなかった。
(地下に居たとしても下水道辺りまでなら電波届くしなぁ…こりゃ解約が妥当なとこか)
「えーーーと…じゃあもう返品扱いで出すとかでいいんじゃないですか?金はその山田 太郎さんって人が返金を要求してくるまでそっちで預かるとかして…とにかく不都合が起きたなら向こうから連絡くるんじゃないですかね?」
「それもそうなのですが…」
「…つーか、アンドロイドの受け渡しって宅配業者がやるもんじゃないの?」
混乱している俺はついついタメ口を聞いてしまっている事にも気付かなかった。
「いえ、私共は精密機械なので厳重に受け渡しを行わなければなりません。その為には業者に委託するのではなく、私共の社員自らが宅配作業を行っております。」
ほほう?
「とすると、さっきまではお宅の社員の人が一緒に居たと?」
「はい。お客様のお宅まではアンドロイド用送迎車で運んで貰います。」
「なるほどねー」
委託しない代わりにコストは浮くし運搬中に万が一故障してもすぐに直せるように車が改造されているのかもしれない。
何より客本人を遠目からでも見れるわけだから会社としては、まぁ色々とデータが取りやすいわけだよなー。
「さっき電話したって言ってたけど、携帯持ってんの?」
「はい。マスターと担当の者の連絡先だけが入っております。」
「それだ!今から担当に迎えに来て貰って事情説明すればいいじゃん。流石にクレーム処理とかもしてるだろうからどうにかしてくれるだろう」
「…そうですね、一回確認の為にも連絡を取ってみます。」
一先ずこれで安心した俺はもう関係ないとばかりに玄関の扉を閉めようとしたら
それをアンドロイドの彼の手によって止められてしまった。
「えっと、…まだ何か?」
「こちらの確認が取れるまで一緒に居てもらえませんか?」
「いや、俺関係ないし」
「そこをどうにか、お願い出来ませんか?」
「んなコト言われても…」
「不安なんです!」
「ッ!」
うわ、ビックリした。
アンドロイドって言っても声の出し方は人間と変わらないんだな。
大声を出されてつい驚いてしまった。
「…へー、ロボットでも不安なんてもんあるの?…あ!…悪い、今のは失言だったな…」
「いえ…」
いくらロボットでも彼等はこの世で最も人間に近い存在だ。
アンドロイド自体に知識欲はないが、データの集合体だ。常に情報のアップグレードも提供されている。
最近では子供に恵まれない家庭がアンドロイドを養子として迎え入れ一緒に生活を共にしている事も少なくはない。
特にご老人世代のアンドロイド普及率はどの世代よりも群を抜いて高い。金もあるからホイホイと買っていく。
文句も言わずただ人間を愛する事だけを特化させたアンドロイドはすぐにこの世界に馴染んでしまった。
そりゃ便利だし危険性は極めて少ないし介護もしてくれるとなればこの堕落しきった世界では重宝されるだろう。
「分かったよ。ここに居ればいいんだろ?」
「あ、はい、ありがとうございます。」
よっこいしょっと玄関先に座り込むとアンドロイドは安心したのかホッと息をはいた。
(こうして見るとホント人間と変わんねー)
どこか違うとこを探してみても全く分からない。
見た目でアンドロイドと人間を区別するにはもはや首の裏側にあるバーコードで確認するしか方法がない。
怪我とかしても血は出ないけど皮膚の下はシリコンが入っているためまるで肉そのものだし。
固さも人間と同じで柔らかいし温かい。
小学生の時に見学に行った工場ではアンドロイド用の服を制作する過程をやっていた。
そこで実際にアンドロイドに着させていたところを特別に触らせてもらった事があるが、本当に人間と変わらなかった。
唯一違うのは脈がないことだけ。
心臓の部分は人間と同じようにドクドクと鼓動していたがアレがきっと核部分なのだろう。
ご飯も食べるし、排泄だってする。
勿論そのON/OFFは出来るのでアンドロイドを本当の人間として接したい人だけその機能を活用させている。
今ではその技術も進んで最近ではアダルトタイプのアンドロイドだって発売している始末だ。
ノーマルタイプのアンドロイドよりも値が張るみたいだがこれがなぜか売れている。
精子が出るわけじゃないけれどそれに近い物質?まぁ何かよく分からないがそんな液体を体内に取り込んでいるらしい。
女型も、機能としては人間と変わらないと言う。
さすがに子供は作れないけれども。
でも何と言うか、そんな事までアンドロイドとやるなんて俺には到底考えられない。
しかしこのアダルトタイプが発売されてからレイプみたいな性犯罪が極端に減ったのにはこういう背景があるからだろう。
一応犯罪減少に貢献しているとの見方でアダルトタイプは警察も黙認しているし。
まぁ言わば出来の良いダッチワイフだ。
(そー言えば、この目の前に居るアンドロイドはどっちなんだろう?)
ノーマルタイプとアダルトタイプに分かれるが見た目にはそれは判断出来ない。
唯一判断出来るとすれば秘部、つまり生殖器官なのだが、いかんせん俺は見た事ないので一体どのようになっているのかは知らない。
まぁ一生知りたくもないが。
早い話がアダルトタイプがノーマルタイプと違うところは要はセックスが出来るか出来ないかの違いだけ。
なので普通に暮らす分にはノーマルタイプと変わらない。
それでもインプットされた機能で彼等は動いているのだ。
感情に見えるものだって何億と言うデータを取り込んだプログラムで動いてるにすぎないし。
自分で考えて行動出来ると言っても所詮はデータベースの中でだけ。
これは人間が作り出した最高にして最悪の玩具。
俺は何でもかんでも機械やデータに頼るこの世界が嫌いだ。
楽をする事に慣れてしまった人間が生み出した人造人間。
俺にはそれが人間の欲と怠惰と理想に塗れた代物にしか見えない。
だからと言ってアンドロイドが別に悪いわけじゃないので壊そうとかは思わないけど、世界には過激派もいる。
今は大人しくしているけど、いつその過激派の人々が爆発するかも分からないのが今の情勢だ。
(まぁ、出来るだけ関わりたくはないな…どちらにしても)
胡座をかきながら頬杖をつき溜息を零した。
「…はい、そうです。ええ、分かりました、代わります。」
そんな俺にアンドロイドはいきなり自分の持っていた携帯を手渡してきた。
「え?なに?」
「すいません、担当の者が佐奈様に代わって欲しいと申しておりまして…。」
「は?なんで?」
「多分、ご迷惑をおかけしてしまったのでその謝罪だと思います。代わって頂けますか?」
ああ、なるほどね
一応礼儀として出ておくか。
取りあえず形だけでもとその差し出された携帯を受け取って耳にあてた。
「もしもし…205号室の佐奈と申します。」
<あ、わたくしサイエンスファクトリー社、営業部の谷津波(ヤツハ)と申します。>
「どうも」
<この度は弊社が大変なご迷惑をおかけ致しまして、誠に申し訳ございませんでした。>
「いえ、別にこっちに被害があったわけじゃないですから気にしないで下さい」
<そう言って頂けるととても有り難いのですが…
でもやはりこちらの不手際のせいで佐奈様の貴重なお時間を割いてしまった事には変わりありませんので何か御礼をさせて頂きたいのですが>
「え、いや、いいですよ別にそんな御礼なんて。ホント迷惑ってほどでもなかったですし」
大体こんな事は普通の宅配業者にだってよくあるしな。
第一御礼なんていちいち面倒臭いよ俺が。
<いえ、御礼を…どうか是非お願い致します。>
なんだろう?なんでこの人こんなに必死なんだろう?
必死と言うか強引と言うか
人の話聞いてねぇと言うか
「…えーっと…あの、もしかしてクレームが来ると営業部の人は左遷でもさせられるんですか?」
<いえ、そのような事例はございませんが、このままでは私共の気が納まりませんので。>
「あ、はい…」
んな事言われてもね。
私共じゃなくて一個人の気が納まってないだけじゃねーの?
<あの失礼ですが、佐奈様は今までにアンドロイドをご購入された事はございますか?もしくは一緒に生活をした事があるなど…>
「いえ、それは無いです。一回小学生の頃に社会見学で触った事があるくらいでそれ以外にはもう全く」
<そうですか…>
「あの、谷津波さん?もうホント大丈夫なのでそろそろ帰ってもらってもい…」
<そうですね、決めました!>
「ハイ?」
何だコイツ?マジで全然こっちの話聞いてくんないじゃん。
営業職って押せ押せの奴が多いとは聞いてるけど
ここまで話を聞かないもんなのか?
仕事って大変なんだな…。俺は派遣バイトだからここまで仕事に対する精神は理解ができない。恐らく一生かかってもこの熱量は理解不能だろう。
<本当の受取人が現れるまで佐奈様にAZ-S型9008機を預かって頂くと言うのはどうでしょう?>
「それは名案ですね」
「いや、お前が答えんのかよ!てかこの会話聞こえてんのかよ!」
両手を一回パンッと鳴らし心底嬉しそうに応えたアンドロイドにうっかり突っ込んでしまった。
「はい。シュアの中には携帯電話と同じ機能が搭載されておりますので、お電話番号をご登録頂ければ代わりに通話も可能でございます。」
「え?じゃあこの今使ってる携帯の意味は?」
「まだ正式にご契約されないご購入者もおりますので、アンドロイドに直接お電話番号を登録されたくない方への配慮です。これで我社と連絡が取れますので。そう、今回みたいなレアケースもございますしね。」
「ああ、そう言う事ね…。」
納得したようなしないような複雑な心境だが、まぁ一応こうしたケースも今までに無かったわけではないのだろう
配慮としては正しいやり方か。
<お前もこっちに戻って来るよりは仮でもいいから御主人様にお仕えしてたほうがいいだろ?>
「当然です。アンドロイドとして生まれたからにはマスターのお傍に仕えるのが我々の幸せなのですから。それに仮だとしても佐奈様にお仕え出来るなんてとても光栄です。」
「いやいや、俺を差し置いて会話しないでくんない?俺の意思は違うからね?」
「私は…お嫌ですか?」
そんな子犬みたいな顔したって騙されねーからな?
「つーか、アンドロイドってレンタルもあんだろ?レンタル料金なんか出せねーぞ。一般極貧市民の貯金ナメんなよ?むしろ貯金なんてねーからな?いいか?貯金は都市伝説だ」
友人から聞いた話だと一回のレンタルに1万かかると言っていた。
奴がレンタルしたアンドロイドがノーマルタイプなのか、はたまたアダルトタイプなのかどうかは俺の知る処ではないが
知ったところでアダルトタイプだったらと想像もしたくないしな。
つまりどっちにしても一日最低1万払わなきゃいけない事になるわけで
そんな事したらこっちがおまんま食いっぱぐれるだろアホか。
「大丈夫ですよ。」
「あん?」
そう言ってアンドロイドは満面の笑みを俺に向けた。
「レンタル代も何もかも必要ありません。」
「は?なんで?」
またこのアンドロイドが何か言い出しましたよめんどくせーな。
「これはこちらの不手際で起こった事故みたいなものです。なので佐奈様がお支払いになる事は一切ございません。
謝礼としてシュアが佐奈様にお仕え致します」
「遠慮しま「お仕え致します」…」
有無を言わせず言葉を被せてきやがった…。
<取り合えず、5年間ほどお試しされてはどうでしょうか?>
「文脈おかしくない?」
<短すぎましたか?>
「疑問点そこじゃなくない?」
え?言葉のキャッチボールってこんなに難しかったっけ?
確かに俺は他人とそこまで会話する方ではない人間だけど、ここまで成り立たないほどだったっけ?
「いや、あの…普通3ヶ月くらいとか…」
「では、3ヶ月で決まりですね。」
<決まったな。良かったなシュア。>
あ、これ上手い具合にノせられたやつだ。しまった。俺としたことがこんな奴らの策略にハマるなんて一生の不覚。
「はい。本当に、嬉しいです。」
「ちょっと…勝手に話進めないでもらえますか?」
俺の声聞こえてないの?
何なのコイツら?
サイエンスファクトリーに苦情入れてもいいか?
<あ、サポートセンターと上層部にはこちらでこの事を伝えておきますので大丈夫です。>
「え?何が?」
何が大丈夫なの?つまり俺はたった今この瞬間に選択肢を全て剥奪されてようなものだ。
根回し早すぎて後手に回るしかない。
大混乱している最中にシュアが俺の右手を掴んで
手のひらに口づけを落としてきた。
「これからよろしくお願いいたしますマスター。シュアはあなたのただ一人のアンドロイド。あなたに仕えるために生まれてまいりました。私を選んでくれて感謝いたします。心から、シュアはあなたを愛します。」
「それ言わなきゃいけないセリフなの?」
こうして、何の因果か
俺はこのアンドロイドと3ヶ月間を一緒に過ごす事になってしまったのだった。
「この携帯はもう必要がございません。谷津波がまだ近くにおりますので返してまいります。」
「いやあんたも一緒に帰れよ」
「申し訳ございませんが、そのご命令は聞きかねます。」
シュアは拗ねたようにプイっと横を向いた。
なんでだよ
と思ったし言ったが聞く耳持たずと言う感じで
俺の手からスルリと携帯を引き抜くと、顔を寄せて耳元で「すぐ戻ります。」とだけ告げてシュアはその場から立ち去った。
今この玄関の扉を閉めて鍵をかけてしまえばこの話は無かった事にならないかな?と考えたが
恐らく戻ってきたシュアはそのまま扉の前に立ち尽くし俺が出てくるまでひたすら待つのだろうなと想像がついた。
ぶっちゃけそうだった。
実際にやってみたを実行したが無駄だったんだ。
「…およそ二時間そこに立ち尽くしてましたねあなた…」
玄関を開けるや否や俺の方を向いたシュアは「はい。たとえどんな事が起きようとも佐奈様のお傍を離れません。」
と、にこやかな顔をしてそう告げてきた。
最初はインターホンを鳴らされたけど居留守を行使した俺にすぐに気が付いたのか2~3回程度鳴らした後はそのままだった。
もう帰っただろと思い、ドアスコープから覗いたら全然まだ居た。余裕で待ってた。ドアスコープからイケメンが笑顔でこっち向いてた。
ちょっと恐怖感じたぞ。マジで。
「佐奈様の当面の生活はシュアがお世話いたします。掃除家事洗濯、全てシュアにお任せください。」
「金は…」
「必要ございません。家賃以外の事は全てサイエンスファクトリーが負担いたしますので。」
「そう…っすか」
棚からぼたもちとはこの事かもしれない。
確かに家の事をしてくれるのは大変に助かる。
俺みたいな出不精は取り敢えずその日食えるものがあればそれでいいという
日がな暮らしを送っているため、栄養面がすこぶる偏っている。
なので誰かの手料理が食べられる事はとてもありがたい。
本当は彼女とかに作ってもらいたいけど、悲しいかな現在そのような存在はいない。
「じゃあ、まあ、その、3ヶ月?よろしく…」
「はい!むしろ3ヶ月と言わず一生お世話いたします。」
「3ヶ月間よろしく!」
また満面の笑みで俺に忠誠を誓うシュアに取り敢えず期間だけ強調して俺は契約を結んだ。
いやでも、ロボットって凄いな。
本当に人だけを思い、人の為に尽くす。
人間が生んだ最高にして最大の過ち。
アンドロイドの普及により人間の就職率は激減し、今や失業者は60%を越えた。
それでも世界は回るのだ。
俺だって本来は企業に就職し一般的な生活を送りたかった。
でもそれも受けた会社が悉くアンドロイドを投入し、作業効率のアップ、雇用体制の見直し
自動製造の一本化等で人を排除していった。
なので俺は就職もできず、日雇いバイト等で食いつないでいる現状である。
「人」が楽をするために作り出された機械で、その「人」の生活が苦しくなっている。
これに対して政府はやっと重い腰を上げ、現在の失業者に対してのバックアップ体制を整えようと検討している所だ。
おせーよとも思うけど、企業側が一定数労働者を雇用しなければ税金を課すという事で決着が付きそうなので
もう後4~5年もすればこの失業率も下がっていくだろうとは思う。
それでも俺が就職できる確率はあんまり変わらない気もするけど…。別に手に職を付けてるわけでも
頭がすこぶる良いわけでも口が上手いわけでもコミュ力が高いわけでもないので。
あれ?なんか言ってて悲しくなってきたな…。
「佐奈様?どうされましたか?どこか痛いところでもございますか?」
「俺の喜怒哀楽をセンサーで感知するのやめてくんない?」
「申し訳ございません。でも佐奈様に万が一の事があってはシュアは…。」
「大丈夫。万が一でも億が一でもそんな事起きないから」
身体だけは常に丈夫なのが取り柄だった事を思い出した。
「でも…。」
「シュア」
「…はい?」
「お腹すいた。なんか作って」
「はい!今夜は何になさいますか?佐奈様のお好きな物を教えてください。佐奈様の事をもっと知りたいです。」
プログラム。
知識欲はないはずだけど、主人の好きな物、嫌いな物、好きな人、嫌いな人
好ましいもの、好ましくないもの
全てインプットして行動をする。
流石に犯罪とかを強要してもそこはセーフティーが掛けられているのか
「それは出来かねます。」と答えが返ってくるけど。
それ以外では何でもご主人さまの言いなりだ。
確かに便利だ。
何でも出来るし、してくれる。
言われた事に反発もせず、全てを受け入れる。
そんな奴がずっと自分の傍にいてくれるんだ。
こんなの、依存してしまうに決まってる。
自分が何をしても肯定してくれる存在。
間違ったことをすると優しく諭して正しい道へ誘導してくれさえするのだ。
でも、それが
俺はどうしても違和感を覚える。
やっぱり人とアンドロイドは違う。
まるでぬるま湯にずっと浸かっているような気分だ。
ここから出たいのに外に出ると寒くなるからずっとぬるま湯の中にいるような
ゆっくりゆっくりと自分の心が蝕まれていくような
そんな気持ち悪さを感じる。
「そう言えば、お前どこで寝んの?うち狭いから寝るとこないぞ?」
ワンルームではないが、それなりに狭いこのアパート。
あるのはリビングと別の部屋にある6畳の寝室くらいだ。
「佐奈様のお布団で一緒に眠るのはいけませんか?」
「却下だ」
シングルの布団で男2人は物理的にきつすぎるし
何より俺がキツすぎる。
たとえアンドロイドだろうと男と二人並んで寝るなんてごめん被る。
「そうですか…とても残念です。」
「…稼働時間ってどんくらい?」
「フル充電されている状態であればおよそ一週間は問題なく動きます。目安としては3日に1回2時間ほどバッテリーの充電時間を頂ければありがたいです。」
「ふーん。睡眠は取らなくても平気なのか?」
「そうですね。我々には睡眠は必要ありません。設定をして頂ければ可能です。」
「まぁ、そうなるよな…じゃあ俺が寝る時はシュアの充電時間にしといて。寝てても起きててもどっちでもいい。お前の好きにして。リビングのコンセント余ってるからそこがシュア専用な」
バッテリーは取り外し可能な小さいチップだ。バッテリーを外していても予備電源で2日ほどは動けるらしいけど。
「え…」
「過充電になる?」
「いえ、そんな事はございませんが…」
「なに?」
「我儘を言いますが…シュアはもっと佐奈様との共有の時間を頂きたいです。」
「それもマニュアル?それとも統計に基づいた回答?」
「いいえ、これはあくまでも私個人の意見です。」
面白い事言うなぁ。
アンドロイドが個人の意見だって?
そんな事あるはずないのに。
あくまでも人に近しい存在。その為に人間により近い発言が選ばれる。
データで相手を喜ばせる事を選択する。
馬鹿馬鹿しいなと思った。
そんなデータから出た多数の回答の正解を差し出されても何も感じない。
多分多くの人はそれに満足するのだろうけど
あいにく俺は性格がひん曲がっている事と
アンドロイドをよく思っていない層にいるので申し訳ないがその解答は逆に冷める。
「俺はそんなもの要らない。どうせ3ヶ月の付き合いだ。絆とか深めても最後はサヨナラするなら意味ないだろ」
「そんな事はございません。それに…3ヶ月経ってもシュアを必要として下さるなら、会社と交渉をしてでもシュアは佐奈様の正式な家政婦として御傍にお仕え致します。」
必要ないと言ってもどうせ押し問答になるだろうなと早々に諦めを付けた俺は
「ああそうですか。好きにしてよもう」とだけ言い残し俺は布団に潜った。
トントントンと音が聞こえる。
同時に鼻を掠める良い匂い。とても腹が減る匂い。
のそりと布団から這い出し部屋から出ると匂いはもっと強烈に胃を刺激した。
「おはようございます佐奈様。朝ごはんを作りましたのでよければ召し上がってください。」
「おはよ…美味そう」
小さいテーブルに並ぶのはご飯に味噌汁、卵焼きに焼き魚に海苔とおひたしと納豆。
朝ごはんとしては最高だ。
「ありがとうございます。昨夜はよく眠れましたか?」
「うん。シュアは?寝た?」
「いえ、起きておりました。もし佐奈様に大事があってはいけませんので。」
「日本は今や世界一安全な国って言われてんだぞ。ましてや俺みたいな底辺にいる奴が何かに狙われたりとか絶対に無いから」
ズズっと味噌汁を飲んでハッと息をはいた。美味い。
「それでも…」
何をそんな心配してんだか分かんねーけど、このアンドロイドはかなりの心配性らしい。
ロボットでも個性と言うのは備わっているらしく、主人に合わせてその性格を変化させていくという。
シュアはその最初の性格が心配性にゲージが割り振られているのかもしれない。
後々変化していくかもしれないけど、どうせ僅かな時間だ。修正とか必要もないだろう。
「それより、これシュアの分はないのか?」
「ええ。」
「じゃあ食べれるように設定変えといて。一人で食べてると味気ないとかじゃないぞ。食べてる時、お前がひとしきり俺のこと見てくるのが耐えられない」
「それは残念ですが、佐奈様とお食事できるのは嬉しいです。今設定変更しましたので昼食からご一緒させていただきますね」
にこりと微笑みかけてきたシュアを無視して飯をかきこんだ。
「ご馳走様。美味しかった」
「嬉しいです。作り甲斐があります。あ、佐奈様少し動かないでくださいね。」
え?と思った矢先にシュアが俺に近づいて俺の頬をペロリと舐めた。
「!?ちょっ!なにして」
「ご飯粒が付いておりましたので。」
「そういうのは口で言えって!」
何をさも当たり前の行動のように実行してんだコイツは…。
アンドロイドってみんなそうなの?
いや、これは違うだろ
多分シュアが導き出した結論がこれなんだ。俺に対してはこうするのが最善だと答えが出たのだろう。
おかしいだろ。コイツの俺への態度は家政婦とか使用人とかましてや家族に対するものでもない。
まるで…
そこで俺の思考は考えるのをやめた。
だってあり得ない。
主人相手に設定もなくそういう関係になる事はないはずだ。
じゃあ、なぜ…?
「シュア」
「はい?」
「今後は口で言え。二度と同じ事はするな。いい?」
「…はい。畏まりました。」
一拍置いてから返答が来た。
その一瞬、何を考えた?
顔を見てもにこりと笑いかけられる。
たまたまだろうか?俺が過剰なだけ?
分からない。アンドロイドが何を考え、何を感じ取り、何をしてくるのか
人に対する方がまだマシだ。言いたいことを言えば返ってくる。
でもロボットはそうじゃない。
主人の言う事を聞く。だから対話が出来ない。
疲れる。
「明日はお仕事ですよね?お弁当作ってもよろしいですか?」
「うん。助かる」
それから二週間が過ぎ、三週間が過ぎ
気付くとシュアと生活を始めてから1ヶ月が過ぎようとしていた。
そうして一つ困った事が見つかった。
と言うのも一人暮らしを始めたのは結構前だけど、ここのアパートに引越してきたのはシュアが来る一週間前。
前の住居からこっちの住居に移るまで忙しかった事もあり
俺はそこからずっと自慰を我慢していた事だ。
越してから抜けばいいやと思っていたのにアンドロイドが住み始めてしまったので出来ないままでいる。
もしかしたらかれこれ2ヶ月ほどオナニーしていないかもしれない。
たかがロボット
されどロボット
自慰なんて見られたくないし、声も聞かれたくない。
俺がどんなに声を押し殺したとしてもアンドロイドなら一発で理解してしまうだろうし
そんな事に気付かれでもしたら俺は羞恥で死んでしまう。
「あのさ…」
「はい?何でしょうか?」
「シュアに一つ頼みたいことがあるんだけど」
「佐奈様の頼みとあらばシュアは何でもお聞きいたします。むしろ頼られて光栄です。」
「あー、いや、そんな期待に満ちた目をされても困るんだけど、隣町で食材半額セールやってるみたいでさ…」
ポスティングされていたチラシをシュアへ見せた。
それを受け取り広告に目を通している。
「食材、ですか?」
「うん。確かに家賃以外はおたくの会社で持ってもらってるけど、それも悪い気がして…だからせめて安い食材買えればいいかなって」
「そんな、佐奈様のご厚意を頂けて有難いですが…そういうセールは痛み出した野菜等が大半です。そんな食材を佐奈様のお口に入れるわけにはいきません。体調を崩される可能性があります。」
「大丈夫でしょ。考えすぎだって」
「しかし…」
「でさ、俺がここに買いに行ければいいんだけど…ちょっと仕事が残っててそれやりたいんだ。シュアに買ってきてもらいたいんだけどいいか?」
「…」
シュアは再度チラシを見つめ、「分かりました」と了解してくれた。
じゃあ頼むな。そう言ってシュアを初めてのお使いへ行かせた。
子供じゃないから別に見守らなくても大丈夫だろう。
「…よし」
予め見たいAVは検索しており会員になっておいた。
スマホからストリーミング再生を押せばすぐに見れるように設定もバッチリだ。
お隣さんに聞こえないようにイヤホンも準備しておいた。
取り敢えず抜く場所だが、俺はトイレを選択した。
流石に布団ですると匂いがすぐに消せない気もしたし、何よりティッシュを使用する事は避けたい。
アンドロイドなら使用済みティッシュでさえも気付く可能性があるからだ。
トイレに入りまずは便座に座り再生ボタンを押した。
世に言う素人AVってやつ。
街中で歩いてる女の子に声をかけてホテルに連れ込みインタビュー形式で段々と服を脱がせていく。
とは言え本当の素人ではなくAV女優を使っているのが大半だ。
今回もセオリー通りに事が進んでいく。
隣町までの買い物は電車を乗り継いで行くのでシュアが帰ってくるのは恐らく一時間後くらいだろう。
一時間もあれば抜くのは容易い。
段々と肌を露わにしていく女の子。
男優は後ろからその豊満な胸を揉んだり摘まんだりしていて「気持ちいいんだ?」や「そんな顔して実はエッチ好き?」などお決まりのセリフを言っている。
女の子の声もエロくて顔も可愛い。
今回のAVは当たりを引いたかもしれない。
下腹部にじわじわと手を滑らせていくのに合わせてカメラもそれを追っていく。
大股に開かれた足の間から白いパンツが見えた。
見せつけるように指で割れ目をなぞり上と下を同時に攻めていく。
薄い布はすぐに色を変えて濡れているのが分かった。
男優は体制を変えて次は女の子の股座へ頭を突っ込み舌先で舐め始める。
濡れたパンツを取り払い直接そこを舐め、指を入れてかき回す。
女の子の声が嬌声に変わり出した。
それを見て俺もズボンとパンツを下げて自身を握った。
強く刺激しない程度にゆるゆると手を上下させる。
久しぶりに感じた快感に身震いがした。
ひとしきり女の子に対しての前戯が済むと次は選手交代のように
男優の猛ったペニスを咥えさせフェラが始まった。
俺はフェラをする女の子の顔のアップを見て自分のそれに合わせて擦った。
(…イキそう)
まず一回出しておいてもいいかもしれない。
どうせすぐに勃つだろうし。
便座から立ち上がり便器へと身体を向けてさっきよりも早く自身を擦っていく。
「ハァ…ハァー…」
興奮で額の汗が頬を伝っていくのが分かる。
男優が女の子の頭を抱えて強制ピストンをし始めた。
そろそろ男優もイく合図だ。
画面を食い入るように眺めながらそのピストンに合わせる。
男優が「出すよ」と言ってから女の子の咥内へ射精した。
そのすぐ後に「飲める?」と聞かれ女の子はコクリと頷きそれを飲み干していく。
「…フッ…あっ」
俺も一拍置いて便器へとその精を放った。
すぐに蛇口を捻り水を流す。
「ハッ…ハッ…はぁ…きもち、い…」
久しぶりの射精はめちゃくちゃ良かった。
別にオナ禁していたわけではないけど、これだけ気持ち良ければわざと禁欲生活をしてもいいかもしれないと思った程だ。
再度画面を見ると男優は女の子をベッドへ横たえて足を開かせていた。
「正常位か」
体位の中でもよく見るけど俺はこの体位が好きだった。
男性の尻が見えるのが嫌だと言う奴もいるけどそこは見えないように心にフィルターをかける。
彼女がいた時はセックスの度に正常位を好んでやっていたのでたまには違う体位がいいとさえ言われたくらいには好き。
先程と同じように女の子の割れ目をなぞり再度そこを解していく。
濡れた音と視界に移る映像ですぐに俺の息子は復活した。
「入れるよ?いい?」と聞く男優はペニスをそこに擦り付けて今にも挿れるかのように
上下にペニスを擦っていて
クリトリスに当たるのか女の子は喘ぎ声を上げながら頷いている。
それを見た男優がゆっくりと穴に挿入していき根本まで入った事を確認する腰を上下に振りだした。
女の子はより一層声を上げ「深い」やら「大きい」やら「ダメ!ダメ!」などとよがっているが
まぁこれもお決まりのセリフだ。
それでも世の男と言うのは反応してしまうものである。
グチュグチュと音をさせスピードを上げていくピストンに俺の手も早くなる。
流石にAVなので正常位から始まりその流れで騎乗位になったりバックで突いたりと色々な体位が繰り広げられた。
俺もその後2回ほど射精をし、やっと動画が終わった。
普段なら一度の射精で満足するけど、大分色々と溜まっていたようだ。
出し切るまで出した感じ。
もしかしたら今後もすぐに自慰できないかもしれないし。
シュアが居なくなるまであと2ヶ月もあるからだ。
「また何か見つけて買い物に行かせるしかないか…」
時間的には40分程度。
まだシュアは帰ってきていない事からするとこの手はもう一度くらいは使えるだろう。
取り敢えず流すものは流してトイレ用の消臭スプレーをこれでもかと吹きかけておいた。
証拠隠滅。
しかしなんで実家暮らしでもないのにこんな気を使わないといけないんだろうとは思うけど
シュアが作ってくれる飯は確かに美味いし、栄養面も確保されているので身体の調子がいいのも確かだった。
オナニーが出来ない事以外はさして鬱陶しいとも思えないのが厄介なところではあるけど…。
「アンドロイドが居てくれると助かる事多いしなぁ。流行るわけだ」
トイレから出て幾分かスッキリとした。
そろそろ彼女見つけたいなぁと言う気分になったが
出会いがなぁ…。
そう考えていたら玄関のドアが開く音がした。
家には合鍵がないためどちらかが外に出ている場合はどちらかが家にいなければ帰れない。
合鍵自体が無いわけじゃないがそれは実家に渡してある。
わざわざシュアに持たせるのも違う気がして合鍵の存在は知らせていなかった。
「佐奈様ただいま戻りました。今日はお鍋にしましょうか?」
「ありがとう。わざわざ遠出させてごめん」
「いいんですよ。お気を使わないでください。これがシュアの仕事ですから。主人の為に尽くすのがアンドロイドの務めです。」
「そう言ってもらえると助かる。鍋楽しみにしてる」
「はい!佐奈様はお仕事片付きましたか?」
「え?あ、うん。片付いた。助かった。ありがとう」
「それは良かったですね。」
と一段と嬉しそうに笑うシュアに対して少しばかりの罪悪感。
お前の主はお前を外に追いやってここでオナニーしてたんだぞとどこかで声がした気がする。
うるさいうるさい!
俺の家なんだから俺が何しようと別にいいだろ!と頭を振ってその声をかき消した。
たらふくご飯を食べて風呂に入りシュアと他愛のない会話をしてから眠気が襲ってきた。
抜いた疲れもあるのだろう。今日はぐっすりと眠れそうだ。
シュアに「もう寝るわ」と伝えて電気を消してから寝室へと入り布団へダイブした。
今日はシュアが布団を干してくれていたので余計にフカフカしておりすぐに俺はその目を閉じて
深い深い眠りへと落ちていった。
「―――して…」
眠りの中で声が聞こえた気がした。
「―――ですか―」
なに?
なんて言ってる?
「――さな…さま」
微睡の中で俺の名を呼ぶ声が聞こえる。
「――どうして…どうして…」
「頼ってください――」
「お願いです。シュアを――」
「悲しい――」
「――シュアがアンドロイドだからですか?」
「シュアではダメですか?」
「シュアは何でもいたします―」
「佐奈様が喜ぶことは何でも―」
「シュアがご奉仕いたします――佐奈様、望んでください」
「シュアを――使ってください」
「悲しいです。選ばれないのは悲しい」
「シュアはずっと――」
シュア?
なに?
どうした?
なんで泣きそうな声してんの
お前はロボットなんだから泣かないだろ
どうしてそんな俺に頼られたいの
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「シュアは――」
「あなたの全てが欲しい」
そう最後に言葉を残し、声は消えた。
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