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第2章 訳ありバーテンダーとパティシエの秘密

◆13 正直な気持ち

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心臓の音が、ずっとうるさい。
こんなことが現実に起きるなんて信じられなかった。
蒼真の顔に後光というか、何というか、急に光がさして見える。

「まぁ、怖い思いをさせたのは、悪かった。普段、この店にはそういうモノが入れないようになっているのに、お前がしれっとここに入って来たから……つい後先考えずに、反射的に動いてしまった」

「えっ、あっ、イヤ……その、なんて言っていいか」

あああ……
どうしよう……
俺、絶対、昏睡強盗か何かだと思って、めっちゃ疑いの目で見てました……!!
気まずっ……ごめんなさい……!!

だって黒ずくめで、イケメンだけどちょっと強面で、何か近寄りがたい雰囲気で。
得体が知れないとか、危ない奴とか、普通に思ってたしね!?
……あ、イヤでも危ない人なのは確かかも……?
でもでも結局、俺のせいで無茶してたってことじゃん……!!?

――尊がパニックになりながら脳内で必死に考えていたこの間、約3秒。

「まぁ、俺がそう言ってみた所で、証拠も何もない。それをお前が信じるかどうかは、そっちの勝手だけどな」

蒼真はそんな突き放したような言葉を使ってくる。

そういう態度が逆に、嘘を言っていないという閃きのような確信を――尊に与えた。
こちらを騙そうとする人は、色々な情報を出してきて、とてもよく喋る。巧みな話術で親密な空気をつくり、自分の世界に引き寄せようとすることが多い。

蒼真には全くそんな素振りがなく、ぶっきらぼうで、ただ事実だけを言っている雰囲気があって、その感じが逆に正直な気がしたし、

「どうせ信じない」

そう思い込んでいるようにも見えて。
自分と同じような経験を何度もしているからなのか、ちょっと頑なで、不器用そうな人柄が伝わってきた。

「しっ、」
「……し?」

ワナワナと震えながら、ガッ!と蒼真の手を握りしめた。
ぎょっとして身体を引こうとするのも構わず、顔を近付けて、その瞳を見ながら尊は自分の想いをぶつける。

「信じる……!信じます!!だって今まで、俺に憑いてる霊の特徴を、正しく間違わずに言い当てた人なんて……誰一人として、いなかったんだから!!」
「……!?」
「スゴい!スゴいんだね、久我さんて……!!」
「は?なっ……何言って……」

尊の態度が突然変わり、熱量に溢れた褒め言葉を浴びせられ――蒼真は唖然とし、言葉を失っていた。どう応えたらいいのか全く分からない……!と顔に書いてある。カチコチに固まってしまった。
だが、熱くなった尊はそれにも構わず、手を握ったまま話し続けた。

「だって、こんな面倒なことせずにスルーしたって良かったのに……それでも彼女のこと救ってあげたかった、ってことでしょ!?情けないけど、俺はいつも引き寄せるだけで何も出来なくて、それが辛かったから……」

ちゃんと気持ちを伝えたくて蒼真の目を見詰めたら、思いのほか、真剣な視線がこちらに向けられていて、尊の言葉に力がこもる。

「ありがとう。本当にスゴいと思うし、なんて言うか、その――気持ちが嬉しいなって」

そんな言葉がポロリと、こぼれてしまう。
口にしてからしまったと思い、急に恥ずかしくなって、パッと目を伏せた。

(会ったばかりで突然こんなこと言われたら、普通引くよな……!?)

すっかりハイテンションになっていたのに、突然理性が戻ってきてしまった。冷汗をかきながら、恐る恐る、顔を上げてみると――

これまでずっとポーカーフェイスを貫いていたバーテンダーは、そこにはいなかった。

「い、いきなり、何を……」

目を見開き、顔を赤くして、ちょっとたじろぐように尊を見ている。
それは、退魔師とかバーテンダーとか、そういう肩書きは全然関係ない――素の「久我蒼真」そのまま。
という感じで。
……明らかに、慌てているように見えた。


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