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Malachite
Malachite ③
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閑静な住宅街の一角にあるマンションの部屋の前で足を止め、インターフォンを鳴らすと、武藤大夢がそっと扉を開けて、隙間から俺をじっとりと下から舐めまわすように見た。
俺がその視線を不快も顕に睨みつけると、武藤はあどけなく笑って扉を全開にした。
「蓮さん。いらっしゃい。どうぞ。」
人を脅しつけて呼び出して置いて何が『いらっしゃい』だ。
今まで、人懐っこいヤツだと思ってたが、とんでもないヤツだな。
ムカムカと胸の怒りが収まらない。
こいつは撮影最終日の今日、俺の楽屋に「相談がある。」と訪れて来て、武藤は黙って携帯を取り出し、俺に差し出した。
そこに写っていたのは俺と直樹の抱き合ってる写真。
ロケ撮影の時のものだ。いつの間に・・・!?
「・・・・なんだ?この写真。」
武藤は目を伏せて悲しそうに微笑んだ。
「俺・・・。蓮さんにお願いがあるんです。今日撮影が終わったら、会ってもらえませんか?」
「・・・・・・・。」
「ね?この写真、バラされたくなしでしょう?」
武藤は伏せ目がちのまま唇の端をニヤリと上げて笑った。
マンションの中に入る気はなく、靴も脱がずに広い玄関で、武藤に詰め寄った。
「何考えていやがる!?」
「ふふ。あのね。」
あどけなく笑いながら、武藤は、
耳朶を人差し指と中指で捏ねた。
なっ・・・!!こいつ馬鹿か!?
「・・・・冗談じゃねぇ。」
「冗談でこんな事出来ませんよ。ね?あの写真、蓮さんの顔、ほとんど写ってなかったでしょう?でもね。直樹さんの顔はバッチリ写ってる。」
「・・・・・・・。」
「さあ。こんな所じゃなんです。中へどうぞ。」
こいつはゲイだ。
武藤が嬉しそうに笑ってる。
・・・・部屋に入れば、何をされるか分かったもんじゃない。
でも俺には他に選択肢はなく、ストンと座ってノロノロと靴を脱いだ。
靴を脱ぎ終えると、その動作をじいっと見ていた武藤に促されて、広いリビングを抜けてひとつの扉の前まで案内された。
扉の向こうにはシックな紺色で統一された広いキングサイズのベッドが見える。
武藤は扉の前で薄く笑って、顎をしゃくった。
「どうぞ。」
「武藤、写真を消せ。」
「嫌ですよ。すべては僕を満足させてから、です。大丈夫、これ一回きりですよ。何度もこんなネタ引きずって警察の世話になんか、なりたくないですからね。」
「・・・・自分のやろうとしている事、分かってんじゃねえか。」
「ええ。でも脅迫するつもりはありません。蓮さんが嫌ならどうぞ、帰ってもらっても大丈夫ですよ?」
そう言ってポケットからちらりと携帯を見せ付ける。
「・・・汚ねえな。」
「ふふ。最高の褒め言葉ですね。さあ。どうします?」
「・・・おまえの好きにすればいい。」
「ああ、いいですね。その目。すごく素敵ですよ。最後までその目のままでいて下さいね?」
武藤はするりと俺を抜けて部屋に入り、ベッドに腰掛け、ベッドをポンポンと叩いた。
「さあ。」
俺はぐっと拳を握った。
力ずくで携帯をぶち壊す・・・!
ズカズカと武藤の前まで行くと、武藤が笑った。
「写真データはパソコンにも取り込んであります。あとで一緒に消しましょうね?ふふ。焦らさないで下さいよ?さぁ。服を全部脱いで。」
くそっ!読まれてる・・・!
俺はバサバサと服を脱ぎ捨て、乱れた髪をかき上げ、武藤を睨みつけた。
「いい体してますね。さあ、座って脚を開いて。」
武藤を見据えたまま、言われた通りにベッドに座り脚を無造作に開いた。
深く考えるな。一度だけ好きにさせれば、直樹のゴシップが外に出ることはない。
武藤は上唇を舐めて、俺の膝を掴みぐいっと引き上げ、後孔をゆるりと撫ぜた。
「っ………っ!」
「ふうん。ココ綺麗ですね。大事にしてもらってんだ。ああ。ちゃんと風呂入って来たんですか?いい匂いがする。」
武藤は俺の膝の裏を掴んだまま、後孔にねろりと舌を這わせた。
「・・・・・っ!」
それは直樹には絶対にさせなかった行為で、体がぎしっと強張る。
武藤はわざとぴちゃぴちゃと音を立てて後孔を舐め、やがて、ぐっと内部に侵入してくる違和感に俺は眉を潜めた。
「・・・・な・・・!?」
「ん?使ったことないんですか?座薬ですよ。弛緩剤で中がトロトロになります。ほぐす手間が省けます。催淫剤入りなんで合法性はないんですけど、安心して。保証は僕がしますから。」
ググッと武藤の指が奥まで届く。
「う。やめろ。」
俺が武藤の頭をぐいっと押しのけると、武藤は笑ってそのまま離れ、手錠を取り出した。
「大人しくして。写真が気になりませんか?」
「俺は逃げも隠れもしない。そんなもの、しまえ。」
「信用出来ませんね。僕、怪我するのはごめんですから。」
後ろ手で組まれて、目を瞑るとひやりと手錠が触れて、ジキジキジキっと手錠の締まる音がした。
ギリッと唇を噛みしめると、口の中に血の味が広がる。
「座薬はすぐに効いてきますよ。ダウン系なんで気に入るといんですけど。」
血の昇った頭で見上げると、武藤は楽しそうに笑って俺の肉芯を掴んだ。
「蓮さん、結構そそられますね。男、直樹さんしか知らないんでしょう?
セックスにも楽しみ方はそれぞれあってね。相性も大事です。俺は突っ込まれる方が好きなんですけど、いいですよ。今日は特別に俺が突っ込んであげますから。」
俺の肉茎はやわやわと揉まれたが、俺の嫌悪感が強すぎて体は反応しない。
「もう。やめろ。」
武藤は舌打して、俺のそばから離れたので、ほっと安堵のため息をついたのも束の間。
武藤は、箱の中から数珠が連結している棒状のようなものを取り出し、乱暴に後孔にローションを塗って、ずぷりと差し込んだ。
「うっ……あっ……っ!」
「蓮さんは後ろのほうが好きそうですね?ああ。薬が溶けてきてる。ちゃんと柔らかくなってるからすぐに入ってくれるでしょ?」
つぷん。つぷん。と音を立てて異物が次々と侵入してくる違和感に俺は目をつぶって耐えた。
「ふふ。しっぽみたいで可愛い。」
カチリと音がすると異物は振動を始めた。
「ひっ・・・・・っ!」
「どう?いい?」
異物は振動してじわりと熱くなりそうな感じに嫌悪感が増す。
俺が首を振ると、武藤は面白そうに異物を引っ張った。つぷん。とビーズが抜けて息が漏れた。
「いいなぁ。いつもこんな事、直樹さんにしてもらってるの?」
つぷん。つぷん。とビーズが出入りを繰り返し、武藤の手元で、カチカチと音がすると中の振動が強くなりずくん。と体の芯が熱を持つ。
「ああ。俺もホントは直樹さんにこんなのしてもらいたかったのに、断られたんだよねぇ。」
「・・・直樹はッ!・・・おまえみたいにッ変態じゃねぇ・・・・・・っ!」
「ふーん。アナルビーズも使った事ないの?これ結構気持ちいいっしょ?ああ。そうだ。いっそ、直樹さん呼んで、色んなコトしてもらっちゃう?俺は元々受け専だし、別にいいよ。
あ。ケータイ貸してね。俺の着拒されてっから。」
「馬鹿っ!やめろ!」
武藤がベットから降りて、俺の服を探り携帯を取り出した。
俺は立ち上がって携帯を取り返そうとしたが、膝ががくりと折れて思うように体を動かす事が出来なかった。
「あ。薬が効いてきたみたいだね。これから良くなるからね。ちょっと待てて。すぐに何回もイけるようになるよ。」
武藤は笑いながら俺の携帯をいじり、俺の片足をぐいっと広げて「はい!ポーズ!」そう言ってカシャリと写真を撮った。
「んんー。半勃ちなのが残念。でも可愛く撮れたからね。安心してね?ちゃんと直樹さんに送ってあげるから。きっと、すごく喜んでくれるよ。」
「やめろっ!!」
俺が掴まれた反対の足を振り上げると、武藤にするりと身をかわされて、ドサリと落ちたベッドの上から携帯の送信完了音が聞こえた。
「直樹さん、今何してんのかなぁ?早くこの写メに気が付くといいのにね。その間、何して待つ?」
「ぶっ殺す……っ!」
「んんっ!いいね。なんかゾクゾクする。でもそんな体で殺されるのはどっちなの?蓮さん?分かってんの?」
近寄る武藤に蹴りを入れようとすると、楽しそうに笑いながら俺の両足を掴んで、がばりと広げた。
「もう。たいして体、動かなくなってきてるじゃん。ふふ。」
「くっ・・・!」
武藤の手を払いのけようとしても体に力が入らず、思うように動かない。
後孔に入った異物が振動して、熱くなる体と激しい屈辱感で目の前が真っ赤に染まる。
武藤が俺の下半身に顔を埋めようとした時に、携帯が鳴り、武藤は肩を揺らして笑った。
俺は動かない体とぼんやりと沈んでいく意識の中で、武藤の声を聞いた。
「はい。武藤です。・・・・・・・やだな。そんなに怒鳴らなくても聞こえますよ。・・・・・・ええ。いま蓮さんと楽しんでますよ。良かったら、直樹さんも一緒にどうです?
・・・・ふふふ。場所ですか?×××にあるフォレスターマンションの501です。ああ。誰にも内緒で来てくださいよ。
さっきの写真、ネットでバラまかれたくないでしょう?・・・・うるさいなぁ。切りますよ。・・・・え?僕はいいですけど、蓮さんが待てないと思いますよ。じゃ。」
ギシリとベットが軋み、武藤が太腿を撫ぜると体がビクリと震えた。
「・・・さ・・わる・・な・・。」
「直樹さんすぐに来てくれるそうですよ。良かったですね。でも、それまで蓮さん我慢出来ます?」
つぷん。つぷん。と異物が出入りを繰り返す。
「・・・・ぁ・・・・やめ・・・ろ・・・。」
「蓮さん、ここトロトロになってる・・・。」
ビーズの入った後孔に指までが侵入してきた。
「中、すご・・・。ん。ここかな?」
武藤の指が探るように蠢いてビーズを腹の下辺りに押し当てた。
「…ぁ………ぁ…っ!」
「ああ。あたり?よかったぁ。ほら、ここもカチカチに勃って先走りが溢れてる。」
「も、やめ……。ああっ……っ!」
「いいの?蓮さん気持ちいい?」
体を強張らせて、快楽と屈辱とで、視界が滲んだ。
「直樹さんに手を出さないように言われたけど、なんかシたくなってきちゃった。
入れていい?蓮さんもシたいでしょ?」
「……そ、んな、わけ…ねぇ…。」
「タマ上がってきてんのに余裕だね。じゃあいいよ。イかせてあげない。」
「つッ!」
武藤は俺の肉茎を掴んでシリコン性のリングを根元にはめた。
精が塞き止められて、ドクドクと心臓に血が逆流する。
中に入った異物がじんじんと下肢を熱くさせる。俺は身体を丸めて、乱れる息を抑えた。
「やべ……。蓮さん耐えてる感じがすげぇエロい……。」
武藤は俺の顔の前でジーンズのジッパーをジィーっと開けて、醜い肉の棒を取り出して、俺の髪を掴んだ。
「ほら。これ欲しんでしょ?」
「…かみ、ちぎ…って…や、る……。」
「チッ!強情だね。いいよ。どこまで我慢出来るか見ててやるよ。」
武藤は俺を突き放すと、ジッパーを上げてベッドの端に腰掛け、俺を見下ろした。
「我慢出来なくなったら、僕が相手してやるよ。それまで、オモチャで一人遊んでる?」
武藤にオモチャにされなくなっただけでも、ましか。
ぐっと拳に力を込めて、朦朧とする頭を振った。
それからどの位の時間がたったんだろう。
拷問のような快楽に心が折れそうになった頃、インターホンが鳴り、ドカドカと足音を立てて直樹が来た。
「蓮・・・・ッ!!」
俺は霞む視界の中で、鬼のような形相の直樹を見て安堵した。
「・・・・な・・おき・・・」
直樹は俺の様子を見て息を飲み、傍にあったシーツで俺をグルグルと巻いて、
「武藤ぉ・・・っ!」
と叫びながら武藤を殴り飛ばした。
武藤は吹っ飛んで、床に尻もちをつき、殴られた頬を抑えて吠え立てた。
「あんたが悪いんだろ!期待させといて携帯も繋がらないじゃないか!僕を馬鹿にしてっ!黙ってられるか!」
武藤はゆらりと立ち上がる。
「待って!近寄らないで・・・!ほら、蓮さんのこの写真、このボタンを押せば、アウトだからねっ!いいの!?」
「・・・やめろ!この卑怯者っ!」
「つぅ・・・。何とでも言えば?ね?直樹さん今度こそ交渉してよ。この写真の消去と引き換えに…そうだな。俺を抱いてよ。なんか蓮さん思った以上にエロくて、僕、なんか我慢出来そうにないし。」
「いいよ。抱いてやる。」
直樹がゆるく口元だけ歪めて一歩踏み出すと、武藤が息を飲んで叫ぶ。
「待て!俺に近寄るな!」
「なんだ?抱いて欲しんだろ?」
「いや。何その気迫?殺す気?」
「分かってんなら、早く写真を消せ!」
「嫌だよ。この僕をコケにされて黙ってられないってさっき言っただろ?
…そうだな。じゃあ、俺の前で蓮さんををいつもみたいに抱いてよ。
蓮さん強情でね。僕を欲しがらないんだ。乱れる蓮さんを想像すると興奮するんだけど、俺受け専だから、無理やり突っ込みたいって程でもない。
だから二人のセックス僕に見せてよ。僕も楽しいし、二人も楽しんで。
そしたらこの写真を消してあげる。」
「・・・・・なっ!?」
「ああそうだ。ロケの写真は保険に取っておくからね。報復とか考えないで。後腐れないショーにしようよ。直樹さん選択肢は二つ。どうする?」
「さっき、俺に送った写真を今後、脅しに使わないという保証もないのに、言う通りに出来る訳ないだろ!?」
「残念ながら、もうこんな事は二度と出来ないよ。警察沙汰になって僕の人生を台無しにするつもりはないからね。
だから直樹さんに送った写真も一枚だけしか撮ってないし、写真データも蓮さんの携帯の中にあるその一枚だけだ。
蓮さんが証人だよ?聞いて見れば?」
俺は直樹を見てコクリと頷くと、直樹は拳を震わせて武藤を睨んだ。
「・・・・そこで見てろ。近寄ったら、ぶっ殺す。」
「いいね。ゾクゾクする。でも、がっかりするようなセックスはやめてね。」
武藤は自分の体を抱きしめて、ブルりと震えた。
「この、変態・・・!お前は信用出来ない。その携帯を床に置け。今から写真を撮るそぶりを見せたら、即、殺す!」
直樹は武藤が床に携帯を置くのを確認してから、床に唾をはいて俺のいるベッドに近寄って来た。
「・・・・や、やめ、てくれ・・・な・・おき・・・・」
「・・・薬・・・飲まさたんですか?」
そっとベッドのそばに膝を付いて、俺の頬に触れた手が震えている。
「あ・・・。」
俺が頭を振ると、武藤が後ろから「座薬だよ。」と答えた。
直樹は悲壮な顔をして、弱々しくグルグルに巻いたシーツをほどいてく。
「い・・・や、だ・・・・やめ・・・。」
「大丈夫ですから。俺を信じて。どこか怪我はありませんか?」
シーツをほどくと、俺に「少し我慢して下さい。」と言って、シリコンリングとビーズを引き抜き、壁にぶち当てた。
「武藤!手錠の鍵は!?」
武藤の放り投げた手錠の鍵がパサりとベッドに落ちた。
直樹は無言で鍵を拾い、震える手で俺の拘束をほどいて、手首を舐めた。
「血が出てる。」
ピリっとした痛みさえも、体を熱くする。
「あ・・・・っ。!さ、わる・・・なっ・・・!」
武藤にいいように扱われて、直樹に抱かれる所を見られるなんて、死んでも嫌だ。
悔しくて、悔しくて、浅はかにも武藤のマンションなんかに来てしまった自分を呪った。
頬に涙がつたう。
「蓮……。大丈夫です。俺に任せて。」
真鍋が悲しそうに微笑んで、俺の涙を唇で受け止め、そのまま耳もとへ滑らす。
「んんっ……っ!」
直樹は耳朶を甘く噛んで、俺にしか聞こえない声で囁いた。
「部屋の前に、ななみさんが助っ人と一緒に待機してます。」
「………っ!?」
耳の下に唇を、這わせながら囁きは続いた。
「俺の携帯がななみさんの携帯と繋がってる。合図をすれば乗り込んでくるでしょう。
でも、武藤に蓮の携帯を握られている限り、合図を送れない。隙を作らないと……。」
後ろでダンっ!と床が鳴った。
「ちょっとぉ。何二人でヒソヒソやってんの!?睦言は聞こえるように喋ってよね!?」
「ちっ!おまえは黙って見てろ。」
蓮の手が俺の胸をさわさわと撫ぜ、たまらない快感に吐息が漏れた。
「む…とう。おまえ…も…こ来い…。」
「蓮!?」
「見られるのは…いや…だ。おまえも…来るんだ…」
「あはははは。だってさ。聞いた?3Pだって!直樹さん?いいの!?」
「あんたっ!何考えて・・・!?」
武藤は大声で笑いながら一歩前へ進んだ。携帯は足元に置き去りだ。
「・・・・直樹・・・愛してる・・・・。」
俺が腕を直樹の背中に回して見つめると、直樹はその綺麗な顔を歪ませて、長い睫毛を伏せた。
「・・・・・。蓮がそれで構わないなら・・・・。」
「どうなってんの!?ねえ!?どーなってんの!?二人のセックスって蓮さんが完全に主導権握ってるわけぇ!?」
「・・・・来る、のか?・・・・来、ないのか?」
「ふふ。いくいく!あ。直樹さん変なマネしない?」
「・・・俺は蓮に逆らえない。」
「くすくす。・・・そ。ならいいけど。」
武藤は携帯はそのまま、楽しそうに俺たちのそばに近寄って、ベッドに膝をついた。
「ハックシュン!」
・・・・直樹、もしかして、そのくしゃみが合図か?・・・そんな生理現象、合図として危険過ぎねえか?
ばあん!と扉が勢いよく開いて、ななみちゃんと黒人2人が現れた。
「な、ななみ!?」
驚く武藤を尻目に、直樹は部屋の扉が開くと同時に携帯の元へ走り出して行った。
「あっ!待てっ!」
遅れて武藤が動いたが、直樹は手早く携帯を拾う。
「あ・・あ・・ちくしょう・・・っ!なんだよ!?おまえら!?」
ななみはツカツカと武藤に近寄り平手でパアン。と頬を打った。
「馬鹿!私もあんたも、あの記者に脅されて、嫌な思いしたのに、なんで同じ事したの!」
「あ・・・・。」
武藤は殴られた頬を押さえて、言葉をなくしその場に崩れ落ちた。
直樹は俺の服を拾い手早く着せてくれた。
「ななみさんと武藤は付き合ってたんですよ。合鍵もまだ、ななみさんが持ってました。
撮影が終わったあと、みんなで話し込んでて、そこに武藤からのメールがあったんです。怒り狂った俺を見たななみさんが、詰め寄って来て、事の顛末を話すと、武藤との関係を教えてくれて、協力してくれたんですよ。
さあ。もう行きましょう。
ななみさん。あとは、お任せます。」
「二人共、ごめんね。こいつ説教してから、後でちゃんとワビ入れさすから。」
黒人二人を後ろに従えて、ななみちゃんは悲しそうに頭を下げた。
「いえ。ななみさんが謝ることありませんよ。助かりました。このお礼は後ほど。」
直樹は俺にふわりとシーツを被せて、ヒョイっと縦抱きにして、部屋を後にした。
「このまま、俺のマンションに行きますので、顔は隠してて下さいよ。」
俺は言われた通りにシーツを頭まで被る。
シーツは紺色だ。闇に溶けるといい。
******
シーツを被り、薬と安堵で朦朧としたままの頭で、直樹のマンションにたどり着いた。
「風呂に入りましょう。洗ってあげます。」
俺がこくりと頷くと、動けない俺の代わりに服を脱がせて、熱いシャワーをかけ、丁寧にボディソープで洗い流す。
まだ、熱に浮かされた体を見て、直樹は整った顔を歪め、
「薬を使ったセックスは、依存してしまう恐れがあって危険なんです。・・・・辛いですか?」
俺が素直に頷くと、直樹は少し嬉しそうにして、「じゃあ。これくらいなら。」とだけ言い。
俺の昂ぶりを口に咥えた。
「あっ……うっ……っ!」
もっていかれるって言うのはこの事か!
下半身に顔を埋める直樹の頭を、手でかき回して、手足を強張らせてしまう。
すぐに絶頂感へと導かれ何度も直樹の名前を呼んで、俺は体をビクビクと跳ねらせて絶頂を迎えた。
シャワーをすませた後も直樹は甲斐甲斐しく世話を焼いて、そっとベッドに横たえてくれた。
薬の効果が切れてきたのか、倦怠感が俺を襲ってる。
「なぁ。直樹も武藤に脅されてたのか?」
「・・・はい。でも写真には俺の顔しか写ってなかったので、無視してたんです。
蓮はなんであんな事まで脅しに乗ったんです?蓮の顔は写ってなかったでしょう?」
「……おまえの顔が写ってたからだよ。」
「俺との関係、バレらされると思いました?」
「いや。俺は別におまえとの関係を隠すつもりはねえから、それは別にいんだ。」
「・・・えっ!?」
「えっ?っておまえ……。
別におまえと付き合ってる事、隠す必要なんかないだろ。」
「ええっ!?・・・そういえば、あんたそういうトコ、ありますね。そうです。別に構わないんです。・・・・・・ああ。俺って本当に馬鹿。」
「は?何言ってる?」
「いや。ただの独り言。
じゃああんたは、何で隠すつもりもないのに、武藤の脅しに乗ったんです?」
俺がどうなっても、おまえを守りたかった。なんて。恥ずかしくて言えねえ。
「言わない。」
「何ですかそれは?気になるでしょう!?」
「勝手に気にしてろ。」
「冷た…っ!拗ねますよ!」
「拗ねるな。今更、言葉ひとつ足りない位で、壊れてしまう仲じゃねえだろ。」
俺は起き上がって、直樹の唇にちゅっと音を立ててキスすると、いつもブラウン管に写るクールな眞鍋直樹からは想像も出来ない程、取り乱して、ジタジタともがいた。
「ちょっ……っ!そんなのズルですよ!言葉も必要ですよ!」
「ああん?なら、耳かせ。」
直樹はパッと顔を輝かせて、見えない尻尾をバサバサと振って耳を差し出した。
なんだ。言わなくても分かってんじゃねえか。
俺は直樹の耳に唇が触れる位、近寄って囁く。
「おまえって、ホント馬鹿だな。」
そう言うと、直樹がムスッと拗ねたので、俺は仕方なく、もう一度その唇に唇を重ねる。
指先に、孔雀石がカツンとあたって、目が合った俺達は、どちらともなく微笑んだ。
(おわり)
俺がその視線を不快も顕に睨みつけると、武藤はあどけなく笑って扉を全開にした。
「蓮さん。いらっしゃい。どうぞ。」
人を脅しつけて呼び出して置いて何が『いらっしゃい』だ。
今まで、人懐っこいヤツだと思ってたが、とんでもないヤツだな。
ムカムカと胸の怒りが収まらない。
こいつは撮影最終日の今日、俺の楽屋に「相談がある。」と訪れて来て、武藤は黙って携帯を取り出し、俺に差し出した。
そこに写っていたのは俺と直樹の抱き合ってる写真。
ロケ撮影の時のものだ。いつの間に・・・!?
「・・・・なんだ?この写真。」
武藤は目を伏せて悲しそうに微笑んだ。
「俺・・・。蓮さんにお願いがあるんです。今日撮影が終わったら、会ってもらえませんか?」
「・・・・・・・。」
「ね?この写真、バラされたくなしでしょう?」
武藤は伏せ目がちのまま唇の端をニヤリと上げて笑った。
マンションの中に入る気はなく、靴も脱がずに広い玄関で、武藤に詰め寄った。
「何考えていやがる!?」
「ふふ。あのね。」
あどけなく笑いながら、武藤は、
耳朶を人差し指と中指で捏ねた。
なっ・・・!!こいつ馬鹿か!?
「・・・・冗談じゃねぇ。」
「冗談でこんな事出来ませんよ。ね?あの写真、蓮さんの顔、ほとんど写ってなかったでしょう?でもね。直樹さんの顔はバッチリ写ってる。」
「・・・・・・・。」
「さあ。こんな所じゃなんです。中へどうぞ。」
こいつはゲイだ。
武藤が嬉しそうに笑ってる。
・・・・部屋に入れば、何をされるか分かったもんじゃない。
でも俺には他に選択肢はなく、ストンと座ってノロノロと靴を脱いだ。
靴を脱ぎ終えると、その動作をじいっと見ていた武藤に促されて、広いリビングを抜けてひとつの扉の前まで案内された。
扉の向こうにはシックな紺色で統一された広いキングサイズのベッドが見える。
武藤は扉の前で薄く笑って、顎をしゃくった。
「どうぞ。」
「武藤、写真を消せ。」
「嫌ですよ。すべては僕を満足させてから、です。大丈夫、これ一回きりですよ。何度もこんなネタ引きずって警察の世話になんか、なりたくないですからね。」
「・・・・自分のやろうとしている事、分かってんじゃねえか。」
「ええ。でも脅迫するつもりはありません。蓮さんが嫌ならどうぞ、帰ってもらっても大丈夫ですよ?」
そう言ってポケットからちらりと携帯を見せ付ける。
「・・・汚ねえな。」
「ふふ。最高の褒め言葉ですね。さあ。どうします?」
「・・・おまえの好きにすればいい。」
「ああ、いいですね。その目。すごく素敵ですよ。最後までその目のままでいて下さいね?」
武藤はするりと俺を抜けて部屋に入り、ベッドに腰掛け、ベッドをポンポンと叩いた。
「さあ。」
俺はぐっと拳を握った。
力ずくで携帯をぶち壊す・・・!
ズカズカと武藤の前まで行くと、武藤が笑った。
「写真データはパソコンにも取り込んであります。あとで一緒に消しましょうね?ふふ。焦らさないで下さいよ?さぁ。服を全部脱いで。」
くそっ!読まれてる・・・!
俺はバサバサと服を脱ぎ捨て、乱れた髪をかき上げ、武藤を睨みつけた。
「いい体してますね。さあ、座って脚を開いて。」
武藤を見据えたまま、言われた通りにベッドに座り脚を無造作に開いた。
深く考えるな。一度だけ好きにさせれば、直樹のゴシップが外に出ることはない。
武藤は上唇を舐めて、俺の膝を掴みぐいっと引き上げ、後孔をゆるりと撫ぜた。
「っ………っ!」
「ふうん。ココ綺麗ですね。大事にしてもらってんだ。ああ。ちゃんと風呂入って来たんですか?いい匂いがする。」
武藤は俺の膝の裏を掴んだまま、後孔にねろりと舌を這わせた。
「・・・・・っ!」
それは直樹には絶対にさせなかった行為で、体がぎしっと強張る。
武藤はわざとぴちゃぴちゃと音を立てて後孔を舐め、やがて、ぐっと内部に侵入してくる違和感に俺は眉を潜めた。
「・・・・な・・・!?」
「ん?使ったことないんですか?座薬ですよ。弛緩剤で中がトロトロになります。ほぐす手間が省けます。催淫剤入りなんで合法性はないんですけど、安心して。保証は僕がしますから。」
ググッと武藤の指が奥まで届く。
「う。やめろ。」
俺が武藤の頭をぐいっと押しのけると、武藤は笑ってそのまま離れ、手錠を取り出した。
「大人しくして。写真が気になりませんか?」
「俺は逃げも隠れもしない。そんなもの、しまえ。」
「信用出来ませんね。僕、怪我するのはごめんですから。」
後ろ手で組まれて、目を瞑るとひやりと手錠が触れて、ジキジキジキっと手錠の締まる音がした。
ギリッと唇を噛みしめると、口の中に血の味が広がる。
「座薬はすぐに効いてきますよ。ダウン系なんで気に入るといんですけど。」
血の昇った頭で見上げると、武藤は楽しそうに笑って俺の肉芯を掴んだ。
「蓮さん、結構そそられますね。男、直樹さんしか知らないんでしょう?
セックスにも楽しみ方はそれぞれあってね。相性も大事です。俺は突っ込まれる方が好きなんですけど、いいですよ。今日は特別に俺が突っ込んであげますから。」
俺の肉茎はやわやわと揉まれたが、俺の嫌悪感が強すぎて体は反応しない。
「もう。やめろ。」
武藤は舌打して、俺のそばから離れたので、ほっと安堵のため息をついたのも束の間。
武藤は、箱の中から数珠が連結している棒状のようなものを取り出し、乱暴に後孔にローションを塗って、ずぷりと差し込んだ。
「うっ……あっ……っ!」
「蓮さんは後ろのほうが好きそうですね?ああ。薬が溶けてきてる。ちゃんと柔らかくなってるからすぐに入ってくれるでしょ?」
つぷん。つぷん。と音を立てて異物が次々と侵入してくる違和感に俺は目をつぶって耐えた。
「ふふ。しっぽみたいで可愛い。」
カチリと音がすると異物は振動を始めた。
「ひっ・・・・・っ!」
「どう?いい?」
異物は振動してじわりと熱くなりそうな感じに嫌悪感が増す。
俺が首を振ると、武藤は面白そうに異物を引っ張った。つぷん。とビーズが抜けて息が漏れた。
「いいなぁ。いつもこんな事、直樹さんにしてもらってるの?」
つぷん。つぷん。とビーズが出入りを繰り返し、武藤の手元で、カチカチと音がすると中の振動が強くなりずくん。と体の芯が熱を持つ。
「ああ。俺もホントは直樹さんにこんなのしてもらいたかったのに、断られたんだよねぇ。」
「・・・直樹はッ!・・・おまえみたいにッ変態じゃねぇ・・・・・・っ!」
「ふーん。アナルビーズも使った事ないの?これ結構気持ちいいっしょ?ああ。そうだ。いっそ、直樹さん呼んで、色んなコトしてもらっちゃう?俺は元々受け専だし、別にいいよ。
あ。ケータイ貸してね。俺の着拒されてっから。」
「馬鹿っ!やめろ!」
武藤がベットから降りて、俺の服を探り携帯を取り出した。
俺は立ち上がって携帯を取り返そうとしたが、膝ががくりと折れて思うように体を動かす事が出来なかった。
「あ。薬が効いてきたみたいだね。これから良くなるからね。ちょっと待てて。すぐに何回もイけるようになるよ。」
武藤は笑いながら俺の携帯をいじり、俺の片足をぐいっと広げて「はい!ポーズ!」そう言ってカシャリと写真を撮った。
「んんー。半勃ちなのが残念。でも可愛く撮れたからね。安心してね?ちゃんと直樹さんに送ってあげるから。きっと、すごく喜んでくれるよ。」
「やめろっ!!」
俺が掴まれた反対の足を振り上げると、武藤にするりと身をかわされて、ドサリと落ちたベッドの上から携帯の送信完了音が聞こえた。
「直樹さん、今何してんのかなぁ?早くこの写メに気が付くといいのにね。その間、何して待つ?」
「ぶっ殺す……っ!」
「んんっ!いいね。なんかゾクゾクする。でもそんな体で殺されるのはどっちなの?蓮さん?分かってんの?」
近寄る武藤に蹴りを入れようとすると、楽しそうに笑いながら俺の両足を掴んで、がばりと広げた。
「もう。たいして体、動かなくなってきてるじゃん。ふふ。」
「くっ・・・!」
武藤の手を払いのけようとしても体に力が入らず、思うように動かない。
後孔に入った異物が振動して、熱くなる体と激しい屈辱感で目の前が真っ赤に染まる。
武藤が俺の下半身に顔を埋めようとした時に、携帯が鳴り、武藤は肩を揺らして笑った。
俺は動かない体とぼんやりと沈んでいく意識の中で、武藤の声を聞いた。
「はい。武藤です。・・・・・・・やだな。そんなに怒鳴らなくても聞こえますよ。・・・・・・ええ。いま蓮さんと楽しんでますよ。良かったら、直樹さんも一緒にどうです?
・・・・ふふふ。場所ですか?×××にあるフォレスターマンションの501です。ああ。誰にも内緒で来てくださいよ。
さっきの写真、ネットでバラまかれたくないでしょう?・・・・うるさいなぁ。切りますよ。・・・・え?僕はいいですけど、蓮さんが待てないと思いますよ。じゃ。」
ギシリとベットが軋み、武藤が太腿を撫ぜると体がビクリと震えた。
「・・・さ・・わる・・な・・。」
「直樹さんすぐに来てくれるそうですよ。良かったですね。でも、それまで蓮さん我慢出来ます?」
つぷん。つぷん。と異物が出入りを繰り返す。
「・・・・ぁ・・・・やめ・・・ろ・・・。」
「蓮さん、ここトロトロになってる・・・。」
ビーズの入った後孔に指までが侵入してきた。
「中、すご・・・。ん。ここかな?」
武藤の指が探るように蠢いてビーズを腹の下辺りに押し当てた。
「…ぁ………ぁ…っ!」
「ああ。あたり?よかったぁ。ほら、ここもカチカチに勃って先走りが溢れてる。」
「も、やめ……。ああっ……っ!」
「いいの?蓮さん気持ちいい?」
体を強張らせて、快楽と屈辱とで、視界が滲んだ。
「直樹さんに手を出さないように言われたけど、なんかシたくなってきちゃった。
入れていい?蓮さんもシたいでしょ?」
「……そ、んな、わけ…ねぇ…。」
「タマ上がってきてんのに余裕だね。じゃあいいよ。イかせてあげない。」
「つッ!」
武藤は俺の肉茎を掴んでシリコン性のリングを根元にはめた。
精が塞き止められて、ドクドクと心臓に血が逆流する。
中に入った異物がじんじんと下肢を熱くさせる。俺は身体を丸めて、乱れる息を抑えた。
「やべ……。蓮さん耐えてる感じがすげぇエロい……。」
武藤は俺の顔の前でジーンズのジッパーをジィーっと開けて、醜い肉の棒を取り出して、俺の髪を掴んだ。
「ほら。これ欲しんでしょ?」
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「我慢出来なくなったら、僕が相手してやるよ。それまで、オモチャで一人遊んでる?」
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ぐっと拳に力を込めて、朦朧とする頭を振った。
それからどの位の時間がたったんだろう。
拷問のような快楽に心が折れそうになった頃、インターホンが鳴り、ドカドカと足音を立てて直樹が来た。
「蓮・・・・ッ!!」
俺は霞む視界の中で、鬼のような形相の直樹を見て安堵した。
「・・・・な・・おき・・・」
直樹は俺の様子を見て息を飲み、傍にあったシーツで俺をグルグルと巻いて、
「武藤ぉ・・・っ!」
と叫びながら武藤を殴り飛ばした。
武藤は吹っ飛んで、床に尻もちをつき、殴られた頬を抑えて吠え立てた。
「あんたが悪いんだろ!期待させといて携帯も繋がらないじゃないか!僕を馬鹿にしてっ!黙ってられるか!」
武藤はゆらりと立ち上がる。
「待って!近寄らないで・・・!ほら、蓮さんのこの写真、このボタンを押せば、アウトだからねっ!いいの!?」
「・・・やめろ!この卑怯者っ!」
「つぅ・・・。何とでも言えば?ね?直樹さん今度こそ交渉してよ。この写真の消去と引き換えに…そうだな。俺を抱いてよ。なんか蓮さん思った以上にエロくて、僕、なんか我慢出来そうにないし。」
「いいよ。抱いてやる。」
直樹がゆるく口元だけ歪めて一歩踏み出すと、武藤が息を飲んで叫ぶ。
「待て!俺に近寄るな!」
「なんだ?抱いて欲しんだろ?」
「いや。何その気迫?殺す気?」
「分かってんなら、早く写真を消せ!」
「嫌だよ。この僕をコケにされて黙ってられないってさっき言っただろ?
…そうだな。じゃあ、俺の前で蓮さんををいつもみたいに抱いてよ。
蓮さん強情でね。僕を欲しがらないんだ。乱れる蓮さんを想像すると興奮するんだけど、俺受け専だから、無理やり突っ込みたいって程でもない。
だから二人のセックス僕に見せてよ。僕も楽しいし、二人も楽しんで。
そしたらこの写真を消してあげる。」
「・・・・・なっ!?」
「ああそうだ。ロケの写真は保険に取っておくからね。報復とか考えないで。後腐れないショーにしようよ。直樹さん選択肢は二つ。どうする?」
「さっき、俺に送った写真を今後、脅しに使わないという保証もないのに、言う通りに出来る訳ないだろ!?」
「残念ながら、もうこんな事は二度と出来ないよ。警察沙汰になって僕の人生を台無しにするつもりはないからね。
だから直樹さんに送った写真も一枚だけしか撮ってないし、写真データも蓮さんの携帯の中にあるその一枚だけだ。
蓮さんが証人だよ?聞いて見れば?」
俺は直樹を見てコクリと頷くと、直樹は拳を震わせて武藤を睨んだ。
「・・・・そこで見てろ。近寄ったら、ぶっ殺す。」
「いいね。ゾクゾクする。でも、がっかりするようなセックスはやめてね。」
武藤は自分の体を抱きしめて、ブルりと震えた。
「この、変態・・・!お前は信用出来ない。その携帯を床に置け。今から写真を撮るそぶりを見せたら、即、殺す!」
直樹は武藤が床に携帯を置くのを確認してから、床に唾をはいて俺のいるベッドに近寄って来た。
「・・・・や、やめ、てくれ・・・な・・おき・・・・」
「・・・薬・・・飲まさたんですか?」
そっとベッドのそばに膝を付いて、俺の頬に触れた手が震えている。
「あ・・・。」
俺が頭を振ると、武藤が後ろから「座薬だよ。」と答えた。
直樹は悲壮な顔をして、弱々しくグルグルに巻いたシーツをほどいてく。
「い・・・や、だ・・・・やめ・・・。」
「大丈夫ですから。俺を信じて。どこか怪我はありませんか?」
シーツをほどくと、俺に「少し我慢して下さい。」と言って、シリコンリングとビーズを引き抜き、壁にぶち当てた。
「武藤!手錠の鍵は!?」
武藤の放り投げた手錠の鍵がパサりとベッドに落ちた。
直樹は無言で鍵を拾い、震える手で俺の拘束をほどいて、手首を舐めた。
「血が出てる。」
ピリっとした痛みさえも、体を熱くする。
「あ・・・・っ。!さ、わる・・・なっ・・・!」
武藤にいいように扱われて、直樹に抱かれる所を見られるなんて、死んでも嫌だ。
悔しくて、悔しくて、浅はかにも武藤のマンションなんかに来てしまった自分を呪った。
頬に涙がつたう。
「蓮……。大丈夫です。俺に任せて。」
真鍋が悲しそうに微笑んで、俺の涙を唇で受け止め、そのまま耳もとへ滑らす。
「んんっ……っ!」
直樹は耳朶を甘く噛んで、俺にしか聞こえない声で囁いた。
「部屋の前に、ななみさんが助っ人と一緒に待機してます。」
「………っ!?」
耳の下に唇を、這わせながら囁きは続いた。
「俺の携帯がななみさんの携帯と繋がってる。合図をすれば乗り込んでくるでしょう。
でも、武藤に蓮の携帯を握られている限り、合図を送れない。隙を作らないと……。」
後ろでダンっ!と床が鳴った。
「ちょっとぉ。何二人でヒソヒソやってんの!?睦言は聞こえるように喋ってよね!?」
「ちっ!おまえは黙って見てろ。」
蓮の手が俺の胸をさわさわと撫ぜ、たまらない快感に吐息が漏れた。
「む…とう。おまえ…も…こ来い…。」
「蓮!?」
「見られるのは…いや…だ。おまえも…来るんだ…」
「あはははは。だってさ。聞いた?3Pだって!直樹さん?いいの!?」
「あんたっ!何考えて・・・!?」
武藤は大声で笑いながら一歩前へ進んだ。携帯は足元に置き去りだ。
「・・・・直樹・・・愛してる・・・・。」
俺が腕を直樹の背中に回して見つめると、直樹はその綺麗な顔を歪ませて、長い睫毛を伏せた。
「・・・・・。蓮がそれで構わないなら・・・・。」
「どうなってんの!?ねえ!?どーなってんの!?二人のセックスって蓮さんが完全に主導権握ってるわけぇ!?」
「・・・・来る、のか?・・・・来、ないのか?」
「ふふ。いくいく!あ。直樹さん変なマネしない?」
「・・・俺は蓮に逆らえない。」
「くすくす。・・・そ。ならいいけど。」
武藤は携帯はそのまま、楽しそうに俺たちのそばに近寄って、ベッドに膝をついた。
「ハックシュン!」
・・・・直樹、もしかして、そのくしゃみが合図か?・・・そんな生理現象、合図として危険過ぎねえか?
ばあん!と扉が勢いよく開いて、ななみちゃんと黒人2人が現れた。
「な、ななみ!?」
驚く武藤を尻目に、直樹は部屋の扉が開くと同時に携帯の元へ走り出して行った。
「あっ!待てっ!」
遅れて武藤が動いたが、直樹は手早く携帯を拾う。
「あ・・あ・・ちくしょう・・・っ!なんだよ!?おまえら!?」
ななみはツカツカと武藤に近寄り平手でパアン。と頬を打った。
「馬鹿!私もあんたも、あの記者に脅されて、嫌な思いしたのに、なんで同じ事したの!」
「あ・・・・。」
武藤は殴られた頬を押さえて、言葉をなくしその場に崩れ落ちた。
直樹は俺の服を拾い手早く着せてくれた。
「ななみさんと武藤は付き合ってたんですよ。合鍵もまだ、ななみさんが持ってました。
撮影が終わったあと、みんなで話し込んでて、そこに武藤からのメールがあったんです。怒り狂った俺を見たななみさんが、詰め寄って来て、事の顛末を話すと、武藤との関係を教えてくれて、協力してくれたんですよ。
さあ。もう行きましょう。
ななみさん。あとは、お任せます。」
「二人共、ごめんね。こいつ説教してから、後でちゃんとワビ入れさすから。」
黒人二人を後ろに従えて、ななみちゃんは悲しそうに頭を下げた。
「いえ。ななみさんが謝ることありませんよ。助かりました。このお礼は後ほど。」
直樹は俺にふわりとシーツを被せて、ヒョイっと縦抱きにして、部屋を後にした。
「このまま、俺のマンションに行きますので、顔は隠してて下さいよ。」
俺は言われた通りにシーツを頭まで被る。
シーツは紺色だ。闇に溶けるといい。
******
シーツを被り、薬と安堵で朦朧としたままの頭で、直樹のマンションにたどり着いた。
「風呂に入りましょう。洗ってあげます。」
俺がこくりと頷くと、動けない俺の代わりに服を脱がせて、熱いシャワーをかけ、丁寧にボディソープで洗い流す。
まだ、熱に浮かされた体を見て、直樹は整った顔を歪め、
「薬を使ったセックスは、依存してしまう恐れがあって危険なんです。・・・・辛いですか?」
俺が素直に頷くと、直樹は少し嬉しそうにして、「じゃあ。これくらいなら。」とだけ言い。
俺の昂ぶりを口に咥えた。
「あっ……うっ……っ!」
もっていかれるって言うのはこの事か!
下半身に顔を埋める直樹の頭を、手でかき回して、手足を強張らせてしまう。
すぐに絶頂感へと導かれ何度も直樹の名前を呼んで、俺は体をビクビクと跳ねらせて絶頂を迎えた。
シャワーをすませた後も直樹は甲斐甲斐しく世話を焼いて、そっとベッドに横たえてくれた。
薬の効果が切れてきたのか、倦怠感が俺を襲ってる。
「なぁ。直樹も武藤に脅されてたのか?」
「・・・はい。でも写真には俺の顔しか写ってなかったので、無視してたんです。
蓮はなんであんな事まで脅しに乗ったんです?蓮の顔は写ってなかったでしょう?」
「……おまえの顔が写ってたからだよ。」
「俺との関係、バレらされると思いました?」
「いや。俺は別におまえとの関係を隠すつもりはねえから、それは別にいんだ。」
「・・・えっ!?」
「えっ?っておまえ……。
別におまえと付き合ってる事、隠す必要なんかないだろ。」
「ええっ!?・・・そういえば、あんたそういうトコ、ありますね。そうです。別に構わないんです。・・・・・・ああ。俺って本当に馬鹿。」
「は?何言ってる?」
「いや。ただの独り言。
じゃああんたは、何で隠すつもりもないのに、武藤の脅しに乗ったんです?」
俺がどうなっても、おまえを守りたかった。なんて。恥ずかしくて言えねえ。
「言わない。」
「何ですかそれは?気になるでしょう!?」
「勝手に気にしてろ。」
「冷た…っ!拗ねますよ!」
「拗ねるな。今更、言葉ひとつ足りない位で、壊れてしまう仲じゃねえだろ。」
俺は起き上がって、直樹の唇にちゅっと音を立ててキスすると、いつもブラウン管に写るクールな眞鍋直樹からは想像も出来ない程、取り乱して、ジタジタともがいた。
「ちょっ……っ!そんなのズルですよ!言葉も必要ですよ!」
「ああん?なら、耳かせ。」
直樹はパッと顔を輝かせて、見えない尻尾をバサバサと振って耳を差し出した。
なんだ。言わなくても分かってんじゃねえか。
俺は直樹の耳に唇が触れる位、近寄って囁く。
「おまえって、ホント馬鹿だな。」
そう言うと、直樹がムスッと拗ねたので、俺は仕方なく、もう一度その唇に唇を重ねる。
指先に、孔雀石がカツンとあたって、目が合った俺達は、どちらともなく微笑んだ。
(おわり)
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