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2.ちょっとだけ、友達以上な二人
駅前の本屋さん
しおりを挟む(あー……。やっぱり、佐々木っていい子なんだな……)
翔真はそう思った。
粘られたり、責められたりしたらどうしようかと思っていたのに。
……彼女がいい子なのは間違いない。
〈自分のことを好きみたいだから〉というだけで、彼女のことを軽く簡単に考えていたことを、翔真は申し訳なく思った。
でも、……もう駄目なのだ。
佐々木を傷つけて申し訳ないと思ったが、……ほっとする気持ちの方が大きかった。
今の翔真の頭は、日南のことでいっぱいだった。
♢ 〇 ♢
(……噂って、立ってんのかな)
翔真と佐々木の噂。
女子同士の噂は、まわるのが早いという。
急いで日南にアプローチをかけても、却って変な風になってしまうかもしれない。
日南と佐々木と翔真は、全員同じ学校の同じ学年なのだ。
いや、日南のこと以外にも、……やっぱり佐々木にも申し訳なかった。
日南との関係をすぐにでも進展させたいが、あんまり時期が早くては、佐々木がさらに傷つくだろうと思えた。
やっぱり、どう考えたって佐々木には配慮が必要だ。
けれど、どのくらい期間を空ければいいのだろう?
一週間――じゃ、短いだろう。
なら、二週間?
(……いや、それも早いよな)
やっぱり、月単位では間を空けないといけないだろう、人として。
でも、何か月もというのはさすがに待てない。
その間に、あのおとなしそうな日南が誰かに盗られてしまうかもと思うと……、焦りが収まらない。
自業自得もあるとはいえ、そして、佐々木に対して人として心が痛むとはいえ、翔真は必死に祈った。
(――神様! 日南さんに、俺以外の奴がちょっかいかけたりしませんように……!)
++ 菜緒 ++
それは、大掃除が終わって春休みも目前に迫った、期末試験帰りのことだった。
(……三十分、経過か。そろそろ、いいよね)
学校から二駅ほど離れた大きな駅に入っているビルで、菜緒は腕時計を見た。
駅ビルにある本屋に入って、もうずいぶん参考書棚の前に立っている。そろそろ帰らないと、店員さんにも迷惑だと思われるかもしれない。
学校が終わってそのまま帰ると、……菜緒は時折、変な人に尾行されることがあった。
だから、できる時にはこうして帰宅時間をずらしているのだ。
とはいえ、もう充分だろう。
帰ろう。
そう思って、通学リュックを背負い直して、フロアの半分を占めているその書店を出ると――。
「あっ……」
菜緒は、目を瞬いた。
目の前に――、ウィンドブレーカ―姿の桐生翔真が立っていたのだ。
彼とこんな風に偶然出くわすのは、たった一度、大掃除の時に水道のところで偶然会って以来だった。
向こうも驚いたようで、目を見開いている。
菜緒は、急いで会釈をした。
「あ……、どうも……」
「ぐ、偶然だね……。日南さん……」
菜緒が顔を上げると、目を白黒させるようにして、桐生が狼狽(うろた)えている。
(……桐生君、困ってるのかな?)
あの時知り合いでもないのに菜緒が急に話しかけたりしたから、その勢いに引いているのかもしれない。
(キモオタと思われたかなー……)
桐生とは学校の廊下ですれ違うと何となく会釈を交わすようになったけれど、それもただの社交辞令で間違いない感じだった。
こちらからあんまりフレンドリーにしたら、彼も困るだろう。
菜緒だって、あんなに華麗にコートを駆け抜ける桐生に嫌われるのは避けたかった。
しつこい変な女だと思われる前に、菜緒はまた急いでぺこりと頭を下げた。
「それじゃあ、また」
そそくさと菜緒が去ろうとすると、その前に桐生が声を上げた。
「あっ、待って!」
「え?」
驚いて菜緒が振り返ると、桐生はおたおたと目を泳がせた。
「えっと、あの、ちょっと今、時間、ないかな……?」
「時間?」
「そう。えっと、その……。……あ、そうだ! その、俺、欲しい本、が、ありまして……。だから、日南さん、一緒に探してくれないかなって。俺、この店、初めてで……」
桐生がたどたどしく言うので、菜緒はまた目をぱちぱちとさせた。
もしかしてこれは――いわゆる、〈お誘い〉的なことなんだろうか?
(ん……? んん……? いいのかな……?)
つい戸惑う。
だって、噂では、桐生には確か同じクラスに――……。
そこまで考えて、菜緒は内心で首を振った。
(……いやいや。待ってよ、自分。ただ本を探すのを手伝ってほしいって言われただけじゃない)
そんなに深読みして、心配することじゃない。
(考え過ぎだよね。……ていうか、あたし、いい加減調子乗り過ぎじゃない?)
イギリスから日本に帰って以来数え切れないほど告白されて……いや、本当はイギリスでも、異性からのアプローチはたっぷりあって。
自分でも、結構モテる方だと勘違いしてきている気がする。
桐生はあまり背は高くないが、きりっとした綺麗な二重の目元が印象的で、鼻筋も通って、なかなか整った顔立ちをしている。
笑みを含んだような優しい口元のせいか、どこか犬を思わせるような容貌に菜緒は感じた。
いつも制服かジャージ姿なのだが、有名スポーツメーカーのジャージを彼が着ると結構様になっている。
……だが、菜緒は男の子の容姿や服装にはあまり興味がない。
何より大事なのは、桐生が打ち込んでいるスポーツだ。
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