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同じクラスって、逆に難しくない?

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(……あの時は、結構盛り上がったと思ったんだけどなぁ)

 打ち上げ終わりに皆で連絡先を交換したけれど、……桐生から個人ルームにメッセージが来ることは一度もなかった。

 それでも、一学期が終わって二学期もなかばも過ぎた頃には、クラスでは結構話す仲になっていたし、史帆がクラスで一番気の合う女友達のイノちゃんが桐生と仲がいい須藤慎太すどうしんたという男子とよく喋ることもあって、史帆と桐生は仲がいいくくりに入るとは思う……のだが、それだけだった。

 桐生は昔からとあるスポーツに打ち込んでいるらしくて、校内にある部活には入らず、地元のユースチームに所属してプレイしているらしい。

 ……とすると、忙しくて彼女なんか作る暇がないのかもしれない。

 そう思うと、ますますグイグイいくのに気が引ける。

 そうこうするうちに冬休みに入って、史帆は駅前のファーストフードでアルバイトを始めた。
 そこでしばらくバイトを続けていると、他校に通う一学上の男の子と仲良くなった。
 彼はバイト先では先輩で、仕事も手際がよくて評判だったし、新入りの史帆に仕事を丁寧に教えてくれた。

 ちょっと物言いがキツくて態度が大きい感じはあったけど、バイト先でテキパキ動いて仕事振りに信頼もある彼が、史帆には頼りがいがあるように見えた。
 だから、史帆からもそれなりに話しかけてみていると、向こうも史帆をいいと思ってくれていたようで、彼から告白されて付き合って、クリスマスデートの誘いがあって――待ち合わせ場所に行ってみると、彼の私服のダサさに潮が引くような心地(ここち)がした。

(げ……。マジ? ダサすぎ……)

 彼はいかにも〈お母さんに量販店で買ってきてもらいました!〉みたいな冴えないチェックのシャツに小汚いダメージジーンズを合わせていて、がっかりしてしまった。

(バイト先にはいつも制服で着てたし、この壊滅的なセンスには気づかんかったわ……)

 おいおい。
 よく見ると、鼻毛まで出てるじゃねーか。
 史帆はお洒落にもメイクにも気を遣っているから、彼の手の抜き方が余計に目について腹が立った。

 少しはそっちも頑張りなよ、って。

 史帆は、自分の見る目のなさと引きの悪さにがっかりした。

(……もしかして、ウチ、また中学の時と同じ失敗した?)

 嫌な予感に史帆が額に手を当てたくなっているのも気づかずに、彼は十五分も遅刻しておいて、謝るでもなく歩み寄ってきた。

「よっ、史帆。お待たせぇ」

 呼び捨てにしていいとか、言いましたっけ?
 そう訊きたいのを我慢して、史帆は彼と一緒に公開したばかりの映画を観た。
 会話が弾まなくても間が持つから――なんて選んだデートコースだったはずなのに、彼は映画館が暗くなると同時に手を繋いできた。またも、勝手に。

(うわっ、キモッ! 何こいつ……)

 ぎょっとして、……気がつくと鳥肌が立っていた。
 史帆が引いているのを照れて恥ずかしがっていると思ったのか、彼はデート中はずっと威張っているみたいな話し方をして何度も勝手に過剰なボディタッチをしてきて――それでもう、我慢の限界だった。
 一度きりのデートを終えた後はひたすら距離を置いてあちらに空気を読んでいただいて、終了した。
 史帆はバイト先では彼と一番仲がよかったから居づらくなって、冬休みの終わりと同時に辞めてしまった。

 二人で撮った写真をスマホから削除しようと思って眺めてみると、史帆はさらにがっかりしてため息を吐いた。
 恋している……ような気でいた時は、顔ももっと格好いい気がしていたけれど、冷静になってよく見ると、全然格好良くなかった。
 いやそれどころか、ただのブスだった。

 ……やっぱり、〈すぐに離脱できる場所〉という保険をかけた恋を探そう、というのは、安直だったかもしれない。

 それとも、心のどこかで同じクラスだから気まずいと思って引いてしまっている桐生のことが、ずっと引っかかっているから駄目なのかもしれない。

 冬休み明けに教室に入ると、まず笑っている桐生の姿が目に入って、彼は須藤と話しているところだった。

(……やっぱり、桐生って格好いいなぁ)

 大人しい彼より、お調子者でよく喋る須藤の方がクラスでは目立っている。
 そういえば須藤の方が背が高いから、それもあるかもしれない。あと、須藤は猿顔で物凄く顔立ちに特徴があるから、それもあるのかも。

 ……でも、イノちゃんと史帆の共通見解としては、須藤はちょっと悪乗りが過ぎるところがあった。

 その場で面白おかしく喋る分には楽しくていいんだけれど……、あんまりいい奴じゃない。
 桐生は、女子を貶して弄るみたいな変な冗談を言うようなことはないんだけれど。

 以前は同じクラスに桐生を気になると言っている子もいたけれど、彼と同じく大人しい雰囲気の女子だった。
 彼女は、冬休み前に同じ部の先輩と付き合い出したらしい。

(となると、今がチャンス? ……やっぱり、勇気出して頑張ってみようかなぁ)

 同じクラスの子が彼を気になると公言している状況だと複雑だけれど、それも解消された。
 クラス替えも近い――なら、上手くいかなくたって、そんなに長く気まずくならずに済むだろう。

(……桐生も私服くっそダサかったらどうしよ)

 私服がダサいと自分が秒で冷めてしまうのは、経験済みだ。
 でも、桐生はよーく顔を見てもやっぱり整っていて格好いいから、一緒に歩いたら楽しいだろう。
 スポーツを頑張っているというのも、素敵だと思う。

 まるで自分が選ぶ側に立っているみたいな上から目線で、史帆はそう思った。

 だって、もう二人も彼氏ができたことがあって、どっちも史帆から振ったのだ。
 自分は、きっと結構上のランクの女の子なのだろう――そんな風に調子に乗ってしまう部分もあった。

 ……でも、そんな偉そうな考え方は、無敵状態から生じているというわけでもなくて、上手くいく確証もないのに、桐生を凄く好きになるのは怖いという不安の裏返しでもあった。

 桐生をあらためて意識するようになって、少しだけぎこちない仕草で、史帆はイノちゃんに話しかけた。

「おはよう、イノちゃん。冬休み、あっという間に終わっちゃったね……」


 ♢ 〇 ♢


「イノちゃん、聞いて聞いてっ。昨日あいつにメッセージ送ったんだけど、結構やり取り盛り上がったんだよ……」

 誰もいない廊下でイノちゃんと騒いで、誰もいないのをさんざん確認したんだけれど、桐生の名前を聞きつけられたら大変だと思って、史帆は〈あいつ〉と言った。
 イノちゃんもすぐに笑顔になって、史帆に頷いた。

「よかったじゃん! 二人、絶対合うよね」
「ほんと? ほんとにそう思う?」
「うん。それに、史帆と話してる時の奴、嬉しそうだもん。絶対上手くいくよ」

 イノちゃんは、優しい子だ。
 背格好に加えて、髪型だとかメイクも史帆とちょっと似ていて、男の先生に『双子みたいだな』とからかわれることもある。

 要は、二人は好みが似ているのだ。
 流行りを追いかけるのが好きで、恋に憧れていて、少女漫画が大好き。
 部活は同じバド部に入って、緩く流している。

 イノちゃん的には友達の史帆を勇気づけたくて、あとたぶん、マイナスなことを言う性格じゃないのもあって、『絶対』を連発してくれる。
 彼女がそんなキャラだとわかっていたはずなのに、イノちゃんが煽るせいで、史帆はどんどん桐生を意識するようになった。

(よしっ。もっと桐生に頑張ってみよう)

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