王道ですが、何か?

樹々

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第三王道『恋してふっさふさ☆』

7.二匹の獣

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 ぬおおぉぉぉーーーー!!



 まともに顔が見れねぇ……!!



 迷惑を掛けたと、ランスロット総団長に謝罪に行ったはずが。

 長い耳が拾ってしまった執務室の会話。耳栓を忘れてしまったことをこれほど後悔した日は無い。



 あの人が……!?



 俺を好き……好きだって……!?



 副団長と二人だけだったせいか、くだけて話していた。ノックをして入ろうとしたら、俺の話が出ていて。

 入るタイミングを逃してしまい、挙げ句に驚く内容を聞いてしまい。



 体が……また……!


 フルフル震えて発情しそうだ。森の中に分け入り、全力で距離を取ると足を止めた。木に背を預けながらズルズルと尻餅をついてしまう。見上げた木は、風に葉を揺らして気持ち良さそうだ。

 木漏れ日を浴びながら、体に溜まってしまいそうな熱を落ち着けた。また発情してしまったらまずい。

「チェスター隊長。あの、話を聞いてくれないだろうか」

「……!?」

 そんな馬鹿な。俺は全力で走っていた。ラビット族の俺の逃げ足に、ヒューマンである総団長が追いついたというのか。

 遠慮がちに掛けられた声の方向を恐る恐る振り返ると、息を切らしている総団長が立っていて。

 首筋から流れる汗が、目に入ってしまう。

「・・・・・駄目っす!!」

「あっ!」

 あの人の汗はまずい。

 体がざわざわする。

 再び逃げ出す俺を、総団長も追いかけてくる。

「待ってくれ! 話だけでもせめて……!」

「あ、あ、後で聞きます!」

 無心で走り続けた。途中、太い木に飛びつくと、上まで一気に登り、そこから隣の木に飛び移っていく。さすがにこれはできないだろう。姿を隠しながら距離を取った。

 森の奥まで進んだ俺は、大きな木の頂上付近の枝に腰掛けた。動かなければ見つからないはずだ。木と同化して落ち着いた。

「はぁ~~~~」

 大きな大きな溜息をついた。総団長が凄い人だとは知っていたけれど、ヒューマンの体でどれほど鍛えてきたのだろうか。

 俺の脚力に負けない足。ライオン族の力に負けない腕。

 どうして急に、誰に発情したのかと、思っていたけれど。



 あの人以外の、誰に発情などするだろうか。



 憧れていた人に、耳や尻尾を触られて、それが優しい手で。

 可愛いなどと、言うなと思っていたはずなのに。

 心より、先に体が受け入れるなんてあるだろうか?

「……冗談じゃねぇ」

「……済まない」

 独り言に、言葉が返ってくる。振り向けば、すぐ側まで総団長が登ってきていて。まるで泣き出しそうな顔で俺を見ている。

「発情している君を、特定の相手が居ないのなら、他の誰かには任せたくないという私のわがままだ。気が済むまで殴ってくれて良い。だからどうか、話だけは聞いてくれないだろうか?」

 目の前に、総団長がいる。

 視線が合うと、俺の中の獣の血が一気に騒ぎ出してしまう。

「……!!」

 反射的に跳んでしまった体が宙に浮いた。足が枝から離れてしまう。

「チェスター!!」

 俺がいた枝まで登った総団長が、長い手を伸ばしている。落下していこうとしていた俺の手を強く握った。



 この手は、俺に触れていた手だ。



 引き上げられながら、もう、止められない獣の血を受け入れるしかなかった。

「危ないだろう! 私を嫌っても良い。だが、こんな高さから跳ぶなんて君でも……ぅん」

 重ねた唇。薄くて大きい。グラリと揺れた総団長が、咄嗟に枝を握りしめてバランスを取っている。その膝に、にじり寄りながら乗った。

「……これ……は?」

 呆然としている総団長の顔を見つめながら唇を噛み締めた。へたれた耳が震えてしまう。今朝、触れられたばかりの下半身は、異常な熱を発していた。

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