王道ですが、何か?

樹々

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第二王道『ラブ☆アタック』

番外編3

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 光を受けて輝く川面を微笑みながら見ているチョコ姫は、慣れた手つきで絵を描いている。その間、私達は静かに待っていた。

 チョコ姫の絵の才能は、素人である私の目から見ても素晴らしい。まる絵が生きているかのような描写の巧さに、感嘆の息が出てしまう。短時間で仕上げていくチョコ姫は、一国の姫というよりは画家だった。

 やがて西日が降り始める。あまり遅くなってはガトー国王が心配するだろう。

「今日はこの辺で帰りましょう」

「はい。お付き合い下さってありがとうございました!」

 本当に素直な姫君だった。侍女の助けを借りながら、絵の道具を片付けていく。

 行きと同様、帰りも一列に連なって帰っていると、姫君が顔を上げた。

「ミルフィー様は、ティラミス様を愛していらっしゃるのですか?」

「……突然、どうなされたのです?」

「私は噂しか知りませんから。竜騎士の血を色濃く残すミルフィー様なら、女性との間に子孫を残しても、強いお子が誕生するでしょう。それなのに、あえて男であるご自分を捨ててまで、ティラミス様のお側を選んだ理由が知りたいのです」

 円らな瞳に見つめられながら、正直に答えた。

「あのお方は、私を越えて行かれたのです。今まで誰も居なかった私の前を、背を見せて歩かれた。惹かれずにはいられません」

「……お強いのですね」

「はい。とてもお強くなられた。男である身を捨てても構わぬと、思ったのです」

 私の答えに満足したように微笑んでいる。頷きながら、コトンと胸に頭を預けてきた。

「……羨ましいです」

「チョコ姫様にも、いつか必ず現れます」

「そうだと嬉しいな……」

 目を閉じたチョコ姫。なるべく静かに馬を走らせた私達は、城へと戻った。

 迎えに出てきた騎士達の中に、ティラミスの姿もある。まだ日は完全に落ちていない。ティラミスと交代するのは、もう少し後のはずなのだが。

 馬で乗り付けると、足を踏み鳴らしながら近付いてくる。先に降りて、姫の手を取った私の真横に立っている。

「ぼっちゃま?」

「……何でもない!」

「何を怒っていらっしゃるのです?」

 不思議に思いながらも姫を降ろした。一部始終を観察するティラミスに首を傾げてしまう。そんな私の腕を取り、他の侍女達が降りる側をすり抜けると、小声で怒鳴った。

「抱き締めて帰るなんて不謹慎だぞ!」

「……抱き締める?」

「こう、胸に頭を乗せてたじゃないか!」

 ティラミスは、身振り手振りで不満をぶちまける。

 つまり、チョコ姫の頭が私の胸に寄りかかっていたのが気にくわないらしい。馬上では、どうしても接触が増えてしまうのは仕方がないのに。

 つまらないことで怒っているティラミスに、溜息が漏れてしまう。

「落ちないよう、支えただけですよ」

「でも! なんか……カップルみたいだった!」

「ぼっちゃまとて、馬に乗せればああなります。さ、くだらないことに青筋をたてる暇がありましたら、少しでも寝ておいて下さい」

「くだらなくなんかない!」

 背を押そうとした私の手を払いのけたティラミス。綺麗な眉を吊り上げ、睨んできた。

「くだらなくなんかないぞ、ミルフィー!」

「……ぼっちゃま」

「俺は真剣だ!」

 クルリと背を向けたティラミスは、足を踏み鳴らすと行ってしまった。ずきん、と胸が痛んだけれど、警護中。足早にチョコ姫のもとへ戻る。

「どうかされたのですか?」

「いえ。さ、そろそろ夕食の支度が整った頃でしょう。参りましょう」

「はい」

 微笑むチョコ姫を連れて、城の中へと入った。

 姫が帰ったら、ちゃんとティラミスと話そう。心配しなくても、私の目には、彼しか映っていないのだから。女性を支えるのは、騎士としてのたしなみなのだから。

 自分に言い聞かせた私は、それでも胸に小さく残った不安の種を、完全に取り除くことはできなかった。
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