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第二王道『ラブ☆アタック』
8-2
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馬で走ること四十分、ミルフィーがいつも乗っている馬の背が遠く見えた。急いでその馬のもとへ走らせる。
川岸の草をはんでいた馬は、俺達の音に気付いて顔を上げている。次いでミルフィーの顔も覗いた。
「ミルフィー!」
「……ぼっちゃま」
「ごめん!!」
馬から飛び降り、彼の胸に飛び込んだ。緩やかな斜面とはいえ、傾斜があるため二人でゴロゴロ転がり落ちていく。彼の鎧がガシャガシャ鳴っていた。
川に落ちる前に止まったのは、彼が右手を突っぱねたからだった。すぐ側を川が流れていく。
「あたた……ご、ごめん」
「いえ……」
気まずい空気が流れている。振り切るように体を起こした俺は、彼を引き上げた。
「ごめん! 恥ずかしい思いをさせたみたいで。俺、嬉しくてさ。自分のことばっかだな」
「……ぼっちゃま」
「なるべく皆の前では大人しくするから。だから出ていくなんて言わないでくれよ?」
「……出ていくなんて、しませんよ」
向かい合わせに座った俺達は、仲直りをするように笑った。
川面がキラキラと俺達を照らしている。なんて恋人らしい時間だろう。いや、夫婦になるのだから、新婚らしい時間だろうか。
「今は誰も居ないよな?」
「そのようで」
「ちょっとだけそっち行って良い?」
「はい」
向かい合わせから、隣に並んで座る。川面を見つめながら、肩を寄せ合った。
あの青年の言う通りだ。二人切りになるとミルフィーの顔が和らいで、俺に身を委ねてくれるようになる。嬉しくて軽いキスを彼に送った。少し顔を赤くした彼は、照れたように笑っている。
「……可愛い……綺麗だ、ミルフィー」
「ぼっちゃまこそ。ずいぶん良い男に成長なさいました」
「お前に認めてもらわないといけないからな」
そう言えばもらった香水がある。ズボンのポケットから取り出して、ミルフィーの胸元に一噴きしてみる。
「ぼっちゃま?」
「貰ったんだ。お前にどうぞ、って」
「不思議な匂いですね……何だか……頭がぼうっとして……」
「ミルフィー?」
匂いを吸い込んだミルフィーは、クラリと倒れそうになる。俺にはまったく、何の匂いもしないのに。腕の中でぐったりと仰け反る彼の喉元に生唾を飲み込みながらも、そっと横たえてやった。
「どうした? 変な匂いでもしたか?」
「……ぼっちゃま……」
囁くように呼ばれ、心臓が跳ね上がる。
潤んだ瞳が俺を見上げている。
「ど、どうしたんだ?」
「ぼっちゃまが愛しい……これほどに愛しいと思ったのは、初めてでございます……」
「そ、そうか」
ドキドキしながら彼の髪を撫でてやる。その手をぎゅうっと握り締め、俺を熱く見上げてくる。
「愛しております……ぼっちゃま」
「み、ミルフィー!?」
「あなたを愛しております……」
そっと瞼を閉じている。
誘うように唇を僅かに開いている。
我慢なんてできるはずがない。
誘われるままに唇を合わせる。
「……ぅん」
自ら唇を開き、俺を招き入れ、色気のある声で応えてくれる。
あの香水がもたらした、もう一人のミルフィーなのか。
冷静に考えようとする俺の心が、今はこの愛しいミルフィーを抱き締めろ、と命令してくる。
腕に抱き込み、彼の鎧を外していく。身を捩りながら俺の腕に身を任せたミルフィーは、はにかむように笑った。
俺の心臓が、ミルフィーという恋の弓矢に打ち抜かれる。
「ミルフィ――――!!」
「ぼっちゃま……!」
抱き締めた俺に身を委ねたミルフィーは、何故だか可愛さを倍増させていた。
そんな彼を、俺は思いきり愛した。
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