王道ですが、何か?

樹々

文字の大きさ
上 下
25 / 87
第二王道『ラブ☆アタック』

5.金髪の野獣を愛でる竜騎士

しおりを挟む


 美しく、気高く、そして可愛い。

 剣技の才能はずば抜けており、頭の回転も早い。

 彼ならいつか、自分を超えていくだろう。

 誰も居なかった、目の前の道に、彼がきっと、立つ日が来る。

 それを心から望んでいる。





 城の屋上で風に吹かれていたミルフィーは、呼び掛ける部下の声に振り返る。

「ここに居たんですか。ティラミス様が騒いでいましたよ。ミルフィー様が居ないって」

「……すぐに行く」

「しかし、不思議なお方ですね」

 私の一歩後ろについた若い兵士は、クスクス笑っている。歳はティラミスとそう、変わらない彼は、指をピッと立てた。

「ご自分が最強の剣士に近付いているって、全然、わかっていらっしゃらない」

「そう、思うか」

「ええ。鴉団をこの程度とおっしゃるなんて。こっちは四苦八苦しながら追いつめていたというのに。ああもあっさり捕まえられてしまうとこちらの立場がありません」

 肩を竦めた若い兵士は、またクスクス笑っている。

「だいたい、ミルフィー様を抜こうとなさるなんて。それだけでもチャレンジャーですね」

「皆も見習ってほしいものだ」

「無茶を言わないで下さい。あなたは竜騎士の血を引くお方。体の構造から我々とは違います」

 私も肩を竦めて見せた。その名を出されると、少し困る。

 私の血は、人間のそれとは少し違った。竜騎士と呼ばれる一族の血が混じっている。血の影響を色濃く残すのは、今はもう、私一人だと聞いている。

 かつて竜が存在した時代に、その血を手に入れ飲んだのが始まりだった。竜の血を体内に取り入れたご先祖様は、人間とは一線を画した存在になったと聞く。

 その後、その血は脈々と受け継がれ、ある者は岩をも砕く力を手に入れ、ある者は千里先の物を見ることができる目を持ったと言う。特殊な能力を持つ者が多く産まれたらしい。

 だが、時と共に血は薄れ、普通の人間とさほど変わらなくなってきた。私のように、多少身体能力に優れた者が産まれるくらいで、岩を持ち上げるような力は持っていない。

「ぼっちゃまはいずれ私を抜くぞ」

「……ミルフィー様も変わっておいでですね」

「私が?」

「負ければお嫁さんになるんですよ? 竜騎士であり、我が国最強の剣士が、男でお嫁さん。他国は驚くでしょうね」

 面白そうに笑っている彼を振り返る。両手を広げて見せた彼は、深々と頭を下げた。

「お許しを。確かに、お嫁さんになれないことはないでしょうが……ティラミス様はまだ、ご存じないのでしょう?」

「ああ……」

「しかしミルフィー様がドレスを着るとなると……ぶっ……し、失礼しました」

「何も嫁に行ったからといって、ドレスを着る必要はないだろう? 妙な想像はしないでくれ」

 困ってしまった。民の全てがもう、知っている事実。

 ティラミスに負けた時点で、私は彼のお嫁さんになる事が決まっている。国王ガトーも、渋々それは了解していた。了解しなければ、国を出るとティラミスが騒いだせいだった。

 一生、勝ち続けてくれ、と国王に言われたけれど。それは難しい。

「……あのお方はもっと強くなる」

「嬉しそうですね」

「ああ、嬉しい。私を超える存在を見る事ができるのだからな」

 血が沸き立つ。

 強い者と闘える。

 いつか、私の膝が大地に突く日が来るだろう。

 その時から私が追い掛ける側になる。

 若い兵士の肩を叩いて通り過ぎた私は、屋上を後にした。階段を下りながら口元を緩めてしまう。

 足早に歩いた私は、ドアの外からでもわかる、ティラミスの声を聞きながら彼の部屋をノックした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

変態の婚約者を踏みましゅ!

ミクリ21
BL
歳の離れた政略結婚の婚約者に、幼い主人公は頑張った話。

その溺愛は伝わりづらい!気弱なスパダリ御曹司にノンケの僕は落とされました

海野幻創
BL
人好きのする端正な顔立ちを持ち、文武両道でなんでも無難にこなせることのできた生田雅紀(いくたまさき)は、小さい頃から多くの友人に囲まれていた。 しかし他人との付き合いは広く浅くの最小限に留めるタイプで、女性とも身体だけの付き合いしかしてこなかった。 偶然出会った久世透(くぜとおる)は、嫉妬を覚えるほどのスタイルと美貌をもち、引け目を感じるほどの高学歴で、議員の孫であり大企業役員の息子だった。 御曹司であることにふさわしく、スマートに大金を使ってみせるところがありながら、生田の前では捨てられた子犬のようにおどおどして気弱な様子を見せ、そのギャップを生田は面白がっていたのだが……。 これまで他人と深くは関わってこなかったはずなのに、会うたびに違う一面を見せる久世は、いつしか生田にとって離れがたい存在となっていく。 【7/27完結しました。読んでいただいてありがとうございました。】 【続編も8/17完結しました。】 「その溺愛は行き場を彷徨う……気弱なスパダリ御曹司は政略結婚を回避したい」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/962473946/911896785 ↑この続編は、R18の過激描写がありますので、苦手な方はご注意ください。

完結•枯れおじ隊長は冷徹な副隊長に最後の恋をする

BL
 赤の騎士隊長でありαのランドルは恋愛感情が枯れていた。過去の経験から、恋愛も政略結婚も面倒くさくなり、35歳になっても独身。  だが、優秀な副隊長であるフリオには自分のようになってはいけないと見合いを勧めるが全滅。頭を悩ませているところに、とある事件が発生。  そこでαだと思っていたフリオからΩのフェロモンの香りがして…… ※オメガバースがある世界  ムーンライトノベルズにも投稿中

平凡顔のΩですが、何かご用でしょうか。

無糸
BL
Ωなのに顔は平凡、しかも表情の変化が乏しい俺。 そんな俺に番などできるわけ無いとそうそう諦めていたのだが、なんと超絶美系でお優しい旦那様と結婚できる事になった。 でも愛しては貰えて無いようなので、俺はこの気持ちを心に閉じ込めて置こうと思います。 ___________________ 異世界オメガバース、受け視点では異世界感ほとんど出ません(多分) わりかし感想お待ちしてます。誰が好きとか 現在体調不良により休止中 2021/9月20日 最新話更新 2022/12月27日

欠陥αは運命を追う

豆ちよこ
BL
「宗次さんから番の匂いがします」 従兄弟の番からそう言われたアルファの宝条宗次は、全く心当たりの無いその言葉に微かな期待を抱く。忘れ去られた記憶の中に、自分の求める運命の人がいるかもしれないーー。 けれどその匂いは日に日に薄れていく。早く探し出さないと二度と会えなくなってしまう。匂いが消える時…それは、番の命が尽きる時。 ※自己解釈・自己設定有り ※R指定はほぼ無し ※アルファ(攻め)視点

祝福という名の厄介なモノがあるんですけど

野犬 猫兄
BL
魔導研究員のディルカには悩みがあった。 愛し愛される二人の証しとして、同じ場所に同じアザが発現するという『花祝紋』が独り身のディルカの身体にいつの間にか現れていたのだ。 それは女神の祝福とまでいわれるアザで、そんな大層なもの誰にも見せられるわけがない。  ディルカは、そんなアザがあるものだから、誰とも恋愛できずにいた。 イチャイチャ……イチャイチャしたいんですけど?! □■ 少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです! 完結しました。 応援していただきありがとうございます! □■ 第11回BL大賞では、ポイントを入れてくださった皆様、またお読みくださった皆様、どうもありがとうございましたm(__)m

婚約破棄したら隊長(♂)に愛をささやかれました

ヒンメル
BL
フロナディア王国デルヴィーニュ公爵家嫡男ライオネル・デルヴィーニュ。 愛しの恋人(♀)と婚約するため、親に決められた婚約を破棄しようとしたら、荒くれ者の集まる北の砦へ一年間行かされることに……。そこで人生を変える出会いが訪れる。 ***************** 「国王陛下は婚約破棄された令嬢に愛をささやく(https://www.alphapolis.co.jp/novel/221439569/703283996)」の番外編です。ライオネルと北の砦の隊長の後日談ですが、BL色が強くなる予定のため独立させてます。単体でも分かるように書いたつもりですが、本編を読んでいただいた方がわかりやすいと思います。 ※「国王陛下は婚約破棄された令嬢に愛をささやく」の他の番外編よりBL色が強い話になりました(特に第八話)ので、苦手な方は回避してください。 ※完結済にした後も読んでいただいてありがとうございます。  評価やブックマーク登録をして頂けて嬉しいです。 ※小説家になろう様でも公開中です。

成り行き番の溺愛生活

アオ
BL
タイトルそのままです 成り行きで番になってしまったら溺愛生活が待っていたというありきたりな話です 始めて投稿するので変なところが多々あると思いますがそこは勘弁してください オメガバースで独自の設定があるかもです 27歳×16歳のカップルです この小説の世界では法律上大丈夫です  オメガバの世界だからね それでもよければ読んでくださるとうれしいです

処理中です...