王道ですが、何か?

樹々

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第五王道『SUN SUN! 七拍子☆』

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「木原先輩と何の関係が……?」

 分からなかった。とりあえず一旦、一年三組に戻った。半数以上が帰った教室に戻れば、巡が待っていてくれた。

「どうだった?」

「……分からないけど、副団長に会ってこいってさ」

「ああ、部長な」

「…………今、何て言った?」

「だから。空手部の部長だよ、木原副団長は。すっげー強いって噂だぜ?全国クラスだしさ」

「…………やばい!!」

 慌てて鞄を掴んだ。のんびり立ち上がった巡が笑っている。

「じゃ、俺帰るわ。寮に戻ってくるよな? 昼飯、一緒に行かね?」

「ああ、分かった! じゃ、また後でな!」

 のんびり屋の巡を残し、教室を駆け出した足で生徒会室を目指した。望月先輩に校舎内の案内はしてもらっている。迷うことなく三階の渡り廊下近くにある生徒会室へ向かった。

 ドアをノックすれば、はい、と可愛らしい声が返ってくる。思いきって開けたら、一教室分はありそうなほど広い部屋に、二人居た。

 一人は生徒会長だった。壇上で挨拶していたので覚えている。ハーフなのか、金髪に青い瞳で、小柄な人形のような人だった。

 俺が今、用があるのは生徒会長ではない。グルリと中を見渡した。

 大きなテーブルを囲むように並べられた椅子の内、窓際に副団長の木原先輩が居て。一直線に歩いていく。俺が来る事が分かっていたのか、ニッと笑っている。

「今日から練習に参加しても良いぞ」

「俺は応援団に入るんです! 空手は中学まで!」

「残念だが、君を応援団に入れることはできない。よって、空手で全国制覇してくれ」

 腕を組んでいた木原先輩に、詰め寄ることも忘れて足が止まった。



 応援団に入る事ができない?



 そう言ったのか?



「…………な……何でですか! 確かに俺、見た目はなよっとしてるって言われるけど、腕っ節は強いんですよ!」

「ああ、知っている。試合の様子をビデオで見せてもらったが、良い腕をしている。間違いなく全国クラスの逸材だ。思う存分、勝ち上がってくれ!」

「ですから俺は応援団で……」

「応援団は駄目だ。聡ちゃんの抑えが効かなくなるからな」

 長い足を組んだ木原先輩は、ちょっとだけ真剣な顔をしている。椅子に座ったまま俺を見上げてくる。

「俺は衝撃を受けた」

「な、何にですか?」

「聡ちゃんは可愛い物好きで、桃色世界の住人だが、今まで男にキスした話は聞いた事がないし、俺もされた覚えはない」

「………………え!? そうなんですか!?」

 衝撃の事実だ。

 そんな馬鹿な!!

「おはようのキスは? 行って来ますのキスは!? お風呂上がりのお帰りなさいのキスは!! お休みなさいのキスは!!」

「あるか、そんなもの! お前さんが初めてだ!」

「そんな……!! キスも我慢しなきゃと思ってチュッチュ、チュッチュ、されまくったじゃないですか!!」

 たった一日で、何回もキスされていた。今日だってそうだ、起きたら笑顔で頬チューを受け、寮の部屋を出る時もおでこにキスされた。

 昨日は昨日で、お風呂でさっぱりし、二人一緒に戻って部屋に入った瞬間、むちゅっとおでこに受けた。頬すり付きで。先輩に貸してもらったモコモコトレーナーを着ていたからだと思っていたのに。

 木原先輩も我慢していたと思っていたのに。

「今さら止めて下さいなんて言えないじゃないですか!」

「飽きるまで付き合ってやってくれ。もしくは身長伸ばせ」

「無茶言わないで下さいよ!」

「ま、そう言うわけだから。お前さんだって、人前でいきなりチューされたら嫌だろう? 一緒に居る時間が長くなれば、所構わずチューしまくるぞ」

 半ば脅しにも聞こえる、応援団入部駄目出しに泣きそうだ。



 俺はいったい、何のためにこの高校へ来たのだろう?



 男の中の男になるためだったのに。



 応援団入部は不許可になるし、男にキスされているし。



 俺の男になる目標はどこへ行けば良い……!?



「……俺……俺…………!」

 ストッパーが外れそうだ。目の奥がじんじんしてくる。

 唇を噛み締めても、止まりそうにない。握り締めた両手が震えてしまう。

「お、おいおい。まさか泣くのか? 泣くなよ!?」

 じわっと視界が滲んでいく。潤んだ両目に涙が溜まった。

 両手を握り締め、抑えられない涙を零してしまう。俯いたせいでどんどん頬を流れ落ちていく。

「……ふ、故郷! 泣くな! 言い方が悪かったよな! 順を追って説明するから!」

「……おれ……俺も……入部した……したいのに……!」

 噛み締めた唇が震える。ポロポロ零れる涙は止まらない。

 頬が涙で濡れてしまう。

「お、男になりたいって言う奴が、簡単に泣くな!」

 怒鳴った木原先輩に、ヒクッと体が揺れる。

 我慢して止めていた、心のストッパーが振り切れた。

 目の奥から涙が大量に溢れ出る。

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