王道ですが、何か?

樹々

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第五王道『SUN SUN! 七拍子☆』

☆3☆直球ストライクゾーン!

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 実際に入学式があるのは、三日後だ。その時は親も来ると言っていた。

 先に寮に入って、寮生活の心得を同部屋の先輩に教えてもらう。それが伝統らしい。俺と同じく寮に入った一年生達は、それぞれの先輩に伴われて寮の食堂に集まってきていた。

 望月先輩の特殊な姿に戸惑いつつも、これから一年は寮で過ごすことになるから。望月先輩に付いて行くしかない。部屋の外に出る時はピンク系無しの姿にしているようで、少し安心しながら付いていく。

 パリッとアイロンが掛けられたシャツを着ている望月先輩の後ろ姿は格好良かった。ずっとこのままで居てほしいほど、男の背中をしている。

「朝食を食べたら寮の中を案内するな。昨日はできなかったからな」

「す、すみません」

「なに、慣れない場所へ来たんだ。疲れが出たんだよ」

 少し振り返って笑う顔は、誰がどう見ても格好良い男だった。俺が憧れ、なりたいと思う姿だ。

 その裏に隠されたピンクの世界さえなければ完璧なのに。何処をどう間違ってピンク系に転んだのだろう。

 考えそうになる頭を振って、今だけでも格好良い望月先輩を目に焼き付けておこうと歩いていく。混雑している食堂に着くと、トレーを手にした。

 寮の食堂は朝夕と準備されるらしい。朝は和風、夜は和風と洋風と選べるらしい。おかずは一品ずつ、ご飯はお代わり自由になっている。

 望月先輩に倣って、俺もトレーにおかずを乗せていく。ご飯に味噌汁、焼き魚とノリ、納豆、生卵と色々置かれている。

「パンが食べたい時は、自分で食パンを買ってくればここで焼かせてもらえるからな」

「俺、米好きですから。こういう朝食の方が好きです」

「………………そうか」

 足を止め、俺をまじまじと見つめ、何かに頷いている。

「……先輩?」

「ああ、すまない。お前には可愛いスイーツが似合うと思ってな」

 ふわりと笑い、また俺の顔を見つめると、満足そうに歩いていく。

 今の数秒で、脳内に何を描かれたのだろう。想像すると怖くて、頭を振って追い出した。何も無かったことにしよう。

 少し距離を取って望月先輩の後を追う。横長いテーブルが並ぶ中、空いている方へ向かった。

「ここで食べよう」

 望月先輩促され、テーブルを挟むようにして座った。

 そこでしまった、と後悔する。これではどうぞ見て下さいと言わんばかりの位置だ。

 目の前から熱い視線が絡まってくる。まるで恋人を見つめるかのような、熱い視線が。

「……食べようか」

「は、はい……」

 箸を持ち、食べるけれど。

 ご飯を摘む時も。

 味噌汁を飲む時も。

 納豆を口に付けた時も。

 望月先輩の視線が離れない。食べてはいるけれど、俺を見つめたまま視線が動かない。

 何の拷問だろう、これは。

 見つめられる視線が気になって、ぷちトマトが上手く掴めず何度も皿の上を転がせていると、ふふ、と微笑まれた。

「……可愛いな」

 呟かれた声にぶわっと変な汗が噴き出した。

 このまま駆け出したい。一刻も早く食堂から出たい。

 掴めないぷちトマトを手づかみで口に放り込んだ俺は、早々に立ち上がろうとしたけれど。ポンッと叩かれた肩に動けなくなる。

「よっ、一年坊。良く眠れたか?」

 短く刈り込んだ黒髪の、少し目が垂れている三年生が、気さくに俺の肩を叩いている。どこかで見た顔だと見上げていると、望月先輩が笑っている。

「おはよう、恒星」

「おはようさん、聡ちゃん」

 俺の隣にどっかりと座った恒星という人。その名前にも聞き覚えがあって。

 何度も何度も脳内で繰り返し、あっ、と思い出す。

「お、おはようございます! 木原先輩!」

「おっ、俺の事知ってんの?」

「もちろんです! 副団長になられたんですよね!」

「なかなか可愛いじゃないか、一年坊!」

 グリグリと頭を撫でられる。その力強い手に男を感じた。

 木原恒星(きはらこうせい)、去年の応援団精鋭七人に居た内の一人だ。まだ二年だった望月先輩と木原先輩は、三年に混ざっての精鋭で。その実力と人望が買われ、三年に上がった今、副団長になった人だ。

 体格は望月先輩と同じくらいある。身長は少し上のようだ。

 健康的に焼けた顔がにこにこと笑っている。

「聡ちゃん、ラブちゃんが呼んでたぞ」

「そうか。そう言えば話し合いたい事があると言っていたな」

「そう言うこと。早く行ってきな。遅れると煩いぞ?」

「そうだな。故郷、寮内は後でするな」

 残っていた朝食を手早く食べ終えた望月先輩は、足早に歩いていく。足を組んで見送った木原先輩は、まだ食べていた俺の肩をポンポン叩いた。

「さてと。今の内にちょいとお前さんに話があるんだが、良いか?」

「話ですか?」

「桃色の世界についてだ」

 小声で囁いた木原先輩。思わずごっくんと、ご飯を飲み込んだ。

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