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番外編

3-10

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***



 純が穏やかに眠りにつく頃。



 ……見られた。



 ……見られた……!!



 兄ちゃんに見られただけでも恥ずかしかったのに……!!



 ダブルベッドの端っこで、俺はまん丸になっていた。

 反対側の端っこでは、修治さんがまん丸になっている。

 どうしても体が反応して、修治さんがお風呂に入っている間に終わらせようとしたけれど。思いの外早く上がってきた彼に、決定的なシーンを見られてしまった。

 呆れられていないだろうか。

 はしたないと思われていないだろうか。

 不安ばかりが胸を騒がせる。お風呂場まで運んでもらったけれど、内心、どう思ったのだろう。

 急いで体を洗って、あれを解放して。部屋に戻れば怒られた。ズボンを履きなさい、と。

 でも置いていたズボンは洗濯中で、無かったから。このままで許して欲しかったけれど。

 いきなり家を飛び出した修治さんが走りに出て、一時間後のこと。やつれた彼が帰ってきた。

 その後もう一度お風呂に入り、俺と一緒にベッドへ入った。あまりに気まずくて、何も話せない。暗くした室内で、お休みなさいのキスもできなかった。

 やっぱり、呆れられたのだろうか。

 ギュッとシーツを握った。眠ることなんかできなくて。

 修治さんに嫌われたくない。謝った方が良いのだろうか。

 ますます丸くなっていた俺は、そっと伸ばされた腕に引き寄せられていた。

「落ちちゃうよ……」

 ベッドの中央へ連れて行かれる。後ろから抱き締められ、じわっと体が温まる。修治さんの体温を感じて、大きな手にしがみ付いた。

「ご、ごめんね……あんな姿……見せて!」

「僕の方こそ。我慢するって決意固めてても、可愛い素喜君に反応しちゃってる」

「……俺……だって……」

 修治さんの事を思うと、体が疼いてしまった。

 いつもドキドキしてしまう。

「ね、素喜君」

「……何?」

「君の誕生日まで、お泊まり無しにしたいって言ったら……駄目かな」

 俺の髪に囁かれた言葉。思わず手を握り締めてしまう。

「俺……俺……何か……した!? ごめん……!」

「そうじゃなくて……やっぱり、そうなるよね。違うんだよ、素喜君。お願いだよ、泣かないで……」

 じわっと滲んだ涙が目元に溢れてしまう。ギュッと目を瞑ると零れ落ちていった。

 後ろから抱き締めてもらっても、寂しくてたまらない。ほとんど毎日のようにお泊まりしていたのに、俺が気に障る何かをしたから止めたくなったのだろう。



 俺が、俺が何か……!



「泣かないで……! ね? 正直に言うから」

 仰向けにしてもらった俺は、男なのにぐずぐず泣いてしまった。こんな姿、兄に見られたらきっと怒られる。

 思うのに、涙は止まらなかった。何でこんなにいっぱいいっぱいなのだろう。もっと、修治さんの事が分かれば良いのに。

 止まらない涙に、修治さんの大きな手が触れた。

「ここ……触って」

 俺の手を取った修治さん。上から覆い被さっていた彼の下に、俺の手が触れた。

 そこは、とても熱くて。

 涙が止まってしまうほど、驚いた。

「分かる……? 何をしても引かないんだ……お風呂でちゃんと処理したけど、君に触れると戻っちゃう」

「…………!!」

「だから、誕生日まで、お泊まりは止めよう。誕生日を過ぎたら、ずっと一緒に居よう」

 ズボンの上からでも分かってしまう。ジャージだからか、そこは高くなっていた。

 男の修治さんが、目の前に居る。

 俺を見つめる目は、優しさと、熱っぽさが入り混じっている。

「僕、そこで寝るから。素喜君はゆっくりお休み。明日、送っていくね」

 にこりと、精一杯笑った修治さん。目元がどんどん、赤くなっている。

 キュッと唇を引き結ぶと、離れようとした体を思い切り抱き締めた。倒れてくる重みを受け止める。

「素喜君?」

 すぐに離れようとした彼の熱いそこに、手を当てた。ズボンの上からわし掴む。

「ちょ……! だ、駄目……!」

 焦った彼の唇に、自分からキスをした。教えてもらった大人のキスを仕掛けてみる。

「ん……だめ……! 離れて……! 約束が……!」

「え……エッチじゃねぇ!」

 怒鳴った俺を見下ろした修治さんを、真っ直ぐに見つめ返した。

「兄ちゃんが駄目って言ったのは……え、エッチだから……!」

「……これも……エッチになるよ」

「最後までは……しねぇし! て、て、て、手伝う……だけだし!」

 思い切ってズボンの中に手を入れた。腫れていたそこに手を当てる。下着が邪魔だと、布団の中で引っ張り降ろした。

 出てきた熱い、修治さんのモノを握り締める。

「…………ぁっ!」

「…………!!」

 修治さんの顔が俺の肩に埋まった。切なそうな声に顔が真っ赤になる。

 握ったは良いけれど、どうしたら良いのか分からなくて、頭の中がグルグルした。少し動かせば、修治さんの吐息が俺の耳に入ってくる。

「ん……駄目……素喜君……!」

「…………!」

「熱いよ……」

 ゆっくりと、修治さんの顔が上がった。俺の顔に触れるほど、近くにある。

 豆電球の明かりが、少しだけ照らし出した。

 ユラユラ、ユラユラ、黒い瞳が揺れている。

 眼鏡を掛けていない、修治さんの瞳が、雄になった。
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