55 / 123
初恋トルネード
1-2
しおりを挟む「…………って何でだよ!!!」
ガバッと起き上がり、夢に怒鳴った。汗だくの体は息切れしている。
蹴り飛ばした掛け布団が足下にわだかまり、トランクス一枚で寝ていた俺は、自身に起こった信じられない出来事に頭を抱えた。
確かに、時々、彼の夢は見ていた。
そのどれもが、ただ笑っている彼の姿で。
それがどうして、今日に限って、裸なのか。
「嘘だろ……! 俺は変態か……!!」
山本大介、一生の不覚!!
男の夢を見て、あれな状況を垣間見ることになろうとは。
抱え込んだ頭を激しく振っても、下半身のあれな状況は収まりそうにない。
どうして、よりによって、立川純なのか。
弟素喜の彼氏である、榎本修治の親友だ。ただ、それだけだ。
お節介で、俺が素喜を普通の道に戻そうと躍起になっていた時、ずっと説得にきていた男だ。
それだけのはずなのに。
何故、彼の夢を見続けるのか。
それも、あれな状況になってしまったのか。
収まりのつかない下半身に絶望した。
「……もう、うっせーよ、兄ちゃん。まだ四時だぞ~」
ガラッと襖を開けたのは、俺が住み込みで働かせてもらっている大塚大工店の一人息子、大塚蓮司だった。茶髪に染めた彼は、高校二年生の少年だ。
トランクスとタンクトップ姿で瞼を擦りながら入ってくる。
「兄ちゃんの声、でかいんだから。遠慮してくれよ~」
「わ、わりぃ……」
「でかぱいねーちゃんに迫られた夢でも見たの~?」
でかぱいとは何だろうか。
それよりも、今は入って来ないで欲しい。
布団を蹴っていたので、隠す物が無い。
俺の動揺に気付かない寝ぼけ眼の蓮司は、ストンと目の前に座っている。
「ふあぁ~~……ねむっ」
「へ、部屋で寝直せ。な!」
「……そうする~」
ドサリと倒れるように布団に転がっている。
「って、ここで寝るな!!」
「いいじゃん~……歩くのめんどい~」
「や、やべーんだよ! とにかく帰れ!」
「……ええぇ~~」
ゆさゆさ揺さぶった俺に、いやいやと丸まっている。こっちはまだ、下が大変なのに。
焦って引き起こせば、トロンとした目が俯いた。
その視線の先は、俺のあれな部分で。
「…………でけーよ、兄ちゃん」
「う、うるせぇよ! ほっとけ!」
「つか、兄ちゃんでも朝立ちってするんだな。ちょっと待ってなよ」
蓮司はゴシゴシ目を擦りながら出ていった。その間にこれをどうにかしなければ。俺も男だ、それなりにこういった事は時々、ある。
とはいえ働き始めて忙しくて、それどころではなくなっていたせいか、かなりご無沙汰だった。トランクスを引っ張って、とっとと終わらせてしまおうとした俺の部屋に、蓮司が戻ってくる。
「ほい、兄ちゃん」
「……んだよ」
「何って、エロ本だよ、エロ本」
「……高校生がんなもん見るんじゃねぇ!!」
「ええ~だって親父がくれたんだぜ?」
「……はぁ~、また親方かよ」
盛大な溜息を吐き出してしまった。
俺が働いている大塚大工店の親方、大塚三男は、早くに妻を亡くしたせいか、一人息子の蓮司とは親子と言うより兄弟に近い接し方をしている。
そのため、こういったエロ本を堂々と与え、一緒になって盛り上がるような親父さんだ。親方としては尊敬している三男だが、時々俺のツッコミが入らざるを得ない時がある。
夜中に二人でエロビデオを見て騒いでいる声を聞いては、注意に行っている。この家では何故か、俺が父親的な立場になってしまうことがあった。
「とにかく兄ちゃんも男なんだから」
「うるせぇよ。ガキは寝てろ!」
「ちゃんと処理しちゃいなよ! あ、汚さないでね」
「うっせーっつってんだろう!! さっさと寝ろ!!」
「はいは~い」
俺の怒鳴り声に慣れている蓮司は、意味ありげにニヤリと笑って出ていった。彼の気配が隣の部屋に消えるまで待った俺は、急いでトランクスを引っ張ってしまう。
早くあれな状況を終わらせないと、また蓮司が来てしまう。置いていかれたエロ本をチラリと見、そっとページを捲った。この際、藁にもすがりたい気持ちでいっぱいだ。
「……つか、でけーな。どうやったらこんなに膨らむんだ?」
外人女性がほとんど裸で乗っているエロ本をまじまじと見てしまう。エロ本を見るのはこれが初めてだった。興味に引かれてページを捲っていく。
「……うぉ、ちょ、何だこれ。どうなってんだ?」
どんなポーズで映ったらこんな姿になるのか。新体操選手並の柔らかさだ。裸でこんなポーズを決める意味が分からない。
頭を掻きながら、役に立たないエロ本に溜息をついた。これを見て、何が楽しいのか理解できなかった。
「……あいつの方が艶っぽいよな」
ぼんやり浮かぶ、立川純の姿。夢の中で迫ってきた彼は、男の体なのに妙に色っぽくて。
『……大介』
「……ぅ」
夢の中で聞いた声に体が反応した。無意識に手が動いてしまう。
『……大介』
目を閉じた俺は、ただ、純の声を、姿を、思い描いた。
置いていかれたエロ本を蹴り飛ばし、彼の声に神経を集中させた。
『……大介……俺を……好きにして良いよ』
「…………!」
ハッと我に返った時、俺の手もあれな状況も、大変なことになっていた。
「…………あ……あ……ありえねぇ――――!!」
「……兄ちゃんうっせー! イクなら静かにイッてくれよ~!」
叫んだ俺の声に、隣の部屋からドンドンと壁を蹴る蓮司の声が重なった。
俺は激しく項垂れるしかなかった。
10
お気に入りに追加
74
あなたにおすすめの小説
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
貢がせて、ハニー!
わこ
BL
隣の部屋のサラリーマンがしょっちゅう貢ぎにやって来る。
隣人のストレートな求愛活動に困惑する男子学生の話。
社会人×大学生の日常系年の差ラブコメ。
※現時点で小説の公開対象範囲は全年齢となっております。しばらくはこのまま指定なしで更新を続ける予定ですが、アルファポリスさんのガイドラインに合わせて今後変更する場合があります。(2020.11.8)
■2024.03.09 2月2日にわざわざサイトの方へ誤変換のお知らせをくださった方、どうもありがとうございました。瀬名さんの名前が僧侶みたいになっていたのに全く気付いていなかったので助かりました!
■2024.03.09 195話/196話のタイトルを変更しました。
■2020.10.25 25話目「帰り道」追加(差し込み)しました。話の流れに変更はありません。
その溺愛は伝わりづらい!気弱なスパダリ御曹司にノンケの僕は落とされました
海野幻創
BL
人好きのする端正な顔立ちを持ち、文武両道でなんでも無難にこなせることのできた生田雅紀(いくたまさき)は、小さい頃から多くの友人に囲まれていた。
しかし他人との付き合いは広く浅くの最小限に留めるタイプで、女性とも身体だけの付き合いしかしてこなかった。
偶然出会った久世透(くぜとおる)は、嫉妬を覚えるほどのスタイルと美貌をもち、引け目を感じるほどの高学歴で、議員の孫であり大企業役員の息子だった。
御曹司であることにふさわしく、スマートに大金を使ってみせるところがありながら、生田の前では捨てられた子犬のようにおどおどして気弱な様子を見せ、そのギャップを生田は面白がっていたのだが……。
これまで他人と深くは関わってこなかったはずなのに、会うたびに違う一面を見せる久世は、いつしか生田にとって離れがたい存在となっていく。
【7/27完結しました。読んでいただいてありがとうございました。】
【続編も8/17完結しました。】
「その溺愛は行き場を彷徨う……気弱なスパダリ御曹司は政略結婚を回避したい」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/962473946/911896785
↑この続編は、R18の過激描写がありますので、苦手な方はご注意ください。
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
まったり書いていきます。
2024.05.14
閲覧ありがとうございます。
午後4時に更新します。
よろしくお願いします。
栞、お気に入り嬉しいです。
いつもありがとうございます。
2024.05.29
閲覧ありがとうございます。
m(_ _)m
明日のおまけで完結します。
反応ありがとうございます。
とても嬉しいです。
明後日より新作が始まります。
良かったら覗いてみてください。
(^O^)
目が覚めたら、妹の彼氏とつきあうことになっていた件
水野七緒
BL
一見チャラそうだけど、根はマジメな男子高校生・星井夏樹。
そんな彼が、ある日、現代とよく似た「別の世界(パラレルワールド)」の夏樹と入れ替わることに。
この世界の夏樹は、浮気性な上に「妹の彼氏」とお付き合いしているようで…?
※終わり方が2種類あります。9話目から分岐します。※続編「目が覚めたら、カノジョの兄に迫られていた件」連載中です(2022.8.14)
壊れた番の直し方
おはぎのあんこ
BL
Ωである栗栖灯(くりす あかり)は訳もわからず、山の中の邸宅の檻に入れられ、複数のαと性行為をする。
顔に火傷をしたΩの男の指示のままに……
やがて、灯は真実を知る。
火傷のΩの男の正体は、2年前に死んだはずの元番だったのだ。
番が解消されたのは響一郎が死んだからではなく、Ωの体に変わっていたからだった。
ある理由でαからΩになった元番の男、上天神響一郎(かみてんじん きょういちろう)と灯は暮らし始める。
しかし、2年前とは色々なことが違っている。
そのため、灯と険悪な雰囲気になることも…
それでも、2人はαとΩとは違う、2人の関係を深めていく。
発情期のときには、お互いに慰め合う。
灯は響一郎を抱くことで、見たことのない一面を知る。
日本にいれば、2人は敵対者に追われる運命…
2人は安住の地を探す。
☆前半はホラー風味、中盤〜後半は壊れた番である2人の関係修復メインの地味な話になります。
注意点
①序盤、主人公が元番ではないαたちとセックスします。元番の男も、別の女とセックスします
②レイプ、近親相姦の描写があります
③リバ描写があります
④独自解釈ありのオメガバースです。薬でα→Ωの性転換ができる世界観です。
表紙のイラストは、なと様(@tatatatawawawaw)に描いていただきました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる