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ライバルは最強兄ちゃん

4.長男として

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 俺の兄弟がホモだなんて断じて認めない。

 そんな弟にするために鍛えてきた訳ではない。

 俺が居ない間、家族を守るのは次男である素喜の役目だ。高校に行かせてやれなかったのは俺の責任だが、だからといってホモにはさせない。



 男が男に?



 あり得ない。



 腕を組み、胡座をかいて座っている俺の目の前に、素喜も静かに座っている。春休みに入っているため、八時を過ぎた今でも、他の兄弟達も居た。皆、俺と素喜の重苦しい空気に沈み込んでいる。

 昨晩、素喜を殴ってでも改心させるつもりだった。それが俺のやり方だし、他の方法を知らないから。

 だがお節介な純に、良識のある大人はいきなり殴ったりしない、と怒られた。まずは言葉で説得しろ、とくどくど、くどくど、俺に言ってきた。何でも殴って言うことを聞かせるのはただの暴力だ、と俺を恐れもせずに言い放った純。

 ひ弱そうに見えるくせに、言っている事は正しいような気がして。俺も二十歳になった。拳で語り合う方法は、卒業しなければ。

 物を壊したくなる衝動を抑えながら、素喜に何度も言った。男と男なんて、おかしいと。下の妹や弟の教育に悪いと。

 母さんは味方になってくれると思ったのに、二人の問題なのだから口出ししてはいけないと素喜の味方をした。親がそれでどうする。父さんが生きていたらどんなに嘆くだろう。

 俺がしっかりしなければ。

 五年前に父さんが他界してから、この家は狂っていたのかもしれない。俺がもっと働いて、素喜を高校に入れてやれたら間違った道には行かなかったかもしれない。中学卒業と同時に働いてきたけれど、十代の稼ぎなんてたかがしれていた。

 母さんと俺、後は素喜のアルバイト代で美雪からは高校に行かせてやれたけれど。

 やはり俺のせいだ。

 俺が悪い。

「……バイト……あるから行くね」

 黙って座っていた素喜が立ち上がる。俺の顔色を伺うようにそう、告げてくる。黙って顎で玄関を差した。母さんはもう、パートに出ている。素喜は深い溜息をつくと玄関から出ていった。

「……ちっ」

 舌打ちした俺に、一番下の美春が泣きそうになる。慌てて抱き締めた。何でもない、と。

「ごめんな。兄ちゃん、言葉がきついから」

「兄ちゃん達、喧嘩したの?」

 膝に乗せた美春は心配そうだ。妹に心配掛けるなんて、まだまだなってない。

「喧嘩じゃないさ。大丈夫。素喜は俺が必ず戻すから」

 小さな頭を撫でて立ち上がる。好一が怯えたように俺を見上げた。

 こんなはずじゃなかったのに。

 本当なら昨日、兄弟を連れて遊園地に行くつもりだった。そのためにずっと節約して、髪だって自分で切ってきた。少しでも貯めて、母さんと兄弟を連れて遊びに行くはずだった。

 素喜のバイト先を聞いても場所が分からなくて、結局タクシーを使ってしまった。なんてもったいないのか。タクシーに乗るくらいなら、下の二人にお菓子でも買ってあげたいのに。

 それでも自分の気持ちを抑えることができなかった。素喜を道に迷わせた男を見つけたくて。一日でも早く、二人を別れさせなければ。俺が戻るまでに。

 家の電話に手を伸ばすと、ポケットに入れていた紙を取り出した。立川純の携帯番号が書かれている。何かあれば連絡しろ、とお節介な彼にもらったものだ。

 静かな家の中で、プッシュボタンを押す音が響く。部屋から出てきた美雪が下の二人を庇うように抱き締めた。

 視界の端にそれを見ながら、繋がった相手の声を確認する。

「純か?」

【やっぱり電話してきたね。で、どうするの? 喧嘩するなら会わせない】

 先読みする彼にイライラしながら頭を掻いた。

「うっせーな。喧嘩はしねぇ。さしで話がしたいだけだ」

【……ま、良いよ。大学まで来れる? 迎えに行こうか? 修治はテニスサークルに出てるから、昼なら会えるよ】

「……迎えに来てくれるなら……その方が助かる」

【良いよ。あ、ちょっと待って】

 純は歩いているのか、誰かに話し掛けている。賑やかな場所のようだ。人の声がたくさん聞こえている。一言、二言話した彼は、電話に戻ってきた。

【俺、サークルさぼることになるからね。妹さん紹介して】

「……あ?」

 ふざけんなっ、と怒鳴りたい気持ちを抑え込む。兄弟が見ている前で、あまり怒鳴っている姿を見せたくない。

【俺もテニスサークル入ってるんだよ。今、練習中。さぼってあげるから、家で待ってな】

「……なら良い。自力で行くから大学教えろ」

【タクシー代、もったいないよ。じゃ、そういうことで】

「あ、おいっ!」

 ブツッと切れた電話。掛け直そうとして、どうせ出ないだろうと諦める。受話器を戻して溜息をついた。どうも純のペースに乱されている気がする。何とも言えない雰囲気が、彼にはあった。

 頭を掻き回した後、美雪を振り返る。彼が紹介しろ、と言ったのは美雪のことだろう。

 紹介して、もし、二人が恋に落ちた場合。

 考えて、黙認することにした。
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