117 / 123
番外編
6-10
しおりを挟む***
「兄ちゃん!! ねぇ、ねぇ、ねぇってば!!」
後ろで蓮司が叫んでいる。体を激しく揺さぶられている。
振り払う力は無い。
布団の上に横向きに転がっている俺は、背中に蓮司が居ても、どうしようもなかった。出て行けと、怒鳴る力も気力もない。
「……はぁ~~」
「それ何回目!? 何回目!!」
蓮司が必死に揺さぶっている。体がガクガク揺れていた。
ぼうっと見つめていた俺の部屋の隅っこは、ちょっと埃が溜まっている。掃除しなければ、と思いながらぼうっとした。
「……もう……兄ちゃんのオタンコナス――!!」
とうとう、蓮司が捨て台詞を残して部屋を出て行った。乱暴に襖を閉め、ドカドカ足を踏み鳴らしながら階段を下りていく。
一人になった部屋で、だらりと力を抜いた体を横たえていた。
「……俺が……聞きてぇよ」
思い出すのは祭りの夜。
あの日の純は、いつもとは違っていた。
大人の行為の時、いつだって純の方が余裕があって、俺はいつも翻弄されて。
付いていくのが精一杯だったのに。
祭りの日の夜は、純が大人しかった。
~*~
「……ぁ……だいすけぇ……」
繋がった場所がじんじんした。切なそうに呼ばれると、体が震えた。
不慣れな俺を見上げながら、純はずっと微笑んでいて。顔の横に付いていた俺の手を握ったり、頬に触れたりしてきた。
そんな仕草をあまりしない純。攻めてくるタイプだったのに。
あの夜は、俺に任せてくれた。
たどたどしい俺の手で触れるまで、純から急かすようなことはなかった。
長めに整えている彼の黒髪も、焼けた肌と、そうでない肌のギャップも。
少しずつ俺の体を興奮させて。
純を抱いているんだ、と意識すればするほど、もっと触れたくなった。熱いキスがしたくなった。
「……痛く……ねぇか?」
耳にキスしながら、中を探っていた。ただ、頷いた純は、まるで甘えるように両腕でしがみ付いてきた。
「……大介……」
吐息に混ぜて呼ばれた。
「大介……」
何度も、何度も。
確かめるように呼ばれた。
「大介……大介……」
しがみ付く体を受け止め、精一杯優しく抱いた。
~*~
行為が終わった後、彼はすぐに眠ってしまった。それも珍しくて。
幼い子供のような寝顔に、正直、ドキドキしていた。何と言うか、純の素顔を見た気がした。
いつもポーカーフェイスで、なかなか心の奥を見せてくれない彼が、あの夜だけは違った。俺に、甘えてきていた。
本当に。
あいつは。
「……何だってんだよ」
あんな甘え方をされては、側に居てやりたくなる。全部捨てて、側に。
眠っている顔に残る涙を指で拭った俺は、なんとなくそのまま起きて見守っていた。柔らかい黒髪を撫でながら。
でもいつの間にか俺も寝ていて、翌朝、早い時間帯に一人で目が覚めた。今までなら、先に起きているのは純だったのに。
彼はまだ、寝ていた。俺の腰に腕を回して。離れたくないと、言っているかのようで。
じんっとした。
側に居たいと思った。
眠る額にキスをしたら、瞼が震えて純が目を覚ました。俺を見上げて、照れたように笑った顔。
『おっはよ~! お前に負けるなんてね』
コツンッと額を叩かれた俺は、まじまじと純を確認した。
いつもの、純だった。
結局、何で泣いたのかも、俺にカラオケ大会の話をしなかったのかも、聞けないままだった。帰る時間が迫り、急いでシャワーを浴びて、東京に戻るしかなかったから。
見送りまでされて、またね、と送り出された。
こんなに東京に戻る事が辛いと思ったのは、家族と離れることになった時以来だった。下の弟や妹に泣かれた時も、振り切るように東京を目指したけれど。
「……んで……何も言わねぇんだよ」
側に居てやれないけれど。
話くらい、してくれても良いのに。
「……頼りねぇのかよ!」
敷布団を握り締めた。奥歯を噛み締めてしまう。
帰りたい。
胸が締め付けられた。
純の側に居てやりたい。何で俺はここに居るんだろう?
あいつが泣いたのに。側に居てやれないんだろう?
0
お気に入りに追加
74
あなたにおすすめの小説
美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました
SEKISUI
BL
ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた
見た目は勝ち組
中身は社畜
斜めな思考の持ち主
なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う
そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される
ばぶばぶ保育園 連載版
雫@更新再開
BL
性癖全開注意で書いていたばぶばぶ保育園を連載で書くことにしました。内容としては子供から大人までが集まるばぶばぶ保育園。この園ではみんなが赤ちゃんになれる不思議な場所。赤ちゃん時代に戻ろう。
怖いお兄さん達に誘拐されたお話
安達
BL
普通に暮らしていた高校生の誠也(せいや)が突如怖いヤグザ達に誘拐されて監禁された後体を好き放題されるお話。親にも愛されず愛を知らずに育った誠也。だがそんな誠也にも夢があった。だから監禁されても何度も逃げようと試みる。そんな中で起こりゆく恋や愛の物語…。ハッピーエンドになる予定です。
俺の番が変態で狂愛過ぎる
moca
BL
御曹司鬼畜ドSなα × 容姿平凡なツンデレ無意識ドMΩの鬼畜狂愛甘々調教オメガバースストーリー!!
ほぼエロです!!気をつけてください!!
※鬼畜・お漏らし・SM・首絞め・緊縛・拘束・寸止め・尿道責め・あなる責め・玩具・浣腸・スカ表現…等有かも!!
※オメガバース作品です!苦手な方ご注意下さい⚠️
初執筆なので、誤字脱字が多々だったり、色々話がおかしかったりと変かもしれません(><)温かい目で見守ってください◀
【R-18】♡喘ぎ詰め合わせ♥あほえろ短編集
夜井
BL
完結済みの短編エロのみを公開していきます。
現在公開中の作品(随時更新)
『異世界転生したら、激太触手に犯されて即堕ちしちゃった話♥』
異種姦・産卵・大量中出し・即堕ち・二輪挿し・フェラ/イラマ・ごっくん・乳首責め・結腸責め・尿道責め・トコロテン・小スカ
確かに俺は文官だが
パチェル
BL
かわいい弟ならわかるけど、まさか自分が誘拐に巻き込まれるとは!
道を歩いていた光は強烈な痛みと共に目覚めると誘拐に巻き込まれ監禁されていた。言葉も通じず、一緒に監禁されていた少年と無事に帰るため生活していた。しかし、誘拐犯の目的は身代金でもなんでもなくて。
その後、生き延びた光は変な家に住む文官と出会うが……。
自分がどうしてここへやって来たのか。どうやったら帰れるのか。試行錯誤しながら生活していくお話です。
ヒカリには辛いこともありますがいいこともあります。ほのぼの兼シリアスという感じです。
ただいま250話くらいまではできているのですが、読み返しながら再編しているので一日に多めの更新になっています。
駆け足更新中です。
ド陰キャが海外スパダリに溺愛される話
NANiMO
BL
人生に疲れた有宮ハイネは、日本に滞在中のアメリカ人、トーマスに助けられる。しかもなんたる偶然か、トーマスはハイネと交流を続けてきたネット友達で……?
「きみさえよければ、ここに住まない?」
トーマスの提案で、奇妙な同居生活がスタートするが………
距離が近い!
甘やかしが過ぎる!
自己肯定感低すぎ男、ハイネは、この溺愛を耐え抜くことができるのか!?
普通の男の子がヤンデレや変態に愛されるだけの短編集、はじめました。
山田ハメ太郎
BL
タイトル通りです。
お話ごとに章分けしており、ひとつの章が大体1万文字以下のショート詰め合わせです。
サクッと読めますので、お好きなお話からどうぞ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる