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番外編
6.I LOVE YOU
しおりを挟む舞い込んできた一本の電話。
住み込み先の大塚家の一人息子、蓮司が電話に出ると、俺を呼んだ。
「兄ちゃ~ん! 愛しい純兄ちゃんから電話だよ~!」
「……いちいちうぜーぞ、お前」
「うふふふふ~~~」
ニヤニヤする蓮司から受話器を受け取り、耳に当てた。
「何だ?」
【大介、大好き】
「……う、うるせーよ!! ……蓮司、向こう行ってろ!!」
赤くなる顔を下からニヤつきながら見上げている蓮司の肩を押した。親方が何だ何だとこっちを見ているので、蓮司の尻を蹴り飛ばした。文句を言いながら、彼が充分離れたことを確認して小声で怒鳴ってしまう。
「いきなり何だよ!」
【あはは! 正直に言ってみただけ】
「からかうな!」
【からかってないさ。それよりさ、大介に頼みがあるんだ】
「頼み?」
壁に背を預けながら耳を傾けた。チラリチラリと蓮司が様子を窺っている。あっちへ行けと手で払って見せても、動こうとしない。聞き耳を立てている。
子機があれば良いのに、最近、思うようになった。大塚家の子機は蓮司が壊して以来、無いままだ。そのため純から電話がきたとしても、親方も蓮司も居る中で話すことになる。
親方まで顔を覗かせているので、溜息が出てしまった。
【……ごめん、駄目かな】
「ああ、わりぃ。二人がこっち見てるからよ」
【知らない間柄じゃないし、気にしなくても良いじゃない】
「気になんだよ。で、何だよ、頼みって」
話が進まないと聞けば、数秒、黙り込んだ。何か深刻な頼みでもあるのだろうか。顔を引き締めた俺は、もう一度聞いた。
「言ってみろって。出来ることならしてやる」
【……うん。じゃ、あのさ】
珍しく緊張しているようだ。ますます受話器に耳を押し当てる。
ゴクッと生唾を飲み込む音まで聞こえた。
【……俺に、ラブソング歌って】
囁くように言われ、眉が寄った。
「は?」
【だから、ラブソング】
「お前な。心配したってのに何だそれ! 意味わかんねぇ!」
ずるずると壁から滑り落ちるようにしゃがんだ。廊下に座り込んでしまう。
様子が少しおかしいし、家族のために仕事をしている俺のことを理解している彼が、頼みたいことがある、と言ってきたのだから。きっと何か重大なことでも起きたのだろうと思って緊張したのに。
ラブソングを歌って欲しいとは。
わざわざ緊張して言う言葉だろうか。長く伸びている黒髪をくしゃくしゃにした。そろそろ切ろうかと悩んでいる長さだ。
「そんな気分じゃねぇよ」
【……だよね。はは、悪い! やっぱ無かったことにして!】
笑った純の声に、違和感がある。無理矢理笑っている気がして。
「……何か隠してんだろ。言えよ」
【何もないって。ちょっと歌って欲しくなっただけ】
「お前がんなくだらねぇことで電話するかよ。良いから言えって」
【おっと! 電話しておいてなんだけど、ちょっと瑠璃連れて買い物行かなくちゃいけないんだ!】
「こんな時間にか?」
時計は午後の九時を回っている。妹を連れて出るには少し遅い気がしたけれど。
【じゃ、行くから!】
「おい! マジわかんねぇぞ!!」
【じゃあね、大介!!】
ブッ、と通話は切れてしまった。虚しい音を立てる受話器を呆然と見つめてしまう。
「…………んだよ、いったい」
立ち上がって受話器を戻し、腕を組んだ。
絶対に、何か隠している。ポーカーフェイスの上手い純が、声に違和感を残してしまうほどの、何かが。
俺に分かるくらいだ、何かあったはずなのに。
受話器を持ち上げ、電話帳を捲った。指先で名前を辿り、目当ての番号を探すと押していく。
プッと繋がった相手に、口を開いた。
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