妖艶幽玄絵巻

樹々

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第三巻

巻ノ二十『夢物語』

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 悪鬼の機嫌が、すこぶる悪い。 

 揺らめく影の動きが、速まっている。 

【いつまで待たせる気だ】 

「そう、焦るなと何度も言うておる」 

【もう、我慢ならぬぞ……!】 

 体にまとわり付く影に笑った。手で軽く払ってやる。 

「粋がったところで、お主等は某と運命を共にしておる。某がおらねば消滅するのみよ」 

【……ほんに忌々しい】 

 大人しく引いた悪鬼は、体から離れた。 

 師匠の封印の珠だけであれば、ここまで抑え込むことはできなかっただろう。紫藤の封印の力を加えたことで、悪鬼は大人しくならざるを得なくなった。 

 某が消滅すれば、悪鬼も消滅する。 

 否応なしに、守らなければならない彼らは、苛立つ気持ちを抑え、待っている。 

「兄じゃが結界を解いてくれさえすれば、好きなだけ遊ばせてやる。今暫く待て」 

【……あの声もどうにかしろ!】 

「分かっている。自ずと分かるだろうて」 

 暗闇に響く、謎の声。 

 感じている。 

 少しずつ、少しずつ、力が弱まっているのを。声の主の限界が、もう、そこまで見えている。 

 何も恐れることなどない。 

 結界が外れた後、悪鬼を放ち、松田に見せてやろう。 

「この世の地獄絵図をな……」 

 笑いながら寝転んだ。見上げた天井は、薄暗くて心地良かった。 



*** 



 二組敷かれた布団の上で、胡座をかいたまま腕を組んでいた。明日、いよいよ江戸城へ向けて発つ。馬を借り受け、できるだけ江戸城まで走っていく。 

 悪鬼の巣窟となっている領域を外せば、その気は溢れてくるだろう。 

 本当に、耐えられるのだろうか。 

 考え込んだ俺の思考を断ち切るように、障子が開いた。小柄な体が滑り込んでくる。 

「た、只今戻りました」 

 寝装束に着替えた七乃助が布団の横に正座した。揺らめく蝋燭の光が彼の姿を儚く見せる。俺を見て、一度生唾を飲み込むと、自ら布団を捲って横になった。 

「松田殿……お、お願い致します……!」 

 大の字になった小柄な体。少し解れていた髷が歪んでいる。緊張したように唇がフルフル震えている。 

 蝋燭の明かりはそのままに、小柄な体に寄り添うように横になった。俺の腰よりほんの少し高いだけの七乃助。この子の頭を見下ろしていると、本当に不思議なことに、落ち着いていられる。 

 喚く姿も愛しいと、思うようになったのはいつからか。硬直している頬に手を滑らせた。ヒクッと喉を引きつらせている。 

 ゆっくりと頬を撫でながら、襟元から手を滑り込ませていった。 

「そう、硬くなるなと申したであろう」 

「は、はい……!」 

「楽にしておれ。感じるままに感じれば良い」 

 留めていた帯を解き、前を広げた。褌を外そうと伸ばした手が止まる。抱かれる覚悟を決めてきたのか、褌を締めてはいなかった。 

 小柄な体に大人のモノ。顔を寄せるとゆっくりと口に含んでやった。 

「ぅ……」 

「のう、お七ちゃん」 

 口付け、吸いながらそこに話し掛ける。わななく太股を撫でさすり、窄まった奥を指で撫でながら続けた。 

「俺のも、して欲しい」 

 音を立て吸い込めば、すぐに達している。肌を合わせたのはこれで三回目。そのどれも、彼はすぐに達した。 

 特に初めての時など、触れただけで達したので驚いた。あの時は急いでいたので、達している体を無理矢理抱き、感じ過ぎた体に力を注ぎ、なお感度を上げた体は気絶してしまった。 

 二度目は時間を掛けて焦らし、我慢していた声を上げさせた。隣の部屋の美祢に聞こえるように。しつこく中を掻き回し、七乃助の意識が朦朧となるまで抱いた。 

 いずれも、必要に迫られて抱いた。 

 仕方が無かった。 

 ずっと抱いてみたいと思っていた体をいざ、手に入れてみれば。なんとも言えない虚しさに包まれた。 

 俺も、七乃助も、仕方がないから抱き合っている。特に彼にしてみれば、力が無ければ付いて行くことができないから、俺に身を委ねているだけのこと。 

 分かっている。 

 これは仕方がないこと。 



 でも、今夜だけは。 



 今夜だけでも。 



 心から愛しんで抱きたかった。 



「駄目かの?」 

 濡れた股間を舐め取りながら聞いてみた。一度達して力を抜いた七乃助は、小さな唇を噛み締めた。俺を見上げ、目元を赤くすると頷いている。 

「や、やってみます」 

 のろのろと起き上がった体。広げた俺の股間に四つん這いで近付いてくる。両足を広げ、褌を外し、すでに反応してそそり立っているモノを見せた。 

 ゴクリと生唾を飲み込み、顔を寄せてくる。その頬をそっと撫でた。 

「気持ち悪くなったら離して良い」 

「……あの」 

「ん?」 

 見上げてくる瞳を見つめた。数度瞬きを繰り返した七乃助は、何でもない、と頬を赤らめている。 

 そろりと近付いた小さな唇が、俺のモノを飲み込んでいく。見よう見真似で口に入れた七乃助は、うっと喉を詰まらせて止まった。 

「苦しいか?」 

 小さく頷いた。頭を撫でながら、ただ包まれている感触を楽しんだ。 

 もごもご、もごもご、何とか口を動かそうとしている。微笑みながら見守り続ける。 

 やがて意を決したように出し入れを始めている。ズルズルとゆっくり出しては、喉奥まで銜え込んでいく。時折むせ返るように詰まりながらも、決して離そうとしなかった。 

「ぅふっ……ぅうぅ……ぅん……」 

 まとわりつく舌の感触と、七乃助が吐き出す吐息が俺を煽ってくる。熱が高ぶり、腫れ上がる俺のモノを両手で掴んだ七乃助は、大人しくさせようとするかのように握っている。 

 耳まで赤くなった彼の姿を目に焼き付けた。もう、そこまで波が来ている。 

「……七乃助」 

 呼べば涙を溜めた瞳が見上げてくる。肩を掴むと唇を離させた。 

「……ぁ」 

 脇の下から手を通し、抱き上げる。軽々と持ち上がる体を隅々まで観察した。 

 本当に子供のようだ。 

 だが、大人だ。 

 この世の荒事を知っている、俺と同じ苦しみを知っている、武家の子。 

 向かい合わせになるよう降ろし、互いに高ぶったモノを触れ合わせる。膝に乗った七乃助の唇は、俺のモノで濡れていた。 

 腰を抱いて唇を合わせた。濡れた場所を舐めるように舌を絡めていく。苦しげに肩を押した七乃助は、やがて俺の首に細い両腕を回してくる。 

「ぁ……ふっ……ぅん……松田……殿……!」 

 解れた髷から髪が浮いている。堅苦しい侍である彼が乱れていく。 

 自分の寝装束の帯を解いた。脱ぎ捨てながら七乃助を布団に押し倒す。小柄な彼の両足を広げ、中心のもっと後ろを剥き出しにさせた。 

 真っ赤になった七乃助。抱え上げた両足がジタバタ動いている。 

「こ、このような……!?」 

「今宵はたっぷり、感じてもらうぞ」 

「……へ?」 

「たまらぬほど感じさせてやる……」 

 窄まったそこに、口付けた。そのまま舌を突き入れ、濡れ解していく。まだ男を受け入れたのは二回だけのここは、一日経っただけでも戻ってしまう。 

 唾液を流し、むしゃぶれば、七乃助の体が仰け反っていく。 

「ぁ……ぁ……やぁ……!」 

 頭を抱え込み、悶える体を追い掛ける。充分に濡れたそこへ、俺の太い指を入れていく。指で探り、舌で潤いを与え、少しずつ緩んだ場所を広げていく。 

 陸に上げられた魚のように跳ね回っていた七乃助は、酸欠を起こした魚のように大人しくなる。感度を上げた体は、時折ヒクつくだけで震えている。 

 充分に広がったことを確認し、足を降ろしてやった。覆い被さりながら、ツンと尖った愛らしい胸の突起に口付ける。小さな突起は、俺の舌で固さを増した。 

「……まつだ……どの……」 

 溢れ出した彼の涙を舐め取った。小柄な体に俺の大きな手で触れていく。尻を揉めば、身じろいだ。胸に触れれば涙を溢れさせる。 

「お七ちゃん……」 

「まつだ……どの」 

 見つめながら繋がった。布団を握り締めた七乃助が顔を歪めている。充分に馴らしても、元が狭いため最初は苦しい。数度腰を振ってようやく埋め込んだ。 

「ぁ……はぁ……まつだ……どの……!」 

「大事ないか……?」 

 涙に濡れた頬を両手で包んだ。瞬きをする度に新しい涙が溢れてくる。 

「……はい」 

「そうか」 

 軽い腰を抱え上げ、上体を起こした。繋がったまま膝に乗せてやる。自分の体重で全てを埋め込んだ七乃助は、身震いしながらしがみ付いてくる。 

 胸に抱き締め、下から突き上げる。慌てたように両手が俺の肩に乗った。 

「あ、ぁ、ぁぁ、ぁ……!」 

「もっと……鳴いてくれ……」 

「ぁ……ひぁっ!? あ……あ……ああ!」 

 良い所に当たったのか、薄い胸が仰け反った。そこに噛み付くように口付ける。残っていた赤い跡に重ね、更に赤くなったそこを舐めていく。 

 七乃助が無意識に強弱を付けて締め付けてくる。先ほど我慢した波を放出した。 

「……あぁ……あ……ぁ……はぁ……! あああ……!!」 

 中へ受け止めた七乃助の声が高く上がった。カタカタ震えている。じゅわっと音を立てた彼の体。 

 破壊の力ごと達した俺は、彼の中に注げるだけ力を注いでいく。美祢が埋め込んだ札に、力を足していく。 

 仰け反る体を支えながら、達している体を横たえた。そのまま腰を進めていく。力無く横たわる七乃助は、俺の攻めを素直に受け止め、喘いでいる。 

「七乃助……」 

「ぅん……ん……ふっ……ぅ……」 

「……七乃助……」 

 小さな体に被さった。耳たぶも、首筋も、汗の味を楽しむように舐めていく。 

 両手を布団に投げ出した七乃助は、俺の顔をずっと見ている。 

 俺もまた、彼の目を見つめた。 

「……まつだ……どの……まつだ……ん……さ……ま」 

「……七乃助」 

 互いに言いたいことがあった。 

 だが言えなかった。 

 少しでも奥へ辿り着きたくて、細い腰を抱き締める。 

 彼の中は、たまらなく熱かった。 



*** 



「皆、盛り上がってる頃だの」 

「……あたし、終わるまで隣に行ってても良いんだよ?」 

「気にするな。今宵はそんな気分にはなれぬでな」 

 清次郎の体にピタリと寄り添い、寝転ぶ私の隣に敷かれた布団には美祢が居る。食事をするための部屋で一晩過ごすからと言う彼女をここに置いた。 

 美祢の隣の部屋は松田と七乃助が使っている。つまり、彼らは力を注ぎ合っているはずだ。 

 羨ましいし、私も清次郎と共に名残惜しい夜を過ごしたい気持ちもある。 

 だがどうしてか、美祢を独りにしたくなかった。 

「お主もよう、我慢しておるの」 

「……真ちゃんがさ、あんな顔するなんて初めて見たから。本気で惚れてんだろうね」 

「わっぱの何処が良いのか分からぬがな」 

「そうかい? 可愛いと思うよ。真ちゃん言ってたよ。幼顔の大人が好みだって。あ、でもあたしも好みだって言ってくれたんだよ!」 

「八方美人というやつか」 

 向かい合って話をしていた私達に、清次郎が時折笑っている。話に割り込んだりはしなかった。 

「お世辞でも良いんだよ。こんな体を大事にしてくれた人だから」 

「ふむ……。もっと良い男がおろう」 

「例えば清ちゃんとか?」 

「清次郎はやらぬ!! 断じてやらぬ!!」 

「あはは! 分かってるって! あんた達の間に入れないことくらい、百も承知さ!」 

 カラカラと笑った美祢に、本当に清次郎に手を出すな、と念を押しておいた。しっかり頷いた彼女に安堵する。 

 女の中では大きな胸をしている美祢だ。何かの間違いで清次郎が胸に惹かれたら大変だった。私の美しさは並々ならぬものがあるけれど、胸だけは膨らませられない。 

 それに、美祢はなかなか良い女だと、私にも分かった。出会った時は松田のことがあり、なんと小生意気な女だと思ったものだが。 

 吹っ切った彼女はさっぱりしていて、清次郎が言ったように、友となれる存在だった。幕府に作られた私のことを知っているため、気兼ねもいらなかった。 

「清ちゃんの体、取り戻すためにはあんたの封印の力を奪い返さなきゃだね」 

「うむ。珠に戻す前に、清次郎の魂を戻す必要がある。海淵が移し替えた珠ごと、吐き出させるつもりだ」 

「でも……そうすれば悪鬼が暴れちまうよ?」 

「その前に破壊の力で滅するのみだ。後世に残すのも危険だしの。お主の封印の力もなかなかのものだ。力を削ったところを一気に行く」 

「頑張るよ!」 

 笑った美祢は、話は終わりとばかりに目を瞑っている。私もそろそろ寝ておこうと瞼を閉じた。短くなった蝋燭の光は自然に消えるだろう。ユラユラと儚い光に照らされながら、意識を沈み込ませた。 


*清次郎。待たせたの。 

*いいえ。お二人を見ているのは楽しゅうございますから。飽きませぬ。 

*そうか? 

*ええ。いよいよ明日ですな。 

*うむ。あまり長引けば漏れ出た悪鬼の気に、死者が出るやもしれぬ。すぐに決着を付ける。 


 松田が上手く悪鬼が張った領域を破壊してくれれば、海淵を誘い出して片を付ける。まずは海淵から私の封印の力を奪い返すことから始めなければならない。 

 力を奪い返し、海淵が悪鬼を制御できなくなった瞬間が勝負とみて良いだろう。暴走する前に、私と松田、そして喜一の破壊の力でなんとしてでも力を削ってしまう。 

 船を襲った悪鬼も、江戸に居る悪鬼も、同じであるならば勝機はある。私と松田の破壊の力は相性が良い。全力で打ちのめす。 

 ただ、問題はやはり捕らわれている人々と魂だ。盾にされてしまうと攻撃しにくい。時間との勝負になる。 


*小五郎や屋敷におった者達も、解放してやらねばの。喰われた訳ではないと分かっただけでも、安堵した。 

*左様ですな。田上様をきっとお救いし、想うておられる姫様が旅立つまで……。 


 清次郎の言葉が途中で途切れた。呼び掛けても返事がない。何度か呼びかけ、ようやく返ってくる。その声は酷く困惑していた。 


*紫藤様。田上様は戦の世を生きたお方と申されましたな。 

*そうだぞ。 

*姫様をお慕いし、戦い、戦で命を落とされた、と……。 

*うむ。 

*では、何故姫様は生きておられるのです? 


 清次郎が何を言いたいのか、私には分からなかった。生きているのが何故、不思議なのだろう? 

 見えない清次郎に小首を傾げた私に、清次郎の声が響いた。 


*想うておられる姫様は、紫藤様より前にお生まれになったはず。なれば、紫藤様より長く生きておられることになりましょう。 

*そうだの。 

*紫藤様。人はそのように長くは生きられませぬ。 


 清次郎の言葉に、ハッとなる。自分が長く生きてきたせいか、あまり年月を考えたことがなかったけれど。 

 言われてみればおかしいのかもしれない。腕を組んで考える。 


*田上様と姫様のこと、少し教えて頂けませぬか。 

*良かろう。ただ、私が見た記憶は、小五郎が死ぬまでの記憶だけだぞ? 

*承知しております。 


 凛とした清次郎の声に導かれるように、小五郎の魂から見えた記憶を思い出しながら話した。 

 清次郎は静かに聴き入っていた。 


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