妖艶幽玄絵巻

樹々

文字の大きさ
上 下
15 / 114
第一巻

巻ノ十五『第一巻*最終話』

しおりを挟む


 化け物によって荒らされた山頂は、無惨な姿になっている。竹林であった山は、すっかり剥げ落ちてしまっている。竹の生長は早く、元に戻るのもそう時間が掛かるとは思えないけれど。倒された竹を運び出そうとしている村人が麓の方で騒いでいた。 

「やれやれ。やってくれる」 

 化け物を、化け物が退治するとは。竹が無事な斜面側から、道無き道を急いで登る。紫藤に見つかれば何をされるかわからず、昨晩は一旦山を下りて様子を伺っていたけれど。まさかこの山で事を始めるとは。あの侍、何だかんだで紫藤を想っていた。 

 おかげで紫藤の初めてを奪うことはできなかったが。今はそれよりも、重要な事がある。 

「色気を身に付けたあれを手にするのも、悪くはなかろう」 

 しっかり開発してくれたら良い。まあ、あの真面目な清次郎では無理であろうか。 

 足早に山を登った先、山の頂上まで辿り着く。竹ばかりが覆うこの場所に、人の手が加えられた場所がある。石を積み重ね、作られた小さな社。しめ縄で飾られたこの場所に、男の死体が横たわっている。自分と同じ、坊主であるこの男の死体はもう、腐っている。 

「面倒な事をして下さったものだ。おかげで回り道をしましたよ」 

 男に話し掛け、彼の腕から数珠を取り上げた。 

 瞬間、結界が崩壊する。小さな社から、黒い影のような物が溢れ出てくる。 

 数珠を左腕に巻き付け、その社に触れた。 

「某が新しいご主人様だ。前の主とは違い、お主の望むままに力を使おうぞ」 

 言葉に反応するように、黒い影が某の体を取り囲むように溢れてくる。恐れずにそれを受け入れた。目から、耳から、口から、鼻から、黒い影が体内を駆け巡る。 

「……ぐっ!!」 

 心臓を直接締め上げられたような気がした。片膝をつき、なおも体を浸食しようとする影を受け入れ続ける。 

「……力が欲しい。ただ、それだけよ」 

 口元を緩め、笑んでみせる。

 師匠の体内に封印されていた悪鬼。人の怨念が集まり、鬼となったもの。師匠はそれを体内に宿し、自らを封印の社としていたが。 

 年を経て、自分の寿命が短い事を知った彼はこの山に集まる霊力を利用し、山頂に封印しようとした。 

 馬鹿な事を。 

 せっかく手に入れた力を使わず、封印し続けるなどもったいないではないか。 

 だから手に掛けた。 

 最後の抵抗により、結界外に弾き出されてしまったのは誤算だったが。風前の灯火程度の結界ならば、解除はできずとも、効果を変えることはできる。 

 人も霊も弾き出す結界を少し弄らせてもらい、霊がここへ集まるようにし向けた。霊は霊を呼び、集合体となり、悪霊へと姿を変えた。成長を続けた悪霊は、とうとう生きた人間の魂まで欲するようになった。 

 騒ぎになれば腕の立つ霊媒師がやってくるだろうと思った。邪魔な結界を外してもらえればそれで良い。
 思いの外、良い餌が釣れた。霊媒師の中では有名な紫藤蘭丸のおかげで結界は外れ、成長し続けた悪霊も退治してもらった。あれだけ大きな悪霊だ、まさか悪鬼がここに眠っているとは気付くまい。おかげで良い目眩ましになってくれた。 

 社から出続ける影を体内に全て収めた体は、酷く熱くなっている。大量の汗を掻きながら、干からびていく師匠にせめてもと数珠を掲げて見せる。 

「頂戴致します。この世に力の素晴らしさをご覧にいれますよ」 

 体に悪鬼が馴染むまで、暫く時間が掛かりそうだ。どこか適当な村で厄介になろう。ふらついた足とは裏腹に、高鳴る高揚感を抑えることができなかった。 





第一巻 終幕



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

俺の彼氏は俺の親友の事が好きらしい

15
BL
「だから、もういいよ」 俺とお前の約束。

愛などもう求めない

白兪
BL
とある国の皇子、ヴェリテは長い長い夢を見た。夢ではヴェリテは偽物の皇子だと罪にかけられてしまう。情を交わした婚約者は真の皇子であるファクティスの側につき、兄は睨みつけてくる。そして、とうとう父親である皇帝は処刑を命じた。 「僕のことを1度でも愛してくれたことはありましたか?」 「お前のことを一度も息子だと思ったことはない。」 目が覚め、現実に戻ったヴェリテは安心するが、本当にただの夢だったのだろうか?もし予知夢だとしたら、今すぐここから逃げなくては。 本当に自分を愛してくれる人と生きたい。 ヴェリテの切実な願いが周りを変えていく。  ハッピーエンド大好きなので、絶対に主人公は幸せに終わらせたいです。 最後まで読んでいただけると嬉しいです。

侯爵令息セドリックの憂鬱な日

めちゅう
BL
 第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける——— ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。

当たって砕けていたら彼氏ができました

ちとせあき
BL
毎月24日は覚悟の日だ。 学校で少し浮いてる三倉莉緒は王子様のような同級生、寺田紘に恋をしている。 教室で意図せず公開告白をしてしまって以来、欠かさずしている月に1度の告白だが、19回目の告白でやっと心が砕けた。 諦めようとする莉緒に突っかかってくるのはあれ程告白を拒否してきた紘で…。 寺田絋 自分と同じくらいモテる莉緒がムカついたのでちょっかいをかけたら好かれた残念男子 × 三倉莉緒 クールイケメン男子と思われているただの陰キャ そういうシーンはありませんが一応R15にしておきました。 お気に入り登録ありがとうございます。なんだか嬉しいので載せるか迷った紘視点を追加で投稿します。ただ紘は残念な子過ぎるので莉緒視点と印象が変わると思います。ご注意ください。 お気に入り登録100ありがとうございます。お付き合いに浮かれている二人の小話投稿しました。

もう一度、貴方に出会えたなら。今度こそ、共に生きてもらえませんか。

天海みつき
BL
 何気なく母が買ってきた、安物のペットボトルの紅茶。何故か湧き上がる嫌悪感に疑問を持ちつつもグラスに注がれる琥珀色の液体を眺め、安っぽい香りに違和感を覚えて、それでも抑えきれない好奇心に負けて口に含んで人工的な甘みを感じた瞬間。大量に流れ込んできた、人ひとり分の短くも壮絶な人生の記憶に押しつぶされて意識を失うなんて、思いもしなかった――。  自作「貴方の事を心から愛していました。ありがとう。」のIFストーリー、もしも二人が生まれ変わったらという設定。平和になった世界で、戸惑う僕と、それでも僕を求める彼の出会いから手を取り合うまでの穏やかなお話。

泣くなといい聞かせて

mahiro
BL
付き合っている人と今日別れようと思っている。 それがきっとお前のためだと信じて。 ※完結いたしました。 閲覧、ブックマークを本当にありがとうございました。

壁穴奴隷No.19 麻袋の男

猫丸
BL
壁穴奴隷シリーズ・第二弾、壁穴奴隷No.19の男の話。 麻袋で顔を隠して働いていた壁穴奴隷19番、レオが誘拐されてしまった。彼の正体は、実は新王国の第二王子。変態的な性癖を持つ王子を連れ去った犯人の目的は? シンプルにドS(攻)✕ドM(受※ちょっとビッチ気味)の組合せ。 前編・後編+後日談の全3話 SM系で鞭多めです。ハッピーエンド。 ※壁穴奴隷シリーズのNo.18で使えなかった特殊性癖を含む内容です。地雷のある方はキーワードを確認してからお読みください。 ※No.18の話と世界観(設定)は一緒で、一部にNo.18の登場人物がでてきますが、No.19からお読みいただいても問題ありません。

心からの愛してる

マツユキ
BL
転入生が来た事により一人になってしまった結良。仕事に追われる日々が続く中、ついに体力の限界で倒れてしまう。過労がたたり数日入院している間にリコールされてしまい、あろうことか仕事をしていなかったのは結良だと噂で学園中に広まってしまっていた。 全寮制男子校 嫌われから固定で溺愛目指して頑張ります ※話の内容は全てフィクションになります。現実世界ではありえない設定等ありますのでご了承ください

処理中です...