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第一巻
巻ノ十五『第一巻*最終話』
しおりを挟む化け物によって荒らされた山頂は、無惨な姿になっている。竹林であった山は、すっかり剥げ落ちてしまっている。竹の生長は早く、元に戻るのもそう時間が掛かるとは思えないけれど。倒された竹を運び出そうとしている村人が麓の方で騒いでいた。
「やれやれ。やってくれる」
化け物を、化け物が退治するとは。竹が無事な斜面側から、道無き道を急いで登る。紫藤に見つかれば何をされるかわからず、昨晩は一旦山を下りて様子を伺っていたけれど。まさかこの山で事を始めるとは。あの侍、何だかんだで紫藤を想っていた。
おかげで紫藤の初めてを奪うことはできなかったが。今はそれよりも、重要な事がある。
「色気を身に付けたあれを手にするのも、悪くはなかろう」
しっかり開発してくれたら良い。まあ、あの真面目な清次郎では無理であろうか。
足早に山を登った先、山の頂上まで辿り着く。竹ばかりが覆うこの場所に、人の手が加えられた場所がある。石を積み重ね、作られた小さな社。しめ縄で飾られたこの場所に、男の死体が横たわっている。自分と同じ、坊主であるこの男の死体はもう、腐っている。
「面倒な事をして下さったものだ。おかげで回り道をしましたよ」
男に話し掛け、彼の腕から数珠を取り上げた。
瞬間、結界が崩壊する。小さな社から、黒い影のような物が溢れ出てくる。
数珠を左腕に巻き付け、その社に触れた。
「某が新しいご主人様だ。前の主とは違い、お主の望むままに力を使おうぞ」
言葉に反応するように、黒い影が某の体を取り囲むように溢れてくる。恐れずにそれを受け入れた。目から、耳から、口から、鼻から、黒い影が体内を駆け巡る。
「……ぐっ!!」
心臓を直接締め上げられたような気がした。片膝をつき、なおも体を浸食しようとする影を受け入れ続ける。
「……力が欲しい。ただ、それだけよ」
口元を緩め、笑んでみせる。
師匠の体内に封印されていた悪鬼。人の怨念が集まり、鬼となったもの。師匠はそれを体内に宿し、自らを封印の社としていたが。
年を経て、自分の寿命が短い事を知った彼はこの山に集まる霊力を利用し、山頂に封印しようとした。
馬鹿な事を。
せっかく手に入れた力を使わず、封印し続けるなどもったいないではないか。
だから手に掛けた。
最後の抵抗により、結界外に弾き出されてしまったのは誤算だったが。風前の灯火程度の結界ならば、解除はできずとも、効果を変えることはできる。
人も霊も弾き出す結界を少し弄らせてもらい、霊がここへ集まるようにし向けた。霊は霊を呼び、集合体となり、悪霊へと姿を変えた。成長を続けた悪霊は、とうとう生きた人間の魂まで欲するようになった。
騒ぎになれば腕の立つ霊媒師がやってくるだろうと思った。邪魔な結界を外してもらえればそれで良い。
思いの外、良い餌が釣れた。霊媒師の中では有名な紫藤蘭丸のおかげで結界は外れ、成長し続けた悪霊も退治してもらった。あれだけ大きな悪霊だ、まさか悪鬼がここに眠っているとは気付くまい。おかげで良い目眩ましになってくれた。
社から出続ける影を体内に全て収めた体は、酷く熱くなっている。大量の汗を掻きながら、干からびていく師匠にせめてもと数珠を掲げて見せる。
「頂戴致します。この世に力の素晴らしさをご覧にいれますよ」
体に悪鬼が馴染むまで、暫く時間が掛かりそうだ。どこか適当な村で厄介になろう。ふらついた足とは裏腹に、高鳴る高揚感を抑えることができなかった。
第一巻 終幕
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