135 / 152
抱き締めても良いですか?~エピソード0~
エピソード02
しおりを挟む叩かれた頬。
叩かれた勢いで倒れてしまった体。
「だから! どうしてそう、他の男を誘うんだよ!?」
「誘ってなんかいない……! ヒートは自分じゃどうしようも……」
「他のΩはそんなしょっちゅうヒートにならないだろう!? お前が望むからなってんだろうが!」
「ちがっ……」
「もういい! 付き合ってられない! うんざりだ! 」
僕のアパートの鍵を投げ捨てた高木智也は、足を踏みならしながら出て行った。男Ωの僕と付き合っても良いと言ってくれた彼氏は、不定期に起こる僕のヒートを誤解したまま別れることになった。
そんなに好きだった訳ではない。早くヒートを止めたくて、付き合ってくれるαを探していただけだった。番になっても良いと、付き合い始めた頃は言ってくれたけれど。
不定期なヒートを起こす僕をとうとう智也は理解してくれなかった。
どうしてΩとして産まれたのだろう。
僕と番になってくれる優しいαはどこに居るのだろう。流れていた涙を拭いながら投げ捨てられた鍵を拾った。
あの人に会いたい。
ヒートを起こした僕を守ってくれた優しいαが居た。僕がヒートになるのを狙っていた、同じ大学の男達に襲われそうになったところを助けてくれた年上のα。優しくて、格好良かった。
きっと番が居るはずだ。そうでないなら、ヒートを起こしている僕を抱き締めたりはできないだろう。
お礼だけでも、言えるだろうか。助けてもらった喫茶店に行けば会えるかもしれない。
目元に残っていた涙を拭った。
~*~
「……さん? 茜さん?」
肩を揺さぶられていた。目を覚ますと、桃ノ木瑛太が僕を心配そうに見つめていて。
「……あっ! お仕事、お疲れ様です!」
「うん、ありがとう。ごめんね、待たせちゃって」
「いえ! 会ってもらえるだけで嬉しいですから」
「可愛いこと言うな~」
男に襲われそうになった喫茶店は、瑛太の働く病院から近く、彼は時々ここでお茶をしている。それに合わせて待っていた。
この喫茶店の店長は瑛太の一歳下の後輩だった。店長もαで、番持ちだから、万が一何かあっても助けてくれるから大丈夫だと聞いている。
この間は瑛太がいたので、返って邪魔になるからとお客さんの誘導に回っていたと聞いた。店長が言うには、瑛太は高校では有名なモテ男のαらしい。
何故なら、Ωを守る絶対的な存在で、喧嘩負け知らずの最強α、だからだそうだ。
でも、目の前に座っている人は温和そうに笑っていて。喧嘩が強そうな感じには見えなかった。
「今日も可愛いね」
「あ、ありがとうございます」
「照れてる顔も可愛い」
掛けていた眼鏡を外している。そうすると男前度が上がる。仕事中はプライベートと分けたいからと、度が入っていない眼鏡を掛けている瑛太。
鼻筋は通っているし、目元がキリッとしているし、スーツを着ている姿はスラッと長身で、どこからどう見ても格好が良い。
そんな人が、僕と付き合ってくれている。
見つめてしまう僕に笑っている。
「どうしたの? 穴が空いちゃうよ」
「ぁ……す、すみません。まだ、夢みたいで……」
「茜さんはもう少し自分に自信を持った方が良いよ。笑ってる顔、最高に可愛い!」
大きな手が僕の頬に触れている。こんなに優しい手に触れてもらったことはない。頬が熱くなるのを感じた。
「ふふ、赤くなってきた」
「も、良いですから……恥ずかしいから」
「良いな、恥ずかしがってる顔も可愛い」
「もう……!」
瑛太はいつも僕に可愛いと言ってくれる。男Ωの僕に優しくしてくれる。叩いたりしない、乱暴にしたりしない。
初めて、好きだと思えるαに出会えた。
できることならこの人と番になって、一緒に生きたいとさえ思う。
大きな手に自分の手を重ねた。温かい手だった。
「へー、本当にもう、次のα捕まえたんだ」
聞きたくない声がした。瑛太の手を離して振り返ると、元彼の高木智也が睨みながら立っていた。
「ほんっと、節操ないな、お前。αなら誰でも良いわけ?」
「違う! 智也が別れるって……」
「あんた、こいつは止めておいた方がいいぜ。αなら誰でもお構いなしに誘ってやるΩだからさ!」
「……!! 僕はそんなんじゃ……」
「淫乱Ω」
喫茶店には他のお客さんも居た。ヒソヒソと話している声が聞こえる。上手く言い返せない自分に、涙が込みあげてくる。泣いたって仕方がないのに悔しくて止まらない。瑛太の前で誤解されるような言葉を浴びせられているのに、言い返す力が無い。
0
お気に入りに追加
342
あなたにおすすめの小説
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
気付いたら囲われていたという話
空兎
BL
文武両道、才色兼備な俺の兄は意地悪だ。小さい頃から色んな物を取られたし最近だと好きな女の子まで取られるようになった。おかげで俺はぼっちですよ、ちくしょう。だけども俺は諦めないからな!俺のこと好きになってくれる可愛い女の子見つけて絶対に幸せになってやる!
※無自覚囲い込み系兄×恋に恋する弟の話です。
お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?
すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。
お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」
その母は・・迎えにくることは無かった。
代わりに迎えに来た『父』と『兄』。
私の引き取り先は『本当の家』だった。
お父さん「鈴の家だよ?」
鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」
新しい家で始まる生活。
でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。
鈴「うぁ・・・・。」
兄「鈴!?」
倒れることが多くなっていく日々・・・。
そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。
『もう・・妹にみれない・・・。』
『お兄ちゃん・・・。』
「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」
「ーーーーっ!」
※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。
※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。
※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)
貢がせて、ハニー!
わこ
BL
隣の部屋のサラリーマンがしょっちゅう貢ぎにやって来る。
隣人のストレートな求愛活動に困惑する男子学生の話。
社会人×大学生の日常系年の差ラブコメ。
※現時点で小説の公開対象範囲は全年齢となっております。しばらくはこのまま指定なしで更新を続ける予定ですが、アルファポリスさんのガイドラインに合わせて今後変更する場合があります。(2020.11.8)
■2024.03.09 2月2日にわざわざサイトの方へ誤変換のお知らせをくださった方、どうもありがとうございました。瀬名さんの名前が僧侶みたいになっていたのに全く気付いていなかったので助かりました!
■2024.03.09 195話/196話のタイトルを変更しました。
■2020.10.25 25話目「帰り道」追加(差し込み)しました。話の流れに変更はありません。
イケメンドクターは幼馴染み!夜の診察はベッドの上!?
すずなり。
恋愛
仕事帰りにケガをしてしまった私、かざね。
病院で診てくれた医師は幼馴染みだった!
「こんなにかわいくなって・・・。」
10年ぶりに再会した私たち。
お互いに気持ちを伝えられないまま・・・想いだけが加速していく。
かざね「どうしよう・・・私、ちーちゃんが好きだ。」
幼馴染『千秋』。
通称『ちーちゃん』。
きびしい一面もあるけど、優しい『ちーちゃん』。
千秋「かざねの側に・・・俺はいたい。」
自分の気持ちに気がついたあと、距離を詰めてくるのはかざねの仕事仲間の『ユウト』。
ユウト「今・・特定の『誰か』がいないなら・・・俺と付き合ってください。」
かざねは悩む。
かざね(ちーちゃんに振り向いてもらえないなら・・・・・・私がユウトさんを愛しさえすれば・・・・・忘れられる・・?)
※お話の中に出てくる病気や、治療法、職業内容などは全て架空のものです。
想像の中だけでお楽しみください。
※お話は全て想像の世界です。現実世界とはなんの関係もありません。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
ただただ楽しんでいただけたら嬉しいです。
すずなり。
膀胱を虐められる男の子の話
煬帝
BL
常におしがま膀胱プレイ
男に監禁されアブノーマルなプレイにどんどんハマっていってしまうノーマルゲイの男の子の話
膀胱責め.尿道責め.おしっこ我慢.調教.SM.拘束.お仕置き.主従.首輪.軟禁(監禁含む)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる